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カテゴリ:マルス

駒ヶ岳 7年 2013-2021 for Bar ICHINANA #1717 60%

カテゴリ:
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KOMAGATAKE 
(Heavy Peated Malt) 
Aged 7 years 
Distilled 2013 
Bottled 2021 
Cask type American White Oak #1717 
For Bar ICHINANA 7th Anniversary 
700ml 60% 

評価:★★★★★★(5-6)

香り:土っぽさの感じられる丸みを帯びたピート香、焚火のようなスモーキーさ。乾いた麦芽、柑橘、微かに蜂蜜。青菜の漬物を思わせる酸と合わせて、もみじおろしのような辛さと爽やかさが鼻腔を刺激する。和的な要素を連想するアロマ。

味:麦芽の甘みとピーティーでどっしりとした主張。スモーキーな含み香に、香り同様土っぽさ、オレンジ、オークの削りカス、徐々に乾いたウッディさへ。余韻は重みのあるピートフレーバーに微かに金属や根菜系のニュアンス、スパイシーな刺激を伴う。

このカスクはキラキラと華やかでわかりやすい味わいではない。ピートも樽感もどこか垢抜けなく、逆に言えば地味な感じで、地酒という表現がしっくりくる。近い傾向としてはスコットランド・アイランズ地域のいくつかの蒸留所があるが・・・香味にあるスパイシーさ、刺激は西洋的ではない和的な辛さで、この蒸留所の個性を強烈に伝えてくる。
少量加水するとスモーキーなアロマが引き立つが、独特のスパイシーな刺激は残る。

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信州は長野県伊那市にある、BAR ICHINANAさんの7周年記念プライベートボトル。
カスクナンバー1717という、BARの店名にも繋がるチョイス。そしてBARは店主が織りなす個性ある空間を楽しむ非日常の場所とするなら、このウイスキーもまた個性を楽しめる仕上がりであり、非常にユニークな1本だと思います。

そのウイスキーに彩りを加えるラベルに写るは、グラビアモデルの桜田茉央さん。それを写真界の巨匠・立木 義浩さんが撮影という、中身以外にも目が行くボトルです。
当ブログはウイスキーブログであり、ウイスキーにとって重要なのはウイスキーそのもの、ということで中身にフォーカスして紹介していきますが、昨今増えてきたコラボラベルの1つとして、ファンにとっては堪らない1本でもあるのだと思います。

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さて、このボトルですが、マルスウイスキー・信州蒸溜所の原酒…といっても、現在のそれから見て2世代前に当たる原酒です。
同蒸留所は1985年に信州で稼働、その後1992年に操業を休止。
2011年に19年ぶりに再稼働し、2014年にポットスチルを入れ替え。
2020年には蒸留所全体のリニューアルも実施しており、鉄製の発酵槽等古い設備が入れ替えられて現在に至ります。

つまり、今回の原酒が蒸留された時期である2013年は再稼働直後にあたり、旧時代の設備で作られていた時代の原酒ということになります。
昨今稼働の増えているクラフトウイスキーは、現在のトレンドに合わせてか、あるいは設備がそうした需要に合わせられて調整されているためか、洗練されて綺麗なニューメイクが作られることが多くあるところ。この原酒はそうした設備の影響を受けているのか、外観だけでなく個性としてもユニークなボトルに仕上がっています。

要素を一つ一つ見ていくと、まず若さという点ではそこまで目立ちません。
ヘビーピート仕様でピートフレーバーは内陸系ですが、オレオレと強く刺々しく主張するタイプではなく、どっしりとした重厚さがあり、若さを感じさせない要素の1つとなっています。
樽はアメリカンホワイトオークとのことですが、最近のバーボン樽のようなキラキラと華やかな主張ではなく、蜜っぽい甘みと穏やかなウッディさが加わっている。マルス蒸溜所にたまにある「昔から使い込まれてなんの樽かわからないけど、アメリカンオークであることは間違いないからアメリカンオーク」かもしれません。

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そして最大の個性は、香りにある「もみじおろし」のような爽やかなスパイシーさにあると感じています。
余韻にもこうした和的な刺激が混じりますが、なぜこうした要素があるのか。知人に重症重度のマルス愛好家が数名いるので話を聞いたところ、これは2019年まで使われていた「鉄製の発酵槽」によるものではないか、とのこと。
これらの要素が織りなす味わいは、地的というか和的というか、どこか田舎っぽさがあり、他のクラフトには見られない個性であると思います。

そのため、本リリースは通好みというだけでなく、好みがはっきり分かれるリリースとも言えるわけですが。。。
万人向けで表情の見えない、量産されたようなキラキラモルトより、多少垢抜けなくてもこれくらい尖った個性のあるモルトのほうが、個性を楽しむシングルモルトと言えるのかもしれません。
最後にBAR ICHINANA様、月並みかつだいぶ遅いですが、7周年おめでとうございます。


※以下、本リリース関係者参考情報※
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販売元:Liquor Shop TMC
https://liquor-shop-tmc.stores.jp/
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立木 義浩(たつき よしひろ、1937年10月25日 - )
日本の写真家。徳島県徳島市出身。
1980年NHKの朝の連続テレビ小説『なっちゃんの写真館』のモデルとなった立木写真館3代目・立木香都子の次男。
1958年、東京写真短期大学(現・東京工芸大学)を卒業。
「アドセンター」設立と同時に、写真家として活動を開始する。
作品は多岐に渡るが、主に人物を撮影するのを好む。
今のグラビアの撮影の草分け的存在。
エリザベス女王が来日した際の撮影も行う。
黒沢明にも信頼され黒沢作品のスチール撮影も担当。
特にウィスキーに造詣が深く「世界ウィスキー紀行: スコットランドから東の国まで」などの、撮影のみならず寄稿も行う。
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桜田茉央(さくらだ まお、1997年10月22日) 
2019年3月に芸能事務所に所属。 就職活動を行う中、21年間ずっとなりたかった女優への道も模索し、人生の一発逆転を狙うために「ミスマガジン2019」のエントリーシート提出。この時点では反対されるだろうと、父に相談も報告もしていなかった。 2019年8月に「ミスマガジン2019 審査員特別賞」を受賞
大学時代は建築デザイン科。現在二級建築士の資格取得の為に猛勉強中。
それが、縁で日建学院の全国CMに出演中。
桜田茉央 instagram
桜田茉央 twitter 

岩井トラディション シェリーカスク 40% マルスウイスキー

カテゴリ:
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MARS WHISKY 
IWAI TRADITIONS 
Sherry Cask Finish 
Blended Whisky 
Bottled in 2021
700ml 40% 

評価:★★★★★(5-6)

甘く柔らかい香り立ち。レーズンバターサンドのようなドライフルーツとクリームを連想するシーズニングシェリーの甘さとほのかな酸味に、焦げた焼き芋のようなビターで甘い穀物感、微かに油絵の具を思わせるチャーした樽材のエキスに由来する要素も感じられる。
口当たりは40%の加水らしい緩さ、少し水っぽくもある。奥行きもあまりないが、香り同様にダークフルーツやブラウンシュガーを思わせる甘みが含み香として優しく広がり、シェリーオークのビターなウッディネスが適度に余韻を引き締めていく。

ベースは岩井トラディション。複雑さ、スケール、どちらも目立ったところはない、内陸系モルトとグレーン主体のブレンデッド。ただ一つ、シェリー樽由来の香味が全面にあり、それを楽しむという1点に特化した見方をすれば、この価格帯でこの味わいは出物。前述のブレンドの傾向も樽感の引き立て役として、プラス要素に作用している。
香味ともアルコール感は目立たず、若さも感じない調整された状態であるため、ストレートでじっくり楽しむことをお勧めしたい。加水すると甘みよりもビターなウッディさが前に出てくるだけでなく、シェリー感が薄れるためか、時間経過で若い原酒のニュアンスも顔を出す。
少なくとも、シェリー樽に特化したスペイサイド地域の某有名蒸留所のスタンダード12年クラス以上の満足感がある。

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マルスウイスキーが2021年3月26日にリリースした、ブレンデッドウイスキー、岩井トラディションシリーズのシェリー樽フィニッシュ。
3000円台までのウイスキーで、デイリーに楽しめるジャパニーズブレンデッドと言えば、もうサントリーの御三家しかないという話をしていたところ。知人から「JWの基準には合致していませんが、岩井のシェリーは良いですよ。ちょっと飲んでみてください」とサンプルを頂きました。(いつも有り難うございます!)

マルスのフィニッシュ系リリースは久々に飲みましたが、これはいい出来です。
ロット単位で限定リリースとなるのは、クラフト故仕方ないところですが、価格も手頃でデイリーに使えるタイプです。何より日本の温暖な環境下での追熟に由来し、しっかりシェリー感、樽感が出ています。甘く柔らかいシェリー樽由来の香味がわかりやすく、これは愛好家から広く好まれそうな味ですよ。

昔のリリースに例えるなら、サントリーリザーブのシェリー樽仕立てですね。シェリー感の傾向は若干違いますが、樽とその“中身”と、そして環境をうまく使ったリリースだと思います。

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所謂輸入原酒、バルクウイスキーを使ったクラフトリリースは、日本産というメッキを剥がしてしまうと、中身は外国産ウイスキー100%というリリースが少なからずあります。

目指す香味をつくるためのパーツとして、バルクを使うのはアリだと思います。ですが、国内で追加熟成もしておらず、買ってきたバルクのまま、果てはブレンドアルコールを添加したものや、売りは日本の美味しい水(割り水)だけというモノまである中で、わざわざ輸送コストと人件費が追加でかかった、なんの美学も拘りもない割高リリースを前にすると、だったらスコッチでいいじゃん、フィディックとかマレイとかでいいじゃんと思えてきます。

今回テイスティングしたマルスのブレンド、岩井トラディションも、100%とは言わずともバルクウイスキーが相当量使われていると思われます。
味わいはプレーンで、ライトなブレンドですが、そこにシェリー感がうまく溶け込み、こういう要素に特化したリリースなんですと考えれば、作り手の狙い含めて楽しめます。レビューの通り、シェリー感なら某有名蒸留所のスタンダードよりわかりやすく、満足感もある出来です。
そう言えば、以前リリースされていたワインカスクやラッキーキャットとかも、こんな感じでわかりやすく濃厚な味に仕上がってたなと思い出しました。


ちなみに、今回のフィニッシュに使われた樽は、ペドロヒメネス(PX)シェリーカスクであるとされています。ただ、実際にスコッチモルトで熟成を経て出てくるPX樽の熟成感とは異なるタイプで、どちらかと言えばオロロソのシーズニングに近い香味が感じられる、甘いクリーミーさもあるシェリー感です。
恐らく樽に染み込んでいたものか、一部中に入っていた保湿用シェリーが、フィニッシュの短い期間に溶け出ているのではないかと推察します。(以前、他のクラフト蒸留所で飲んだシーズニングPX樽の2年熟成品とかも、こういう味がしていました。)いい意味で、アク抜きとして使えていますね。

現在、大手メーカーによるシェリー樽の調達は、シーズニングのものを何千樽と一度に調達して品質の安定を図る一方、ボデガ払い出しの長熟シェリーカスクは数が出ないため、メーカーが購入せずクラフトメーカーに回ってくることが少なくないそうです。
そうしてシーズニングではないシェリー樽を使ったと銘打ったリリースは、大手では小ロット過ぎて中々出せないですし、出来るとしたらクラフトやボトラーズだからこその取り組みと言えます。

それを今回考察したように、フィニッシュで2回、3回使った上で本格的に熟成に使うなら、価格も抑えられますし短期間で売り上げにもなる。あくまで個人的な予想ですが、岩井のようなフィニッシュリリースは、クラフトらしさと品質を両立出来る、現実的な提案なのだと思います。

津貫 ザ・ファースト 3年 59% & ピーテッド 3年 50% マルスウイスキー

カテゴリ:
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TSUNUKI 
”THE FIRST” 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 3 years 
Distilled 2016-2017 
Bottled 2020 
700ml 59% 

評価:★★★★★(5)

トップノートは熟してない青いバナナのような、硬さと酸を伴うアロマ。グラスをそのままにしていると、麦芽由来の甘みに加え、品の良いフルーティーさがとひっそりと立ち上ってくる。一方で、スワリングすると若い樽感が強めの刺激と共に解き放たれて、荒々しい要素が全体を支配する。複数種類の樽を使っていることでの変化だろう。味はスワリング後の香りの傾向で、パワフルで若い酸味を伴う麦芽風味、そして粗さの残るウッディさ。余韻はハイトーンで、微かにえぐみ、ハッカや和生姜のようなハーブ系のニュアンスを残す。

全体的にまだ若いため、大器の片りんを見せる一方で、それ以上に粗さ、強さが目立つ。ただし粗さといっても、オフフレーバーが強いわけではない。加水することで温暖な環境下で短期間に付与されたウッディさが軽減され、熟成した駒ケ岳に通じるリフィルシェリー樽由来と思しき品の良いフルーティーさと麦芽の甘みが開く。まさに原石という表現がぴったりくるウイスキーである。
近年、クリアで穏やか、度数を感じさせない若い原酒がクラフトシーンに多く見られる中で、津貫は真逆の強さの中に、麦感に粥的な甘みや淀みのある、クラシカルな原酒という印象を受ける。


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TSUNUKI 
"Peated" 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 3 years 
Distilled 2016-2017 
Bottled 2020 
700ml 50% 

評価:★★★★★(4ー5)

スモーキーでウッディな香り立ち。スモーキーさは柔らかく内陸系、ライト~ミディアムレベルの効き。ほのかに梅干しを思わせる酸味、奥にはエステリーな要素もあるが、それ以上に焦げたような樽感、カカオパウダーのような苦みを連想する要素が主体的。口当たりも柔らかくスムーズでスモーキー、出汁っぽい樽感があり、そこを支える麦芽風味と言う流れだが、全体的に骨格が弱い。
余韻は穏やかで落ち着いている。樽酒のようなウッディネスの中に若い原酒由来のえぐみのようなフレーバー、ピートと共に染みこむように消えていく。

バーボンバレル主体と思われるが、華やかでフルーティーな効き方ではなく、短期間でエキス分、チャー部分の焦げ感が効いている。馴染んでいくのはこれからというような、和的な材質の影響や、温暖な環境下での短期間熟成を思わせる仕上がり。ピートは内陸系で、ヘビーピートからライトピートまでいくつかの原酒を混ぜて調整しているのか、あまり強く主張しない。
THE ファーストと比較すると加水調整が強い分、粗さもまとめられているが、その影響か奥行きやフレーバーの骨格が弱い印象も受けた。もう少し様子を見ていきたい。

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長濱、三郎丸、安積、静岡ときて、津貫のレビューを掲載していませんでした。なので今回の更新では2020年に発売された津貫のファーストと、ピーテッド、同時テイスティングです。
どちらもBARのテイクアウト品となります。特に津貫ピーテッドは緊急事態宣言下での発売となり、しばらく飲めないと思っていましたがウイスキー仲間経由で手配いただけました。いつもありがとうございます!

津貫蒸留所はマルスウイスキー(本坊酒造)が2016年に鹿児島・津貫にある同社の焼酎蒸留所に併設する形で整備した、新しい蒸留所です。
マルスと言えば信州蒸留所ですが、これで冷涼な気候である長野・信州と、温暖な気候である鹿児島・津貫という2か所に製造拠点を持つことになりました。また、原酒の仕上がりを決める熟成環境としては、信州、津貫だけでなく、さらに温暖な環境となる屋久島エイジングセラーも整備しており、大手3社とは異なる原酒の仕上がりの幅、変化を実現できる環境が整っています。

マルスウイスキーの歴史を紐解くと、日本のウイスキー産業の黎明期から中心に近い立ち位置にあったにも関わらず、以下に例示するように時代や業界の流れに翻弄されてきた印象があります。結果論で見通しが甘かったと言ってしまえばそこまでですが、不運の連鎖の中にあるようにも。
一方、現代においては、2011年の信州蒸留所再稼働を皮切りに、この連鎖をたちきって事業が軌道に乗ってきているのではないかと思います。

例1:旧摂津酒造時代。竹鶴政孝をスコットランドに留学させ、日本初となる本格ウイスキー事業をに取り組むものの、不況により計画を断念。竹鶴政孝は1923年に寿屋(現・サントリー)で山崎蒸留所に関わる。
例2:ウイスキーブームを受けて自社でのウイスキー生産を再開※させるべく、1980年に信州蒸留所を竣工。1985年から操業を開始するも、日本のウイスキー消費量は1983年をピークに下降、ウイスキーブームは終焉に向かっており、熟成した原酒が揃う1990年代は酒税法改正等から冬の時代が訪れていた。1992年、信州蒸留所稼働休止。
※1960年に山梨にウイスキー工場を竣工。しかし販売不振から1969年に操業休止。当時はスコッチの税率が極めて高く、大衆ウイスキーとしてサントリーのトリス、ニッカのハイニッカ、ブラックニッカ等が主流だったが牙城を崩せなかった。例1から見れば、敵に塩を送った形とも・・・。

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(ウイスキー仲間のAさん経由で頂いた、津貫蒸留所で販売されている3年熟成のシングルカスクリリース。ノンピートタイプ(左)とピーテッドタイプ(右)。製品としての仕上がり、総合的な完成度は通常リリースに表れるが、酒質を見るなら、足し引きしない単一樽のカスクストレングスは欠かせない。)

今回のテイスティングアイテムである2種類のオフィシャルリリースですが、どちらも津貫蒸留所におけるノンピートタイプ、ピーテッドタイプのファーストリリースでありながら、その位置づけ、キャラクターの仕上がりは異なる点が興味深いです。

■津貫THE FIRST について
全体として荒々しさの残る、パワフルな仕上がり。近年、クラフトジャパニーズでは、若くても度数を感じさせない仕上がりが多く見られるなか、この津貫The First は蒸留所のコメントを引用すれば、"エネルギッシュな酒質"が特徴と言えます。

日本におけるウイスキー造りは、スコットランドをルーツとする一方で、北から南まで、例外なく温暖な時期がある環境は、スコッチタイプとは異なる仕上がりの原酒を産み出して来ました。特にその違いは、熟成期間とピークの関係となって現れます。
近年では、スコットランドに倣う、言わばクラシックな造りのニューメイクから、短期間の熟成を想定したクリアで未熟感の少ない、フルーティーさや柔らかさのあるニューメイクが造られるようになり、ひとつのトレンドとなりつつあります。

ところが津貫蒸留所で興味深いのは、確かに未熟香、雑味を減らしてはいるものの、力強い酒質を産み出そうとしている点です。
これはどちらかと言えば長期熟成を想定するスコットランド寄りのスタイルです。温暖で樽感が強く出るからクリアで飲みやすい酒質で短熟で仕上げようという、例えるなら台湾のカヴァラン的発想ではなく、逆に強い酒質で受け止めようという点は、他のクラフトジャパニーズとは異なるアプローチであると感じます。

また、その強さのなかには、ただ粗いだけではない、ハイランドモルトのキャラクターと言える粥のような麦の甘味が微かに感じられ、今後熟成を経ていくことで丸みを帯びて来るのではと予想される点や、フルーティーさも際立つだろう、大器の片鱗も見え隠れします。バーボンバレルも良いですが、アメリカンオークのリフィルシェリーカスクで、フルーティーさを後押しする樽使いもマッチしそうです。
熟成環境故に今後は総じて樽が強くなるとは思いますが、その成長曲線を上手くコントロール出来れば、他にはない個性的な原酒の仕上がりが期待でると予想しています。

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(津貫蒸留所の熟成庫。石蔵樽貯蔵庫の内部。津貫は信州に比べて温暖であり、エンジェルズシェアも信州が3%なのに対し、津貫は5~6%と2倍近い。流石九州、天使も酒好きか。)


■津貫Peatedについて
一方で、この津貫ピーテッドはどうしたのかと首を傾げてしまいました。
酒質はノンピート同様に雑味が少ないタイプ。ライトピートからヘビーピートまで、幅広くバッティングしたためか、ピート香もライト寄りに仕上がって柔らかく穏やか、ポジティブに捉えると飲みやすい。。。のですが、50%にしては緩い。全体的にパワーが足りないと感じてしまいます。
あれ、エネルギッシュな酒質は?序盤に記載したTHE FIRSTとのキャラクターの違いは、この点にあります。

ここで上記のシングルカスクリリースで酒質を比較すると、ピートタイプもしっかり強め。特段違いがあるようには感じられません。
実際、ノンピートとピーテッドで仕込みの仕様に違いはないとのこと。シングルカスクのほうは、ベースは同じく力強い酒質に、しっかりとピート。三郎丸等と同様に、ピート感がクリアではっきりと主張してきます。そこに樽のエキスが入り、ダシっぽいウッディさに梅を思わせる酸味も主張してくる。全体的に若く強い仕上がりです。

となると、ピーテッドリリースに感じた弱さは、バッティングの樽数に加え、加水の影響でしょうか。このファーストとピーテッドでの仕上げの違いについては、なぜどちらも同じ加水率、度数59%にしなかったのか、どんな狙いがあったのか、機会があれば質問してみたいですね。

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■最後に
津貫蒸留所では、津貫でのウイスキー造りに適した酒質を模索している最中にあります。
創業時からの変化としては、糖化工程でお湯の投入回数を増やし、3番麦汁まで取れるよう設備を増設しただけでなく、発酵工程ではディスティラリー酵母とエール酵母の混合発酵を行う中で、それぞれの酵母の強さ、種類(2020年度は7種類を試したとのこと)を模索したり、ピートレベルもノンピートから50PPMのヘビーピートまで、様々な仕込みを実施しています。
そのため、創業初期に比べて現在は酒質も変化してきているとの話も聞きます。

九州地方は、元々蒸留酒として焼酎文化の本場であるためか、昨今はウイスキー蒸留所の計画が複数あり。津貫、嘉之助に加えて宝山の西酒造も本格的に動き出すようです。
そんな中で、今回のリリースや、蒸留所限定のシングルカスクを飲んだ印象としては、他のクラフトにはない個性、パワフルな味わいに繋がるチャレンジだと感じました。個人的に、温暖な地域はキレイで柔らかめが向いていると思い込んでいたところに、津貫のリリースは「なるほど、こういうアプローチもあるのか」と。

津貫蒸留所の生み出すウイスキーには、まさに九州男児と言えるような、力強く、それでいて樽感や他の原酒を受け入れるおおらかさをもつ、太陽と青空の似合うウイスキーに仕上がっていくことを期待したいです。

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※本記事の蒸留所関連写真は、ウイスキー仲間のAさんに提供頂きました。サンプルの手配含め、本当にありがとうございました!

シングルモルト駒ケ岳 屋久島エージング 2020 53% 

カテゴリ:
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KOMAGATAKE 
Single Malt 
Yakushima Aging 
Distilled in Shinshu Distillery 
Matured in Yakushima Aging Cellar 
Bottled in 2020 
700ml 53% 

グラス:テイスティンググラス
場所:新宿ウイスキーサロン
時期:開封直後
評価:★★★★★(5)

香り:オーキーでウッディ、バニラの甘さと柑橘や若干の針葉樹系のハーバルさ。合わせて、焦げたようなスモーキーさを伴うドライな香り立ち。

味:口当たりはねっとりとしており、柑橘やバナナ、仄かに熟れたパイナップルを思わせる甘酸っぱいフレーバーがあるが、それが徐々に若い果実のような固い酸味に変わっていき、若さとして感じられる。中間以降は樽感が収まり乾いた麦芽風味やハイトーンな刺激。余韻は土っぽさを伴うピートフレーバー、燃えさしのようなスモーキーさがあり、それ以外は比較的あっさりとしている。

ねっとりとしたオークフレーバーがあり、酒質由来の酸味と合わさって甘酸っぱい味わいが特徴的なモルト。温暖な地域での熟成をイメージさせる構成であるが、一方で若い原酒が主体であるためか、粗削りな部分は否めないが、作り手の表現したいイメージが伝わるよう。また余韻にかけての若さはピートがうまく打ち消しており、将来への可能性を感じる1本でもある。

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信州蒸留所で蒸留した原酒を、本坊酒造の屋久島伝承蔵にある専用セラーで熟成させた、シングルモルトウイスキー。
蒸留所がある信州よりもさらに温暖な環境での熟成により、異なる個性を付与した1本です。

信州蒸留所が再稼働したのは2012年。屋久島エイジングセラーは2016年に新設されたものですが、その際に信州から屋久島、津貫へと熟成させた原酒を一部移していたため、必ずしも2016年以降の原酒で構成されているわけではありません。
とはいえ10年、20年熟成のものではなく、飲んだ印象は3~6年程度と一定の若さを連想する酸味や質感のある味わい。そこに強めに効いたアメリカンオークの樽由来のエキス、バニラや黄色系のフルーティーさにも繋がる要素を付与し、前述の酒質由来の要素と合わさってねっとりと甘酸っぱい味わいとして感じられます。

バッティングですので一概に比較はできませんが、信州蒸留所熟成のものとの違いは、例えば最近リリースされたリミテッドリリース2019や再稼働後のバーボンバレル系のシングルカスクなど、信州のものはどこか冷涼な爽やかさでスペイサイドモルトを思わせる樽感があり、一方で屋久島のこれは序盤の粘度の高い質感が熟れたバナナ等の果実のよう。
ウイスキー愛好家がイメージするトロピカルフレーバーとは当然異なりますが、なるほど確かにこれは信州とは違う熱帯感、どこか南国チックだぞと思わされるのです。

そうした序盤のフレーバー構成から、余韻にかけては急展開。ピートフレーバーが存在を主張してくるのですが、樽感もストンと落ちてしまう。そのため、酒質と樽感が馴染んでいるかと言えば、余韻にかけて分離しているような印象も受けます。
このあたりは若さなのでしょう。今はまだ粗削りですが、熟成の傾向としては熟成場所としての可能性を感じるリリースであり、伝わってくるイメージが環境とマッチしたものであるのが面白い。
これらの原酒が熟成を経て、それぞれの個性が馴染んでいくような成長を期待したいです。

駒ヶ岳 3年 2016-2019 ウイスキープラス 5周年記念 62% #3303

カテゴリ:
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KOMAGATAKE 
MARS WHISKY 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 3 years 
Distilled 2016 
Bottled 2019 
Cask type Bourbon barrel #3303 
For WHISKY PLUS 5th ANNIVERSARY 
700ml 62% 

グラス:国際規格テイスティング
時期:開封当日
場所:ジェイズバー
暫定評価:★★★★★(5)(!)

香り:若さに通じる酵母香と酸のある麦芽、ニューポッティーなアロマがあるが、それがスモーキーな要素のなかでシトラスや若い林檎を思わせる果実要素にも感じられる。

味:口当たりはフレッシュで爽やかな柑橘感、香り同様に酸味を伴う口当たりで、乾いた麦芽風味からじわじわとピーティーでスモーキーなフレーバーが広がる。
余韻はピーティーでほろ苦く、仄かにニューポッティーな要素が残る。

若いなりに整っていて、普通に飲めるモルト。若さが嫌みではなく、爽やかさと果実感に繋がっていて、ネガ要素もピートで程よくマスクされている。こうした原酒の素性の良さ故、今この瞬間以上に蒸留所の5年後、10年後への期待が高まる原石のようなモルト。

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輸入業者のエイコーンの販売店舗であるザ・ウイスキープラスの開店5周年を記念した限定リリース。3年と若い原酒ですし、あまり期待はしてなかったのですが、テイスティングの通りそれなりに飲ませる味わいで、驚かされました。

勿論、熟成感は年数なりで、この時点で突き抜けて素晴らしいとは言えないのですが、若いだけでない良さを感じさせてくれるんですよね。
ネガティブな要素が目立たず、ボディもそれなりにあり、特に熟成で消えづらい発酵したような要素や先天性のオフフレーバーに類するものが少ない。ピートの馴染みも現時点で悪くなく、20ppm故に原料由来、樽由来のフレーバーとも喧嘩していない。
このままバーボンバレルで綺麗に熟成したら、それこそ昔のピーティーな時代の内陸スコッチモルトを思わせる仕上がりになるのではと、将来性を感じるのです。
(最も、日本の場合は樽が強く出るためどうしても"綺麗に"、というのが中々難しいのですが。。。)

信州蒸留所は2014年末のオフシーズンに、休止前から使い続けて老朽化した蒸留器を交換し、形状はほぼそのままでリニューアルしています。
最初の年というのはどの蒸留所も設備の癖をつかむまで時間がかかると聞くところ、色々馴染んだ2年目は良い原酒が出来てきたのか。あるいは元々良いのか。また最近鉄製だった発酵槽を木桶に変更していますし、更なる変化も見込めそう。。。
お恥ずかしいながら、マルスの若いのは「まだ良いか」くらいに考えて、そこまで飲んできていないので相対評価が出来ません(汗)。
その点で、自分にとっては他のヴィンテージの現時点にも興味を抱くきっかけになる、文字通り興味深い1本でした。

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今日のオマケ:コノスル ピノ・ノワール 20バレル 2017

先日オマケに書いた、コノスルのシングルヴィンヤード・ブロックNo,21の上位グレード。お値段税込み2600円。Web上の評判は中々良いのですが、個人的にコノスルに2000円以上出すのはどうかなという、よくわからない抵抗感と、先のブロックNo,21が2000円以内の価格帯では一番好みということからくる「もうこれでええやん」という安定思考で、気にはなっていたものの手を出さずにいたワイン。

知人の後押しもあり、思いきって購入。
結果、評判通り良かったというオチ。
カリピノの日本市場で4000~5000円のワインにあるような、どっしりとした香味構成。初日は序盤の新世界ピノの熟したブルーベリーやカシス、赤黒系の果実を思わせる甘酸っぱさから、余韻にかけてしっかり目のタンニンと樽香が、軽いスパイスと共にグッと来る感じ。
これは後半部分がなんとかなれば。。。と思ってバキュバン保管で1日置いたところ、そのタンニンが馴染みはじめ、良い塩梅に変化。

また出張で家を空けたため、開封5日後バキュバン保管のブツを恐る恐る飲んでみましたが、普通に問題なし。
甘味が少し減った分、他の香味と混じってこなれて。。。これはこれで良い。かなりロングライフなワインなのですね。
つまるところ、新しいヴィンテージはデキャンタで速攻開かせても、今回みたいに時間をかけて飲んでも、あるいは熟成させても良いんじゃない?と。

ブロックNo,21はチャーミーというか、ベリー系のフルーティーさを支えるボディに少し軽さがあるので、そこが日本円3000円くらいののピノというイメージですが(それでも充分なコスパ)、この20バレルは確実にその上位グレードを意識した作りです。
今の自分の能力じゃ、まじでナパピノとの区別がつかない。。この価格でこれってスゴいんじゃね?という気付きを得られたので、即飲めるブロックNo,21以外に、じっくり飲んでいく20バレルの2種類をストック決定です。

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