山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

ここブログでは新書を10点満点で採点しています。

2007年04月

山田昌弘『少子社会日本』(岩波新書) 6点

 2006年の景気回復による出生率回復と赤川学『子供が減って何が悪いか!』(ちくま新書)による男女共同参画社会の推進と出生率が無関係だと示されて以来、かなり論じにくくなった観もある少子化問題ですが、山田昌弘はこの本で、お得意のパラサイトシングル論と絡めてかなりうまく論じています。

 パラサイトシングル論は保持しつつも、ずいぶんと景気要因などを重視することで、「パラサイトシングルが日本を滅ぼす」的な論に陥らずにすんでいますし、「できちゃった婚」の地域別データや子供の減少率などを取り上げることで、結婚と出産における地域格差という問題にもせまっています。

 ただ、少し残念なのは『子供が減って何が悪いか!』に対するきちんとした言及がないこと。補助的な役割としてでも男女共同参画社会を持ち出すからには何らかの言及が必要だと思うんですけどね。

少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ
山田 昌弘
4004310709

デイヴィッド・クリスタル『消滅する言語』(中公新書) 6点

 地球上から2週間に1つの割合で言語が消えていると言われる現状の中で、それを防ぐための幅広い提言を行っている本。
 言語が消えている実態から、消滅の理由、それを防ぐための方策、言語学者の使命や留意すべき点など、これ1冊で「言語の死」という問題についての大体なアウトラインがつかめるようになっています。
 「あとがき」にもあるように、著者の「帝国主義的とも言える自信」を感じる点がないことはないですけど、そのぶん資金集めの重要性を指摘するなど日本人が欠くものとは違い現実的な提言も多く、ある意味で実際的な本と言えます。
 
 ただ、著者はウェールズ出身の言語学者で、本の基調として「ウェールズ語の復権運動の成功を世界に広めて行くべきだ」と言うよな考えがうかがえるのですが、そのあたりはもうちょっと慎重な考察も欲しい気がします。
 2言語が修得できればそれはいいことですが、言語の修得にはやはりそれなりのコストがかかるはずです。そのあたりの問題が抜けているのではないでしょうか。

消滅する言語―人類の知的遺産をいかに守るか
デイヴィッド クリスタル David Crystal 斎藤 兆史
4121017749


シルヴィオ・ピエルサンティ『イタリア・マフィア』(ちくま新書) 7点

 イタリア・マフィアの恐ろしさとイタリアに深く根ざしたその腐敗の広さを描いた本。検察官が爆殺されたなどというニュースは聞いてはいましたが、この本で明らかにされるマフィアの報復や捜査妨害のすごさは驚くばかり。この状況でマフィア逮捕のために命をかけて働く警察官や検察官がいることに逆に驚いてしまう感じです。
 著者はジャーナリストで構成はややまとまっていない点もあり、マフィアの歴史などについてはもう少しきちんと書いてほしいところもありますし、もうちょっと時系列にそってまとめてくれたほうがわかりやすい部分もありますが、イタリア・マフィアの想像以上の恐ろしさを教えてくれる本です。
 ちなみにこれ読めば、柳沢とか小笠原もシチリアのクラブに行こうとは思わなかったんじゃないかな。

イタリア・マフィア
シルヴィオ・ピエルサンティ 朝田 今日子
4480063528

村井淳志『勘定奉行荻原重秀の生涯』(集英社新書) 7点

 貨幣改鋳を行い新井白石に批判された人物として日本史を学んだことのあるものなら一度は聞き覚えのある荻原重秀、その生涯を少ない資料から解き明かした本。

 荻原重秀の貨幣改鋳はインフレを引き起こし経済を混乱させたとされていますが、著者が調べたところそれほど大きなインフレは起こっておらず、その物価上昇についても冷夏などの天災の影響が大きいと推定しています。荻原重秀が経済を混乱させたというのは、彼の政敵であった新井白石の宣伝が大きく、そうした白石の中傷を除けて考えれば、検地と代官の粛正、佐渡での鉱山改革、貿易の幕府による管理と銅の輸出による長崎貿易の改革など、幕府財政の幅広い分野で偉大な足跡を残した人物としての新しい荻原重秀像が浮かび上がって来ます。

 さらに著者によれば、荻原重秀の貨幣改鋳にはケインズの名目通貨の考えを先取りした面があり、欧米の経済学者より200年も早く名目通貨に気づいた人物だったとされています。
 この辺りについてはもう少し詳しい掘り下げがあってもいいとは思いますが(例えば金本位制に対する根強い支持を考えると、今は正しいとわかっていても名目通貨の考えと金本位制の比較とかがもっとあってもいいかも)、今までほとんど謎だった人物の生涯を描き出した本として評価できるでしょう。

勘定奉行荻原重秀の生涯―新井白石が嫉妬した天才経済官僚
村井 淳志
4087203859

松井茂記『性犯罪社から子どもを守る』(中公新書) 5点

 性犯罪社に対して住所氏名の登録を義務づけ、地域の人々にそれを公開するというアメリカのメーガン法について紹介した本。
 奈良県児童誘拐殺害事件で死刑の判決を受けた小林死刑囚が過去に性犯罪を犯していたことから、このメーガン法について日本でも関心が高まっていますが、その関心に答える本と言えるでしょう。
 ただし、内容的にはあまりにも偏った面があると思います。

 著者は法学者で「メーガン法が違憲ではないのか?」といった意見もきちんと紹介していますが、全体的に「子どもを性犯罪から守るという圧倒的な利益」を想定することによって、性犯罪者の被る不利益をほぼすべて甘受すべきものとして片付けてしまっています。
 例えば、性犯罪者に対する私的処罰の恐れについても「ただ、たとえ副次的にこのような性犯罪者に対する私的制裁があったとしても、その惹起が目的でないのであれば、子どもを性犯罪から守るという圧倒的な利益のための結果として正当化される可能性もあるかもしれない」(148p)とまで述べられており、さらには「子どもに対する強姦の場合には、死刑を科すことも無期懲役を科すことも、著しく均衡を欠くとはいえないかもしれない。」(252p)と、子どもに対する性犯罪者に対しての死刑の導入までを視野に入れています。

 メーガン法を巡るアメリカでの議論や、憲法判断のポイントなどがわかる点はいいですが、さすがにここまでタカ派(?)だと問題ではないかと…。
 だいたい、こういう人たちは将来もし「強姦をしやすい遺伝子」のようなものが発見されたらどうするつもりなんでしょう?

性犯罪者から子どもを守る―メーガン法の可能性
松井 茂記
4121018885

記事検索
月別アーカイブ
★★プロフィール★★
名前:山下ゆ
通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
新書以外のことは
「西東京日記 IN はてな」で。
メールはblueautomobile*gmail.com(*を@にしてください)
<% for ( var i = 0; i < 7; i++ ) { %> <% } %>
<%= wdays[i] %>
<% for ( var i = 0; i < cal.length; i++ ) { %> <% for ( var j = 0; j < cal[i].length; j++) { %> <% } %> <% } %>
0) { %> id="calendar-294826-day-<%= cal[i][j]%>"<% } %>><%= cal[i][j] %>
タグクラウド
  • ライブドアブログ

'); label.html('\ ライブドアブログでは広告のパーソナライズや効果測定のためクッキー(cookie)を使用しています。
\ このバナーを閉じるか閲覧を継続することでクッキーの使用を承認いただいたものとさせていただきます。
\ また、お客様は当社パートナー企業における所定の手続きにより、クッキーの使用を管理することもできます。
\ 詳細はライブドア利用規約をご確認ください。\ '); banner.append(label); var closeButton = $('