山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

ここブログでは新書を10点満点で採点しています。

2010年01月

坂野潤治+大野健一『明治維新 1858-1881』(講談社現代新書) 6点

 近代政治史の新書を数多く描いている坂野潤治と経済学者の大野健一による共著。
 3部仕立てで、第1部の「明治維新の柔構造」は完全な共著、第2部の「改革諸藩を比較する」は坂野潤治、第3部の「江戸社会ー飛躍への準備」は大野健一が担当しています。

 もともとイギリスの研究者の呼びかけで行われた、「途上国の「開発」を推進した指導者とそれを支えたエリートの特徴」についての共同研究として始まったもので、第1章がちょうどそれにあたります。

 この本では、明治維新をたんに「富国強兵」の実現、あるいは「外征派」と「内治優先派」の争いとして描くのでなく、開発派(大久保利通)、外征派(西郷隆盛)、議会派(板垣退助)、憲法派(木戸孝允)の4つのグループの争いとして分析しています(カッコの中の人物はそれぞれのグループを代表する人物)。
 そしてこの4派が対立するだけでなく、時には互いに協力しながら改革を進めて行った「柔構造」こそ、明治維新の特徴だとしています。

 この「柔構造」が生まれた秘密は、幕末の諸藩の間のさまざまな交流、交渉にあります。
 各藩の有力者の間の駆け引きや同盟的関係によって成立した明治政府は、成立後もそうした有力者同士の合従連衡によってダイナミックな改革を可能にしたのです。

 かなり荒っぽい議論でありますが、明治維新を考えて行く上でこれは面白い視点だと思います。
 伊藤博文がきちんと位置づけられていないという欠点はありますが、明治維新史の一つの見方を提示したものと言っていいでしょう。

 ただ、第2部には不満があります。
 「柔構造」という点から、薩摩、長州、土佐、肥前、越前の5藩をとり上げて分析しているのですが、その分析が後だしじゃんけんにしかなっていない。
 各藩の評価の項目で「指導部の安定性と可変性」というのがあるのですが、このような対立する概念を一つの項目に押し込めては評価が恣意的になってしまいます。
 実際、この項目の評価で長州は「○」で肥前は「×」。可変性だけならともかく、安定性という点では長州藩を評価できるとは思えませんし、逆に幕末の鍋島閑叟による改革の安定性は幕末の雄藩の中でもっとも堅固なものだったのではないでしょうか?
 また、維新後も肥前出身の人物が改革に貢献しなかったように書いていますが、大隈重信はもちろんとして明治政府のさまざなま制度を語る上で江藤新平や大木喬任の貢献は外せないでしょう。

 第3部は大雑把な素描ながら、近代化へとつながる江戸時代のいくつかの特徴を押さえていて、江戸時代=停滞のように思っている人の思い込みを打ち破ってくれると思います。

明治維新 1858-1881 (講談社現代新書)
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福井健策『著作権の世紀』(集英社新書) 7点

 著作権関連の新書としては中山信弘『マルチメディアと著作権』といういい本がありますが、いかんせん1996年の本で最近の著作権をめぐる問題をフォローしきれてはいません。
 そんな中でこの本は最近の著作権をめぐる問題を概観する上で役に立つ本です。

 ネットの進化により、コンテンツは本やCDという形で物理的に閉じ込めることが難しくなり、それをコントロールする手段として著作権が注目されています。
 著作権によって著作者は形のない「情報」から、収入を得ることが出来るわけです。

 けれども、登録もせずに発生し、その権利が遺族に相続される著作権は情報を流通させる上で非常に厄介な存在でもあります。
 この本で書かれているようにNHKアーカイブスでは権利処理の難しさから公開できる番組は全体の1%強にとどまっています。
 誰に相続されたかもわからない著作権によって、過去の映画やTV番組などがアーカイヴィングされずに失われて行っているのもまた一つの現実なのです。

 この本ではそのような状況を説明しつつ、それを打ち破ろうとする動きグーグルブック検索やクリエイティヴ・コモンズなどのことも紹介しており、実際に著作権をめぐってどんなことが起きているのかということがわかるようになっています。

 また、第7章では「疑似著作権」の問題をとり上げ、行きすぎた権利の主張を批判的に検討しています。
 創作における変な萎縮を防ぐために参考になる部分です。

 ネットでこの手の問題を追ってきた人にとっては目新しくないかもしれませんが、現在の著作権の状況と問題を知る上でいい本だと思います。

著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」 (集英社新書 527A)
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本田一成『主婦パート 最大の非正規雇用』(集英社新書) 5点

 非正規雇用1890万人中、およそ4割の800万人いると言われている主婦パート。非正規雇用が問題視される中で、なぜかその存在が論じられることが少なかった存在なので、本の着眼点としては非常にいいものがあると思います。
 ただ、中意はやや絞りきれていないと思いますし、主婦パートの問題点を強調しようとするあまり、他の要因も「主婦パート」という問題に押し込めようとしている感がある。

 前半のデータ分析はなかなか興味深く、パートの高学歴化が進む一方で高齢化は進んでおらず、より子どもが小さいころから主婦がパートに出ていると考えられる現状(31ー32p)、それに伴い消えつつあるM字カーブ(111p)などはデータで示されると、改めて時代の変化を感じますし、90年代半ば以降、女性の正社員が減少しはじめ、代わって女性パートが増えていることを示す82pのグラフなどにも女性の雇用環境の厳しさを感じます。

 ただ、一方で128p以下の、正社員、専業主婦に比べて主婦パート層は夫婦関係に不満があり、子どもを虐待する可能性も低くないというようなデータは、主婦パートという雇用形態よりも世帯収入の問題ではないんですかね?

 また、パートの「基幹化」の動きが、主婦パートを追いつめ、その主婦パートの低賃金に「つけ込んでいる」企業にもマイナスの影響を与えるおそれがあるという指摘はその通りだと思うのですが、第7章でとり上げられている例が適当だとは思いません。
 パート店長など、もっといわゆる「基幹的」な仕事をしている人の例をとり上げるべきでしょう。

 著者の問題意識はよくわかりますし、同意する所も多いのですが、やや詰めが甘い本だと思います。

主婦パート 最大の非正規雇用 (集英社新書 528B)
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清谷信一『防衛破綻』(中公新書ラクレ) 7点

 副題は「『ガラパゴス化』する自衛隊装備」。
 国内産業保護などのためにいびつになってしまった日本の自衛隊の装備そのものと兵器調達の問題点を指摘した本です。

 自衛隊の装備が国内産業の保護、自衛官の天下り、「山田洋行事件」に見られるような不透明な商社の仲介などから割高であるのは知っていましたが、冒頭の「今の自衛隊は、セーターやジャージなど業務に必要不可欠な被服すら隊員に身銭を切らせて買わせているありさまだ」(3p)という事実は想像以上。
 正面装備に金をかけながら、支援装備や兵站は驚くほど貧困という今の自衛隊の現状を鋭く告発してます。

 また、装備自体に関しても問題は多く、特に89式小銃の話はひどい。
 この小銃、安全装置がわざと外しにくい位置についているそうです。で、イラクのサマーワに自衛隊が派遣されたときは、これじゃ使いにくいからと改造されたと。そそて、さらに帰国後、またに元に戻した!
 いったい何のための装備なんですかね?

 こんなふうに著者は自衛隊の装備についてかなりマニアックに分析していきます。
 ここの兵器の性能についての著者の見立てが正しいのかどうかはわかりませんが、自衛隊の装備の全体的な問題点に関してはこの本の通りなのでしょう。

 マニアックな本ではありますが、こういった具体的な平気にこだわることで、日本の安全保障の問題点が見えてくる部分があります。

防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備 (中公新書ラクレ 338)
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岩瀬大輔『生命保険のカラクリ』(文春新書) 8点

 新しいネット生命保険会社ライフネット生命保険の副社長による、タイトルの通り「生命保険のカラクリ」を暴いた本。
 最近、家計の見直しなどで真っ先にあげられるのが生命保険というのが定番になっていますが、この本を読めばその理由が生命保険会社の内実とともにわかります。

 この本によると、日本国民が払う生命保険料の総額は40兆円で、小売業の全体の売上高133兆の1/3近く。自動車市場が11兆、外食市場が30兆ですから、これは想像以上に凄い数字です。
 生命保険がここまで巨大化したのは、たんなる死亡保障だけでなく、貯蓄や投資としての側面をもった養老保険やさまざまな病気に対する特約などを、保険会社が競って組み合わせて販売したからです。

 しかし、あまりに複雑な商品は保険金不払いなどの問題を生み、長くつづいた超低金利は保険から貯蓄商品としての魅力を奪いました。
 それでも「日本の生保業界は、一社専属の営業職員が人海戦術で売り歩くという、高コストの営業部隊を中核としたビジネスモデルを支えるために、高収益をもたらす保障性の商品を販売してきた」(43p)のです。

 こうした状況に対して、。著者は自分でも契約内容ができるシンプルな保険を推奨します。
 192ページ以下で書かれている、保険を死亡・医療・貯金の三つに分けて考えようという提案は、これから保険を考える上で非常に役に立つ考え方と言えるのではないでしょうか。

 また、生保業界のさまざまな内情も知る事ができるところも面白いと思います。

 著者が利害関係者(ネット生保の副社長)のため、多少割り引いて考える部分もあるのかもしれませんが、生命保険、そしてライフプランを考える上でとても有益な本です。

生命保険のカラクリ (文春新書)
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松井慎一郎『河合栄治郎』(中公新書) 5点

 昭和期に活躍した思想家・河合栄治郎の評伝。
 新書にしてはかなり本格的な評伝で、本文だけで350ページ近くもあります。
 「河合栄治郎」という名前は聞いたことあるけど、実際に何をした人かよくわからない(僕もそうでした)という人にとっては、「戦闘的自由主義者」と言われた河合の生き様を知ることが出来る本です。

 この本を読むと、河合が教育者としていかにエネルギッシュであったか、また、ファシズムの嵐が吹き荒れる中でいかに大学の自治を守ろうとしたかがわかります。

 ただ、これはこの本の欠点というより、河合本人にその責任があるのでしょうけど、「経済学部教授」としての河合の業績はこの本を読んでもまったく見えてこない。
 もちろんこの本では、河合のT・H・グリーン研究やさまざまな時局論、名著とされる『学生に与う』などが紹介されています。
 けれども、「経済学者」としての河合の業績はよくわかりません。
 当時の日本の「経済学」なんてそんなものだと言われればそれまでですが、この時代に同じく東京帝国大学の経済学部で教鞭をとっていた矢内原忠雄には、小林英夫『<満洲>の歴史』(講談社現代新書)で紹介されている「満洲農業移民不可能論」という優れた経済学的論文があります。
 河合にはそうしたものはまったくないのでしょうか?

 また、読んだ印象としてはやや河合を美化しすぎている感もあります。河合を裏切ったとされる大河内一男への評価などはやや厳しすぎるのではないでしょうか?

 新書ということを考えると、もっと河合が大学を追われることになった「平賀粛学」など、この時期の大学自治の問題に焦点をあてた構成でもよかったかもしれません。

河合栄治郎 - 戦闘的自由主義者の真実 (中公新書)
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名前:山下ゆ
通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
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