『日中戦争下の日本』(講談社選書メチエ)などで注目された著者による吉田茂論。
今までの吉田茂の本に比べると、中国の奉天領事時代をはじめとする戦前の吉田茂の活躍にページを割いているのが特徴です。
あくまでも欧米との協調という現実的な立場を保持しながら、その範囲内で中国に対してかなり強硬的に出る吉田茂の姿が印象的です。
また、日中戦争時の日本の状況を描くことで、戦前の政治・外交の背景というものもわかるようになっています。
金融恐慌のもとでも、旺盛だった上流階級の消費意欲、そしてその後の著者が「下方平準化」と名付ける、緊縮と平等の趨勢。これらが、軍や新体制運動などを後押しし、同時に吉田の居場所を奪っていきます。
この戦前の吉田茂を描いた前半の3章は面白いです。
ただ、後半の戦後の吉田茂については正直、分析のたりない面も多いと思います。
例えば、著者は「芦田内閣はこれといった成果を上げることなく、十月七日、総辞職する」(192p)と書いていますが、芦田内閣のもとで成立した数々の法律を考えれば、そう簡単には片付けられないはずです。
ここは、民政局のバックアップをウケた芦田と民政局に嫌われた吉田という点から、もう少し掘り下げるべきでしょう。
また、この本では触れられていませんが、サンフランシスコ平和条約と日米安全保障条約をめぐる交渉に関しても、「昭和天皇ーダレス」というルートは無視できないものだと思います。
その他、戦後の世相に関しても山田風太郎の日記などに頼るだけで、戦前の世相のようには迫れていません。
前半は面白いものの、後半にやや不満が残る本です。
吉田茂と昭和史 (講談社現代新書)
井上 寿一

今までの吉田茂の本に比べると、中国の奉天領事時代をはじめとする戦前の吉田茂の活躍にページを割いているのが特徴です。
あくまでも欧米との協調という現実的な立場を保持しながら、その範囲内で中国に対してかなり強硬的に出る吉田茂の姿が印象的です。
また、日中戦争時の日本の状況を描くことで、戦前の政治・外交の背景というものもわかるようになっています。
金融恐慌のもとでも、旺盛だった上流階級の消費意欲、そしてその後の著者が「下方平準化」と名付ける、緊縮と平等の趨勢。これらが、軍や新体制運動などを後押しし、同時に吉田の居場所を奪っていきます。
この戦前の吉田茂を描いた前半の3章は面白いです。
ただ、後半の戦後の吉田茂については正直、分析のたりない面も多いと思います。
例えば、著者は「芦田内閣はこれといった成果を上げることなく、十月七日、総辞職する」(192p)と書いていますが、芦田内閣のもとで成立した数々の法律を考えれば、そう簡単には片付けられないはずです。
ここは、民政局のバックアップをウケた芦田と民政局に嫌われた吉田という点から、もう少し掘り下げるべきでしょう。
また、この本では触れられていませんが、サンフランシスコ平和条約と日米安全保障条約をめぐる交渉に関しても、「昭和天皇ーダレス」というルートは無視できないものだと思います。
その他、戦後の世相に関しても山田風太郎の日記などに頼るだけで、戦前の世相のようには迫れていません。
前半は面白いものの、後半にやや不満が残る本です。
吉田茂と昭和史 (講談社現代新書)
井上 寿一





