いろいろと問題点がないわけではないですが、非常に面白く考えさせられる本。
問題点としては、タイトルの「日本の刑罰は重いか軽いか」ということに関して、比較対象とした国がともに死刑存置国でどちらかというと重い刑罰を科す傾向のあるアメリカと中国だという点。
この問題を考える上では、比較対象が悪いと思います。死刑を廃止したヨーロッパの国をとり上げたほうがより議論としては有効だったでしょう。
けれども、中国とアメリカの両国との比較を通して浮かび上がる日本の犯罪観や日本の司法、法学の特徴についての記述は非常に興味深く、新しい視点を提供してくれるものです。
この本で言われている日本の刑罰の特徴は「広く浅く」とうもの。
例えば、中国ではパンダ殺しや収賄罪などで死刑が言い渡される一方で、一定金額以下の窃盗に関しては犯罪とはなりません(小額の窃盗は放置か行政処分)。
これに対して日本では石鹸3個でも窃盗罪が成立し裁判で有罪が言い渡されます。
さらに日本の刑法研究では「刑法典・特別刑法・条例のなかで定められている罪名・迷惑行為を、最大限にまで適用、解釈し、既成の罪名・迷惑行為のなかではどうしても押さえきれない場合にのみ新たな立法を求める傾向にある」(133p)ため、幅広い行為が犯罪として成立してしまう状況にあります。
この後に続く、日本の刑法研究への批判は、かなり専門的な内容ですが、非常に大切なことを言っていると思います。
警察や検察、そして裁判所だけではなく、日本の刑法研究にも問題があるというのは、あまり知られていない重要な視点だと思います。
「違法」行為が必ず「犯罪」になるとは限らず、「犯罪」といえでも必ず「逮捕」されるわけではない中国に対して、「違法」行為がほぼすべて「犯罪」となり、「犯罪」として認知されればほぼ「逮捕」される日本。
その結果、日本では「執行猶予付き、少額の罰金のような極めて軽いものであるにもかかわらず、逮捕などの刑事手続法上の処分の容易な発動により、被疑者・被告人が実際に受ける法的制裁と社会的制裁はかなり大きなものとなること」(180ー181p)があります。
著者はここに「人権侵害」の可能性を見ていますが、その通りでしょう。
これ以外にも、単純に中国の刑罰の実態が知れて面白いというのもありますし、アメリカや中国の陪審制の様子、アメリカのロースクールのしくみなど、日本の司法改革を考える上での重要なポイントも書いてあります。
そして、もう一つの読みどころが筆者が中国で実際に死刑に立ち会ったことから死刑廃止論者となり、「感情・感覚を超えた理性としての法」を訴える「おわりに」の部分。
ここ最近の日本の「厳罰化」の流れに対して、冷静かつ有効な批判になっていると思います。
全体のまとまりとしてはややかける部分もあるかもしれませんが、非常に重要な視点を提供してくれる本と言えるでしょう。
日本の刑罰は重いか軽いか (集英社新書 438B)
王 雲海

問題点としては、タイトルの「日本の刑罰は重いか軽いか」ということに関して、比較対象とした国がともに死刑存置国でどちらかというと重い刑罰を科す傾向のあるアメリカと中国だという点。
この問題を考える上では、比較対象が悪いと思います。死刑を廃止したヨーロッパの国をとり上げたほうがより議論としては有効だったでしょう。
けれども、中国とアメリカの両国との比較を通して浮かび上がる日本の犯罪観や日本の司法、法学の特徴についての記述は非常に興味深く、新しい視点を提供してくれるものです。
この本で言われている日本の刑罰の特徴は「広く浅く」とうもの。
例えば、中国ではパンダ殺しや収賄罪などで死刑が言い渡される一方で、一定金額以下の窃盗に関しては犯罪とはなりません(小額の窃盗は放置か行政処分)。
これに対して日本では石鹸3個でも窃盗罪が成立し裁判で有罪が言い渡されます。
さらに日本の刑法研究では「刑法典・特別刑法・条例のなかで定められている罪名・迷惑行為を、最大限にまで適用、解釈し、既成の罪名・迷惑行為のなかではどうしても押さえきれない場合にのみ新たな立法を求める傾向にある」(133p)ため、幅広い行為が犯罪として成立してしまう状況にあります。
この後に続く、日本の刑法研究への批判は、かなり専門的な内容ですが、非常に大切なことを言っていると思います。
警察や検察、そして裁判所だけではなく、日本の刑法研究にも問題があるというのは、あまり知られていない重要な視点だと思います。
「違法」行為が必ず「犯罪」になるとは限らず、「犯罪」といえでも必ず「逮捕」されるわけではない中国に対して、「違法」行為がほぼすべて「犯罪」となり、「犯罪」として認知されればほぼ「逮捕」される日本。
その結果、日本では「執行猶予付き、少額の罰金のような極めて軽いものであるにもかかわらず、逮捕などの刑事手続法上の処分の容易な発動により、被疑者・被告人が実際に受ける法的制裁と社会的制裁はかなり大きなものとなること」(180ー181p)があります。
著者はここに「人権侵害」の可能性を見ていますが、その通りでしょう。
これ以外にも、単純に中国の刑罰の実態が知れて面白いというのもありますし、アメリカや中国の陪審制の様子、アメリカのロースクールのしくみなど、日本の司法改革を考える上での重要なポイントも書いてあります。
そして、もう一つの読みどころが筆者が中国で実際に死刑に立ち会ったことから死刑廃止論者となり、「感情・感覚を超えた理性としての法」を訴える「おわりに」の部分。
ここ最近の日本の「厳罰化」の流れに対して、冷静かつ有効な批判になっていると思います。
全体のまとまりとしてはややかける部分もあるかもしれませんが、非常に重要な視点を提供してくれる本と言えるでしょう。
日本の刑罰は重いか軽いか (集英社新書 438B)
王 雲海




