クリス・アンダーソン『フリー』などでクローズアップされたことで注目を集める無料ビジネス、その無料ビジネスの狙いやタイプを経済学者の吉本佳生が分析した本。「コーヒー一杯無料」と「コーヒーおかわり無料」、それぞれのタイプの意味や狙いの違いなどから説き起こし、企業が無料ビジネスを行う「動機」を探っていきます。
著者が「はじめに」で言うように、無料の「からくり」というよりは企業側の「動機」を中心に分析した本なので雑学的な面白さは少ないかもしれませんが、「無料ビジネス」というものを大雑把に捉えるにはわかりやすいかもしれません。
この本で企業が無料ビジネスをやる動機の1つとして注目するのが「顧客情報の収集・活用」です。
例えば、お店にやってくるお客さんにはコーヒー一杯に500円出せる人と、300円出す人と、200円しか出せない人がいたとします。コーヒーの価格を300円にして200円しか出せないほとにはあきらめてもらうのか、それとも200円にして利益を減らしても全員に売ることにするのか、それが経営者の判断のしどころでした。
ところが、もしも500円出せる人には500円で、200円しか出せない人には200円で売ることができるならば、経営者としてはそれが理想の状態になります。今まで、そういったことは技術的にも難しかったですが、ITが発達した現在では顧客情報さえうまく集めれば、500円出せる人にはちょっとしたプレミアムコーヒーを薦め、200円しか出せない人には空いている時間に使えるクーポンを配ったりすることも可能になります。
無料ビジネスとはこうした顧客情報を集めるための手段であり、また多くの人には無料で提供したとしても一部のお金に余裕のある人から利益を得る「価格差別戦略」だというのが著者の主張です。
著者はこの顧客情報の収集の観点からグルーポンに代表される共同購入クーポンの問題点を指摘しています。
確かにクーポンの発行によってそのお店の認知度は高まるかもしれませんが、クーポンサイトの運営会社はお店側に顧客情報を引き渡すわけではないのでお店側は肝心の顧客情報を今までのやり方以上に知ることができません。
さらにクーポンサイトの運営会社にとってはあくまでもクーポンの発行枚数が重要でクーポンを大量発行しがちになります。そうなるとお店側がそれを捌けずにかえって評判を落とすということにもなりかねません。
このクーポンビジネスの問題点に関しては著者の指摘のとおりでしょう。
ただ、全体的にもうちょっとデータの裏付けが欲しい面もあります。
例えば、著者はユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の年間パス価格の引き下げ戦略を「価格戦略としては失敗なのではないか」(92p)と感じたそうですが、その後何回かUSJに行くことで評価を転換したとのことですが、ここはやはりUSJの入場者数や売上高などのデータが欲しい所。
確かに著者の言うように、年間パスで近隣からのお客を集め、遠くからくる来園者にファストパス的なチケットを販売する戦略というのは悪くはない気もしますが、それが実際に成功しているかどうかはこの本の記述からはわかりません。
また、デフレ時代において「勤勉な企業人」よりも「遊び上手な人」が尊敬される世の中になることが望ましく(208p)、無料ビジネスがそのよびみずになればいいいと書いていますが、日本人の過半数が一気にお金を使うようになるならともかく、デフレ下において自分だけが貯蓄せずに消費をするという行為は自分の首を絞めることになります(将来安くなるものを今高い値段で買っている)。
この本はマクロ経済について語ったものではないですが、そのくらいのマクロ的な視点は織り込んでおくべきではないでしょうか?
無料ビジネスの時代: 消費不況に立ち向かう価格戦略 (ちくま新書)
吉本 佳生

著者が「はじめに」で言うように、無料の「からくり」というよりは企業側の「動機」を中心に分析した本なので雑学的な面白さは少ないかもしれませんが、「無料ビジネス」というものを大雑把に捉えるにはわかりやすいかもしれません。
この本で企業が無料ビジネスをやる動機の1つとして注目するのが「顧客情報の収集・活用」です。
例えば、お店にやってくるお客さんにはコーヒー一杯に500円出せる人と、300円出す人と、200円しか出せない人がいたとします。コーヒーの価格を300円にして200円しか出せないほとにはあきらめてもらうのか、それとも200円にして利益を減らしても全員に売ることにするのか、それが経営者の判断のしどころでした。
ところが、もしも500円出せる人には500円で、200円しか出せない人には200円で売ることができるならば、経営者としてはそれが理想の状態になります。今まで、そういったことは技術的にも難しかったですが、ITが発達した現在では顧客情報さえうまく集めれば、500円出せる人にはちょっとしたプレミアムコーヒーを薦め、200円しか出せない人には空いている時間に使えるクーポンを配ったりすることも可能になります。
無料ビジネスとはこうした顧客情報を集めるための手段であり、また多くの人には無料で提供したとしても一部のお金に余裕のある人から利益を得る「価格差別戦略」だというのが著者の主張です。
著者はこの顧客情報の収集の観点からグルーポンに代表される共同購入クーポンの問題点を指摘しています。
確かにクーポンの発行によってそのお店の認知度は高まるかもしれませんが、クーポンサイトの運営会社はお店側に顧客情報を引き渡すわけではないのでお店側は肝心の顧客情報を今までのやり方以上に知ることができません。
さらにクーポンサイトの運営会社にとってはあくまでもクーポンの発行枚数が重要でクーポンを大量発行しがちになります。そうなるとお店側がそれを捌けずにかえって評判を落とすということにもなりかねません。
このクーポンビジネスの問題点に関しては著者の指摘のとおりでしょう。
ただ、全体的にもうちょっとデータの裏付けが欲しい面もあります。
例えば、著者はユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の年間パス価格の引き下げ戦略を「価格戦略としては失敗なのではないか」(92p)と感じたそうですが、その後何回かUSJに行くことで評価を転換したとのことですが、ここはやはりUSJの入場者数や売上高などのデータが欲しい所。
確かに著者の言うように、年間パスで近隣からのお客を集め、遠くからくる来園者にファストパス的なチケットを販売する戦略というのは悪くはない気もしますが、それが実際に成功しているかどうかはこの本の記述からはわかりません。
また、デフレ時代において「勤勉な企業人」よりも「遊び上手な人」が尊敬される世の中になることが望ましく(208p)、無料ビジネスがそのよびみずになればいいいと書いていますが、日本人の過半数が一気にお金を使うようになるならともかく、デフレ下において自分だけが貯蓄せずに消費をするという行為は自分の首を絞めることになります(将来安くなるものを今高い値段で買っている)。
この本はマクロ経済について語ったものではないですが、そのくらいのマクロ的な視点は織り込んでおくべきではないでしょうか?
無料ビジネスの時代: 消費不況に立ち向かう価格戦略 (ちくま新書)
吉本 佳生




