厚岸 シングルモルトウイスキー 芒種 55% 2021年リリース
THE AKKESHI
"BOSHU"
Single Malt Japanese Whisky
9th. season in the 24"sekki"
Bottled 2021
700ml 55%
評価:★★★★★★(6)(!!)
香り:トップノートはシリアルや乾煎りした麦芽の香ばしさと、焦げた木材、燻製を思わせるスモーキーさ。レモンピール、和柑橘、乳酸系のニューポッティーな要素も多少あるが、嫌な若さは少ない。オーク樽由来の甘いアロマと混ざって、穏やかに香る。
味:クリーミーで粘性があり、度数を感じさせない柔らかい口当たり。フレーバーの厚み、原料由来の要素の濃さが特徴として感じられる。ピーティーで柑橘の皮やグレープフルーツを思わせるほろ苦さと酸味、麦芽の甘みや香ばしさ、鼻孔に抜けるピートスモーク。オークフレーバーはそこまで目立たず、バランスよく仕上がっている。
余韻は塩味を伴うピーティーさ。軽い刺激を舌の奥に残し、若い原酒にありがちなくどさ、未熟感を感じさせず、麦芽由来の甘みと共にすっきりと消えていく。
これぞ厚岸モルトと言う個性を堪能できる1本。若い原酒の嫌味な要素が極めて少なく、それでいて原料由来の好ましい要素は厚く、濃く残している。コクと甘みのある麦芽風味と、そこに溶け込むスモーキーフレーバー。丁寧な仕事を思わせる作りであり、樽感もバーボン樽由来のオークフレーバーが主張しすぎない自然な仕上がり。磨けば光る”原石”というよりは、若くして光り輝く”神童”と例えるべきだろう。
4年程度と短熟でありながら、ストレートでも抵抗なく飲み続けられるが、少量加水すると若さがさらに目立たなくなり、原料由来の甘み、香ばしさ、フルーティーさが、ピートフレーバーと混ざりあっていく。ハイボールも良好。アイラ要素が無いので厳密には違うが、かつてのヤング・アードベッグを彷彿とさせる仕上がりで、漠然とした期待が確信に変わる1本。現時点で★7をつけようか真剣に悩んだ。
「これだよ、こういうのだよ!」
一口飲んで、思わず口に出してしまうくらいにテンションが上がった1本が、5月28日に発売となった厚岸蒸溜所 24節気シリーズの第3弾、芒種(ぼうしゅ)です。
これまで厚岸蒸溜所からリリースされてきた3年以上熟成品は、バーボン樽だけでなくシェリー樽、ワイン樽、ミズナラ樽と様々な樽で熟成された原酒をバッティングすることで構成された、複雑な味わいが特徴。若さを気にせず飲める反面、厚岸蒸溜所の作り出す酒質そのもののポテンシャル、特に今回のリリースで感じられる”コクと甘みのある麦芽風味”は、感じ取りにくくもなっていました。
今回のリリースは一転して、バーボン樽(リフィルやホグスヘッド含む)が主体と思われる単一樽タイプの構成。ミズナラ等多少異なる樽も使われているかもしれませんが、9割がたアメリカンオークでしょう。原酒は3~4年熟成のノンピートとピーテッドのバッティングで、ピート系のほうが多めという印象で、香味ともしっかりピーティーですが主張は強すぎず、一部国産麦芽”りょうふう”で仕込んだ原酒も使っていると思われる、柔らかい甘みと柑橘系を思わせるフレーバーが全体の厚みに寄与しています。。
現時点で厚岸蒸溜所からシングルカスクのリリースは出ておらず、酒質の味わい、特徴を楽しみたいなら、「芒種」はまさにうってつけと言うわけです。
近いリリースとしては、ニューボーンのNo,1やNo,2がありましたが、当時の原酒は今以上に若く、創業初期の原酒でもあったため、ハウススタイルは確立途中でした。
自分はニューメイクや3年前後熟成のカスクサンプルを飲む機会があったため、厚岸の酒質についてある程度理解し、この蒸溜所は凄いと確信を持っています。一方で、多くの愛好家はその点が未知数なまま、作り手のこだわり、立地条件、周囲の評価等、総合的な視点から、漠然とした期待を抱いていた部分もあるのではないかと思います。(これが悪いという話ではありません。)
今回のリリースは、先に触れたように、最も重要なファクターである酒質について焦点を当てて飲むことが出来るわけですが、それでいて若いから仕方ないだろと、開き直るような造りでもありません。これまでのリリースに見られる、少しでも良いものを、美味しいものをと言う作り手のこだわりが感じられつつ、酒質について漠然としていた部分が明確になる。厚岸蒸溜所の成長と凄さを、改めて感じて頂けるのではないかと思います。
とはいえ、一口に凄さといっても伝わりにくいかもしれませんので、一例を示すと、
厚岸蒸溜所ではウイスキー造りの仕込みで
・粉砕比率を常に均一化するため、徹底した管理を行う。(普通にやっていると、若干ぶれます)
・発酵の際に、麦芽の量に対して自分たちが目指す酒質に最適なお湯の量と温度を調べ、管理する。
蒸溜以外の行程にも重きを置き、毎年見直しながらウイスキー造りを行っているそうです。今後はここに、自社で精麦した北海道産の麦芽とピートが加わるなど、その拘りは原料にも及んでいくわけですが、丁寧な仕事の積み重ねが、原料由来の風味を引き出しているのだと感じています。
このように全ての香味には理由があり、ゼロから勝手に生まれるものではありません。ですが、理由があるといってもそれがわからないモノもあります。今回のリリースで言えば、味の中にある塩気、しょっぱさです。厚岸蒸溜所のリリースの中で、これだけ塩気を感じるのは初めてではないでしょうか。
厚岸蒸溜所は太平洋を望む高台にあり、潮風が強く届く場所にあります。海辺にある蒸溜所は、熟成途中に樽の呼吸で空気中の塩分が吸収され、味わいに塩気が混ざるという説はありますが、本当にそうなのかという点については疑問があり、実は明確な答えが出ていません。
※蒸溜所から見下ろす冬の厚岸湾。蒸溜所まで届く潮風が、今回のウイスキーのフレーバーに繋がったのだろうか。画像引用:厚岸蒸溜所Facebookより。
外気には塩気を含む成分があるでしょう、ですがそれが普段空気の入れ替えをしないウェアハウスの中で、ほぼ密閉状態にある樽の中にまで香味に影響するほど入り込むのかということです。
例えば、スコットランドではグレンモーレンジ蒸溜所は海辺にありますが、香味に塩気が混じるとは聞いたことがありません。逆にフレーバーに塩気があると言われるタリスカーは、蒸溜所こそスカイ島の海辺にありますが、熟成場所は本土の集中熟成庫であり、おおよそ香味に影響を及ぼすほど樽の中に塩分が入り込む環境とは言い難いのです。
この疑問については、ピートに含まれるフレーバーが塩気に繋がっているのではないかという説を自分は支持しています。特にアイラ島のピートですね。一方で、厚岸蒸溜所のモルトに使われたピートは、スコットランド本土内陸産だと聞いているため、それだけ塩分を含んだものかはわかりません。やはり気候が影響しているのか…厚岸蒸溜所の将来は間違いないと思えるリリースでしたが、同時に新たな謎も抱いてしましました。
ですが、こうした要素があるからこそウイスキーは面白いし、ワクワクさせてくれるんですよね。
※厚岸でのウイスキー用麦芽りょうふう栽培風景。画像引用:ウイスキー大麦 豊作願い種まき 厚岸の試験栽培 6ヘクタールに拡大:北海道新聞 どうしん電子版 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/543015
24節気において芒種は、”米や麦芽の種蒔き”に最適な時期という位置づけが裏ラベルにて触れられています。ピートフレーバーに含まれた土の香りと、酒質由来の麦芽の甘みは、まさにそうした景色をイメージさせるものであり。スモーキーさと爽やかな樽香は、夏が近づく今の時期にマッチしたリリースだと思います。それこそ月並みな表現ですが、愛好家という顔を赤くした蛍も寄ってくることでしょう。
前作「雨水」では、蒸溜所が目指す厚岸オールスターへのマイルストーンとして楽しみが増えたところですが、「芒種」では原酒や樽使いが限定されたことで見えてくる、ウイスキーそのもの将来の姿があります。3〜4年熟成の原酒でありながら、これだけのものに仕上がる酒質の良さ。後5年もしたらどれだけのものがリリースされるのか。。。今までのリリースで感じた以上に、厚岸蒸溜所の今後に期待せざるを得ないのです。