ボウモア No,1 “OUR No,1 MALT” 40%
BOWMORE No,1
OUR No, 1 MALT
Maturing in FIRST FILL BOURBON CASKS
700ml 40%
評価:★★★★★(5)
香り:穏やかでスモーキーな香り立ち。塩気を伴う磯っぽさがトップにあり、そこからグレープフルーツを思わせる柑橘香、微かにバーボンオークの華やかさが混じる。また、若い原酒にあるような、麦芽の焦げたような香ばしさと粘土のような香り、ドライな刺激も潜んでいる。
味:序盤は水っぽく感じるような口当たりの緩さで、広がりは弱い。徐々にオイリーな質感。ほろ苦い麦芽風味とピート、ボウモアらしいグレープフルーツの綿を思わせるフレーバー、土っぽい香りがピートスモークと共に鼻腔に抜けていく。余韻は穏やかでピートスモークの残滓が残るが、主張は強くなく短い。
粗さの残る若い原酒を、バーボン樽で味付けして加水で少々強引に整えた万人向け仕様。もう少し広がりや主張が欲しいところだが、こちらから拾いに行くとボウモアに求めているフルーティーさ、バーボン樽の個性はちゃんと感じられるので、悲観する味わいではない。また、若い原酒であるためか、アイラ的な要素がはっきり残っているのも面白い。
オススメは何と言っても濃いめのハイボール。最近流行りの強炭酸水を使って少量でも刺激が残るように仕上げれば、ボウモアフレーバーを楽しめる夏向きの1杯が出来上がる。ハイボール用なら12年よりこちらを購入する。がぶがぶ飲んでいきたい。
日本では2018年から発売されている、ボウモアのノンエイジ仕様。12年よりも低価格帯に位置付けられており、グレード的には以前スモールバッチとしてリリースされていたものの後継品ではないかと思われます。
また、似た名前のものとして、ハイプルーフ仕様のBowmore Vaults Edition No,1 がリリースされており、後継品と勘違いされているケースも見られますが、これは別系統のリリースとなります。
構成は1st fiillのバーボン樽熟成原酒が100%。比較的若い原酒を中心にバッティングされているものの、加水が上手く効いており、若さや近年ボウモアに見られる紙っぽさなど、ネガティブなフレーバーは気にならない仕上がりです。勿論、テイスティングでも触れた通り、加水が悪い部分を目立たなくさせた反面、ボウモア+バーボン樽という組み合わせから期待するだけのフルーティーさや、香味の勢いもトーンダウン。言うならば一般向け量産品かつ凡庸なウイスキーです。
ただ、フィルタリングはそこまで強く行われていないのか、量産品であっても決して無個性というわけではなく、ボウモアらしさに繋がるフレーバーは残されています。ストレートでは物足りないし、少し分離感もありますがハイボールなら問題なし。考えてみると、がぶがぶ飲みたいこれからのシーズンには悪くないボトルなんじゃないかと。
ベースの味はボウモアで、物足りなかったら、ボトラーズリリースのシングルカスクをちょっとフロートしてもいい。さながらジャケットはちゃんとしたブランドのものを着て、肌着、パンツはユニクロみたいな組み合わせ。普段飲みに何気に使い勝手の良いボトルです。
さて、最近のボウモアの傾向と言えば、この銘柄に見て取れるように、熟成庫No,1 VAULTS推しのブランド戦略があります。以前からボウモアのエピソードの一つとして語られていましたが、2016年にリニューアルされて以来、通常リリース全てにNo,1 VALUTSの表記が見られるなど、一層強くアピールされるようになりました。
No,1 VAULTSはボウモア蒸溜所のシンボルとも言える、白壁にBOWMOREと書かれた海辺に建つ第一熟成庫のこと。現行品の白地のラベルは、この壁をイメージしたデザインであるともされています。
ただし、白壁は熟成庫ではなくただの倉庫で、隣接する1つ奥のスペースにある建物がNo,1 VAULTSだという話もあります。実際、熟成庫の入り口は上の画像中央に見える黒い扉ではなく、一つ内陸側の建物にあるので、そこを見ての話かと思いますが、熟成庫は地下に造られているため、建物の下で壁側(海側)まで繋がっているのかもしれません。
(ボウモア蒸溜所周辺の航空写真。建物の形状、大きさ、位置関係等がわかりやすい。画像引用:https://canmore.org.uk/collection/1056623)
このブランド戦略には、蒸溜所の個性、ハウススタイルとの紐づけを、熟成環境によるものとしてアピールする狙いがあると言えます。潮気、磯の香りと言ったアイラ的な要素は、天候によっては海面が迫り、波が打ち付ける環境にあると整理すると、なるほどと思えるところはあります。
しかし、この手のフレーバーの由来については諸説あり、ピートや水等の原料由来であるとするほうが現実的であることから、個人的に熟成環境説には懐疑的です。また、写真を見てもわかる様に第一熟成庫はそこまで大きくなく、世界的に販売されているボウモア原酒全てを熟成できないという点もあります。
第一熟成庫というくらいなので、ボウモアには他にも熟成庫があります。蒸溜所から少し離れた丘の上(写真、黄色枠箇所)に並ぶ倉庫的な建物がそれ。積極的にPRされることはなく、外観にはボウモアのボの字もなく。。。敷地の隅に古びた小さな看板が確認できるのみ。つまり、昨今のリリースではごく一部の原酒が第一熟成庫から払い出され、名もなき熟成庫の原酒がバッティングされているのでしょう。
現実的な話をすると、この距離であれば熟成環境の違いは無いに等しく(第一熟成庫のほうが半地下なので、多少涼しいくらい)、香味の面で全く別物の原酒が混ぜられているなんてことにはなりません。しかしブランドの戦略として、あくまで第一熟成庫の原酒を(も)使ったと、そういう説明になっていくのだと考えます。
ウイスキー製造現場で、熟成庫が異なる場所にあるのは珍しいことではありません。某大手メーカーのように、蒸溜所とは全く違う場所や環境にある集中熟成庫で貯蔵して「海からの贈り物」的な説明がされるようなウイスキーと比較したら、蒸溜所近郊で熟成されているだけ良心的とも言えます。要するに説明の仕方、ブランド戦略と実態の話なんですよね。
(出荷する前に、丘の上から第一熟成庫に移してきて、1日経ったら払い出して第一熟成庫産なんてオチではない限り…w)
最近、サントリーは”シングルモルトの歩き方”という初心者向け情報誌と、スコッチウイスキーのセット販売を始めたようで、きっとこのNo,1 VAULTSについて知る人も増えてくるのでしょう。
この記事で触れた内容は、重箱の隅のような話かもしれませんが、広告から興味を持って、ある時触れられてない実態を知る。そのうえで興味をなくすか、そういうもんだと割り切るか、さらに興味を持つか。。。自分にとっての好きの形は何かを考えていくのが、嗜好品愛好家の歩む道なのかもしれません。
自分は結局ウイスキーは好きですし、ボウモアも好きですよ。