まさに「刑法入門」というタイトルにかなった内容の本ではないでしょうか。
見返しに「犯罪とは何であり、なぜ犯人には刑罰が科されるのであろうか。また、「罪が犯された」と言うためにはどのような条件が必要なのか。」と書いてありますが、まさにこの疑問に答えた本と言っていいでしょう。
「犯罪とは何か?」「刑罰とは何か?」という基本的なところから始まり、刑法の解釈のあり方、因果関係の捉え方、作為と不作為、正当防衛といった判例や学説に踏み込んだ部分までを、実際の事件と判例を交えながらうまく紹介していると思います。
法学的な専門用語のわかりにくさというのはありますが、実際の事件に即して説明してあることで、それほど混乱せずに読み進んでいくことができます。
ただ、唯一疑問が残ったのが、学説と最高裁の判例との関係。
第2章に出てくる「判例の不遡及的変更」や第3章の「相当因果関係説」における、学説と最高裁判例の齟齬において、「学説の変更が迫られた」というようなことが書いてありますが、法学の学説というのはこういうものなのでしょうか?(つまり、学説の正しさを主張し最高裁を批判するというふうにはなりにくいのでしょうか?)
さらに、第1章で、最近の刑法学では犯罪を「倫理違反」ではなく「利益侵害」と捉えるのが主流であると書かれていますが、第4章の「違法性阻却」でとり上げられている「外務省秘密漏洩事件」の最高裁判例は、被告となった記者の「倫理違反」を問題にしているように思えますよね。
この点は、著者もいろいろとフォローしているのですが、少し歯切れが悪い部分は否定できないです。
もっとも、このあたりはこの本の問題点というよりは、日本の刑法学研究における問題点なのでしょうけど。
刑法入門 (岩波新書 新赤版 1136)
山口 厚

見返しに「犯罪とは何であり、なぜ犯人には刑罰が科されるのであろうか。また、「罪が犯された」と言うためにはどのような条件が必要なのか。」と書いてありますが、まさにこの疑問に答えた本と言っていいでしょう。
「犯罪とは何か?」「刑罰とは何か?」という基本的なところから始まり、刑法の解釈のあり方、因果関係の捉え方、作為と不作為、正当防衛といった判例や学説に踏み込んだ部分までを、実際の事件と判例を交えながらうまく紹介していると思います。
法学的な専門用語のわかりにくさというのはありますが、実際の事件に即して説明してあることで、それほど混乱せずに読み進んでいくことができます。
ただ、唯一疑問が残ったのが、学説と最高裁の判例との関係。
第2章に出てくる「判例の不遡及的変更」や第3章の「相当因果関係説」における、学説と最高裁判例の齟齬において、「学説の変更が迫られた」というようなことが書いてありますが、法学の学説というのはこういうものなのでしょうか?(つまり、学説の正しさを主張し最高裁を批判するというふうにはなりにくいのでしょうか?)
さらに、第1章で、最近の刑法学では犯罪を「倫理違反」ではなく「利益侵害」と捉えるのが主流であると書かれていますが、第4章の「違法性阻却」でとり上げられている「外務省秘密漏洩事件」の最高裁判例は、被告となった記者の「倫理違反」を問題にしているように思えますよね。
この点は、著者もいろいろとフォローしているのですが、少し歯切れが悪い部分は否定できないです。
もっとも、このあたりはこの本の問題点というよりは、日本の刑法学研究における問題点なのでしょうけど。
刑法入門 (岩波新書 新赤版 1136)
山口 厚
