竹鶴政孝がはじめて飲んだウイスキーは? ハイランドケルトの正体に迫る
マッサンのスピンオフが決まりましたね。
1時間枠×2で2話。
あまりウイスキーとは関わりがなさそうですが、楽しみにしたいと思います。
参照:スピンオフドラマの放送が決定しました!(NHK)
さて、マッサン繋がりで最近疑問に思った事をひとつ。
マッサンこと亀山政春に大きな影響を与えたウイスキーは、ハイランドケルトでした。これは実在しない架空のウイスキー銘柄ですが、劇中では一つのキーとなっています。
では、竹鶴政孝に"日本人に本当に美味しいウイスキーを飲んでほしい"と思わせたウイスキーって何だったんでしょうか。
では、竹鶴政孝に"日本人に本当に美味しいウイスキーを飲んでほしい"と思わせたウイスキーって何だったんでしょうか。
晩年の竹鶴政孝が愛した酒がハイニッカだとか、修行した蒸留所はロングモーンとか、そういう話はあるんですが、最初に飲んだウイスキーしかり、あれほどの情熱を与えるきっかけになったウイスキーの記載が見当たりません。
せっかくなので時代をさかのぼり、竹鶴政孝にとっての"ハイランドケルト"を考察してみたいと思います。
1916年、摂津酒造に入社する頃には、竹鶴は洋酒に興味を持っていたといいます。
1916年、摂津酒造に入社する頃には、竹鶴は洋酒に興味を持っていたといいます。
当時日本にはワインなど各種洋酒の輸入が増え始めていたところ、日英同盟の影響もあってスコッチウイスキーも同様に日本の市場に入ってきていました。
また、竹鶴が通っていた大阪高等工業学校は神戸にほど近く、当時神戸といえば洋酒含む舶来物の輸入が盛んでしたし、新しいモノに興味やあこがれを持って・・・というのは考えられる話です。
実際竹鶴も、高等学校卒業後は家業である酒造を継ぐ可能性も考慮しつつ、その前に興味があった洋酒作りをしたいということから摂津酒造の門を叩いたと伝えられます。
その後、摂津酒造の洋酒部門で赤玉ポートワインに関わり、岩井社長の命令を受けてウイスキー製造技術を学ぶため、渡英するに至ります。
しかし当時の情報伝達速度、情報量で考えると、1916年入社で、1918年に渡英って、ものすごいスピードです。会社としてはもっと前から計画していたのかもしれませんが、その後の竹鶴の行動を見ているとほぼノーアポ、現地調達サバイバル研修。とても綿密な計画とは思えません。
同盟が締結されたとはいえ、ネットも無ければ世界の歩き方もない、飛行機も無いので手紙だって往復で数ヶ月かかるのは普通なところ。
日本の地を2度と踏めないかもしれない、先の見えない危険な話。それをたいした計画もなくほぼ丸腰状態。
いくら社命とはいえ、あこがれだけで決意を固めることが出来るんでしょうか・・・(まぁ書籍の情報通りの性格なら、竹鶴はやりかねない気もしますが)。
推測に過ぎませんが、留学前、当時日本に流通していたイミテーションと、本格スコッチウイスキーの飲み比べはしてるんじゃないかと思います。
それこそ摂津酒造が取り寄せて、モルト、グレーン、ブレンデットと試飲した可能性もあります。
それで感銘と同時に危機感を抱いた竹鶴が、日本人に本当に美味しいウイスキーをと感じたならば、流れは自然かなと。
その推測に基づき銘柄を考えますと、当時はブレンデット全盛期でシングルモルトの流通は極めて少数。
記録が残っているのは、カルノー商会の取り扱いだった、デュワーズ、H&B、ブキャナン。グラバー商会(ジャーディン系)が輸入していたウイスキー。あるいは当時から既にステータスを確立していたパー系か。列歴史を紐解くと、おおよそ当時日本に流通していた銘柄は限られてきます。
H&Bはロイヤルワラントで日本の皇室にも入ったやんごとなきお酒。デュワーズはアメリカでヒットした関係もあって当時取り扱い銘柄の種類も多い。
パー系のオールドパーやマンローキングオブキングスも当時日本に入っていた銘柄ですし、上述のジャーディン系としてホワイトホースの扱いがあれば神戸界隈で遭遇する可能性は高いところ。
絞りきれませんが、この辺に絞られてくると考えられます。
実はこの中のうち、当時の流通と思われるデュワーズ・ホワイトラベルは飲ませて貰ったことがあります。
約100年前の酒とあって、香味はだいぶ変化していましたが、オールドスコッチらしいどっしりしたピート感があったのが印象的でした。
経年変化を逆算して考えると・・・カラメルの甘さに麦芽のスモーキーで芳醇な香味、それこそ竹鶴のハートを鷲掴みにする、非常に魅力ある酒だったのではないかと思います。
(写真引用:Whisky link デュワーズ・ホワイトラベル8年 1920年前後流通)
※当時の日本のウイスキー文化の参考に。
ウイスキーマガジン:戦前の日本とウイスキー
さて、長々書いておいて、竹鶴にとってのハイランドケルトは特定出来ませんでしたが、ドラマ"マッサン"のハイランドケルトは面白い情報が手に入りました。
ハイランドケルトのモデルについては色々意見や予想があるところですが、これ、中身はスコ文研の土屋守氏が監修したブレンデットウイスキーなんだそうです。

(写真引用:ハイランドケルト・NHK 呑壱の呑んだくれブルース様)
この話は土屋氏のセミナーの中で話があったそうですが、聞いた瞬間ぽかんとしてしまいました。
まず第一に、ハイランドケルトのラベルにはシングルモルトと書いてあるじゃないか、という疑問があります。
これは上でも書いたように、当時はスコットランドであってもシングルモルトウイスキーは少数で、大多数はブレンデットだったわけですが、土屋さんもその辺を踏まえ、現地で飲んでいるとしたらブレンデットだとNHKに話をしたものの、製作チームはシングルモルトでラベルを作ってしまったそうなのです。
これは上でも書いたように、当時はスコットランドであってもシングルモルトウイスキーは少数で、大多数はブレンデットだったわけですが、土屋さんもその辺を踏まえ、現地で飲んでいるとしたらブレンデットだとNHKに話をしたものの、製作チームはシングルモルトでラベルを作ってしまったそうなのです。
また、中身についてはジョニ赤(MHD経由では黒という話も)にアードベックを足したモノで、当時のウイスキーは今よりピーティーだったのではと、アードベックをブレンドして雰囲気を出したと。
ジョニーウォーカーである理由は、竹鶴政孝が現地に留学した際に飲んでいたとすれば、留学先の地域などから推測してジョニーウォーカーだろうということ。
つまりハイランドケルト=ジョニーウォーカーだったんですね。
ドラマ用のセットに本当にウイスキーが入ってたのも驚きですが、実はラベルプリントミス(?)だったのも驚きです。
ハイランドケルトはハイランドパークが元ネタだと、けっこーな数のサイトが掲載していますし(これは誰が言い出したのか、出所が怪しいんですけど。)、かくいう自分も、LONMORT蒸留所だから多分ロングモーンのシングルモルトだろうと思っていたのですが、みんなNHKに釣られましたw。
NHKはこの責任をとって、"日本のウイスキー、そのルーツを紐解く"みたいなドキュメントを、スピンオフついでにやってほしいものです。
答えは出ないかもしれませんが(笑)。
※本記事を書くにあたり、先行してFBウイスキー友の会で色々ご意見、情報を頂きました。
特に当時の神戸界隈(グラバー商会)関連の情報等を頂いた札幌Malt Bar Kirkwallのマスター岩本様。
摂津酒造関連の情報をいただいた、お初天神BAR Paradis マスター岩田様。
ハイランドケルトの真相に関する貴重な情報を頂いたS様、I様、ありがとうございました。
ハイランドケルトの真相に関する貴重な情報を頂いたS様、I様、ありがとうございました。
そして最後に一言。
「やったね!これでハイランドケルトが飲めるよw!」
コメント
コメント一覧 (4)
ひとつ仮説があります。
竹鶴氏が初めて手掛けたウイスキー「白札」。
コレってデュワーズの「ホワイトラベル」のパ○りですよね?ラベルデザインも含めて。
とするとひょっとして竹鶴氏のターゲットモデルは…
はじめまして。
なるほど・・・そういう見方も出来ますか。
個人的に当時のデュワーズホワイトラベルと白札は、あまり似ていないようにも思うのですが、気に入っている銘柄、印象に残っている銘柄の影響を受けた可能性も否定出来ませんね。
本筋とは関係ないのですが、私が多分ハイランドパークが元ネタとか適当を言い出した出所な気がします。
当時、ブームの以前から諸般の事情でお酒を全く飲まないのにある仕事の傍らお酒のブログを書く作業をしておりまして、当時はドラマに乗っかる形で記事を書いていたわけです。
客寄せで「ハイランド」が着く幾つかの銘柄を紹介する為に無理矢理その様に書いたものです。
多くのブログが私の記事を参考にされたかは分かりませんが、当時いい加減な記事を書いてしまった事を反省しております。
今ではその時の仕事の影響でウイスキーを飲むようになったわけですが。
これからも楽しく拝見させていただきます。
コメントいただきましてありがとうございます。
まさかこのようなコメントを頂けるとは思ってもいませんでした。
ただ仮にそうであってもそうでなくても、あの名称では結構な数の人が「ハイランドパーク」を連想したと思います。そこは一応モデル人物が居るとしても、あくまでドラマの話ですから、そういう設定という考え方も出来ますし、自分のように現実的に考えて当時スコットランドの、それもオークニー諸島のシングルモルトを飲めたとは思えないと考える人も居ます。
では現実はどうだったかというと、それらはあくまで可能性の話で、文献も何も残ってないわけですから、実際わからないんですよね。
ただ、ハイランドパークのスモーキーさは、アイラモルトとは異なり、ピートは植物系の内地のモルトに焚かれている構成に近いものです。
これは竹鶴がロングモーンのスモーキーフレーバーに心惹かれていたとしても、土屋氏の推察のようにジョニーウォーカーのスモーキーフレーバーだったとしても、現行品の中でその系統のフレーバーを味わうという意味ではアリだと感じるチョイスでした。
今はそのお仕事がきっかけでウイスキーを飲まれるようになったということですが、それも素晴らしい縁ですね。
もしこれからもウイスキーについて書かれることがあれば、それはまた違った視点で書いていけるのではないでしょうか。是非良い記事を書いていってください!
そして今後ともよろしくお願いします。