山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

ここブログでは新書を10点満点で採点しています。

2008年03月

日端康雄『都市計画の世界史』(講談社現代新書) 5点

 非常に興味深いテーマを取り扱った本なのですが、編集が悪かったような気がします。
 本書の構成は以下の通り。

第1章城壁の都市
第2章都市施設と住居
第3章格子割の都市
第4章バロックの都市
第5章社会改良主義の都市
第6章近代都市計画制度の都市
第7章メトロポリスとメガロポリス


 このうち第1章~第3章にかけては都市の機能にフォーカスを当て、歴史上の都市を西洋、イスラム、中国、日本を問わず城壁、住居、道路などの都市機能を比較、分析しています。
 一方、第4章~第7章にかけては主に西洋の都市をその設計思想から分析して行くことになります。
 もちろん、完全に機能と設計思想が分離しているわけはなく、当然、両者が絡み合いながら都市はつくられていくわけですが、どうもその両者の絡み合いを本書ではうまく説明しきれなかった感があります。

 後半のバロック都市や社会改良主義の都市の都市計画の思想など読み応えのある部分もありますが、前半の都市機能の部分は少し煩雑すぎます。全体で350ページ以上あるのでもっと削っても良かったでしょう。
 また、図版も多いのですが都市の配置図が中心で、実際の写真が少ないので、都市の具体的な姿を想像しにくいという欠点があります。
 このあたりは編集の力でもう少し何とかなったと思うので、もったいない気がします。

都市計画の世界史 (講談社現代新書 1932)
日端 康雄
4062879328


伊藤之雄『元老西園寺公望』(文春新書) 7点

 明治期に二度首相となり、その後は元老として後継首相の選定に大きな力をふるった西園寺公望の生涯を追った本。基本的にはオーソドックスな伝記に仕上がっています。

 まず、題材となっている西園寺公望の生涯が非常に面白いものなので、素直に伝記として楽しめると思います。
 家格の高い公卿の家に生まれながら、戊辰戦争では自ら鉄砲を撃ち、維新後はパリに留学し「鼻血を流して勉強」、帰国後は伊藤博文の後継者となり二度の組閣、そして元老として昭和のファシズムの時代に対峙する。これだけの波乱の生涯を送った人物の伝記が面白くないわけないでしょう。
 しかも生涯結婚しなかった西園寺と愛人の関係や美食へのこだわりなどについても触れてあり、「人間・西園寺」を知ることもできます。

 ただ、著者のねらった西園寺像の書き換えに関してすべてがうまくいってるとは思えません。
 著者は今までの「権力などに淡白で、政治家としては気力や迫力に欠ける」という西園寺像に対して、張作霖爆殺事件における田中義一首相の辞職に関して西園寺が昭和天皇や牧野内大臣よりもより慎重に行動したことなどを挙げて、西園寺の政治家とての老獪さを評価しています。
 確かに西園寺は著者が指摘するように昭和の混乱期に置いても自らの「公平性」を確保するために、周囲の情勢に気を遣いながら行動していますし、ファッショ的人物の首相就任を阻止しているのも確かなのですが、田中義一辞職に置ける行動が牧野内大臣を追いつめたり、宇垣一成の首相就任の時期を見誤ったりしていることも事実で、肝心なところで「押し」が弱かったという印象はこの本を読んでも拭えませんでした。

 けれども、西園寺の人生の面白さが充分に読める本ではあると思います。

元老西園寺公望―古希からの挑戦 (文春新書 609)
伊藤 之雄
4166606093


海部美知『パラダイス鎖国』(アスキー新書) 8点


 毎年夏の日本での休暇のため。毎年夏に帰るごとに、「日本はどんどん住みやすくなっていくな・・」とぼんやり思っていたが、今年の夏は決定的に、「日本はもう住みやすくなりすぎて、日本だけで閉じた生活でいいと思うようになってしまった」、つまり誰からも強制されない、「パラダイス的新鎖国時代」になってしまったように感じたのだった。

 
 著者の海部美知が自らのブログにこのようなことを書いたのは2005年の7月のことなのですが(こちらのエントリー)、この本では、その「パラダイス鎖国」という言葉をキーワードにして今の日本が置かれている状況と処方箋についてを分析しています。

 比較的良く見られる「閉じている日本」を危惧する本ではあるのですが、「鎖国」の前に「パラダイス」と付いているのがこの本の特徴。
 つまり最初の引用の所にもあるように「鎖国」的な状態が、ある種の住みやすい「パラダイス」であると認識している点です。

 著者は日本の安全さなどを評価し、アメリカも一種の「鎖国」状態であるとあるとするなど、単純なアメリカ礼賛を行うわけではありませんし、日本の国内市場の巨大さが日本の企業の内向きな姿勢を生んでいるなど現状に対する冷静な分析もあります。

 処方箋に関してはそれほど目新しいものはないのですが、この本のウリはなんといっても現状分析の確かさ。 一つ例を挙げると日本の意思決定に付いての次の分析。

 金融政策や各種の権利保護など、立場の違いにより賛否両論があるような点はなかなか先に進まないが、「鉄道が便利になる」「上下水道が整備される」「初等教育を普及させる」といった、誰もが批判しにくく、暗黙の合意が形成されやすいものについては、どんどん進む。
 たとえば、義務教育と違い、一部の人が享受する高等教育の普及率では他の先進国より成績が悪い。初等教育を全国一律で推進することは無理なくできるが、高等教育では、どの分野をどう振興するのか、どう予算を配分するのかについて決まったやり方はなく、各方面での議論や試行錯誤がなければならない。結果的には、誰かが得して誰かが損するのだが、このような議論が分かれるものについては動きが遅い。(74ー75p)


 著者の処方箋が、このような日本の状況を変えることができるのかと言うと疑問も残りますが、今の日本の置かれた状況を知るために非常にためになる本だと思います。

パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54) (アスキー新書 54)
海部 美知
4756151337

 

中尾武彦『アメリカの経済政策』(中公新書) 6点

 ここ10年ほどのアメリカ経済の動きと今後の行方を語った本。
 著者は財務省の国際局次長で、IMFに出向したり在米大使館の公使などを務めた人物です。
 アメリカの生産性の伸びと経済成長、アメリカのマクロ経済政策の動き、金融センターの変革などについて手堅くまとめてあると思います。アメリカ経済の強さや現在のサブプライム問題の背景などについて知りたい人にとってはいい本でしょう。
 ただ、ある程度新聞記事や経済関係の本などを読んでいて、アメリカ経済についてフォローしている人にとっては、あまり目新しい内容はないかもしれません。

 それでも、日本人は株などへの投資を好まず貯金雄心の安全志向だという話によく出てくる日米の金融資産の構成比のデータが、実はアメリカは富裕層に金融資産が集中しているからそのようになるのだということを述べたコラムなど、知らなかった部分もあり、いくつかの新しい発見もありました。

アメリカの経済政策―強さは持続できるのか (中公新書 1932)
中尾 武彦
4121019326


小島毅『足利義満 消された日本国王』(光文社新書) 5点

 なかなか面白い小ネタ(産經新聞の金閣寺炎上の記事を書いたのがのちの司馬遼太郎だったとか)をちりばめながら始まるのですが、結局何が言いたかったんだ?という読後感が残ってしまう本です。

 今谷明の『室町の王権―足利義満の王権簒奪計画』をうけて、その義満の計画を明を中心とする東アジアの秩序の中に位置づけようという本なのだと思うのですが、脱線や雑談、思わせぶりが多くて論旨自体ははっきりとしません。
 ただ、この時代の上皇たちの立場やその系統ごとの運命、義満の出家の意図と当時の仏教界の状況など、この時代を考える上で興味深い事柄も散り上げられていて、著者の饒舌を抜きにすればなかなか面白い部分も多いです。

 これが著者の文体やスタイルなのかもしれませんが、もっときちんと整理して書けば面白い本になったと思うので、ちょっともったいない気がします。

足利義満 消された日本国王 (光文社新書)
小島 毅
4334034403


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通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
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