山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

ここブログでは新書を10点満点で採点しています。

2012年10月

飯田泰之『飯田のミクロ』(光文社新書) 6点

この本はタイトルが『飯田のミクロ経済入門』ではなく『飯田のミクロ』となっているところがポイントで、実はかなり難しい本。
 帯には「複雑な数式は不使用。若手論客による画期的入門書」とありますが、正直なところ代表的な経済学の教科書であるグレゴリー・マンキューの『マンキュー経済学〈1〉ミクロ編』よりも難しく、この本から「経済学」の勉強を始めるのは難しいでしょう。
 「経済学についてある程度の知識を持っている人が、「ミクロ経済学」にチャレンジするための本」、というのがこの本の位置づけだと思います。

 第1章は「比較優位」の話とその分析から始まりますが、第2章では消費者理論と生産者理論を使って需要曲線と供給曲線を導くという、素人から見るとめんどくさいことをやっています。
 普通の経済学の入門書だと、まずは簡単に需要曲線と供給曲線を導いて、需要と供給のグラフをつくり、そこからさまざまな意味を読み取るといった形になるのですが、この本ではそのよく見る形の需要と供給のグラフが登場するのはかなり後になります。

 これは著者が狙いを持ってやっていることです。通常のテキストではいわゆる需要と供給のグラフで表される部分均衡分析からはじまって一般均衡分析に至るのが普通ですが、この本ではあえて難しい一般均衡分析を先にやっています。
 この理由を著者は次のように述べています。
 しかし、部分均衡分析から始める通常の順序立ては、経済学そのものの意義・特性について書き手が意図しない誤解を招く可能性があります。その誤解の原因が、部分均衡分析での経済厚生の評価基準〜余剰です。(137p)
 需要と供給のグラフでは、需要と供給の均衡点で消費者余剰と生産者余剰が最大限になることから、この均衡状態を望ましいものだとしています。
  けれでも、著者によるとこれを「望ましい」と言い切るためには、「(A)人びとの幸福度を計測することが可能」、「(B)それを合計したり比較したり することが可能」、「(C)1円の価値は誰にとっても同じ」という3つの前提条件が必要で、それを受け入れることは困難だというのです(150ー 151p)。

 確かにこの前提条件というのはよく経済学を攻撃するときにも用いられるものなので、こうした前提条件を使わない一般均衡分析を優先するというこの戦略は正しいのかもしれません。 
 ただ、直観的に理解がしやすい部分均衡分析に対して、一般均衡分析が理解しづらいのも事実。特に新書を通勤途中の電車で読んでいる身としては、読んでいながら「?」となる部分も多かったです。
 誰かの講義を聞いたり、自分で紙の上に簡単な計算とかをしながらであればなんとかなりそうなのですが、この本の文章や数式を読んだだけで一般均衡分析のからくりを理解できる人はかなり数学的な思考に慣れた人なのではないでしょうか?

 ミクロ経済学がどんなものなのかということがコンパクトにまとめられているので、例えば、大学で本格的に経済学を学ぼうと考えている高校生などが読めば、実際の「経済学」のイメージが掴めると思います。また数学的な理解力が高い人であれば、この本でミクロ経済学の仕組みがつかめるでしょう。
 ただ、個人的にはこのレベルの本であれば新書サイズではなく机に広げられる大きさの本であったほうがいい気がしました。

飯田のミクロ 新しい経済学の教科書1 (光文社新書)
飯田 泰之
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筒井清忠『昭和戦前期の政党政治』(ちくま新書) 7点

1925年に護憲三派内閣のもとで普通選挙法が成立し、いわゆる「憲政の常道」が確立してから、五・一五事件で犬養首相が殺害され政党内閣が終わる1932年まで7年ほど、日本の政党政治は坂道を転がり落ちるように終焉を迎えてしまいます。
 それは一体な何故のか?その理由をこの時期の内閣と政党の動きを詳しく見ることで探ろうとしたのがこの本。意外に類書がないタイプの本だと思います。

 この間に登場するのは護憲三派内閣、第2次加藤高明内閣、第1次若槻礼次郎内閣、田中義一内閣、浜口雄幸内閣、第2次若槻礼次郎内閣、犬養毅内閣の7つ。
 そして立憲政友会の分裂、立憲政友会への革新倶楽部の合流、政友本党と憲政会の合同による立憲民政党の誕生など、政界は二大政党を目指しつつもめまぐるしく離合集散を繰り返します。

 著者はこうした流れを辿りながら、昭和戦前期の政党政治の問題について最後のまとめの部分(270p以下)で、「1 疑獄事件の頻発と無節操」、「2 国会の混乱 買収・議事妨害・乱闘」、「3 地域の政党化・分極化と中立化・統合化欲求の昂進」、「4 「劇場型政治」とマスメディア・世論の政党政治観」の4つをあげています。

 本文を読んで印象に残るのは、まずは「4 「劇場型政治」とマスメディア・世論の政党政治観」の部分。「劇場型政治」という表現はともかくとして、この時期になると互いの政党を攻撃するための武器として、さかんに「天皇」というシンボルを持ち出すようになります。
 世間的にはロンドン海軍軍縮条約における「統帥権干犯問題」が有名ですが、この本でそういったシンボルの動員の先駆けとして紹介されているのが朴烈怪写事件です。
 
 朴烈(ぼくれつ・パクヨル)は関東大震災に乗じて愛人である日本人金子文子とともに爆弾テロを計画されたとされる人物で、その真相はともかくとして1925年には天皇と皇太子の殺害を企てた大逆事件として起訴されます。
 ところが、この天皇殺害をほのめかす朴烈の供述は愛人・金子文子との間にさまざまな便宜を図ってもらった代わりにもたらされたものである疑いがあり、実際、この二人が寄り添っている写真が撮られ、それが外部に流出します(写真はこの本の51pの章の扉に使われている)。
 このスキャンダルと若槻首相による朴烈に対する大赦(死刑→無期)に野党の政友会が飛びつきます。このスキャンダルを「皇室への冒涜」、「司法の腐敗」といったことに結びつけ、さらに倒閣の理由にまでしていくのです。
 そして、この朴烈怪写事件で「皇室への冒涜」といった言葉の使い勝手の良さを覚えた政党は、この言葉を乱発し、やがて自らの首を絞めていくことになるのです。この事件に関しては今まで松本清張の『昭和史発掘』で読んだことがあったくらいでしたが、改めて時代の流れを象徴するような事件だったのだなと感じました。

 また、この本を読んでいくと、政党内のガヴァナンスの弱さ、特に政友会のガヴァナンスの弱さに気付きます。
 原敬を失った政友会はリーダー不足に悩み陸軍大将の田中義一を総裁に迎えます。このあと古参の横田千之助が亡くなったこともあり、政友会は政友会はあとから入ってきた鈴木喜三郎や鳩山一郎、森恪といった鈴木派と、久原房之介らの久原派、政友本党からの出戻り組の床次竹次郎らの床次派、そして古参幹部のグループに分裂し、内部抗争をつづけます。
 しかも総裁は田中義一から犬養毅と、政友会の生え抜きではなく、さらに犬養毅は政治資金を世話できないことを宣言していたので、資金力を持った幹部を統制できない状態でした。
 こうした政党内のガバナンスの欠如が政党政治の崩壊を早めたとも言えます。

 こういった政党の内部抗争や二大政党の泥仕合が、マスコミや知識人による「軍部」「官僚」「新体制」などの「第三極」待望論を生み、結局はそれに軍部が乗るかたちで政党政治が崩壊したというのが著者の見立てです。
 著者は「まとめ」の部分で、政友会系の駐在所と民政党系の駐在所が存在し政権交代のたびにそれが交互に使われていたという大分県の例を上げ、当時の政党の対立の激しさを紹介しています。
 この部分は、確かに政党の対立の弊害を指摘している部分なのですが、同時に「明治以来の官僚中心主義」といったお決まりのフレーズが実は正確でない(少なくとも昭和戦前期は政党によって官僚の人事が入れ替えられ官僚への政党の影響力が強かった)ことがわかります。

 というわけで、なかなか面白い材料が詰まった本ですが、注意したいのは基本的に政局を追った本で、政策についての言及は少ないという点。
 この時期の政党政治の一番大きな問題点は、政党の政治家として当時もっとも立派な人物だったとも言える浜口雄幸がその強いリーダシップで金解禁という間違った政策を行なって、日本を不況の底に陥れたことにあると思うのですが、そういった金解禁政策への説明や評価といったものはあまりありません。
 もちろん、全体的に政局面に絞った本なのでそれは仕方がないですが、この時代の政策論争についての知識がない人は何か別の本でそういった部分を補うといいと思います。

昭和戦前期の政党政治: 二大政党制はなぜ挫折したのか (ちくま新書)
筒井 清忠
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竹森俊平『ユーロ破綻 そしてドイツだけが残った』(日経プレミア) 9点

『資本主義は嫌いですか』『中央銀行は闘う』などの著作や、新書『1997年―世界を変えた金融危機』で知られる竹森俊平の新書が登場。
 毎回、豊富な経済史についての知識と、最新の経済学の知見についてのわかりやすい説明で楽しませてくれる竹森俊平ですが、今回の本も面白い。ユーロ危機という今最もホットな話題を丁寧に、そして時に大胆に読み解いていきます。
 
 この本は大恐慌(世界恐慌)の話から始まります。
 1929年10月のウォール街での株の大暴落から始まったとされる大恐慌ですが、実はその恐慌が本格化したのは1931年4月のオーストリアの銀行破綻に始まる欧州の経済危機。
 今回の危機においても、2008年のリーマン・ショックが現在のユーロ危機につながり、そしてさらに危機が本格化するのではないのか?というのが著者の見立てになります。
 
 第1章の大恐慌についての分析、「フーバーは正しい認識を持っていたが間違った」という部分も面白いですが、何と言っても面白いのはユーロに内在する問題と、その中での危機の進行、そしてユーロの未来を占った部分です。

 まず、ユーロに内在する問題として著者は次のような問題をあげています。 
 国際経済のには「国際金融のトリレンマ」というものがあり、(1) 為替レートの安定、(2) 自由な国際資本移動、(3) 独立した金融政策、の3つを同時に満たすことは不可能だとされています。
 この「国際金融のトリレンマ」と同じように、ユーロ圏には次のようなトリレンマが存在すると著者は指摘します。すなわちそれは、(1) ユーロ圏はトランスファー(所得移転)同盟に転化させたくないリーダー国(ドイツ)の願望、(2) 共通通貨(ユーロ)を存続させたいとい う願望、(3) 北に比べて競争力の弱い南の産業が崩壊する結果、南から北への大量移民が発生し、北に移民のスラムが形成させるといった事態を避けたい欧州 全体の願望、の3つです(179ー180p)。
 
 例えば、ドイツは旧東ドイツの統合において、(2)(共通のマルクを使う)と(3)(東ドイツのコミュニティの崩壊を避ける)をとるために、旧東独地域への巨額の財政支援を行いました。また、南北の格差の大きいイタリアでも同じような政策が取られています。
 
 しかし、今回の危機において、この危機を唯一の解決する力のあるドイツは「ユーロ圏はトランスファー(所得移転)同盟に転化させたくない」という(1)にこだわって、GIIPS(ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペイン)への財政支援、あるいは財政支援につながりかねない施策を行おうとはしません。もしも、(3)の「大量の移民」を避けようとするならば、ユーロを解体させるしかないわけです。

 また、EUのさまざまな仕組みも現在のところ、危機を悪化させる方向に働いています。
 トランスファー同盟になることを阻止するためのEUの「非救済条項」は、ギリシャの債務削減交渉において、民間金融機関に「自主的債権放棄」を迫るという強引な手法をもたらしました。「非救済条項」に引っかからないようにするためにとにかく「デフォルト」を回避したかったのです(190ー192p)。
 けれども、この「自主的債権放棄」では、債務に対する保険であるCDS(クレディット・デフォルト・スワップ)がおりません。最終的にはギリシャでもCDSがおりましたが、こうなると投資家はより大きな投資先であるスペインやイタリアのCDSも意味がないのではないか?と疑心暗鬼になります。
 そしてギリシャほど財政状況が逼迫していない国にも危機は拡大していくのです。

 現在のユーロ危機について、著者は「ターゲット」と呼ばれるユーロ圏の決済勘定(この説明については簡単には出来ないので本書の198pを読んでください)、ECBによるLTRO(3年もの資金供給)によって何とか落ち着いていると見ています。
 しかし、実はこのしくみはドイツ、あるいはドイツの中央銀行の隠れた負債を増やすものでもあり、ドイツの負担なしにいつまでも続くものではありません。

 ですから、著者の見方は悲観的です。
 著者はこの本でジョージ・ソロスの次のようなスピーチを引用しています。
 「ドイツはユーロが存続出来るだけのことはするだろうが、それ以上は何もしないだろう。その結果、ユーロ圏はドイツに支配される地域となり、債権国と債務国の格差は拡大し続ける。周辺国は恒久的な経済の低迷に沈み、常時、財政支援を必要とすることになるだろう。この結果、欧州同盟は『驚異的な目標』として、人びとの想像力を掻き立てたときとは、かなり様相の異なったものになるだろう。それは『ドイツ帝国』に転化し、周辺国は後背地に成り下がるのである」(263p)
 実は、この本を読むまではドイツがユーロから離脱することが一番可能性のあるユーロ危機からの脱出方法ではないか?とも思っていたのですが、この本を読むと、そんなふうに簡単に行かないということがわかります。
 統合されてしまった経済を簡単に解きほぐすことはできず、ソロスの言うように、ドイツが危機にい陥った国々を「生かさず殺さず」といった形で支援していくというのが一番ありえそうなシナリオに思えてきます。

 しかし、著者は長期的にはこのシナリオも成り立たなくなり、ユーロが崩壊する可能性も十分に高いと見ています。財政支援に対するドイツ国民の不満、ドイツに対する他の国々の反発、いずれも一度火が着いてしまえばそれを抑えるのは難しいからです。
 
 この著者の悲観的なシナリオが果たして本当に実現してしまうのかどうかはわかりませんが、ユーロ危機の構造を丁寧にときほぐしていくさまは本当に面白いですし、「成熟経済では金融業が不要に」(118p)といった部分を始めとして、今後の世界経済を考えていく上で重要な知見があちこちに散りばめられています。
 
 『資本主義は嫌いですか』で、世界経済危機の第1ラウンドであったリーマン・ショックについて見事な分析をしてみせた竹森俊平が、第2ラウンドのユーロ危機においてもまた見事な分析を見せてくれた本と言えるでしょう。

ユーロ破綻 そしてドイツだけが残った (日経プレミアシリーズ)
竹森 俊平
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大治朋子『勝てないアメリカ』(岩波新書) 7点

岩波新書でこのタイトルとなると、頭でっかちの対米批判の書を想像する人もいるかも知れませんが、中身は毎日新聞の記者によるアメリカの「対テロ戦争」のルポタージュ。サブタイトルの「「対テロ戦争」の日常」のほうが中身を素直に表しているといえるでしょう。

 目次は以下の通り。
 はじめに
 第一章 見えない傷
 第二章 従軍取材で見た基地の日常
 第三章 泥沼化する非対称戦争
 第四章 「終わらない戦争」の始まり
 終章 勝てないアメリカ
 おわりに
 まず、第一章の「見えない傷」は日本では耳慣れないTBI(=外傷性脳損傷)という傷病についてのリポート。
 イラクやアフガニスタンから帰還兵の中に、頭痛や集中力の欠如、記憶力の低下、光や音に過敏になるといった症状に苦しむ者が数多くいるといいます。今までもPTSDなど、戦争によるストレスなどで苦しむ帰還兵は存在しましたが、現在、アメリカではTBIという新たな傷病の存在がクローズアップされています。
 これはIED(=即席爆破装置)と呼ばれる手製爆弾の爆発に巻き込まれた兵士たちにその症状が現れるもので、強烈な爆風により脳の内部が損傷を受けると考えれれています。
 著者はこのTBIの患者を訪ねながら、帰還兵の置かれている苦しい現状をレポートしています。

 第二章、第三章は著者のアフガニスタンでの従軍取材が中心になります。
 アメリカ軍のメディアへの対応、メディア戦略などから、実際のアフガニスタンの基地の内部の様子、アフガニスタンでの米軍の任務の難しさ、米軍基地で働くアフガニスタン人の様子、イラクとアフガニスタンの違いといったことが書かれています。
 著者はこの取材の中で実際にIEDによる攻撃も受けており、今なお治安の安定しないアフガニスタンでの緊迫した様子が伝わってきます。

 そうしたアフガニしたんであっても、米軍基地にはAmazonで注文された商品の箱が山のように届き、バーガーキングやサブウェイ、サーティーワンといった店舗が軒を連ねています。一方、基地内の病院にはケガをしたアフガニスタン人の子どもが次々と運び込まれており、米軍はそれらの子どもたちを無料で治療しています。
 この本で描かれるアメリカ軍の姿は時に傲慢でもあり、時に献身的でもあるという複雑なものです。

 これはアフガニスタンでの任務の難しさがもたらすものでもあります。
 アメリカ軍は力だけでタリバンやテロ勢力を掃討することは出来ず、掃討作戦とともに治安を安定させ人々の暮らしを成り立たせるための「国家をつくる」必要があります。
 イラクでは増派によって治安が安定し国づくりがある程度は軌道に乗りましたが、アフガニスタンではそもそも中央政府が機能していなかったために、イラクよりも地道な「国づくり」が必要となっているのです。

 さらに第四章では、アメリカの「対テロ戦争」を支える様々な兵器やCIAの暗殺作戦の問題点が指摘されています。
 知っていたとはいえ、自宅からアメリカ国内への基地へ出勤し、そこでイラクやアフガニスタンの無人機を操縦、モニター上に現れた敵を攻撃し、そして帰宅するというパイロットの姿はやはり衝撃的。しかも、パイロット不足を解消するために、民間人に無人機の操縦を任せ攻撃の時だけ兵士が替わるというシステムもあり、操縦器も兵士たちがコントロールしやすいようにとXboxと同じ物が採用されたりもしているそうです。

 しかし、一方で無人機による攻撃や暗殺作戦は、現地の人々の反感も生んでおり、2001年の10月に始まった「対テロ戦争」は、「アメリカ史上最長の戦争」ともなっています。
 こういった「対テロ戦争」の現状、そしてこの戦争には「終わり」が見えないことをこの本は教えてくれています。
 

勝てないアメリカ――「対テロ戦争」の日常 (岩波新書)
大治 朋子
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小林良彰『政権交代』(中公新書) 4点

サブタイトルは「民主党政権とは何であったのか」、民主党政権のこの3年間を総括し、なぜ政治は変わらなかったのか?そして理想的な民主主義を実現するための選挙制度はどのようなものか?といった問いへの著者なりの回答を出しています。
 著者は長年、日本の選挙や政治過程などについての計量分析を行なってきた政治学者の小林良彰。ということで、このテーマの本の著者としてはいいんじゃないかとも思ったのですが、残念ながら個人的には期待はずれでした。

 まず、200ページほどの本文の140ページほどが、自民党政権から民主党政権の誕生、そして民主党政権の迷走という事実の記述に当てられています。
 基本的に新聞などで報道された内容などをまとめたものであり、民主党政権の軌跡をまとめたものとしては便利かもしれませんが、ある程度、政治報道の流れを追っている者にとっては目新しい部分はありません。
 
 また、著者のスタンスは民主党に厳しいものであって、やや偏りが感じられます。例えば、震災後の菅政権の動きを描いた「菅政権の延命策動」というタイトルの節があったり、その節の中には「菅の粘り腰 ー 「ペテン師」とまで呼ばれ」という小見出しもあります。
 確かに、震災後の対応において管政権が万全ではなかったと思いますし、民主党の政権運営には問題が多かったと思いますが、この本の記述は「悪い面」ばかりを見たものになっていると思います。
 しかも、締めの言葉は「こうして、八月二九日、参議院で野田首相に対する問責決議案が野党の賛成多数で可決し、三年間に及んだ民主党による政権交代の幕が閉じられようとしていた」(151p) 
 いや、まだ終わってませんから!

 もっとも、最後の提言の部分が良ければ、それまでの部分は説得力のある提言を引き出すための枕だとも言えます。
 ところが、この提言には一貫性がなく、ちぐはぐなものになっていると思います。

 著者の主張は、政治家が有権者に予算案を示す「予算登録制度」、有権者が首相を選ぶための「首相国民推薦制」、政党ではなく候補者個人に国が助成を行う「候補者公的助成」、政党本部ではなく選挙区の有権者が候補を選ぶための「予備選の実施」、衆議院への都道府県単位の「非拘束名簿式比例代表制選挙」の導入、参議院へのブロック別の選挙区制(大選挙区制)の導入などです。
 これらの提言の個々の部分には確かに見るものがあります。
 確かに漠然としたマニフェストではなく「予算」の形で見せられれば、より政策の現実性がわかりますし、「予備選」も政党の組織を鍛えていくためには必要なことだと思います。
 
 しかし、これらの政策を組み合わせてみるとずいぶんとおかしなことになるのではないでしょうか?
 例えば、衆議院に「非拘束名簿式比例代表制選挙」を導入した場合、「予備選」の必要はあるのでしょうか?小選挙区のように一つの政党から候補者が一人しか出ない状況ならともかく、「非拘束名簿式比例代表制」なら別に出たい人が全員でてそれを有権者が判断すればよいでしょう。
 さらに都道府県単位の「非拘束名簿式比例代表制選挙」の場合、著者の計算だと一番定数が多いのは東京都で47名となります。ということは100名以上の候補者が出てもおかしくないと思うのですが、ここで候補者ひとりひとりが予算案を示す「予算登録制度」を行うと、さすがに有権者はそのすべてを検討することができなくなります。
 もちろん、政党単位で予算案を示せばいいことですが、「候補者公的助成」や「非拘束名簿式比例代表制選挙」は「政党」よりも「人」を選ぶ方向へと向かわせるもので、「政党」が単一の明確な予算案を示せる可能性は低くなるでしょう。

 このように本の構成、内容ともに個人的には疑問の残る本でした。

政権交代 - 民主党政権とは何であったのか (中公新書)
小林 良彰
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名前:山下ゆ
通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
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