山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

ここブログでは新書を10点満点で採点しています。

2009年04月

難波功士『ヤンキー進化論』(光文社新書) 7点

 死滅したかに見せかけて、今なお日本のカルチャーにおいて侮れない勢力を持っているヤンキー文化。そのヤンキー文化の源流と時代の中での展開、そしてその特徴を分析しようとした本です。
 著者の難波功士は、今年の1月にちくま新書から『創刊の社会史』という本を出した人で、その時の情報量にも感心しましたが、この本もさまざまなメディアの膨大な情報の中から「ヤンキー」という現象をとり出そうとしています。

 「ヤンキー」という語源は、1970年代・80年代の大阪・アメリカ村にたむろしていた派手な服を着た不良たちという説がありますが、著者はこれを退け、ヤンキーをもっと大きな流れに位置づけ直そうとします。
 それこそ60年代の不良映画から、スカマン(ヨコスカマンボ族)、暴走族、バンド・アナーキー、矢沢永吉、親衛隊など、さまざまな現象を見ていくことで、いわゆる不良文化の変遷と、今のヤンキー文化の源流、そしてそうした文化の根深さを教えてくれます。

 こうした幅広い資料から見えてくるのが、労働者階級的な文化、反学校、国内・地元志向、伝統的な性的役割の重視などの要素。
 これによって、時代によりさまざまな形態をとりながらも、ある種の文化ラインとしての「ヤンキー」の姿が見えてきます。

 また、著者が体験したイギリスの労働者階級の文化とヤンキーの比較を通じて、「資本主義社会の中でのブルーカラーの文化の一種としてのヤンキー文化」というようなものも見えてきます。

 欲を言えば、「なぜヤンキー文化においては「大和魂」的な日本趣味とアメリカの若者文化が混じりあうのか?」という面についての分析も欲しかったですが(やはり「バットテイスト」ということなのかな?)、ヤンキー文化について考える上で非常に有用な資料となる本と言えるでしょう。

 (本のつくりとして言えば、最後の用語解説と「見取り図」は特に必要なかった気もしますが。)


ヤンキー進化論 (光文社新書)
難波功士
4334035000


檜垣立哉『ドゥルーズ入門』(ちくま新書) 2点

 僕はドゥルーズの本を読んでいないため、何とも言えない面もありますが、
 
1、ドゥルーズの思想自体が実はほぼ無意味。
2、著者がまったくドゥルーズの思想のアクチュアルな面を掴んでいない。

のどちらかであるような気がします。それくらいに読んでも意味のない本だと思います。

 この本のダメな点をいくつかあげます。

1、入門書でありながら対象としているのは前期のドゥルーズのみ(『差異と反復』、『意味の論理学』)で後期に関してはほぼ紹介がない。

2、ドゥルーズのテクストを印象しながら解説しているが、テクストの全体像についての言及が少ないため、一度はドゥルーズの本を読んでいないと意味がよくわからない。

3、ドゥルーズ独特の用語「器官なき身体」「機械」などについてもきちんとした説明がないため、あらかじめこれらの言葉を知っている読者でないとイメージが掴めない。

4、「ラッセルのパラドックス」「意義」「分析的」「総合的」などの分析哲学の用語も出てくるが、著者の書き方が悪く、それらの概念がきちんと位置づけられていない。(集合の話をしたいのか、固有名詞の話をしたいのかよくわからない。クワインの議論を踏まえているのかも不明。ひょっとしたらドゥルーズの理解が明確でなかったという可能性もありますが)

 ドゥルーズのテクスト『差異と反復』、『意味の論理学』を読んだけど、いまいちきちんとわからなかったという人には、それなりに役に立つ面がないとは言えないのかもしれませんが、ドゥルーズの入門書としてはほぼ役に立たない本と言えるでしょう。

ドゥルーズ入門 (ちくま新書)
檜垣 立哉
4480064818


内藤朝雄『いじめの構造』(講談社現代新書) 7点

 長年いじめをテーマに研究を続けてきた著者による本。独特の造語など、やや読みにくい面もありますし、理論的にもそれほど洗練されたものだとは思えません。
 ただ、それを補ってあまりあるのが、著者の挙げるいじめの数々の事例。さすが、長年いじめを研究しただけあって、いじめのメカニズム、残忍性、そしてそれを許す学校側の「臭いものには蓋」的な感覚を見事にえぐり出しています。

 そんな事例の中でも、この本の60ページから語られる、著者がフィールドワークしたという、ある「軍団」の事例は非常に興味深いです。
 上級生の暴力から自衛するために「軍団」を結成した中学生たちは、「むかつく」「むかつく」と暴力によって学校や地域を「制覇」しはじめます。
 著者は存在論的な不全感を持った者たちが、こうした暴力行為で「全能感」を獲得していると解釈しますが、この「全能感」というのがいじめを駆動する力でしょうね。いじめが徐々にエスカレートしてしまうわけもここにあると思います。
 
 さらに、この事例に於ける「友だち」の位置づけというのも興味深いです。
 彼らは「軍団」の「友だち」が何よりも大切だと言いながら、時には仲間の陰口を言います。彼らにとって重要なのはあくまでも「軍団」としての「友だち」であり、個人としての友人ではありません。このあたりの感覚を著者はうまくすくいあげていると思います。
 この事例は注目すべき材料をたくさん含んでいて、これだけでも読む価値はあると思います。
 
 また、著者はいじめがエスカレートする要因として、学校が警察などの介入を嫌がることをあげていますが、これもその通りでしょう。
 著者が指摘する通りに、いじめる側も「やばい」と思ったらあっさりやめるものですし、また警察などが介入すれば、そこで「全能感」は失われてしまいます。
 ところが、教育現場は「教育」の名の元に他の権力の介入を嫌い、結果的に暴力を隠蔽する。また、学校は外部からの「教育」への干渉を嫌うだけに閉鎖的になりがちです。
 著者が厳しく批判するように、この閉鎖的な学校の体質が日本のいじめをひどいものにしている大きな要因でしょう。

 理論的には上滑りしている面もありますが、いじめを考える上で多くの材料を提供してくれる本です。

いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)
内藤 朝雄
4062879840


福間良明『「戦争体験」の戦後史』(中公新書) 6点

 『きけわだつみのこえ』の受容のされ方、「わだつみ会」のあり方とその方針を通して、「戦争体験」の語られ方について考察した本。
 同じ中公新書で高田里惠子『学歴・階級・軍隊』という本が去年出版されていますが、とり上げている内容には非常に近い物があります。

 「きけわだつみのこえ」における「学歴」や、戦前の世代と戦中世代との教養面におけるの断絶など、『学歴・階級・軍隊』で書かれたテーマが形を変えてとり上げられています。
 出来としては、『学歴・階級・軍隊』がややまとまりのない物だったのに比べると、この本は竹内洋の「教養主義」の考え方を下敷きにして、「わだつみ会」の活動に絞って考察しているため、ずいぶんとまとまっています。
 「戦争体験」を語ることの難しさというものも重視しており、悪くない本と言えるでしょう。

 ただ、逆に言うと、この手の本を読んでいる人には新鮮な物はないかもしれません。
 『学歴・階級・軍隊』が乱雑な内容の中にも面白い発見があったのに比べると、手堅いけど少し優等生過ぎるという感じでしょうか?
 「あとがき」で竹内洋と佐藤卓己の研究会に参加してと書いてありますが、まさに「竹内洋+佐藤卓己」という印象なのです。

 悪い本ではないですけど、もう少し何かオリジナルな物が欲しかったと思います。

「戦争体験」の戦後史―世代・教養・イデオロギー (中公新書)
福間 良明
4121019903


増田弘『マッカーサー』(中公新書) 6点

 マッカーサーの評伝ではありますが、副題に「フィリピン統治から日本占領へ」とあるように、この時期のことを中心にとり上げている本になります。
 マッカーサーの評伝に関しては、やや古いものですが袖井林二郎の『マッカーサーの二千日』という非常に優れたものがあり、この増田弘の『マッカーサー』は、その『マッカーサーの二千日』であまり語られなかったフィリピン時代、コレヒドール島からの脱出、そしてバターンボーイズを中心とするマッカーサーの側近について詳述してあります。

 そのため、一般的な評伝を読みたいという人にはあまりお薦めできません。
 全488ページの新書としては非常に厚い本なのですが、マッカーサーが日本に降り立つのが314ページ目ですから、いかにフィリピン時代の記述が多いかわかると思います。
 単純にマッカーサーの伝記、日本の占領時代を中心としたマッカーサーの行動を知りたい人は、『マッカーサーの二千日』を読んだ方がいいでしょう。

 ただ、ホイットニーが台頭した理由を始め、マッカーサーの側近について詳しく書いてあるため、占領下の日本でのホイットニー率いるGSとウィロビー率いるG2の対立などに興味がある人は読む価値があると思います。
 また、マッカーサーのカリスマ性を表すエピソードに関しては、『マッカーサーの二千日』よりも数多くとり上げてあるので、、マッカーサーが現役時から伝説的な存在であった理由がよくわかると思います。

 マッカーサーについてそれなりに知識があり、さらに深く知りたいと思う人が読むべき本だと思います。

マッカーサー―フィリピン統治から日本占領へ (中公新書)
増田 弘
412101992X


記事検索
月別アーカイブ
★★プロフィール★★
名前:山下ゆ
通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
新書以外のことは
「西東京日記 IN はてな」で。
メールはblueautomobile*gmail.com(*を@にしてください)
<% for ( var i = 0; i < 7; i++ ) { %> <% } %>
<%= wdays[i] %>
<% for ( var i = 0; i < cal.length; i++ ) { %> <% for ( var j = 0; j < cal[i].length; j++) { %> <% } %> <% } %>
0) { %> id="calendar-294826-day-<%= cal[i][j]%>"<% } %>><%= cal[i][j] %>
タグクラウド
  • ライブドアブログ

'); label.html('\ ライブドアブログでは広告のパーソナライズや効果測定のためクッキー(cookie)を使用しています。
\ このバナーを閉じるか閲覧を継続することでクッキーの使用を承認いただいたものとさせていただきます。
\ また、お客様は当社パートナー企業における所定の手続きにより、クッキーの使用を管理することもできます。
\ 詳細はライブドア利用規約をご確認ください。\ '); banner.append(label); var closeButton = $('