昭和天皇というこれまで山のように本が書かれながら、しっくりとくる評価が定まらない人物について、『大正天皇』や『滝山コミューン1974』の原武史が挑んだ本。
この本で原武史は、昭和天皇の開戦と終戦の決断というさんざん議論されてきた部分に関してはあえて触れずに、今まであまり光の当てられなかった「宮中祭祀」を手がかりに昭和天皇の実像に迫ろうとしています。
学者の書いた本としてはかなり大胆な推測がなされており、なかなか面白い点とやや疑問の残る部分が混在している感じです。
面白い点
・ かなり強烈な人間だったと思われる昭和天皇の実母・貞明皇后と昭和天皇の関わりを追い、その影響を明らかにしようとした点。
・ 戦争とともに祭祀に熱心になる天皇を描くことで、科学に関心を持つ「合理的な立憲君主」に収まらない昭和天皇の姿を教えてくれる点。
・ 1945年の6月に貞明皇后とあった後、昭和天皇が体調を崩し、そこに昭和天皇が「一撃論」から「早期和平論」に転じた時期を見いだしている点。
・ 1960年代に「魔女」と呼ばれた女官の今城誼子が、貞明皇后の影響を受けた最後の人物であり、その騒動を昭和天皇の健康状態も考えて宮中祭祀を省略しようとする入江侍従長と祭祀にこだわる今城誼子の対立として描いている点。
逆に疑問が残る点は
・ 昭和天皇の祭祀に対する姿勢として、最初は熱心ではなかったが貞明皇后に言われて熱心になったとしているが、非常に真面目だったとされる昭和天皇の性格から母の貞明皇后というファクターがなくても、祭祀には熱心に取り組むようになったのではないか?という点。
・ 昭和天皇と高松宮の確執に関して、高松宮と貞明皇后を一体化して考えることで説明しようとしている(逆に言うと昭和天皇と高松宮との確執をとり上げることによって昭和天皇と貞明皇后の確執を裏付けようとしている)が、高松宮との関係に関してはそれ以外の要因、特に戦争末期と戦後の高松宮の行動の方が大きいのではないか?
・ 貞明皇后と昭和天皇の后であった香淳皇后を同じ考えに染まった人物として描いているが、貞明皇后と香淳皇后の間の嫁姑の確執は広く知られたものであり、そこの説明が足りない点。
・ 三島の自決の昭和天皇への影響をかあった部分があるが、これは余りに憶測に頼っており、この本に書かれた状況証拠だけでは何とも言えないのではないか?
このような感じで、面白い部分と疑問が残る部分があり、全面的に著者の主張に賛成できるわけではないのですが、昭和天皇について今までとは違った論点を提出してくれた本だと思います。
昭和天皇 (岩波新書 新赤版 1111)
原 武史

この本で原武史は、昭和天皇の開戦と終戦の決断というさんざん議論されてきた部分に関してはあえて触れずに、今まであまり光の当てられなかった「宮中祭祀」を手がかりに昭和天皇の実像に迫ろうとしています。
学者の書いた本としてはかなり大胆な推測がなされており、なかなか面白い点とやや疑問の残る部分が混在している感じです。
面白い点
・ かなり強烈な人間だったと思われる昭和天皇の実母・貞明皇后と昭和天皇の関わりを追い、その影響を明らかにしようとした点。
・ 戦争とともに祭祀に熱心になる天皇を描くことで、科学に関心を持つ「合理的な立憲君主」に収まらない昭和天皇の姿を教えてくれる点。
・ 1945年の6月に貞明皇后とあった後、昭和天皇が体調を崩し、そこに昭和天皇が「一撃論」から「早期和平論」に転じた時期を見いだしている点。
・ 1960年代に「魔女」と呼ばれた女官の今城誼子が、貞明皇后の影響を受けた最後の人物であり、その騒動を昭和天皇の健康状態も考えて宮中祭祀を省略しようとする入江侍従長と祭祀にこだわる今城誼子の対立として描いている点。
逆に疑問が残る点は
・ 昭和天皇の祭祀に対する姿勢として、最初は熱心ではなかったが貞明皇后に言われて熱心になったとしているが、非常に真面目だったとされる昭和天皇の性格から母の貞明皇后というファクターがなくても、祭祀には熱心に取り組むようになったのではないか?という点。
・ 昭和天皇と高松宮の確執に関して、高松宮と貞明皇后を一体化して考えることで説明しようとしている(逆に言うと昭和天皇と高松宮との確執をとり上げることによって昭和天皇と貞明皇后の確執を裏付けようとしている)が、高松宮との関係に関してはそれ以外の要因、特に戦争末期と戦後の高松宮の行動の方が大きいのではないか?
・ 貞明皇后と昭和天皇の后であった香淳皇后を同じ考えに染まった人物として描いているが、貞明皇后と香淳皇后の間の嫁姑の確執は広く知られたものであり、そこの説明が足りない点。
・ 三島の自決の昭和天皇への影響をかあった部分があるが、これは余りに憶測に頼っており、この本に書かれた状況証拠だけでは何とも言えないのではないか?
このような感じで、面白い部分と疑問が残る部分があり、全面的に著者の主張に賛成できるわけではないのですが、昭和天皇について今までとは違った論点を提出してくれた本だと思います。
昭和天皇 (岩波新書 新赤版 1111)
原 武史






