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SABUROMARU 3 
THE EMPRESS 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY
Cask Strength
Heavily Islay Peated (45PPM) 
Distilled 2020 
Bottled 2023 
One of 1800 bottles
700ml 60% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:トップノートはレモンやグレープフルーツ、黄色を帯びた柑橘香、灰のような柔らかいスモーキーさ。微かに根菜、スパイス、オーク香。そして淡い薬品香を伴う。

味:コクのある口当たりから、グレープフルーツや柑橘、香ばしい麦芽風味、そしてピーティーなフレーバーがしっかりと広がる。中間以降は力強く、ジンジンとした刺激、奥にはバーボン樽由来のオークフレーバー。合わせて塩気やダシのような厚みがあり、ほろ苦くスモーキーなフィニッシュへとつながる。

今はまだ若さもあるが、全体的にネガティブなフレーバーが少なく、コクのある口当たりや柔らかいスモーキーさが女性的な印象も感じさせるモルトウイスキー。個人的な印象は、カリラとラガヴーリンに、少しアードベッグを加えたような…。
前半部分の口当たりの柔らかさやコク、雑味の少なさはZEMON由来、柑橘系のニュアンスは木桶発酵、そして余韻にかけての出汁感、繋がりのある味わいや柔らかく特徴的なスモーキーさはアイラピート由来と多くの新要素が感じられる。熟成感も過度に樽が主張しておらず、5年、10年後が楽しみな1本。

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年々進化を続ける若鶴酒造・三郎丸蒸留所。
今年については、映画「駒田蒸留所へようこそ」でも話題になっており、そのリリースにも注目が集まっているところ。いよいよ今年のシングルモルトリリース、三郎丸Ⅲ THE EMPRESS(女帝)が発売されました。

三郎丸蒸留所で、稲垣マネージャー主導で2016年から始まった大規模な再建計画と、三郎丸としてのブランドの立ち上げ。今回の原酒の仕込みの時期となる2020年は、その最終段階にして、若鶴酒造のウイスキーではなく、真に三郎丸蒸留所のハウススタイルやコンセプトを体現するウイスキーの仕込みが行われた年となります。
え、それはクラウドファンディング明けの2017年ではないのか、と思われるかもしれませんが、2017年〜2019年の仕込みは一部旧世代の設備等を用いているため、若鶴酒造のウイスキー事業として名もない蒸留棟だった旧時代から完全に切り替わったわけではありませんでした。

昨年リリースされたシングルモルト三郎丸Ⅱも、2019年に自社開発のポットスチルZEMONによって蒸留された原酒でリリースされていますが、2019年の蒸留の際に余溜として用いられたのは、前年2018年まで使用していた旧世代の改造ポットスチル時代のもの。
蒸留に難しさもあった2019年の原酒から、注意深くテイスティングすると旧世代の個性を感じるのはそのためです。

三郎丸蒸留所はコンセプトとして「THE ULTIMATE PEAT(ピートを極める)」とともに、目指すシングルモルトは「1970年代のアードベッグ」を掲げています。
2020年の仕込みからは、重要なポイントとなる“アイラ島で取れたピートで製麦したモルト”を原料に用いて蒸留することで、従来の内陸産ピート由来の野焼きのような強いスモーキーさから、柔らかく個性的なスモーキーさに変わり。
味わいへの影響としては、余韻にかけてダシっぽさやコク、あるいは塩味といったアイラモルトにも通じる個性が得られています。
また、これまでのリニューアルで手を入れられてこなかった発酵槽も新たに木桶を導入。これで原料、粉砕、糖化、発酵、蒸留、そして熟成。全ての行程が三郎丸仕様になり、目指すシングルモルトの姿に向け、大きな1歩を踏み出したのです。

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(アイラ島、ブルックラディ蒸留所近くのピートホグで採掘されたアイラピート。内陸ピートとは成分が異なり、アイラモルト特有とも言われるヨード香や塩気に由来すると考えられる。稲垣マネージャーが現地を訪問した際、自社の仕込みの量であれば契約可能であることが判明し、アイラピート麦芽の供給契約を締結。)

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(2020年から導入された木桶発酵槽。最初は1基だけだったが、のちに2基となった。96時間の発酵行程のうち、蒸留前の一定期間をホーローから木桶に移して実施する。これにより、乳酸発酵が促されて味わいの複雑さ、柑橘系のフレーバーが際立つ。)

三郎丸Ⅲ THE EMPRESSに関し、これまでのリリースからもう一つ変化があるのが、熟成における樽由来の成分の出方、樽感の濃さです。
過去のリリースと今作とで樽感を比較すると、三郎丸Ⅲのほうが淡く、スコッチウイスキー寄りのまとまり方をしている印象を受けます。
これは熟成期間のうち2022〜2023年の1年間、T&T TOYAMAの井波熟成庫に移して熟成をさせたため、その効果があったものと考えられます。
井波熟成庫は断熱を重視した部材、設計が用いられており、1年を通じて安定した熟成が可能となっています。

参考までに、以下写真の通り三郎丸ⅡとⅢの色合いを比較すると、Ⅱのほうが若干濃い色合いです。これが10年熟成原酒なら微々たる違いかもいれませんが、これらの原酒はまだ3年で、効果があったのはうちⅢの1年のみ。味についてもⅡの方が樽感がアバウトというか、濃くでた分原酒に馴染みきっていない印象を受けます。
一方で、樽感が若干淡くなったこともあり、今までより少し若いニュアンスが感じられるのも特徴かもしれません。しかし今回のリリースはあくまで3年熟成です。3年としては十分酒質は整っているのですが、樽感としても酒質としても、今後の伸び代が残されていると見ることが出来ます。

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以上のように、年々進化を重ねる三郎丸蒸留所のウイスキーの中でも、この2019年から2020年の間は、原料や設備のアップロードから非常に大きな変化があったことが感じられるリリース。少なくとも、これまでの三郎丸蒸留所のウイスキーと三郎丸Ⅲ THE EMPRESSとでは、全く違う印象を感じられると思います。

ちなみに、2020年の仕込みはアイラピートの他に、従来と同じ内陸産ピートでの仕込みも行われています。
稲垣マネージャーの話では、その原酒を用いたシングルモルトは2024年5月ごろ、「シングルモルト 三郎丸Ⅳ THE EMPEROR」としてのリリース予定とのこと。フェノール値はⅢが45、Ⅳが52でほぼ同じ。ピートフレーバーは熟成期間が長いほどこなれて馴染んでいくため、アイラピートと内陸ピートの個性の違いを学ぶという意味では、これ以上ないリリースになるかと。。。

それこそ今までは熟成環境由来とされていたアイラモルトの個性が、ピートに由来することが大きかったという事実から、ウイスキー愛好家として得られる経験値は大きいと思います。
言い換えるとアイラモルトを日本で作っただけでは?…ということもありません。オリジナルの蒸留器ZEMONは日本唯一です。
三郎丸蒸留所のファンは勿論、今までのリリースはあんまり…と言う方も、ぜひ飲んでみて欲しいですね。

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(三郎丸蒸留所限定で販売が始まった、三郎丸ランタン。ものづくり好きな稲垣マネージャーらしい公式グッズである。)