山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

ここブログでは新書を10点満点で採点しています。

2008年09月

塩見鮮一郎『貧民の帝都』(文春新書) 6点

 明治維新によって徳川幕府が崩壊し江戸時代の秩序が崩れ去ると、そこには貧民たちと彼らの住むスラムが出現します。
 そんなスラムの姿と彼らを収容するためにつくられた養育院の歴史を語った本です。

 東京のかつての四大スラム、鮫ヶ橋(現在の信濃町駅付近)、万年町(現在の上野駅付近)、新網町(現在の浜松町駅付近)、新宿南町(現在の新宿のウィンズのあたり)が現在の地図とともに紹介されている部分などは非常に興味深いですし(鮫ヶ橋が現在、創価学会の拠点となっている点も興味深いです)、また江戸時代の非人による貧民管理が明治になっても受け継がれた部分などは、歴史の裏にかくされた”現実”のようなものを感じさせてくれます。

 ただ、ややまとまりに欠ける面もあって、東京の貧民について描くのか、近代における慈善事業の系譜について描くのかはっきりしない部分もあります。
 また、文章はやや文学的です。このあたりを面白いと取るか、まとまりに欠けると取るかは意見の分かれる所でしょう。

 個人的には、もう少し東京の貧民の実態にこだわって、特に十五年戦争期に「皮肉にも市内各地のスラムの混雑と密集がうそのように解消されていた」(212p)という部分をもっと掘り下げて欲しかったですね。

貧民の帝都 (文春新書 655)
塩見 鮮一郎
4166606557


渡辺将人『見えないアメリカ』(講談社現代新書) 8点

 
 現在の共和党と民主党は、かぎりなく「保守政党」と「リベラル政党」に整理されつつある。共和党ならおおむね保守的で、民主党ならおおむねリベラルだ。だからこそ、その「保守」と「リベラル」のなかにしまいこまれている「見えないアメリカ」との出会いは思いのほかスリリングである。(232ー233p)


 これはこの本の本文の最後に置かれた言葉ですが、まさにこの本の内容を表した文章と言えるでしょう。
 著者はヒラリー・クリントンが上院議員選挙に出た際の選挙対策本部で「アウトリーチ」という集票戦略を練る部署にもいたことのある人物で、その時に得た知見などをもとに、アメリカの二大政党制とその支持の構造を明らかにしています。

 アメリカが共和党と民主党という二大政党制をとっているということは広く知られている所ですが、いったい誰がそれぞれの政党を支持しているのかと言うと、両党が「階級政党」とは言い難いだけに簡単には整理しきれないものがあります。
 例えば、南部は共和党の大統領リンカーンによって敗北させられて以来、長年民主党の牙城でしたが今は共和党の地盤となっています。
 貧しい白人労働者を支持基盤としていたはずの民主党がいつのまにか「スターバックスを飲む」高所得者層に支持されるようになり、都市に基盤を持っていた共和党は郊外へと支持基盤を映していく。そんなアメリカの二大政党制のダイナミズムがわかる本と言えるでしょう。

 また、人種差別主義者として知られているアラバマ州知事ウォーレスと「反中央政府」ポピュリズムについて語った部分なども非常に興味深いです。
 アメリカでは「ポピュリズム」という言葉にそれほど悪い印象がついておらず、逆に「ワシントン」という言葉こそが有権者に嫌われています。そんな中で「人種」をテコに「反ワシントン」を訴え、結果的に南部の共和党化に手を貸したウォーレスの姿は、なかなか表に出てこないアメリカ政治の裏面史を見せてくれます。

 今年行われる大統領選挙についてより深い知識を教えてくれますし、大統領選挙がより楽しめるようになる本と言えるでしょう。

見えないアメリカ (講談社現代新書 1949)
渡辺 将人
4062879492


野中尚人『自民党政治の終わり』(ちくま新書) 7点

 まさにタイムリーな本。
 自民党政治のシステムと行き詰まりを描いた本です。

 まず、第1章では自民党の中枢にいたインサイダーとして結果的に自民党を分裂させ、小選挙区制を導入した小沢一郎、第2章では党のアウトサイダーとして総裁に登り詰め、自民党の勢力を盛り返すと同時にその基盤を破壊した小泉純一郎の姿を描くことで、現在の自民党の状況を描き出し、その後、歴史的分析、国際比較へと入っていきます。

 自民党のボトムアップ的な政策決定システム、議会が弱く行政官僚の強い日本の政治の源流を江戸時代の幕府政治や農村自治に求める部分は、面白いものの、明治期や戦前期の分析がないため、やや弱い気がします。
 けれども、国際的に見て、日本は議会運営における政府の権限が弱く、政府が与党を頼らざるを得ないとする分析は説得力があり、日本の政治を単純な官僚支配と見る向きより、一段と深いものになっていると思います。

 官僚が議会対策のために与党を頼らざるを得ず、またそのような中で自民党が与党でありつづけたため、自民党内部に政調会などが重要な存在となり、その結果として逆に国会審議が形骸化していく。この流れに関しては非常に説得力をもって示すことができていると言えるでしょう。

 ただ、最後に著者がこれからの政治の理念として出してくる「リベラル・リーダーシップ」なる概念はわかりにくいし、やや地に足がついていないような気もします。

自民党政治の終わり (ちくま新書 741)
野中 尚人
448006446X


木村幹『韓国現代史』(中公新書) 7点

 タイトル通りに大韓民国の成立から現在までの歴史を語った本ですが、叙述のスタイルが独特です。
 この本では、ふつうの編年体的なスタイルを取らずに、李承晩、尹潽善、朴正煕、金泳三、金大中、盧武鉉、李明博の7人の韓国大統領の足跡をたどる形で韓国の現代史を再構成しているのです。
 
 1945年8月15日、大韓民国の成立、朝鮮戦争、朴正煕の軍事クーデター、朴正煕の暗殺といった韓国現代史の節目において、それぞれの人物がいかなる立場でいかに行動したかということが書かれており、複眼的に韓国の歴史を捉えることができます。

 ただ、あとがきにもあるように、この本には2つの欠点があります。
 一つは崔圭夏、全斗煥、盧泰愚という3人の大統領をとり上げていないことであり、もう一つは1987年の民主化以降の記述が弱い点です。

 それでも、特に朴正煕、金泳三、金大中の3人に関してはそれぞれのキャリアや因縁というのがよくわかって、韓国の政治と韓国という国への理解が深まりましたし、読み物としてもなかなか面白い本です。
 どの国でもできる叙述のスタイルだとは思いませんが、大統領の個性の強い韓国史という場所では、この試みは成功していると言えるのではないでしょうか。

韓国現代史―大統領たちの栄光と蹉跌 (中公新書 1959)
木村 幹
4121019598


松本仁一『アフリカ・レポート』(岩波新書) 9点

 著者は「カラシニコフ」の連載などで話題を呼んだ朝日新聞の元記者。その著者が長年のアフリカ・ウォッチのせいかとして書いたのがこの本です。

 新聞記者のルポというと、最初の切り口はいいのですが、最終的にはそれをわかりやすい図式の落とし込むだけになってしまっているものも少なくありません。本書のテーマとなっているアフリカ問題だと、さしずめ「植民地支配の傷」「冷戦構造」「多国籍企業」といったものでしょうか。

 けれでも、この本はそういったわかりやすい図式に頼らずにアフリカの問題を正面から見据えています。
 この本で何度も描かれるのは、ムガベ大統領が国を破壊してしまったジンバブエをはじめとしたアフリカ諸国の政府の腐敗です。
 豊かな農業を破壊してしまったジンバブエ、治安に金をかけなくなってしまった南アフリカの現状、石油が出たもののその利益をほぼ一部の人間が独占するナイジェリアなど、いずれも目を覆うような現状が報告されています。

 また、第3章の「アフリカの中国人」では、単に資源確保のためのアフリカ進出にとどまらない、中国人のアフリカ進出と、それが現地の人びとに及ぼす影響が描かれています。

 アフリカへの支援についても、単なる援助ではない現地の人びとと歩む日本人経営者の姿などが紹介され、「アフリカを助けましょう!」的な人道意識だけでは問題は解決できないのだということが示されている点も評価できます。

 ちなみに、もしこの本を読んで、さらに援助などについて興味が湧いたのなら、別ブログで紹介したポール・コリアー『最底辺の10億人』がオススメです。さらにマクロな視点からアフリカの問題を考えることができます。


アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々 (岩波新書 新赤版 1146)
松本 仁一
4004311462



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通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
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