去年の「2021年の新書」のエントリーからここまで51冊の新書を紹介してきたようです。
今年は中公と岩波の2強という感じで、ちくまが例年に比べてやや弱かった印象です。他のレーベルについてもそれほど目立ったものはなく、特に自分が好んで読む社会科学や歴史系の新書に関しては中公と岩波にほぼ尽きる感じでした。
相変わらず、過去の書籍を新書としてパケージし直す動きは結構見られて、角川新書などはそれを精力的にやっている印象があります。
また、価格に関しては講談社現代新書が明らかに上げてきている感じで、他社が税込み1000円以内にできるだけ収めようとしている印象なのに対して、講談社現代新書はそういったラインを引いていない用に見えます。今年の後半から刊行されはじめた100ページ程度で思想家を紹介するシリーズも特に価格は安くないですしね。
新書価格の上昇と新書の内容の高度化によって、選書とどう棲み分けるのかということが問題として浮上してくるかもしれません。
では、まずベスト5を上げて、その後に何冊かを紹介したいと思います。
稲増一憲『マスメディアとは何か』(中公新書)
ときにその影響力を持ち上げられ、ときに叩かれる現代のマスメディア。多くの人が知りたいであろう「マスメディアの影響力」について、さまざまな研究を紹介しながら検証し、さらにインターネットについても、今までの研究や著者らが行った研究も踏まえてその影響を分析しています。
開国からはじまる社会変動がどのようなものであったのかということが庶民の目線から描いた本になります。
天狗党や渋沢成一郎のつくった振武軍など、去年の大河ドラマの「青天を衝け」と重なっている部分も多く、去年出版されていれば大河ドラマのよき副読本となったでしょう。また、新選組についての記述もありますし、土方歳三の義兄の佐藤彦五郎の活動もかなり詳細に追っています。新選組好きも面白く読めると思います。
橋場弦『古代ギリシアの民主政』(岩波新書)
現在のデモクラシーの源流は古代ギリシアにあり、古代ギリシアのデモクラシーは直接民主制だったが、現代のデモクラシーは間接民主制になっているという理解がありますが、その「デモクラシー」には大きな違いがあるということを教えてくれる本。
現代のデモクラシーは、多数者の支配のことであり、政治的な意思決定ができるだけ多くの人々に支えられていることが重要ですが、古代ギリシアのデモクラシーは「順ぐりの支配」であり、誰しもが支配者の立場を経験することこそが重要だったのです。
また、歴史的に見ても通俗的な古代ギリシアの民主政への理解を修正しており、今までの理解を揺さぶる本になっています。
次点は、今年のはじめに講談社選書メチエから『物価とは何か』を出した著者が現在のインフレについて分析した渡辺努『世界インフレの謎』(講談社現代新書)、人権侵害や強制収容が問題になっている新疆ウイグル自治区の問題について、中国共産党の支配の歴史から読み解いた熊倉潤『新疆ウイグル自治区』(中公新書)、タリバンがなぜ復活し、あっさりと政権を掌握したのかという理由を教えてくれる青木健太『タリバン台頭』(岩波新書)、経済圏としての大東亜共栄圏に焦点を合わせながら、それがいかに構想され、挫折したのかということを見ていく安達宏昭『大東亜共栄圏』(中公新書)、玉石混交のデータの洪水の中で、玉と石を見分ける手がかりを教えてくれる菅原琢『データ分析読解の技術』(中公新書ラクレ)といったところで、ここまでで10冊。
さらに上記の5冊と甲乙つけがたいところで、2021年のクーデター以来、内戦状態となりつつあるミャンマーについてなぜそうなってしまったかを教えてくれる中西嘉宏『ミャンマー現代史』(岩波新書)、20世紀に政治哲学を復興させたロールズについての理解を深めてくれる齋藤純一、田中将人『ジョン・ロールズ』(中公新書)といったところですね。
熊倉潤『新疆ウイグル自治区』、青木健太『タリバン台頭』、中西嘉宏『ミャンマー現代史』は、いずれも政治的な変動などで注目を集めた地域について、それぞれの地域をよく知る研究者によって書かれた本ですが、こういった内容が新書という手軽に読める形で世に送り出さされているのは非常によいことだと思います。
今年は中公と岩波の2強という感じで、ちくまが例年に比べてやや弱かった印象です。他のレーベルについてもそれほど目立ったものはなく、特に自分が好んで読む社会科学や歴史系の新書に関しては中公と岩波にほぼ尽きる感じでした。
相変わらず、過去の書籍を新書としてパケージし直す動きは結構見られて、角川新書などはそれを精力的にやっている印象があります。
また、価格に関しては講談社現代新書が明らかに上げてきている感じで、他社が税込み1000円以内にできるだけ収めようとしている印象なのに対して、講談社現代新書はそういったラインを引いていない用に見えます。今年の後半から刊行されはじめた100ページ程度で思想家を紹介するシリーズも特に価格は安くないですしね。
新書価格の上昇と新書の内容の高度化によって、選書とどう棲み分けるのかということが問題として浮上してくるかもしれません。
では、まずベスト5を上げて、その後に何冊かを紹介したいと思います。
稲増一憲『マスメディアとは何か』(中公新書)
ときにその影響力を持ち上げられ、ときに叩かれる現代のマスメディア。多くの人が知りたいであろう「マスメディアの影響力」について、さまざまな研究を紹介しながら検証し、さらにインターネットについても、今までの研究や著者らが行った研究も踏まえてその影響を分析しています。
「メディアについて何か言いたいなら、まずはこの1冊から」という内容になっており、何かと問題の減員がインターネットを含むメディアに求められがちな現代において非常に有益な本だと思いますし、しばらくはこの問題を語るときの基本書になると思います。
中公新書には林芳正・津村啓介『国会議員の仕事』という現職の国会議員がその活動について綴った本もありますが、本書はあくまでも外側から、どのような人物が国会議員になり、どんな選挙活動を行い、国会ではどのような仕事をし、政党の中でどのようにはたらき、カネをどのように集め、使っているかということを分析した本になります。
過去と現在、日本と海外、与党と野党といった具合に、さまざまな比較がなされているのが本書の特徴で、この比較によって、問題のポイントや解決していくべき課題といったものも見えてきます。
国会議員のダメさを嘆く前に1度読んでほしい本ですね。
須田努『幕末社会』(岩波新書)
須田努『幕末社会』(岩波新書)
開国からはじまる社会変動がどのようなものであったのかということが庶民の目線から描いた本になります。
天狗党や渋沢成一郎のつくった振武軍など、去年の大河ドラマの「青天を衝け」と重なっている部分も多く、去年出版されていれば大河ドラマのよき副読本となったでしょう。また、新選組についての記述もありますし、土方歳三の義兄の佐藤彦五郎の活動もかなり詳細に追っています。新選組好きも面白く読めると思います。
「民衆史」というと、以前はどうしても「政治権力vs民衆」的な図式を描くものが多かったですが、本書は民衆の「衆」としての力に着目しつつも、さまざまな意志を持った「個人」を描き、それを幕末の社会情勢とリンクさせているところが面白く、非常に刺激的です。
秦正樹『陰謀論』(中公新書)
ネットが普及して、あるいはSNSが普及して可視化されたことの1つが本書のテーマにもなっている「陰謀論」ではないでしょうか。
本書は、そうした陰謀論について、その内容を紹介するのではなく、「誰がどんな陰謀論を受け入れるのか?」ということを中心に実証的に論じています。ただし、陰謀論を信じているかを調べるのは実は難しいことで、陰謀論を信じていながら。そのふりを見せない人も多くいるからです。
そこで、本書ではさまざまな手法を駆使して陰謀論を信じている人々を浮かび上がらせています。 日本に広がる陰謀論受容の土壌を知ることができるとともに、さまざまな社会調査の手法を学べる一石二鳥の本と言えるでしょう。
秦正樹『陰謀論』(中公新書)
ネットが普及して、あるいはSNSが普及して可視化されたことの1つが本書のテーマにもなっている「陰謀論」ではないでしょうか。
本書は、そうした陰謀論について、その内容を紹介するのではなく、「誰がどんな陰謀論を受け入れるのか?」ということを中心に実証的に論じています。ただし、陰謀論を信じているかを調べるのは実は難しいことで、陰謀論を信じていながら。そのふりを見せない人も多くいるからです。
そこで、本書ではさまざまな手法を駆使して陰謀論を信じている人々を浮かび上がらせています。 日本に広がる陰謀論受容の土壌を知ることができるとともに、さまざまな社会調査の手法を学べる一石二鳥の本と言えるでしょう。
橋場弦『古代ギリシアの民主政』(岩波新書)
現在のデモクラシーの源流は古代ギリシアにあり、古代ギリシアのデモクラシーは直接民主制だったが、現代のデモクラシーは間接民主制になっているという理解がありますが、その「デモクラシー」には大きな違いがあるということを教えてくれる本。
現代のデモクラシーは、多数者の支配のことであり、政治的な意思決定ができるだけ多くの人々に支えられていることが重要ですが、古代ギリシアのデモクラシーは「順ぐりの支配」であり、誰しもが支配者の立場を経験することこそが重要だったのです。
また、歴史的に見ても通俗的な古代ギリシアの民主政への理解を修正しており、今までの理解を揺さぶる本になっています。
次点は、今年のはじめに講談社選書メチエから『物価とは何か』を出した著者が現在のインフレについて分析した渡辺努『世界インフレの謎』(講談社現代新書)、人権侵害や強制収容が問題になっている新疆ウイグル自治区の問題について、中国共産党の支配の歴史から読み解いた熊倉潤『新疆ウイグル自治区』(中公新書)、タリバンがなぜ復活し、あっさりと政権を掌握したのかという理由を教えてくれる青木健太『タリバン台頭』(岩波新書)、経済圏としての大東亜共栄圏に焦点を合わせながら、それがいかに構想され、挫折したのかということを見ていく安達宏昭『大東亜共栄圏』(中公新書)、玉石混交のデータの洪水の中で、玉と石を見分ける手がかりを教えてくれる菅原琢『データ分析読解の技術』(中公新書ラクレ)といったところで、ここまでで10冊。
さらに上記の5冊と甲乙つけがたいところで、2021年のクーデター以来、内戦状態となりつつあるミャンマーについてなぜそうなってしまったかを教えてくれる中西嘉宏『ミャンマー現代史』(岩波新書)、20世紀に政治哲学を復興させたロールズについての理解を深めてくれる齋藤純一、田中将人『ジョン・ロールズ』(中公新書)といったところですね。
熊倉潤『新疆ウイグル自治区』、青木健太『タリバン台頭』、中西嘉宏『ミャンマー現代史』は、いずれも政治的な変動などで注目を集めた地域について、それぞれの地域をよく知る研究者によって書かれた本ですが、こういった内容が新書という手軽に読める形で世に送り出さされているのは非常によいことだと思います。




