社会心理学者の山岸俊男と、一昨年出版の日本の若者を取り巻く状況を分析した『失われた場を探して』が素晴らしかったアメリカ・ハーバード大学ライシャワー日本研究所教授・メアリー・C・ブリントンによる対談本。
対談本、しかも外国人を交えた対談本となると、どうしても「ここが変だよ日本社会」みたいになってしまいがちで、この本もそういった部分がないわけではないですが、印象論ではなくデータで語ろうとする山岸俊男の姿勢と、ブリントンの日本社会に深い理解によって、ありがちな本よりはかなり深い内容になっていると思います。
タイトルは「リスクに背を向ける日本人」で、確かに日本人はリスクを嫌いますが、それは失敗した時のリスクがアメリカなどの諸外国よりも大きいからでもあります。
この本で二人が再三指摘するのは、「セカンドチャンス」のない日本のリスクの大きさ。一度失敗すると再起が難しい日本社会では、リスクに背を向けざるを得ないというのが、二人の一致した見方です。
この問題を解決するにはどうしたらいいか?
平凡ですが意識と制度を変えていかなければならないというのが二人の答えです。
特に山岸俊男は現に制度が存在する以上、意識の変革だけを行っても無意味で、労働市場を中心とする制度の改革が必要だと訴えています。
基本的に同じような認識を持っている二人なので、意見の対立によるダイナミックな展開などはないのですが、山岸俊男の持ってくるデータとやや過激な意見が面白い。
例えば、子供を育てるコストが大きくなった現代社会では、経済的な利益ではなく非経済的な利益である「アフェクション」(愛情、愛情表現)が子どもに求められているとして次のようなデータを持ってきます。
95 年度『国民生活白書』の、「子どもが一人なら男女どちらをのぞむか」という設問の答えの推移を見ると、72年男の子52%(81%の間違いっぽい)女の子19%、82年男の子52%、女の子 48%、87年男の子37%女の子63%、92年男の子24%女の子76%。80年代に男女が逆転し、今は圧倒的に女の子が望まれています。
これについて山岸俊男は次のように説明しています。
少しいいすぎな気もしますが、山岸俊男はこのような赤裸々なデータを持ってくるのがうまい。
こうした山岸俊男のデータをブリントンの経験がうまく中和している感じです。
色々と考える材料の詰まっている本だと思います。
リスクに背を向ける日本人 (講談社現代新書)
山岸 俊男 メアリー C・ブリントン

対談本、しかも外国人を交えた対談本となると、どうしても「ここが変だよ日本社会」みたいになってしまいがちで、この本もそういった部分がないわけではないですが、印象論ではなくデータで語ろうとする山岸俊男の姿勢と、ブリントンの日本社会に深い理解によって、ありがちな本よりはかなり深い内容になっていると思います。
タイトルは「リスクに背を向ける日本人」で、確かに日本人はリスクを嫌いますが、それは失敗した時のリスクがアメリカなどの諸外国よりも大きいからでもあります。
この本で二人が再三指摘するのは、「セカンドチャンス」のない日本のリスクの大きさ。一度失敗すると再起が難しい日本社会では、リスクに背を向けざるを得ないというのが、二人の一致した見方です。
この問題を解決するにはどうしたらいいか?
平凡ですが意識と制度を変えていかなければならないというのが二人の答えです。
特に山岸俊男は現に制度が存在する以上、意識の変革だけを行っても無意味で、労働市場を中心とする制度の改革が必要だと訴えています。
基本的に同じような認識を持っている二人なので、意見の対立によるダイナミックな展開などはないのですが、山岸俊男の持ってくるデータとやや過激な意見が面白い。
例えば、子供を育てるコストが大きくなった現代社会では、経済的な利益ではなく非経済的な利益である「アフェクション」(愛情、愛情表現)が子どもに求められているとして次のようなデータを持ってきます。
95 年度『国民生活白書』の、「子どもが一人なら男女どちらをのぞむか」という設問の答えの推移を見ると、72年男の子52%(81%の間違いっぽい)女の子19%、82年男の子52%、女の子 48%、87年男の子37%女の子63%、92年男の子24%女の子76%。80年代に男女が逆転し、今は圧倒的に女の子が望まれています。
これについて山岸俊男は次のように説明しています。
対人コミュニケーション能力の欠陥と結びついているとされる自閉症やアスペルガー症候群などが圧倒的に男性に多いことなどを考えると、コミュニケーションを通しアフェクションをやりとりする相手としては、男の子より女の子が好ましいことになる。極端な少子化の進行とともに生じた女児に対する好みの増加は、アフェクションの提供者としての子どもに対する需要の増加を意味しているように思われるんだ。(171ー172p)
少しいいすぎな気もしますが、山岸俊男はこのような赤裸々なデータを持ってくるのがうまい。
こうした山岸俊男のデータをブリントンの経験がうまく中和している感じです。
色々と考える材料の詰まっている本だと思います。
リスクに背を向ける日本人 (講談社現代新書)
山岸 俊男 メアリー C・ブリントン
