ジジェクの新書というと、これ以外に『人権と国家』(集英社新書)がありますが、やはりジジェクは新書には向いてないのかもしれません。
『人権と国家』はジジェク入門にちょうどいいような構成ながらインタビュアーの突っ込み不足で空振りでしたし、この本もジジェク節こそ楽しめるものの、何を主張したいのか?ということに関しては不明確な本です。
もともと、ジジェクはきっちりとした論旨で議論を展開する人ではないので、コンパクトにまとまっていなければいけない新書では何か足りない気がします。
ただ、皮肉が効いている鋭い分析はさすが。
現代の欺瞞を斬る人物としてこのジジェク以上の人物はなかなかいないでしょう。
例えば、慈善活動に熱心な資本家に対する次のような皮肉。
そして、この資本家の慈善活動と同時に、リーマン危機における、貧しい労働者が富を集めてきた金融資本を
”救済”する事態の歪みを糾弾しています。
また、現代におけるファシズムを考える上でイタリアのベルルスコーニに対する次のような指摘も重要。
さらに次の部分などは現在の日本の政治状況をずばり言い当てているのではないでしょうか?
あと、この本の不満としては解説がまったくない所。
それほど詳細な解説はいりませんが、せめてこの本がどのような形で海外で出版されたのかくらいは説明してほしいですね。
ポストモダンの共産主義 はじめは悲劇として、二度めは笑劇として (ちくま新書)
スラヴォイ・ジジェク 栗原 百代

『人権と国家』はジジェク入門にちょうどいいような構成ながらインタビュアーの突っ込み不足で空振りでしたし、この本もジジェク節こそ楽しめるものの、何を主張したいのか?ということに関しては不明確な本です。
もともと、ジジェクはきっちりとした論旨で議論を展開する人ではないので、コンパクトにまとまっていなければいけない新書では何か足りない気がします。
ただ、皮肉が効いている鋭い分析はさすが。
現代の欺瞞を斬る人物としてこのジジェク以上の人物はなかなかいないでしょう。
例えば、慈善活動に熱心な資本家に対する次のような皮肉。
資本家が好むモットーは社会責任と感謝の念になった。社会は自分にとてつもなくやさしく、その才能を発揮し、莫大な富を蓄えることを許してくれているのだから、恩返しに普通の人を助けるのは義務なのだと、真っ先に認めている。(63-64p)
そして、この資本家の慈善活動と同時に、リーマン危機における、貧しい労働者が富を集めてきた金融資本を
”救済”する事態の歪みを糾弾しています。
また、現代におけるファシズムを考える上でイタリアのベルルスコーニに対する次のような指摘も重要。
たとえベルルスコーニが威厳のない道化だとしてもむやみにあざ笑わないことだ。たぶん彼を笑うことで、われわれはすでに術中に陥っている。ベルルスコーニの笑いはもっと不快で狂気じみた、バットマンやスーパーマン映画の敵役の笑いである。彼の支配の本質についての考察を得るには、『バットマン』に出てくるジョーカーが権力を持った場合を想像するべきだ。(88p)
さらに次の部分などは現在の日本の政治状況をずばり言い当てているのではないでしょうか?
いわゆる「民主主義の危機」が訪れるのは、民衆が自身の力を信じなくなったときではない。逆に、民衆に代わって知識を蓄え、指針を示してくれるはずのエリートを信用しなくなったときだ。(222ー223p)
あと、この本の不満としては解説がまったくない所。
それほど詳細な解説はいりませんが、せめてこの本がどのような形で海外で出版されたのかくらいは説明してほしいですね。
ポストモダンの共産主義 はじめは悲劇として、二度めは笑劇として (ちくま新書)
スラヴォイ・ジジェク 栗原 百代
