戦後、北方領土に渡った日本人はけっこういると思いますが、竹島となるとあまり話を聞きません。ましてや、両方行ったことのある人となるとかなり珍しいのでしょうが、著者の西牟田靖はその珍しい一人。自らの体験をもとに日本の領土問題の実情が語られています。
そして、そうしたルポだけでなく領土問題が生まれてしまった背景についてもつっこんだ考察がしてある本です。
まずなんといっても興味深いのはルポの部分。
サハリンから北方領土へ向かう船の中には、「ウニ、タコ、イクラ、・・・マスノスケ・・・」と反しかけてくるロシア人や何やら商売をしているらしい日本人がいて、密貿易的なものであるのかもしれないけど、経済関係があるのが窺えますし、また、島民たちはある意味で日本人慣れしている。
一般の人にとって北方領土は遠い場所ですが、元島民や研究者、報道関係者などは1992年から始まったビザ無し渡航で行くことができますし、何よりも北方領土のロシア人たちはビザなし渡航で日本に来ることができ、毎年のように来ている人もいるとのこと。
また、国後島では日本のTVが映り、島民たちはロシアの天気予報よりも役に立つということで日本の天気予報を見ていたりします。
そういうこともあって、著者の紹介するロシア人には日本に対して友好的な人が多く、日本人と一緒に暮らしても良いと考える人も多いです。
ただ、2002年の「ムネオスキャンダル」以来、日本からの融和的な支援はほぼなくなり、代わってプーチン政権が援助を強化したために日本の存在感は落ちてしまっているのが現状のようです。
また、竹島(独島)に行く韓国船の様子も興味深く、"熱い”です。
「日本の侵略の最初の犠牲になった島」として韓国人に強烈に印象づけられている竹島。何しろ「韓民族の愛国心が向けられる聖なる場所」(163p)とのことですから、著者もアウェー感を半端なく感じたようです。
さらに著者は尖閣諸島にも上陸を試みますが、こちらは海上保安庁などの厳重な軽快のため果たせず。例えば、漁船をチャーターしていこうとすると、「漁船を漁以外につかってはいけない」という「船舶安全法」に引っかかってしまってダメだそうです(白タク行為のようなもの)。
さすがの著者も飛行機で上空から島の様子を撮影するにとどまっています。
こんなやっかいな領土問題を引き起こしてしまった原因はなんなのか?
それを著者はアメリカの巧妙な戦略(著者の見立てだと陰謀と言ってもいいかもしれない)に見ます。
1946年にGHQ/SCAPによって出された日本の範囲を規定する命令・SCAPIN677によると、北方領土や竹島、尖閣諸島はおろか、伊豆諸島や奄美大島も入っていないものでした。
これはあくまでも暫定的なものでしたが、これがサンフランシスコ平和条約の時に問題になります。
当初、サンフランシスコ平和条約では日本の領土と放棄する島々が列挙されるものでした。ところが、シーボルトやダレスが「細かすぎる」と注文をつけ、日本が放棄する領土は曖昧になります。
この狙いについて、著者は原喜美恵『サンフランシスコ平和条約の盲点』を引きながら、日本と近隣国との間に楔を打つために行われたと推測していますが、これについてはやや疑問も残ります。
確かに北方領土に関しては、日本が日ソ共同宣言時にニ島返還で妥協しそうになったのを、アメリカが四島返還論をバックアップし、日本の外交をある意味で妨害した部分はあると思います。それについてはこの本の第3章で詳細に説明されています。
しかし、このアメリカの「陰謀」を竹島や尖閣諸島にまで広げるのはさすがにいき過ぎではないかと。
アメリカは日本と韓国の不仲を憂いて、国交回復を願っていたわけだし、尖閣諸島に関しては、さすがに日中共同宣言のだされたころまで、アメリカが日中の間の領土問題について決定的な意見を述べられうような立場にいたとは言えないと思います。
というわけで、やや「陰謀論」めいたところがあるのはマイナスなのですが、全体として見れば面白く興味深い本だと思います。
ニッポンの国境 (光文社新書)
西牟田靖

そして、そうしたルポだけでなく領土問題が生まれてしまった背景についてもつっこんだ考察がしてある本です。
まずなんといっても興味深いのはルポの部分。
サハリンから北方領土へ向かう船の中には、「ウニ、タコ、イクラ、・・・マスノスケ・・・」と反しかけてくるロシア人や何やら商売をしているらしい日本人がいて、密貿易的なものであるのかもしれないけど、経済関係があるのが窺えますし、また、島民たちはある意味で日本人慣れしている。
一般の人にとって北方領土は遠い場所ですが、元島民や研究者、報道関係者などは1992年から始まったビザ無し渡航で行くことができますし、何よりも北方領土のロシア人たちはビザなし渡航で日本に来ることができ、毎年のように来ている人もいるとのこと。
また、国後島では日本のTVが映り、島民たちはロシアの天気予報よりも役に立つということで日本の天気予報を見ていたりします。
そういうこともあって、著者の紹介するロシア人には日本に対して友好的な人が多く、日本人と一緒に暮らしても良いと考える人も多いです。
ただ、2002年の「ムネオスキャンダル」以来、日本からの融和的な支援はほぼなくなり、代わってプーチン政権が援助を強化したために日本の存在感は落ちてしまっているのが現状のようです。
また、竹島(独島)に行く韓国船の様子も興味深く、"熱い”です。
「日本の侵略の最初の犠牲になった島」として韓国人に強烈に印象づけられている竹島。何しろ「韓民族の愛国心が向けられる聖なる場所」(163p)とのことですから、著者もアウェー感を半端なく感じたようです。
さらに著者は尖閣諸島にも上陸を試みますが、こちらは海上保安庁などの厳重な軽快のため果たせず。例えば、漁船をチャーターしていこうとすると、「漁船を漁以外につかってはいけない」という「船舶安全法」に引っかかってしまってダメだそうです(白タク行為のようなもの)。
さすがの著者も飛行機で上空から島の様子を撮影するにとどまっています。
こんなやっかいな領土問題を引き起こしてしまった原因はなんなのか?
それを著者はアメリカの巧妙な戦略(著者の見立てだと陰謀と言ってもいいかもしれない)に見ます。
1946年にGHQ/SCAPによって出された日本の範囲を規定する命令・SCAPIN677によると、北方領土や竹島、尖閣諸島はおろか、伊豆諸島や奄美大島も入っていないものでした。
これはあくまでも暫定的なものでしたが、これがサンフランシスコ平和条約の時に問題になります。
当初、サンフランシスコ平和条約では日本の領土と放棄する島々が列挙されるものでした。ところが、シーボルトやダレスが「細かすぎる」と注文をつけ、日本が放棄する領土は曖昧になります。
この狙いについて、著者は原喜美恵『サンフランシスコ平和条約の盲点』を引きながら、日本と近隣国との間に楔を打つために行われたと推測していますが、これについてはやや疑問も残ります。
確かに北方領土に関しては、日本が日ソ共同宣言時にニ島返還で妥協しそうになったのを、アメリカが四島返還論をバックアップし、日本の外交をある意味で妨害した部分はあると思います。それについてはこの本の第3章で詳細に説明されています。
しかし、このアメリカの「陰謀」を竹島や尖閣諸島にまで広げるのはさすがにいき過ぎではないかと。
アメリカは日本と韓国の不仲を憂いて、国交回復を願っていたわけだし、尖閣諸島に関しては、さすがに日中共同宣言のだされたころまで、アメリカが日中の間の領土問題について決定的な意見を述べられうような立場にいたとは言えないと思います。
というわけで、やや「陰謀論」めいたところがあるのはマイナスなのですが、全体として見れば面白く興味深い本だと思います。
ニッポンの国境 (光文社新書)
西牟田靖
