著者の大竹文雄は過去に中公新書から『経済学的思考のセンス』という本を出していて、この本はその続編的な存在です。
ただ、前作が面白いながらもアメリカの行動経済学の面白いピックの紹介にとどまっていたのに対して、今作はより日本の現在の問題に焦点をあてたアクチュアルな本になっていると思います。
この本の最初に紹介されている調査によると、日本人は「格差が生まれたとしても多くの人は自由な市場で人々はよりよくなる」と考える人、「自立できない非常に貧しい人たちの面倒を見るのは国の責任である」と考える人の割合が先進諸国の中で際立って低い。
ここから、日本人は「競争嫌い」であり、「平等嫌い」だという、一見すると矛盾した結論が導きだされます。
そんな日本の現状を見ながら「競争」と「公平感」についてさまざまな分析が紹介してあるのがこの本です。
日本人の競争嫌いに関しては、例えば不況の影響も指摘されています。
不景気の時期を体験した人ほど、「成功において勤勉さよりも運やコネが重要だ」と考える人が多く、日本人の競争嫌いの理由の一つが、日本経済の長期停滞にあることが示唆されているのです。
これ以外にも、男女における「競争」への態度、宗教や文化が経済に与える影響、格差を気にする国民と気にしない国民、など経済に関するさまざまなトピックがとり上げられていますし、同時に「小さく産んで大きく育てる」という日本の産婦人科での教えが間違ってて胎児の停滞中がその後の人生に大きなマイナスをもたらすという話、せっかちなのは遺伝なのか?家庭教育の影響なのか?といった一見すると経済とは関係のないようなトピックもとり上げられています。
この手の経済学の本を読んだことがない人にとっては、そのトピックの豊富さにびっくりするかもしれませんし、拾い読みをするだけでも雑学的な知識を得ることができて楽しいと思います(例えば、アカデミー賞受賞者は、候補にあがったけれど受賞しなかった人に比べて四年も長生きしている(138p))
ただ、第3部の「働きやすさを考える」に関しては、やや日本の現実にフィットしていないところもあると思います。
例えば「長時間労働の何が問題か?」で、ワーカホリックの同僚がいると職場の生産性が上がって周囲の人間も助かるが、上司にいると問題が発生するとしていますが、日本の村社会的な職場を考えれば、上司でなくても職場でワーカホリックの人が増えればそれ以外の人も巻き添えを食うと思うんですよね。
また、最低賃金の引上げにもやや否定的な見解を示していますが、社会保障制度との整合性を考えると、今の日本の最低賃金は低すぎると言えるのではないでしょうか?
ただ、行動経済学的な読み物としても楽しめる上に、さらに現在の日本の問題を考える上でのヒントが詰まったいい本だと思います。
競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)

ただ、前作が面白いながらもアメリカの行動経済学の面白いピックの紹介にとどまっていたのに対して、今作はより日本の現在の問題に焦点をあてたアクチュアルな本になっていると思います。
この本の最初に紹介されている調査によると、日本人は「格差が生まれたとしても多くの人は自由な市場で人々はよりよくなる」と考える人、「自立できない非常に貧しい人たちの面倒を見るのは国の責任である」と考える人の割合が先進諸国の中で際立って低い。
ここから、日本人は「競争嫌い」であり、「平等嫌い」だという、一見すると矛盾した結論が導きだされます。
そんな日本の現状を見ながら「競争」と「公平感」についてさまざまな分析が紹介してあるのがこの本です。
日本人の競争嫌いに関しては、例えば不況の影響も指摘されています。
不景気の時期を体験した人ほど、「成功において勤勉さよりも運やコネが重要だ」と考える人が多く、日本人の競争嫌いの理由の一つが、日本経済の長期停滞にあることが示唆されているのです。
これ以外にも、男女における「競争」への態度、宗教や文化が経済に与える影響、格差を気にする国民と気にしない国民、など経済に関するさまざまなトピックがとり上げられていますし、同時に「小さく産んで大きく育てる」という日本の産婦人科での教えが間違ってて胎児の停滞中がその後の人生に大きなマイナスをもたらすという話、せっかちなのは遺伝なのか?家庭教育の影響なのか?といった一見すると経済とは関係のないようなトピックもとり上げられています。
この手の経済学の本を読んだことがない人にとっては、そのトピックの豊富さにびっくりするかもしれませんし、拾い読みをするだけでも雑学的な知識を得ることができて楽しいと思います(例えば、アカデミー賞受賞者は、候補にあがったけれど受賞しなかった人に比べて四年も長生きしている(138p))
ただ、第3部の「働きやすさを考える」に関しては、やや日本の現実にフィットしていないところもあると思います。
例えば「長時間労働の何が問題か?」で、ワーカホリックの同僚がいると職場の生産性が上がって周囲の人間も助かるが、上司にいると問題が発生するとしていますが、日本の村社会的な職場を考えれば、上司でなくても職場でワーカホリックの人が増えればそれ以外の人も巻き添えを食うと思うんですよね。
また、最低賃金の引上げにもやや否定的な見解を示していますが、社会保障制度との整合性を考えると、今の日本の最低賃金は低すぎると言えるのではないでしょうか?
ただ、行動経済学的な読み物としても楽しめる上に、さらに現在の日本の問題を考える上でのヒントが詰まったいい本だと思います。
競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)
