山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

ここブログでは新書を10点満点で採点しています。

2011年05月

渡邊大門『戦国誕生』(講談社現代新書) 6点

応仁の乱前後の幕府と朝廷の動きを見ることで、幕府と朝廷の権力・権威がいかに崩壊し、戦国時代が幕を開けたかということを論じた本。
 応仁の乱というと、将軍家と有力守護大名の家督争いという構図で説明されることが多いですが、この本を読むと、そもそも将軍→守護→守護代→被官といった命令系統がまったく機能していなかったところに問題があるということがわかります。

 室町幕府の8代将軍となった足利義政は、3代将軍義満や6代将軍義教のように守護大名家の家督争いに介入することで将軍の権力を高めようとしますが、その場当たり的な対応、そして領国支配の実態からかえって幕府の権威はゆるぎます。
 当時は、この本でいうところの、「形式」よりも「実体」が重んじられるようになった時代であり、たとえ守護が新たな領国を「形式的」に拝領したとしても、その国を「実体的」に支配している守護代などの同意がなければ、その守護職は空手形に終わるような状況になっていたのです。
 そうした実態を、この本では越前の守護・斯波氏と守護代の朝倉氏、播磨などの守護であった赤松氏と家臣の浦上則宗、名門守護の京極氏と出雲の守護代尼子氏の関係を見ることで明らかにしていきます。
 もともと、室町時代の守護大名は複数の国を支配することで、将軍をも上回るような力を持っていたのですが、その複数の国の支配がかえって支配の空洞化を生み、守護の力の空洞化につながっていくとになったのです。

 こうした守護による領国支配の空洞化と、将軍家の権力争いと没落、朝廷の対応と没落をこの本はかなり細かいところまでわけいって論じようとしています。
 ただ、そのぶんやや全体の流れがつかみにくくなっているのがこの本の欠点。
 今までの応仁の乱は、義政の隠居志向、弟・義視への強引な家督譲り、義尚の誕生と日野富子の暗躍といったストーリーで語られることが多かったのですが、この本では義政の隠居志向を否定し、義政は義満のように将軍を引退して自由な立場から政治をしたかったのだという説をとります。また、日野富子が登場するのも応仁の乱が起こってからになります。
 義政に必ずしも隠居志向があったわけではないということは、この本を読めば納得できますが、日野富子の存在を消して将軍家の家督争いの側面を後退させたことで、この本が描く応仁の乱の姿は非常にわかりにくいものになっています。無数の小さな混乱の集積といった様相です。
 乱の実態はそのようなものだったのかもしれませんが、もう少しわかりやすい通説の否定とまとめがあっると良かったと思います。

 室町時代の朝廷の姿や、応仁の乱以後の明応の政変をはじめとする混乱などについてはわかりやすく、初めて得る知識も多いのですが、全体的に人物に焦点を当てるのか制度に焦点を当てるのかをはっきりさせたほうがわかりやすくなったでしょう。

戦国誕生 中世日本が終焉するとき (講談社現代新書)
渡邊 大門
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若林亜紀『体験ルポ 国会議員に立候補する』(文春新書) 5点

行革ジャーナリスト・若林亜紀(選挙では若林アキの名義を使用)が2010年の参院選にみんなの党の比例候補をとして立候補し、落選した記録。
 同じ時期に出版された、林芳正・津村啓介『国会議員の仕事』の津村啓介の選挙運動の記録などと比べると、著者の選挙への取り組みは甘く落選も仕方が無いという感じなのですが、そんな素人の取り組みを通じて日本の選挙制度、特に参議院の非拘束名簿式比例代表制の問題点が見えてきます。

 著者の若林亜紀はみんなの党の浅尾慶一郎に誘われて、みんなの党から選挙に出馬することになります。浅尾慶一郎は、著者に「埼玉でどうですか?」と持ちかけられますが、「わたしには全国に読者がいるので、比例区のほうがよいと思います」(23p)と答えます。
 読み進めていくとわかりますが、この全国的な知名度というのが参議院の非拘束名簿式比例代表制の落とし穴。
 最終的にみんなの党は23人の候補を立て、実際みんなの党はかなり健闘するのですが、やはりちょっとした知名度で投票の時に個人名を書いてもらえるかというと、それは難しい。
 この選挙では、みんなの党から立候補した元キャスターの真山勇一やカリスマバイヤーの藤巻幸夫なども立候補していますがあえなく落選。わざわざ個人名を書いてもらうには、知名度やちょっとした好印象を超える何かが必要なのです。

 そのことがいまいちよくわかっていなかったと思われる著者の選挙戦は、いわゆる普通の選挙運動を節約しながら行っていくもので、ターゲットが掴みきれないままに進んでいきます。
 もちろん、ネット選挙が解禁されていないこと、チラシを配るには路上か新聞の折込でなくてはならないことなど、さまざまな規制が著者のような地盤を持たない候補者の選挙運動を縛っているわけですが、あとで著者も振り返るように選挙戦での出遅れは決定的で、それを取り戻せないままに選挙戦は終了してしまいます。
 ある意味で敗因が非常に発揮ししている負け戦でした。

 また、この本を読むとみんなの党が各政治家の寄り合い所帯で、組織がぜんぜんしっかりしていないこともわかります。
 みんなの党の政策本を出版するまでのドタバタぶりを見るとそれは明らかで、今後、党勢を拡大する上では党首の渡辺喜美のアピール力を活かしつつも、同時に組織をしっかりさせていかないと、たんなる渡辺喜美の個人党のようなもので終わってしまうと思います。
 そういった、みんなの党の現状を教えてくれる本でもありますね。


 体験ルポ 国会議員に立候補する (文春新書)
若林 亜紀
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荻上チキ『セックスメディア30年史』(ちくま新書) 8点

90年代後半、社会学者の宮台真司が論壇を席巻しました。今でこそ、その活動はそれほど目立っていませんが、宮台真司の影響をもろに受けていると思われる若手論客は数多く、この本の著者の荻上チキもその一人だと思います。
 そんな荻上チキが、まさに宮台真司的なテーマで書いたのがこの『セックスメディア30年史』。
 宮台真司の仕事を知っている人は、彼がセックスメディアに社会の鏡的な役割を割り当てていたことを知っていると思いますが、この本ではそうした宮台真司の問題意識を受け継ぐ形で、1980年代から現在にいたるセックスメディアの歴史が語られています(タイトルは「30年史」ですが、実際の分析は85年あたりから始まっているので「25年史」のほうが正確かもしれません)。

 ただ、その分析のされ方は宮台真司のそれとはちょっと違っていて、当初、濱野智史との共著として計画されたせいもあるのか、セックスメディアの「生態系」とその変遷を記述するようなものになっています。
 宮台真司が、今までの社会の解体とセックスメディアの興隆を重ねあわせるような大きな議論を展開していくのに比べて、この本ではネットを始めとするテクノロジーや、政治からの規制などが、いかにセックスメディアの形態を変化させていったかという、もっとミクロの視点で議論を進めています。
 ですから、読む人によってはたんにセックスメディアの変化を追っているだけのように見えるかもしれません。
 けれども、ディティールから見えてくるものも当然あるわけで、この本はそんな見えにくかった変化の要因を可視化させてくれる本です。

 例えば、第3章の「何がエロ本を「殺した」か?」では、たんに「ネットがエロ本を殺した」というわかりやすい物語だけでなく、雑誌の広告費の減少、ソフト・オン・デマンドやDMMによる格安エロ本の登場、袋とじ規制によってごちゃごちゃといかがわしい表紙にせざるを得なかった事情などを、元『オレンジ通信』編集長へのインタビューやデータから説き起こしています。
 また、「テレクラ」から「出会い系サイト」の流れの中に、リクルートの発行した個人情報誌『じゃマール』を挟んでいる点も、「出会い系」のアンダーグラウンドからオーバーグラウンドへの浮上を読み解く上で欠かせないとこだと思いました。

 そして、個人的に一番面白かったのが「TENGA」をつくっている株式会社典雅の松本光一社長へのインタビュー。
 彼のパッションやビジョンの高さ、そして成功に至る道程というのは、まさに理想的なベンチャービジネスの姿であって、ビジネス書を読む人たちにも太鼓判を押せるものです。
 ところが、つくっているものがつくっているものだけに時に真面目な話の中にも笑えるエピソードがあり飽きさせません。
 それにしても松本社長の「(今までのアダルトグッズは)iPodをつくったのに、塩ビの箱に入れて梱包し、「いっぱい聴けるクン」という名前で売っていたようなものです」との言葉は力強いですね。

 注のつけ方とか、レッシグを規制をかける4つの力を引用している割には「道徳」と「セックスメディア」の関わりについての記述が薄いなど、不満な部分もないことはないですが、10年以上前に宮台真司の『制服少女たちの選択』を面白く読んだ人は、その後の展開を知れるということで面白く読めると思います。


セックスメディア30年史欲望の革命児たち (ちくま新書)
荻上 チキ
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御厨貴編『近現代日本を史料で読む』(中公新書) 6点

歴史を知る上で欠かせないのが1次史料であり、特に日本の近現代史においては政治家の日記などが欠かせない資料となっています。
 そんな日本近現代史の重要日記のブックガイドというべきなのがこの本。「大久保利通日記」から「卜部亮吾日記」までの日記に、「原田熊雄文書」、「昭和天皇独白録」、「富田メモ」などの日記とは言えない史料まで、40点以上の史料について、そのアウトラインや特徴、読み方といったものが記されています。

 それぞれの史料についてそれほど突っ込んだ分析がされているわけではなく、「木戸幸一日記」、「佐藤榮作日記」といった重要史料でも、その記述は10ページほど。それよりも「宇都宮太郎日記」、「伊東巳代治日記」、「大蔵公望日記」、「有馬頼寧日記」といったあまり知られてない日記を紹介しているところがこの本の"売り"と言えるかもしれません。

 ただ、大学で日本史を学び、ここで紹介されている史料のいくつかを読んだことのある身としては面白かったですけど、一般的に面白い本であるかどうかはやや疑問。
 個人的には、「宇垣一成日記」に「!」が2000回以上、「!!」が1000回以上出て来るという話(145p)には、宇垣の人柄を見るようでニヤリとさせられましたし、「徳川義寛終戦日記」と木下道雄の「側近日誌」の特徴として「侍従たちが自分と天皇との距離の近さを競うような一面を見せる所だ」という部分があるという指摘にも大いに納得しましたが、普通の人はこういう部分を読んで面白いんだろうか…?

 もちろん、伊東巳代治の伊藤博文への屈折した思いや、「植木枝盛日記」における200回を越える性交渉の記述などは、誰が読んでも興味深いところだとは思いますが、こういった部分を引き出すためにももうちょっと扱う史料を絞って掘り下げた紹介をしてもよかった気がします。
 好きな人には楽しめる本と言えるでしょう。

近現代日本を史料で読む―「大久保利通日記」から「富田メモ」まで (中公新書)
御厨 貴
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古川隆久『昭和天皇』(中公新書) 7点

サブタイトルは「「理性の君主」の孤独」。昭和天皇の思想形成と、政治・そして戦争に対する関わり、戦後の戦争責任問題を中心に書かれた昭和天皇の評伝です。
 昭和天皇ほど毀誉褒貶の激しい人物も珍しいですが、この本ではサブタイトルにもある「理性の君主」としての姿をさまざまな資料を用いてできるだけ客観的に描こうとしています。
 同じタイトルで3年前に出版された原武史の『昭和天皇』が、今まで注目されてこなかった「宮中祭祀」に注目し、今までとちがった天皇像を描こうとしていたのに対して、こちらは今までの先行研究に乗りながら、改めて昭和天皇の思想と行動を再構成してみせた感じです。

 杉浦重剛から受け継いだ儒教的な徳治主義、生まれ育った時代の中で受け入れていった大正デモクラシー的な思想、生物学の研究者としての科学的な思考、そして生前一番楽しい思い出として振り返られる皇太子時代の欧州への外遊で培われた親英的な態度。
 こういった思想を持って病弱だった大正天皇のあとを受けて即位した昭和天皇は、国民の大きな期待を受けたまさにアイドル的な存在でもありました。
 しかし、昭和恐慌〜満州事変、さらには二・二六事件、日中戦争といった中で強まっていくファッショの風潮は昭和天皇とその周囲にいた穏健派の重臣たちを孤立させていきます。
 この本では田中義一首相への叱責事件、ロンドン海軍軍縮条約と統帥権干犯問題、満州事変、天皇機関説事件などにおいて、昭和天皇が国際協調や立憲主義に沿って行動しようとしながらも、しだいに孤立していく姿がよく描かれています。
 また、日中戦争に関しても昭和天皇が早期の和平のチャンスを望んでいたことがわかりますし、日独伊の連携に関しても否定的であったことがわかります。
 対米開戦においても昭和天皇が武力の行使を嫌い、対米強調を望んでいたことが明らかにされており、「悲劇の君主」としての姿が浮かび上がるようになっています。

 ただ、昭和天皇のように多くの事柄に関わった人物について、この本はやや「悲劇の君主」としての側面を強調しすぎているような気もします。
 引用された史料からきちんと議論を組み立てているので、議論が歪められたりしている部分はないのですが、引用する史料、クローズアップされている部分には偏りがないとは言えないです。
 
 例えば、他のブログで紹介した山田朗『大元帥・昭和天皇』によれば、太平洋戦争時、昭和天皇は軍部から詳細な報告を受け、戦争に勝つためにかなり細かい指示を出しています。
 ところが、この本では太平洋戦争時における昭和天皇の戦争指導に関して細かく触れていないため(『大元帥・昭和天皇』については紹介されている)、この本を読むだけでは昭和天皇の戦争への関わりが実際よりも弱く感じられるでしょう。

 また、「理性の君主」という姿を前面に出したために、昭和天皇の人物への好悪についてあまり触れられていないのもやや物足りなく感じます。
 対米開戦を嫌った昭和天皇ですが、実際に対米開戦を決断した東条英機に関しては、「昭和天皇独白録」にもおいても「話せばよく判る」と好意的な評価を下しています。これは東条英機が昭和天皇に隠し事をせずに細かいデータも含めて奏上したからだと考えられます。
 一方、穏健派の期待を集めていた宇垣一成に関しては、「この様な人は総理人物にしてはならぬと思ふ」(『昭和天皇独白録』)と述べています。
 この本では1937年の宇垣内閣流産に関して、湯浅宮相の態度をその原因としていますが、昭和天皇が宇垣への嫌悪感を持っていなければ、ここで昭和天皇が自ら指導力を発揮することも可能だったでしょう。
 さらに、退位論についてもこの本では『芦田日記』の記述をそのまま紹介し、「退位した場合に摂政を務める適任者がいない」という昭和天皇(?)の意見について、「弟たちが軍籍にあったことを気にしていると考えられる」(335p)と補足していますが、これは弟の高松宮への昭和天皇の複雑な感情を抜きにしては考えられないでしょう。

 このように、この本は昭和天皇における「理性の君主」としての姿に注目し、「人間的」ともいえる部分を録り逃している感はあります。特に昭和天皇の家族に関する記述がほとんどないのは、本格的な評伝としては物足りなくも思えます。
 ただ、史料の曲解や価値観の押し付けといった部分はなく、これから昭和天皇について知りたい人にとって基本となる図書の1冊になることは間違いないと思います。

昭和天皇―「理性の君主」の孤独 (中公新書)
古川 隆久
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名前:山下ゆ
通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
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