バランタイン17年 "魔法の7柱と構成原酒の真実" LIQUL掲載記事
BALLANTINE'S
AGED 17 YEARS
BLENDED SCOTCH WHISKY
Lot 2020~
750ml 40%
評価:★★★★★(5-6)
香り:ややドライで穏やかな香り立ち。洋梨や林檎等の白色果実を思わせる華やかでフルーティーなオーク香、乾燥した乾草や穀物のような軽く乾いたウッディネス。
味:コクがあってクリーミー、スムーズな口当たり。オーキーで華やかな含み香、グレーン由来の蜜のような甘さ、熟成したモルトの甘酸っぱさがアクセントにあり、微かなスモーキーさとほろ苦いウッディネスがじんわりと残る。
穏やかでバランスの整った味わい。アメリカンオークで熟成された内陸モルトらしい、華やかでフルーティーな香味と、グレーンのコクのある甘みが混ざり合い、近年のトレンドとも言えるキャラクターを形成している。
面白みは少ないが、実に飲みやすい。飲む温度によってキャラクターに変化があり、20度以上ではグレーンがオークフレーバーを後押ししながら前に出て、クリーミーな質感が強調される。一方で、20度未満だと線が細く爽やかな味わいとなり、ロックやハイボール等、冷やして飲むことでも強みが発揮される。繊細なバランスの上に構築された、ガラス細工のようなブレンドながら、飲み方とシーンを選ばない、ブレンダーの技が光る1本。
ザ・スコッチことブレンデッドスコッチウイスキーを代表する銘柄の一つである、バランタイン17年。
ジョニーウォーカー、シーバスリーガルと並んで、日本では”ど定番”とも言えるブレンデッドスコッチウイスキーですが、そのためか現行品をちゃんとテイスティングしたことがあるという人は少ないようにも感じます。
バランタインというと、マニアな愛好家ほど、赤青紋章、赤白紋章と、オールドボトルをイメージしてしまうかと思います。
実際、現行品とオールドのバランタインと比べると、モルト由来の香味はライトになり、それをグレーンの甘さで補っているところや、60~70年代のものと比較するとスモーキーフレーバーもかなり控えめで、癖が無いというか、面白みがないというか・・・愛好家の琴線を刺激する個性は強くありません。
ですが、軸となっているグレンバーギーに由来する華やかさや、近年のトレンドの一つと言えるオーキーなフレーバーは昔のリリース以上に際立っており、まさに王道と言える構成。じっくりテイスティングすれば、ミルトンダフやトファースに由来する麦芽風味が感じられるだけでなく、こうしたモルトの香味をまとめ、どう飲んでも崩れないバランスの良い味わいは、他有名ブレンドとは異なる造りと言えます。
ジョニーウォーカーが力のブレンドなら、バランタインは技のブレンドです。その場を壊さない、わき役としての働きから、飲み手の経験値に応じて表情も変わる。時代によって原酒の違いはあっても、ブレンダーの技は変わらない。現行品であっても楽しめるウイスキーなのです。
酒育の会 Liqul
Re-オフィシャルスタンダードテイスティング Vol.13
バランタイン17年 ブレンドの奥深さと”魔法の7柱の真相”
https://liqul.com/entry/5700
そんなわけで、先日公開されたLiqulのコラム 「Re-オフィシャルスタンダードテイスティング」では、バランタイン17年を取り上げてみました。
前半部分はバランタイン17年の個性や楽しみ方についてということで、あまり捻った内容にはなっていませんが、重要なのは後半部分です。
バランタイン17年と言えば、”The Scotch”に加えてもう一つ、”魔法の7柱(Ballantine's magnificent seven)"という構成原酒に関する通称があり、主観ですが、日本においては後者のほうがメディア、専門書等で多く使われている表現だと感じます。
魔法の7柱は、バランタイン17年が誕生した1937年からの構成原酒とされ、まさにバランタインのルーツという位置づけなのですが、実際はどうだったのでしょうか。本当に7蒸溜所の原酒がキーモルトとして使われていたのか。当時の状況を、各蒸溜所の操業期間や市場動向などを参照しつつ、考察した記事となっています。
要点だけまとめると、
・1937年当初、バランタイン17年は、”魔法の7柱”を用いてリリースされていなかった。
・主に使われたのは、グレンバーギーとミルトンダフ。
・残る5蒸留所は、1950年代のブランド拡張時期に結びつき、実際に7蒸溜所がキーモルトとして使われたのは1968年~1980年代後半まで。
・魔法の7柱のうち、バルブレア、プルトニーの操業期間が考察の鍵。
・1987年以降はブランドが他社に移行。構成原酒が変化。
ということで、”魔法の7柱”は1950-60年代、ハイラムウォーカー社が輸出を拡大する際、原酒確保のために傘下とした5蒸溜所の情報が、元々あった2蒸留所と合わさって”構成原酒”として誇張(あるいは誤解)されて伝わったのではないかと。
つまり「魔法の7柱なんて最初はなかったんだよ!(ナッ、ナンダッテー)」と、ブランドエピソードの核心部分に踏み込んだ内容となっています。
(バランタイン魔法の7柱が使われていた時代の17年、1960年代から1980年代初頭のラベル遍歴。一番右のボトルは1980年代後半、アライド社時代のものであるため、レシピ、フレーバー共に異なる。)
ちなみに、”魔法の7柱”を誰が最初に使ったかと言うと、1942年設立の輸出管理団体SWA:Scotch Whisky Associationであるとされています(ただし、時期不明)。また、それを誰が日本国内に広めたかというと、調べた限り60年代から80年代にかけては、正規代理店であった明治屋の広告※上記参照 には該当する記述が見られず・・・。初めて情報が出てくるのは、1988年から正規代理店となるサントリー・アライド社の発信のようです。
参照:https://www.suntory.co.jp/whisky/Ballantine/chp-06-e.html
現在の市場を見てみると、”魔法の7柱”は欧州等他国でほとんどPRに使われていないこともあり、いわゆるマッカランにおける“ロールスロイス”と同じようなモノだったと考えられます。
サントリーが正規代理店になった当時、既にアードベッグが創業を休止していたりと、キーモルトは変わっていた時代なのですが…。(アライド社時代、公式ページのキーモルトには、ラフロイグの表記があった。)
なお、現行品17年の公式ページからは”魔法の7柱”という表現は消えており、あくまで歴史上の1ピースという整理。キーモルトはグレンバーギー、ミルトンダフ、グレントファース、スキャパの4蒸溜所となっています。
紛らわしいのが「レシピは創業時からほとんど変わっていない」という説明ですが、このレシピというのは構成原酒比率ではなく、モルト:グレーン比率とかなんでしょう。このグレーン原酒についても、リリース初期に使われた原酒は不明で、1955年からはダンバードン蒸留所のものが使われていたところ。同蒸留所は2002年に閉鎖・解体され、現在はペルノリカール傘下、ストラスクライド蒸溜所の原酒を軸にしているようです。
これら構成原酒については、2018年から写真の3蒸留所のシングルモルトがバランタイン名義でリリースされたり、その前には〇〇〇エディション17年、という形で4蒸溜所の原酒を強調したレシピがリリースされるなど、ブランドがペルノリカール社傘下となってからは、新しい世代のバランタインをPRする試みが行われています。
ただ、新しい時代といっても、先に記載した通りグレンバーギー、ミルトンダフはバランタイン17年をブランド設立当初から構成してきた最重要原酒であり、実は核の部分は1937年から変わっていなかったりもします。量産分を補うため、トファースとスキャパが追加されていると考えると、実にシンプルです。
余談ですが、バランタイン・シングルモルトシリーズからスキャパ蒸溜所の原酒がリリースされなかったのは、同蒸留所が1994年から2004年まで操業を休止していたため(原酒そのものは、1996年からハイランドパークのスタッフが年間6週間のみアルバイトで操業しており、ブレンドに用いる量は最低限確保されていた)、シングルモルトに回すほどストックが無かったためと考えられます。後継品も出ていることから、少なくともシリーズの人気が出なかったことが原因…と言うわけではないでしょう。
休止の影響を受けた時代は2021年で終わりを告げ、来年以降は17年向けに確保できる原酒の量も増えてくることになります。バランタインは昨年17年以上のグレードでラベルチェンジを行ったところですが、また2022年以降どんな動きがあるのか。
香味だけでなく、現行の王道を行くスタイルを形成するブレンダーの技を意識して飲んでみると、面白いかもしれません。