近代政治史の新書を数多く描いている坂野潤治と経済学者の大野健一による共著。
3部仕立てで、第1部の「明治維新の柔構造」は完全な共著、第2部の「改革諸藩を比較する」は坂野潤治、第3部の「江戸社会ー飛躍への準備」は大野健一が担当しています。
もともとイギリスの研究者の呼びかけで行われた、「途上国の「開発」を推進した指導者とそれを支えたエリートの特徴」についての共同研究として始まったもので、第1章がちょうどそれにあたります。
この本では、明治維新をたんに「富国強兵」の実現、あるいは「外征派」と「内治優先派」の争いとして描くのでなく、開発派(大久保利通)、外征派(西郷隆盛)、議会派(板垣退助)、憲法派(木戸孝允)の4つのグループの争いとして分析しています(カッコの中の人物はそれぞれのグループを代表する人物)。
そしてこの4派が対立するだけでなく、時には互いに協力しながら改革を進めて行った「柔構造」こそ、明治維新の特徴だとしています。
この「柔構造」が生まれた秘密は、幕末の諸藩の間のさまざまな交流、交渉にあります。
各藩の有力者の間の駆け引きや同盟的関係によって成立した明治政府は、成立後もそうした有力者同士の合従連衡によってダイナミックな改革を可能にしたのです。
かなり荒っぽい議論でありますが、明治維新を考えて行く上でこれは面白い視点だと思います。
伊藤博文がきちんと位置づけられていないという欠点はありますが、明治維新史の一つの見方を提示したものと言っていいでしょう。
ただ、第2部には不満があります。
「柔構造」という点から、薩摩、長州、土佐、肥前、越前の5藩をとり上げて分析しているのですが、その分析が後だしじゃんけんにしかなっていない。
各藩の評価の項目で「指導部の安定性と可変性」というのがあるのですが、このような対立する概念を一つの項目に押し込めては評価が恣意的になってしまいます。
実際、この項目の評価で長州は「○」で肥前は「×」。可変性だけならともかく、安定性という点では長州藩を評価できるとは思えませんし、逆に幕末の鍋島閑叟による改革の安定性は幕末の雄藩の中でもっとも堅固なものだったのではないでしょうか?
また、維新後も肥前出身の人物が改革に貢献しなかったように書いていますが、大隈重信はもちろんとして明治政府のさまざなま制度を語る上で江藤新平や大木喬任の貢献は外せないでしょう。
第3部は大雑把な素描ながら、近代化へとつながる江戸時代のいくつかの特徴を押さえていて、江戸時代=停滞のように思っている人の思い込みを打ち破ってくれると思います。
明治維新 1858-1881 (講談社現代新書)

3部仕立てで、第1部の「明治維新の柔構造」は完全な共著、第2部の「改革諸藩を比較する」は坂野潤治、第3部の「江戸社会ー飛躍への準備」は大野健一が担当しています。
もともとイギリスの研究者の呼びかけで行われた、「途上国の「開発」を推進した指導者とそれを支えたエリートの特徴」についての共同研究として始まったもので、第1章がちょうどそれにあたります。
この本では、明治維新をたんに「富国強兵」の実現、あるいは「外征派」と「内治優先派」の争いとして描くのでなく、開発派(大久保利通)、外征派(西郷隆盛)、議会派(板垣退助)、憲法派(木戸孝允)の4つのグループの争いとして分析しています(カッコの中の人物はそれぞれのグループを代表する人物)。
そしてこの4派が対立するだけでなく、時には互いに協力しながら改革を進めて行った「柔構造」こそ、明治維新の特徴だとしています。
この「柔構造」が生まれた秘密は、幕末の諸藩の間のさまざまな交流、交渉にあります。
各藩の有力者の間の駆け引きや同盟的関係によって成立した明治政府は、成立後もそうした有力者同士の合従連衡によってダイナミックな改革を可能にしたのです。
かなり荒っぽい議論でありますが、明治維新を考えて行く上でこれは面白い視点だと思います。
伊藤博文がきちんと位置づけられていないという欠点はありますが、明治維新史の一つの見方を提示したものと言っていいでしょう。
ただ、第2部には不満があります。
「柔構造」という点から、薩摩、長州、土佐、肥前、越前の5藩をとり上げて分析しているのですが、その分析が後だしじゃんけんにしかなっていない。
各藩の評価の項目で「指導部の安定性と可変性」というのがあるのですが、このような対立する概念を一つの項目に押し込めては評価が恣意的になってしまいます。
実際、この項目の評価で長州は「○」で肥前は「×」。可変性だけならともかく、安定性という点では長州藩を評価できるとは思えませんし、逆に幕末の鍋島閑叟による改革の安定性は幕末の雄藩の中でもっとも堅固なものだったのではないでしょうか?
また、維新後も肥前出身の人物が改革に貢献しなかったように書いていますが、大隈重信はもちろんとして明治政府のさまざなま制度を語る上で江藤新平や大木喬任の貢献は外せないでしょう。
第3部は大雑把な素描ながら、近代化へとつながる江戸時代のいくつかの特徴を押さえていて、江戸時代=停滞のように思っている人の思い込みを打ち破ってくれると思います。
明治維新 1858-1881 (講談社現代新書)
