山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

ここブログでは新書を10点満点で採点しています。

2009年12月

2009年の新書

 今年は新書を71冊読みました。
 というわけで今年の5冊+1。

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)

中央公論新社 2009-11
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 復刊なので番外という感じではあるんですが、今年読んだ新書で一番内容が濃かったのはこの本。
 援助論でもあり、経済学の本でもあり、中央銀行の役割を解説した本でもあり、そして一人の人間の生き方を示した本でもあります。
 

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)

光文社 2009-12-16
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 「政権交代」がキーワードとなった2009年を総括するにふさわしい本。
 「小泉改革の負の遺産」、「安倍晋三、麻生太郎の国民的な人気」、「若者の右傾化」といった俗説がことごとく退けられ、社会科学の鮮やかな分析の力が示されます。


新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)

岩波書店 2009-07
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 ここ最近、クローズアップされ続けている労働問題に明快な見取り図を与えた本。
 「自由化」と「規制強化」が同時に叫ばれる中、問題を歴史的に分析し、過去からのボタンの掛け違いをきちんと説明してくれてます。


使える!経済学の考え方―みんなをより幸せにするための論理 (ちくま新書 807)使える!経済学の考え方―みんなをより幸せにするための論理 (ちくま新書 807)

筑摩書房 2009-10
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 タイトルからするとハウツー本のようですが、経済学の射程、経済学の本質を追究している中身の濃い本です。 
 最近よく出ている「反経済学」みたいのをうたった本より、圧倒的に中身がありますし、そうした俗流本への素晴らしい反論になっています。


皇軍兵士の日常生活 (講談社現代新書)皇軍兵士の日常生活 (講談社現代新書)

講談社 2009-02-19
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 日中戦争から太平洋戦争にかけての時代を中心に徴兵された兵士の生活、食事、戦死、そして銃後の生活などを兵士の残した日記や回想録、家・への手紙などから分析し、日本の軍隊の実情に迫った本。
 いまだに保守派の知識人を中心にプラスのイメージを持って語られ、赤木智弘の「丸山真男をひっぱたきたい」では、その「平等制」がとりあげられた徴兵制というものの「理想と現実」がよくわかります。


2円で刑務所、5億で執行猶予 (光文社新書)2円で刑務所、5億で執行猶予 (光文社新書)

光文社 2009-10-16
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 日本の治安状況、犯罪対策から司法システム、そして刑罰に至る幅広い分野についてデータをもとに、世間で流通している「神話」を否定してみせた本。
 「日本の治安は悪化している」、「日本の刑罰は甘いのではないか?」と考えている人にはぜひ読んでほしい。意外な事実を次々と突きつけられます。


 これ以外だと、宮本太郎『生活保障』(岩波新書)、岩波明『精神障害者をどう裁くか』(光文社新書)、末廣昭『タイ 中進国の模索』(岩波新書)、猪木武徳『戦後世界経済史』(中公新書)なんかが面白かったですね。
 今年よかったのは岩波新書と光文社新書。光文社は経営危機の噂もありますが、社会科学の若手を一番発掘できている新書だと思うのでがんばってほしいですね。
 中公は夏の2000点刊行のフェアで少し息切れしてしまった感じか?
 でも、『ルワンダ中央銀行総裁日記』のような名著の復刊はこれからのしていってほしいですね。

菅原琢『世論の曲解』(光文社新書) 9点

 マスコミは口を開けば「小泉改革の負の遺産」という言葉を使い、自民党の敗北の原因も「小泉改革の負の遺産」という言葉で片付けてしまいがちです。
 しかし、それでは安倍、福田、麻生という三代続けての政権の失速は説明できませんし、2009年の衆院選でのみんなの党の躍進も説明できません。
 まさにこの本のタイトルのように、マスコミも政治評論家も、そして何よりも自民党の政治家が「世論を曲解」していたのです。

 著者の菅原琢は1976年生まれの気鋭の政治学者。
 この本では、著者の世論調査の精緻な分析により、「小泉改革の負の遺産」、「安倍晋三、麻生太郎の国民的な人気」、「若者の右傾化」といった俗説がことごとく退けられます。

 特に著者の指導教員にもあたる蒲島郁夫と今井亮佑の2007年の参院選を分析し、その後の政治報道や政治情勢に大きな影響を与えた論文「なぜ自民党は1人区で惨敗したのか」に対する批判は見事です。
 例えば、今井・蒲島論文では「第1次産業就業者の割合が75%の自治体では自民投票得票率が3.2ポイントのマイナス」となっており、これが選挙の大きなファクターだったように思ってしまいますが、著者の指摘によれば「第1次産業就業者の割合が75%の自治体」は全国で秋田県の大潟村のみ。有権者の75%は第1次産業就業者割合が5%以下の自治体に住んでいます。
 それよりも大きな要因だったのは野党の選挙協力。自民党が大敗したというよりは、民主党が他の野党が選挙協力によって勝利を掴んだ選挙という総括のほうが正しかったのです。
 (このことを考えると、政権交代後の国民新党と社民党に対する過剰とも思える譲歩は合理的な判断。ひょっとしたら小沢一郎はそのことをきちんとわかっているのかもしれません。)

 また、麻生太郎の「国民的人気」も、「次の首相」調査の内実を見ていけば、麻生太郎がつねにアンケートの選択肢に残り続けたことで出来上がった脆弱な支持だったとこの本は分析しています。
 個人的には麻生太郎の毒舌的なしゃべりというのが、ちょうど田中眞紀子が支持されるのと同じように支持されていた面もあったと思ったりするのですが、世論調査の数字を見るだけでなく、その数字の中身を詳細に追うことにより、印象論ではない冷静な分析を提示してます。

 そうした姿勢がよく現われているのが著者の次のような言葉。
「なぜ、そんな(麻生に人気があるという)歪んだ「世の中イメージ」を抱いてしまったのだろうか? ー その原因は、たぶんネットの見過ぎだろう」(195p)

「世論調査は多くの人員と資金を投入して行われる。」「そうやって出てきた数字でさえ、慎重に見なければいけないのに、一人の人間がネット上で見かけた数例の書き込みなどから若者や「世の中」の傾向について論じられると考えるとすれば、それは驕りである。」(208p)

 これは世の評論家や、あるいは理論だけで語る社会学者や政治学者などに向けられた鋭い批判と言えるでしょう。

 とにかく、今回の政権交代について分析した本としては一番だと思いますし、政治学における新たなる才能の誕生を感じさせる本でもあります。

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)
433403537X
 

大田英明『IMF(国際通貨基金)』(中公新書) 5点

 サブプライムローン問題を発端とする金融危機以後、再びその存在がクローズアップされているIMFについて包括的に論じた本。
 この本を読めば、IMFの歴史やしくみ、そしてアジア通貨危機などに対するIMFの失敗の様子などが分かります。

 ここ最近、経済危機に対して「緊縮財政」と「資本取引の自由化」といったワンパターンな処方箋で対応し、かえってその国の不況を深刻化させているIMFの失敗パターンがよくわかります。

 ただ、「なぜ失敗をつづけるのか?」、「なぜ同じような処方箋を出しつづけるのか?」という一番知りたい部分についての記述は物足りない。
 一応、IMFの分析モデルが古い、最大の出資国であるアメリカの政策(ワシントン・コンセンサス)などへの言及はありますが、もうちょっと突き詰めた分析が欲しいです。

 例えば、1・為替相場の安定、2・自由な資本取引、3・金融政策の独立性の3つすべては並立せず、どれか一つは放棄せざるを得ないという有名な「国際金融のトレリンマ」というものがあるのに、なぜ、IMFはアルゼンチンやトルコでこのうちの1番と2番を同時に進めようとするような政策をとったのか?
 そのあたりは、この本を読んでもいまいち納得できませんでいた。

 まあ、あまり穿った見方をして、すべてが「アメリカの陰謀論」みたいになっては仕方がないですが、もう少しIMFの内部事情のようなものも知りたかったです。

IMF(国際通貨基金) - 使命と誤算 (中公新書)
4121020316

本田由紀『教育の職業的意義』(ちくま新書) 6点

 教育と仕事が乖離してしまったことにより、「何をしていいかわからない」・「上手く社会に入って行けない」若者が増えている中で、その教育と仕事の関係を問いなおそうとした本。
 抽象的な「人間力」ではなく、具体的な職業的能力を身につけることで、上手く社会に「適応」し、同時に理不尽な企業の論理に「抵抗」する人間を育てて行こうという姿勢はまさにその通りだと思います。
 
 ただ、理念は素晴らしいのですが、具体性において弱いのはこの本の欠点。
 メインとなっているのは高校における普通科の広がりと、それがもたらしている弊害ということになるのでしょうが、例えばこの本でもとり上げられていて僕も別ブログで紹介したことのあるメアリー・C・ブリントン『失われた場を探して』に比べると、その具体性において弱いと思いますし、マクロ的な提言についても今のシステムを大きく変えていくような訴求力のあるものはありません。
 
 個人的には、全入時代をむかえてこれから淘汰の始まる大学が職業大学化して行くべき/行かざるをえない、と思うのですが、一番変えられる可能性がありそうな大学についての言及が少ないのはちょっと残念だと思います(高校は大学が変わらない限りなかなか変わってこないでしょうから)。

 著者の打ち出す方向性は高く評価したいですが、その主張を肉付けする部分がやや足りない感じです。

教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)
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櫻井孝昌『世界カワイイ革命』(PHP新書) 6点

 サブタイトルは「なぜ彼女たちは『日本人になりたい』と叫ぶのか」。
 日本初のファッション、特にロリータと制服がいかに世界に広まって受け入れられているかということを報告した本。

 まず、何といってんも注目したいのは最初のグラビアのタイのバンコクの女子高生。彼女たちは日本人の高校生そのもので、クオリティ高すぎです!
 これだけでも立ち読みで見ておく価値はあるでしょう。
 
 著者は外務省アニメ文化外交に関する有識者会議委員でもあるコンテンツメディアプロデューサー。
 この謎のカタカナ職業からして、多少煽りはあります。いや、多少じゃないかもしれません。
 けれども、この手の文化が「オタク」、「コスプレ」にとどまらずにさらに広がり、ファッションの世界でもかなり認知されつつあるというのは押さえておいていいかもしれません。

 この本では、さまざまな国の女の子たちが日本と、日本の「カワイイ」文化に対する憧れを口にします。(映画の『下妻物語』が『カミカゼ・ガール』というタイトルで公開されていたり、そこに出て来る深田恭子を「彼女は武士です」というように、何か変な誤解もありそうなのですが…)
 著者はその「カワイイ」という言葉の内実についてあえて分析しないのですが、なんとなくそこに、「セクシー」であること、あるいは「仕事も恋も出来るスーパーウーマン」的なものに対する拒否感のようなものを感じます。
 「ネオテニー(幼形成熟)」という言葉が日本や日本の現代美術を形容するときに使われることがありますが、このロリータや制服ファッションというのも、そのようなものの一環のような気がします。

 特に鋭い分析がある本ではないですが、現在の日本を考える上で材料になる本とは言えるでしょう。

世界カワイイ革命 (PHP新書)
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服部正也『ルワンダ中央銀行総裁日記』(中公新書) 10点

 今から35年以上、正確には37年前の本の復刊になりますが、これは面白い!
 とにかく、中身が濃い本です。
 この本を読むことで、「中央銀行の業務とは?」、「国家の財政をいかに考えるべきなのか?」、「経済成長戦略とはいかなるものか?」、「途上国への援助はいかにあるべきか?」といった数々の問題についての考え方を学ぶことが出来るでしょうし、また服部正也氏という一人の人間の魅力も知ることが出来るでしょう。

 著者の服部氏は、1918年生まれの日本の銀行家、実業家で、日本人初の世界銀行副総裁になった人物。
 その服部氏が1965年-1971年にかけてアフリカのルワンダで中央銀行総裁を務めたときの記録がこの本。
 
 服部氏が着任したときのルワンダはアフリカの中でも最貧国とも言っていい国で、中央銀行と名前はついていても、中央銀行はペンキの剥げかかった二階建ての家で、過去10カ月の間、一度も金融政策を議論していない状態。
 その中央銀行の立て直しから始めた服部氏は、さらに大統領から経済再建計画の策定を求められ、ルワンダという国全体の経済の舵取りをまかされます。

 ここでの服部氏の分析と行動については本書をじっくりと読んでほしいのですが、その計画の中心は以下の引用部分にあるように、ルワンダ人の視点に立ったルワンダ人を豊かにするための経済発展。
「戦後の途上国発展の議論において、外貨の役割と工業化の必要とが過当に重視され、民族資本の育成と流通機構の整備という地道で手近な問題が忘れられているのではないかとの疑問を持っていた。」(248p)
と述べているように、服部氏は工業化や輸出による外貨獲得ではなく、ルワンダ人の大部分が関わる農業、そしてルワンダ人による商業を発展させることにより、ルワンダ経済を軌道に乗せようとします。

 時に価格統制やルワンダ人への優遇策も取り入れながら進めるその経済再建策は、市場化や自由化といった理念から外れている部分もありますが、何よりも「今のルワンダには何が必要か?」という点から出てきたものです。
 ここ最近、途上国への援助のあり方や世界銀行やIMFのアプローチへの批判が出ていますが、この本はそれを先取りしたものとも言えるでしょう。

 また、次の部分なんかは日本のODAへの批判を先取りしているとも言えます。
「ルワンダ政府はベルギーが植民地時代にブルンディのみに投資し、ルワンダにはなにもしなかったと非難するが、むしろ国力不相応な投資をしてくれなかったおかげで、厖大な維持費の負担を免れていることを感謝すべきではないかと思った。」(57-58p)

 そして、この本のもう一つの魅力は服部氏の人間的な魅力です。
 「ルワンダ人には何もわからない」と決めつけ、既得権の温存を図る外国人に対して憤慨する服部氏の姿には思わず応援したくなりますね。

 ただ、一点だけこの本の評価の難しい部分は、ルワンダという国が1990年代の民族対立と虐殺により無茶苦茶になってしまったという点。
 この事情については服部氏が「増補」の中で触れていますが、服部氏の見方が正しいのか、それとも服部氏の経済改革になんらかの問題を引き起こす芽があったのか、評者にも判断できません。

 けれども、素晴らしい本であることは間違いないですし、名著の復刊を喜びたいです。

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)
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菊池嘉晃『北朝鮮帰国事業』(中公新書) 7点

 1959年から四半世紀に渡ってつづけられた北朝鮮帰国事業についてまとめた本。
 特に北朝鮮への帰国事業がどういった形で始まり、どのように盛り上がっていったのかがさまざまな史料を駆使して明らかにされています。

 北朝鮮への帰国事業が日本政府による「追放」ではなく、在日朝鮮人社会の内部から出てきたものであったこと、けれども同時に日本にも在日朝鮮人を厄介払いしたいという考えがあったことなどがわかりますし、北朝鮮側の帰国受け入れに積極的になっていく事情などもわかります。
 特に韓国と比べて当時の北朝鮮がイメージ的にも、経済発展の度合いでも優れていたということが大きかったということが、この本を読むと改めて理解できます。

 ただ、記述に関してはやや煩雑な部分があるかもしれません。前半は少し読みにくいです。

 また、「帰国事業がなぜ四半世紀も続いたか?」ということに関しては第7章でとり上げられていて事実関係はわかるのですが、日本の行政や政治家の北朝鮮への”甘さ”みたいなもの(例えば、金丸訪朝団に代表されるようなものとか)についてもう一歩踏み込んだ分析があるとよかったと思います。

 けれども、第8章で紹介されている帰国船で北朝鮮に上陸した人びとが受けた北朝鮮の貧しさへのショック、その後の日本人妻の運命など、帰国事業をめぐる悲劇的な状況がよくわかるようになっており、日本の現代史を考える上で読んで損はない本だと思います。
 朴斗鎮『朝鮮総連』(中公新書ラクレ)と併せて読むといいかもしれません。

北朝鮮帰国事業 - 「壮大な拉致」か「追放」か (中公新書)
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★★プロフィール★★
名前:山下ゆ
通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
新書以外のことは
「西東京日記 IN はてな」で。
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