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カテゴリ:イチローズモルト

イチローズモルト 清里フィールドバレエ 33rd 53% シングルモルトジャパニーズウイスキー

カテゴリ:
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KIYOSATO FIELD BALLET 
33RD Anniversary 
Ichiro’s Malt 
Chichibu Distillery 
Single Malt Japanese Whisky 
700ml 53% 

評価:★★★★★★★(7)

香り:メローでスパイシーなトップノート。松の樹皮、キャラメルコーティングした胡桃やアーモンド、艶やかさのあるリッチなウッディネス。奥にはアプリコットやアップルタルトを思わせるフルーティーさ、微かなスモーキーフレーバーがあり複雑なアロマを一層引き立てている。

味:口当たりはウッディで濃厚、ナッツを思わせる軽い香ばしさ、微かに杏シロップのような酸味と甘み。徐々に濃縮されたフレーバーが紐解かれ、チャーリング由来のキャラメルの甘さ、オーク由来の華やかさ、そしてケミカル系のフルーティーさが広がる。
余韻はスパイシーでほろ苦く、そして華やか。ハイトーンな刺激の中で、じんわりとフルーツシロップのような甘さとほのかなピートを感じる長い余韻。

香味全体において主役となっているのが、ウッディで新樽要素を含むメローでスパイシーな樽感。これは中心に使われているというミズナラヘッドのチビ樽によるものと考えられる。
また、アプリコットなどのフルーティーさやコクのある甘さにシェリー樽原酒の個性が、さらには秩父の中でもたまに見られるアイリッシュ系のフルーティーさを持った原酒の個性がヒロインのごとく現れる。その他にも、スパイシーさ、ピーティーさ、香味の中から登場人物のようにそれぞれの秩父原酒の個性が交わり、複雑で重厚な1本に仕上がっている。原酒の熟成は平均10年程度、高い完成度と技量を感じる。

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昨年8月に公演された、第33回清里フィールドバレエ「ドン・キホーテ」。その記念となるウイスキーが2023年5月15日に発表されました。
毎年、清里フィールドバレエのリリースにあたっては、その発起人である萌木の村の舩木上次氏が知人関係者にサンプルを配布されていて、今年もご厚意で先行テイスティングをさせていただいています。いつも本当にありがとうございます。

清里フィールドバレエの記念ウイスキーは、そのストーリーやフィールドバレエそのものをウイスキーのブレンドに反映して、25期の公開からサントリーとイチローズモルトで毎年作られてきました。
2020年までは、サントリーでは輿水氏、福璵氏が白州原酒を用いて。イチローズモルトでは肥土氏がブレンダーとして、羽生原酒と川崎グレーン原酒を用いて。
2021年からはイチローズモルトの吉川氏がブレンダーとなって、秩父蒸留所の原酒を使って、まさに夢の饗宴と言うべきリリースが行われています。

あまりに歴史があり、これだけで冊子が作れてしまう(実はすでに作られている)ので、本記事では直近数年、秩父のシングルモルトリリースとなった2021年以降に触れていくと、バーボン樽原酒とチビ樽のピーテッド原酒で白と黒の世界を表現した「白鳥の湖」。
ポートワイン樽原酒を用いて女性的かつミステリアスな要素が加わった「眠れる森の美女」。
それぞれのリリースがフィールドバレエの演目を元にしたレシピとなっており、グラスの中のもう一つの舞台として、更に贅沢な時間を楽しむことができます。

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※清里フィールドバレエが開催されている山梨県・萌木の村は、2021年に開業50周年を迎えた。その記念としてアニバーサリーシングルモルトが、秩父蒸留所のシングルモルトを用いてリリースされている。今作とは異なり華やかさが強調された造りで、こちらも完成度は高い。

一方、今回の記念リリースは舞台ドン・キホーテをイメージしてブレンドされているわけですが、正直見て楽しい演目である一方で、ウイスキーとして表現しろと言われたら…、これは難しかったのではないでしょうか。
造り手が相当苦労したという裏話も聞いているところ、個人的にも香味からのイメージで、老騎士(自称)の勘違い冒険劇たる喜劇ドン・キホーテを結びつけるのは正直難しくありました。

今回のリリースのキーモルトとなっているのは
・ミズナラヘッドのチビ樽(クオーターカスク)原酒
そこに、
・11年熟成のオロロソシェリー樽原酒
・8年熟成のヘビリーピーテッド原酒
という3つのパーツが情報公開されています。
これらの情報と、テイスティングした感想から、私の勝手な考察を紹介させていただくと。
通常と少し異なる形状のチビ樽原酒、つまりウイスキーにおける王道的な樽となるバーボンやシェリーではなく、個性的で一風変わった原酒を主軸に置くこと。これが舞台における主人公、ドン・キホーテとして位置付けられているのかなと。

そして、このチビ樽原酒に由来する濃厚なウッディさと、幾つもの樽、原酒の個性が重厚なフレーバーを紡ぐ点が、登場人物がさまざまに出てくる劇中をイメージさせてくれます。
特に中間以降にフルーティーで艶やかな、女性的なフレーバーも感じられる点は、まさに劇中におけるヒロイン、キトリ登場という感じ。
しかも余韻が樽感ではなく、ほのかなスモーキーさで引き立てられる点が、キトリと結婚することになるバジルの存在…、といったキャスティングなのだろうかと。口内に残るハイトーンでじんじんとした刺激は、さながら終幕時の万雷の拍手のようにも感じられます。

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※清里フィールドバレエ「ドン・キホーテ」
画像引用:https://spice.eplus.jp/articles/301927/amp

ただ、このリリースをフィールドバレエというよりウイスキー単体で捉えた場合、純粋に美味しく、そして高い完成度の1本だと思います。
造り手がベストを尽くした、一流の仕事。萌木の村に関連するリリースに共通する清里の精神が、確かに息づいている。秩父蒸留所の原酒の成長、引き出しの多さ、そして造り手の技量が感じられますね。

実は自分は秩父の若い原酒に見られるスパイシーさ、和生姜やハッカのようなニュアンス、あるいは妙なえぐみが得意ではなく、これまで秩父モルトで高い評価をすることはほとんどなかったように思います。
ただ10年熟成を超えたあたりの原酒のフルーティーさや、近年の若い原酒でも定番品のリーフシリーズ・ダブルディスティラリーの味が明らかに変わっている中で感じられる要素、そしてブレンド技術やニューメイクの作り込みと、流石に凄いなと思うこと多々あり、既に昔の認識のままでもありません。

良いものは良い、過去秩父蒸留所のモルトを使った清里フィールドバレエ3作の中では、今回の1本が一番好みです。
発表は5月15日、一般向けの抽選発売は5月20日からとのこと。萌木の村のBAR Perchをはじめ、国内のBARでももちろん提供されるはずですので、その際は、当ブログの記事が複雑で重厚な香味を紐解くきっかけの一つとなってくれたら幸いです。

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イチローズモルト 神田バーテンダーズチョイス 2023 60% #7163

カテゴリ:
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ICHIRO’s MALT 
KANDA BARTENDER’S CHOICE 2023 
Single Cask World Blended Whisky 
Cask No, 7163 (2nd fill Bourbon Barrel) 
Selected by Kanda Bar Society 
700ml 60% 

評価:★★★★★★(6)

香り:キャラメルナッツを思わせる甘さと軽い香ばしさ、古い家具、微かにオレンジのような果実香が混ざる。

味:口当たりはメローでボリューミー、オレンジカラメルソースやチョコウェハースからスパイシーなフレーバー。微かにフルーティー。入りはグレーンの個性から徐々にモルトの個性に切り替わっていく。
余韻はスパイシーでウッディ、紅茶を思わせる淡い甘さとタンニンがあり、長く続く。

第一印象はグレーンというよりも、バーボン系のウッディさ。ヘビータイプグレーンを思わせる色濃い甘さとウッディさがあり、その個性をモルトが引き算しつつ、スパイシーさとフルーティーさが足し算されている。モルトとグレーンの比率は4:6程度と予想。全体的に若い印象はなく、トータル10年程度は熟成されているようだ。
時間をかけてマリッジした複数の原酒の、異なる2つの個性が足し引きされ、融合したような味わいが面白い。

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2年に一度、神田祭りの開催と合わせてリリースされる記念ボトル第6弾。
2013年に第一弾の羽生がリリースされてから10年、その間、神田の飲食店はウイスキーブーム、インバウンド増からの感染症と、まさに急転直下。その苦労は各位計り知れないものだったと思われますが、こうしてリリースが続いたこと、またこのボトルを飲むとができたことを、一人の愛好家として嬉しく思います。

今作は秩父蒸留所のモルト原酒と、輸入モルトウイスキー、輸入グレーンウイスキーを1樽分ブレンドし、2nd fill バーボンバレルで約7年間マリッジしたという1本です。
ブレンドした時点で秩父のモルト原酒は3年程度の熟成だったそうで、7年強のマリッジ期間を合わせると使われている秩父はトータル10年程度の熟成品。最初のリリースから10年という節目のボトルにぴったりなリリースとも感じます。

ブレンド比率は香味からの予想で、だいたいモルト4:グレーン6。
グレーンの中でもしっかり色の付いたバーボン系のヘビータイプグレーンが使われている印象で、ブレンド比率は秩父モルト2、輸入モルト2、輸入グレーン(英国)2、輸入グレーン(カナダ)4あたりでしょうか。
これらがセカンドフィルで主張の穏やかなバーボンバレルの中で混ざり合い、追加熟成を経た結果、例えば新樽後熟でつくような後付けで個性を圧殺する強い樽感ではなく、元からあった樽感が混ざり、こなれたような熟成感に繋がっています。

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※神田祭り記念ボトル、2021(右)と2023(左)。どちらもシングルカスクブレンド。2021の方が色が淡く、若いバナナや柑橘類を思わせる酸味とプレーン寄りの甘さが感じられる。メローでスパイシーな2023とは構成が大きく異なり、好みも分かれそう。自分は2023のほうが好み。

一方で、今回のリリースで非常にわかりにくかったのが改正表示法に基づく裏ラベルの表記です。
原料原産地名:英国製造、カナダ製造(グレーンウイスキー)
見ての通り国内製造表記がなく。あれ、ひょっとして輸入原酒だけで作られているのか?と、ラベル画像を二度見三度見。。。
結論は、先に書いてある通り秩父原酒がちゃんと使われているわけですが。これは英国製造には2つないし3つの意味があったということです。

英国製造は
・英国で製造(製麦)したモルトを原料として秩父蒸留所で蒸留、熟成したモルトウイスキー。
・英国で製造(蒸留、熟成、ブレンド)されたバルクモルトウイスキー。
・英国で製造されたバルクグレーンウイスキー。
つまり、原料としての英国製造と、輸入原酒としての英国製造が重なった表記だったのです。
そしてそこに、カナダで製造されたバルクグレーンウイスキーが合わさって、全体で最も多く使われているのがグレーンウイスキーであるため(グレーンウイスキー)として表記される。

…いや、わっかんねーよこれ。
表示法の改正は、国民が原料等使われているものを理解しやすくするためって趣旨があったはずなのに、余計混乱を生じさせる記載になっています。
まあ他の酒類だとあまりこういうことはなく、ウイスキーが特別なんですが、個別に捕捉の情報を発信していかないと、いらぬ誤解を生じさせてしまいそうだなと危惧します。ベンチャーウイスキーさんもそこまで個別のボトルの情報を発信しませんしね。
その補足に私のブログが役立てば幸いですが…。

なんだか話が変わってしまいましたが、メローでスパイシーで、個人的には結構好みなボトルでした。ぜひ神田のBARでお楽しみください。

清里フィールドバレエ 32回開催記念 イチローズモルト 秩父 58% 眠れる森の美女

カテゴリ:
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Ichiro's Malt 
(Chihibu Distillery) 
Single Mlalt Japanese Whisky 
Kiyosato Field Ballet 
32nd Anniversary 
700ml 58% 

評価:★★★★★★(6)

香り:黒砂糖やオランジェットの甘い香り、紹興酒を思わせる香ばしさ。奥には赤系のドライフルーツ、微かに針葉樹のようなハーバルなニュアンスも伴う。徐々にベリーやオレンジ、ドライフルーツのアロマが強く感じられる、多彩な樽香が複雑に絡む重厚的なアロマ。

味:リッチでボリューミー。シェリー樽やワイン樽を思わせる色濃い甘さが、奥からオーキーな華やかさを伴って広がる。続いてビターなウッディネス、微かに椎茸やアーモンド、酒精強化ワインの要素。余韻は口内のパチパチとした刺激を伴い、長く綺麗に纏まっている。

第32回フィールドバレエの演目であった「眠れる森の美女」をテーマとして、秩父蒸溜所のモルト原酒をブレンドしたシングルモルトウイスキー。女性的な要素を表現するためにポートワイン樽の原酒が使われ、バーボン樽原酒のフルーティーさ、華やかさをベースに、香味の随所で特徴的な要素が感じられる。
引き出しの多いウイスキーで、初見では香味の認識や表現を難しく感じてしまうかもしれない。大きめのグラスで空間を使って開かせると複雑で芳醇に。少量加水でベリー系の果実感が眠りから目覚め、好ましい要素を引き出すことが出来る。

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毎年夏に開催される、バレエの野外公演“清里フィールドバレエ”。
2014年の定常公演25周年からリリースが続く、清里フィールドバレエ記念ボトルの最新作。基本的には萌木の村のBAR Perchで提供されていますが、3/1に一般向けにも発売されて、即完売となったようです。
Twitterのほうで昨年12月にレビューを投稿しておりましたが、発売を受けてブログの方でも詳しくまとめていきたいと思います。

リリースの系譜は、
25thが白州メインのピュアモルト。
26th〜29thが羽生と川崎メインのブレンデッド。
30thが白州シングルモルト30年。
31thと32ndは秩父のシングルモルト。
イチローズモルトとサントリーからそれぞれ記念ボトルがリリースされてきましたが、長期熟成原酒で構成されてきた30周年までのリリースと異なり、31thからは秩父蒸留所の原酒がメインとなって、リリースの傾向が変わった印象を受けます。

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それは単にシングルカスクでリリースするのではなく、複数樽バッティングのシングルモルトとして31th、32ndともそれぞれ軸になる原酒があり、演目のストーリーに合わせて香味を作るブレンダーの狙いを紐解いていく面白さもあります。
例えば第31回の演目は白鳥の湖。同演目のテーマは光と闇。これは7年熟成の秩父モルトのバッティング。光をイメージするオーキーでフルーティーな原酒に、闇のパートは色濃くピーティーに仕上がったチビ樽原酒を用いて表現されていました。

そして2021年の夏に公演された第32回清里フィールドバレエの演目は「眠れる森の美女」。
前作に続いて、難しいオーダーです。ブレンドに使われた原酒は7樽から、バーボン、シェリー、ワイン…様々な香味要素がある中で、酒質は前作とは異なりノンピートがメインで、うち女性的な香味をポートワイン樽で表現されているのだと思います。ただ、これは狙って造られたのか、自分の考えすぎかはわかりませんが、このウイスキーはテイスティングで触れたように紐解くのに時間と工夫が要る、ちょっと難しさを感じるものです。

それはトップノートにある重く霞がかかったような、シェリーや紹興酒を思わせるアロマ。果実味、華やかさ、ウッディな要素、好ましいと感じる香味要素の上に”それ”があることで、少し近づきがたい印象を受けてしまいます。
もちろん、そのままテイスティングしてマズいとか、そういう類のものではないのですが…。演目に倣って表現するなら、王女を眠りから覚ますには、王子様の口づけが必要なのだと。

ここで王子の口づけに該当するのが、少量の加水、そして大ぶりなグラスです。
色々試しましたが、この組み合わせが一番全ての要素を引き立ててくれました。グラスに注ぎ、スワリングすることで、城を覆う暗い木々と茨の森とも言える上述の重たい霞が晴れていき、奥から好ましい要素が湧き上がってきます。
そして少量加水。100年の呪いが解ける変化と言うには大げさですが、先に触れたシェリーや紹興酒を思わせるアロマが逆転し、グラスの中で芳醇で複雑なアロマを形成していくのです。

勿論この演目は様々なストーリーパターンがあるように、今回の自分のレビュー(解釈)がすべて正しいわけではありません。
ただ、良いウイスキーであればこそ、一つの視点で見るのではなく、時間をかけて、あれこれ考察しながら様々な飲み方を試してみる。これぞ嗜好品の楽しみ方です。
今回も萌木の村の舩木村長からテイスティングの機会を頂きましたが、じっくりテイスティングさせて頂いたことで、贅沢な時間を過ごすことが出来ました。

素敵なプレゼントをありがとうございました。
一昨年、昨年と伺えておりませんが、今年こそ清里に伺いたいですね。
改めまして、御礼申し上げます。


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余談:大ぶりなグラスについて
今回のテイスティングでは、いつもの木村硝子のテイスティンググラス以外に、ガブリエルグラスを使っています。
「すべての酒類の魅力をこのグラス1つで引き出せる」というのがこのグラスのウリ。ホンマかいなと、赤、白、日本酒、ウイスキー、ブランデーと色々使ってみましたが、確かにそれぞれの香りの構成要素をしっかり引き出して、鼻孔に届けてくれる気がします。口当たりも良いですね。

ただ、構成要素を引き出すのはそうなんですが、良いところも悪いところも誤魔化さずに引き出してくるので、例えば若い原酒主体で繋がりの粗いブレンドとかだと、思いっきりばらけてしまいます。
先日、とある企画で試作したレシピの1つは見事に空中分解しました(笑)。
今回のようにテイスティングツールの1つとして、ウイスキーの良さを違う角度から引き出すだけでなく。例えばブレンドの試作をした後、その仕上がりを確認する際にも活用できそうです。

清里フィールドバレエ 2020 白鳥の湖 63% イチローズモルト 秩父蒸留所

カテゴリ:
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Kiyosato Field Ballet
31th Anniversary 
Ichiro's Malt 
Single Malt Japanese Whisky
Chichibu Distillery 
Aged 7 years 
1 of 680 Bottles 
700ml 63%

暫定評価:★★★★★★★(6ー7)

香り:甘やかで穏やかに立ち上る熟成香。トップノートに梅や杏を思わせる酸が微かにあり、アーモンドを思わせる香ばしさと、ほのかに酵母やピーテッド麦芽そのもののようなスモーキーさ、麦芽香が続く。グラス内で刻々と変化する個性のみならず、その残り香も実に魅惑的。秩父らしいスパイシーさと、長期熟成したウイスキーをも連想するウッディで甘酸っぱい樽香が感じられる。

味:しっとりとした口当たりから反転して力強い広がり。序盤は秩父原酒らしいハッカ、和生姜を思わせるスパイシーさが一瞬あった後、置き換わるようにウッディな甘み、微かに林檎のカラメル煮、オレンジジャム、古典的なモルティーさが穏やかなピートフレーバーを伴って広がっていく。
余韻はフルーティーな甘みとモルティーな香ばしさ、ジンジンとした刺激はゆったりと落ち着き、微かに残るピート香がアクセントとなる、官能的なフィニッシュが長く続く。

ノンピートモルトとピーテッドモルト、2樽合計4樽のバッティングとのことだが、それ以上に感じられる複層的な味わい。ノンピート3樽、ピーテッド1樽という構成だろうか。香味に起承転結があり、序盤は秩父らしい個性の主張がありつつも、余韻にかけてピーテッドの柔らかいスモーキーさと、モルティーな麦由来の古典的な甘みに繋がる。度数63%に由来する香味の厚み、広がりがある一方で、それを感じせない香りの穏やかさと口当たりの柔らかさも特徴と言える。

少量加水すると甘酸っぱさ、オールドモルトを思わせる古典的なニュアンスが前面に出て、スモーキーフレーバーと交わり一体的に広がっていく。ジャパニーズらしさと、在りし日のスコッチモルトを連想する要素が渾然一体となった官能的な味わいは、間違いなく愛好家の琴線に響くだろう。
それにしても、秩父モルト2樽だけでこの味わいがつくれるとは、俄に信じられない。麦芽か、樽か、通常とは異なる特別な何かが作用しているように感じる。こうしたミステリアスな要素がウイスキーの魅力であり、面白さである。

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山梨県・清里、萌木の村で毎年8月に開催されているバレエの野外公演。定常公演としては日本で唯一という”清里フィールドバレエ“の第31回公演を記念したボトルが、2020年夏から遅れること約半年、3月下旬からリリースされることとなりました。
本サンプルは、リリースに先立って萌木の村 舩木村長から頂いたものです。ボトルの提供はBAR Perchで先行して行われており、今後は一部BARを中心に関係者限りで展開されていくとのことです。

清里フィールドバレエ記念ボトルは、第25回記念としてサントリーから特別なブレンドが。第26回から第29回はイチローズモルトから羽生原酒と川崎グレーン原酒を使ったブレンデッドウイスキーがリリースされていたところ。これだけでも伝説と言うには十分すぎるリリースでしたが、節目となる2019年第30回開催では、再びサントリーから白州30年という過去例のないスペックのボトルがリリースされていました。
※過去作のレビューはこちら

一方、別ルートで聞いた話では、イチローズモルトに羽生原酒と川崎グレーン原酒のストックはほとんど残っていないとのこと。サントリーも毎年毎年協力出来るわけではないでしょうし、ならば今後、フィールドバレエとして過去作に相当するスペックのボトルがリリースされることは難しいのでは・・・と。実際、2020年夏を過ぎてもリリースの報せはなく、第30回をもって記念リリースは終わってしまうのかと、そう感じてすらいました。
(そうでなくても、第30回の1本は、フィールドバレエシリーズのフィナーレと言われても違和感のない、奇跡的なリリースでもありました。)

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ですが、コロナ禍にあっても第31回清里フィールドバレエが開催されたように、ウイスキーとしてのフィールドバレエも終焉を迎えた訳ではありませんでした。
同ウイルスの影響で苦しい想いをしている関係者、BAR・飲食業界に少しでも活気を、前向きな気持ちを与えることが出来たらと、舩木村長がイチローズモルト・秩父蒸留所を訪問して直接オファー。
今作は、秩父蒸留所のモルト原酒のみで造る、全く新しいチャレンジとしてフィールドバレエ記念ボトルがリリースされたのです。

今作のテーマは、第31回フィールドバレエの演目であった「白鳥の湖」です。
そのストーリーを構成する白と黒、善と悪の要素に照らし、スタンダードな個性のノンピートタイプの秩父モルトと、ピーテッドタイプの秩父モルト、正反対な2つの原酒が選ばれ、ブランドアンバサダーでもある吉川氏によってバッティングされたものが今作のシングルモルトとなります。

熟成年数は7年、使われた樽は4樽(うち1つはチビ樽)、ボトリング本数は680本とのこと。バーボンバレルからのボトリングでは、同じ年数だと180~200本程度となるのが秩父蒸留所で良く見られるスペックであるため、4樽のうち3樽がバーボンかホグスヘッドとすれば、ほぼ全量使われているものと考えられます、少なくともどちらか片方の樽は、最低500本程度は取れる、大きな樽で熟成した原酒が使われたのではないかと推察されます。

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それでは、この新しいチャレンジとも言えるリリースを、香味で感じられた要素から紐解いて考察していきます。

香りのトップノートは度数63%を感じさせない穏やかさ。ウイスキーには香りの段階である程度味のイメージが出来るものが少なからずありますが、このウイスキーは逆に香りから全体像が見えないタイプで、ピートスモークの奥にあるフルーティーさ、甘やかな熟成香に味への期待が高まる。まるでステージの幕がゆっくりと上がり、これからどのような展開、演出があるのかと、息を飲む観客の呼吸の中で始まる舞台の景色が連想されるようです。

飲んでみると、香り同様に穏やかな始まりで、バーボン樽とは異なる落ち着きのあるウッディな甘みがありつつ、力強く広がる秩父モルトの個性。これはノンピート原酒に由来するものでしょうか。秩父モルトの殆どに感じられる独特なスパイシーさ、そこからモルティーな甘みとピーティーなほろ苦さ、穏やかなスモーキーさへと、まさに白から黒へ場面が変化していきます。

物語において、結末はその印象を決定づける重要な要素です。
本作は、スモーキーフレーバーをアクセントに、リフィル系の樽の自然なフルーティーさ、ウッディな要素、そしてモルト由来の香ばしさと甘みが渾然となり、白と黒の個性が混ざり合うフィニッシュへと繋がっていく。軽く舌を痺れさせた刺激は観劇を終えた観客から響く喝采のようでもあり、名残を惜しむように消えていくのです。

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(直近リリースでバーボン樽系ではないフルーティーな秩父としては、THE FIRST TENがある。このリリースに感じたリフィルシェリー系のフルーティーさは近い印象があるものの、スモーキーさと後述する特別な要素で、異なるウイスキーに仕上がっている。)

ここで特筆すべきは、樽由来の要素として1st fillのバーボンやシェリー樽といった、俺が俺がと主張してくるような強い個性ではなく、麦芽由来の風味を引き立て、穏やかな甘みとフルーティーさをもたらしてくれる引き立て役としての樽構成です。その点で、このリリースに使われた樽は香味から判別しにくくあるのですが、バーボン樽だけではない複雑さがあり、なんとも絶妙な塩梅です。

何より、レビューにおいて”官能的”という表現を使うに足る特徴的なフレーバーが、このシングルモルトの魅力であり、ミステリアスな部分もであります。
ウイスキーのオールドボトルや、あるいは適切な長期熟成を経たウイスキーが持つ、ただドライでスパイシーなだけではない、独特の風味・質感を持ったモルティーさとフルーティーさ。このボトルは7年という短期熟成でありながら、そうした個性が溶け込み、香味において愛好家の琴線に触れうる特別なニュアンスを形成しています。

秩父の原酒はノンピート、ピーテッドとも様々飲んできましたが、こうしたフレーバーを持つものはありませんでした。
素性として、何か特別な仕込みの原酒か・・・可能性の高さで言えば、どちらかの原酒を熟成していた樽、またはマリッジを行った樽が羽生や川崎グレーンといった長期熟成原酒を払い出した後の樽だったりとか、白と黒の原酒の間をつなぐ存在がもう一つあったとしても不思議ではありません。
さながらそれは、フィールドバレエが公演されている、夏の夜の空気、清里の大地の香りのような、フィールドバレエたる舞台を形作る重要な1ピースのようでもあります。

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このブログを読まれている方はご存知かもしれませんが、私は秩父第一蒸留所のモルト原酒に見られる特定のスパイシーさ、えぐみのような個性があまり好みではありません。
飲んでいるとこれが蓄積されてきて、胸焼けのような感覚を覚えて、飲み進まなくなることがしばしばあるためです。

が、このウイスキーでは嫌味に感じないレベルのアクセント、多彩さを形成する要素にすぎず、むしろ好ましいフレーバーへ繋がって、味わい深く仕上がっています。確か秩父に★7をつけるのは初めてですね。
それこそ純粋に味と1杯の満足感で言えば、過去作である第26〜29回の羽生原酒と川崎グレーンのブレンドリリースに負けていません。長期熟成による重厚さは及ばないものの、若い原酒のフレッシュさと、それを補う落ち着いた樽の要素とピート香、余韻にかけて全体のバランスをとっている特別な要素の存在。。。今だから創れる味わいがあるのです。

先人の遺産ではない、現代の作り手と原酒が生み出す、清里フィールドバレエ記念ボトル、新しい時代の幕開け。ミステリアスな魅力も含めて、多くの愛好家に楽しんでもらえるウイスキーだと思います。
そして最後に私信となりますが、舩木上次さん、今回も素晴らしいリリースと、テイスティング機会をいただきありがとうございました。
コロナ禍という過去例のない事態であっても、最善を尽くし、一流を目指す。そのチャレンジ精神が形になったような、清里の地にもフィールドバレエにも相応しいウイスキーです。
是非今度、萌木の村で詳しい話を聞かせて頂けたら幸いです。


※4月7日追記:本件、関係者から2樽と聞いていましたが、正しくは4樽であるとの情報を頂きました。2樽だと色々腑に落ちない部分があったので、個人的にもすっきりしました(笑)。関連する部分を追記・修正させて頂きました。

イチローズモルト ホワイト リーフ ワールドブレンデッド 46%

カテゴリ:
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Ichiro's Malt & Grain 
World Blended Whisky 
Leaf Series "White" 
700ml 46%

グラス:テイスティンググラス
時期:不明
場所:BAR Eclipse first 
評価:★★★★(4ー5)

香り:プレーンでドライ、あまり香りがたたないが微かにケミカルさとハーバルな要素を感じるシロップのような甘さ、バニラや華やかなオーキーさを一瞬感じるがすぐに消えてしまう。

味:口に含むと華やかなオーク香が一瞬、そこから中間は広がりにかけるニュートラルな味わい。ほんのりと穀物系の甘味とスパイシーさ、微かにえぐみが余韻にかけて分離するようにあるが、全体を通じてはカナディアンを連想するようなグレーン感がメイン。

文字通り味付け、香り付けにスコッチモルトのバーボン樽タイプの原酒を使って華やかさを出しているが、ベースはカナダやアメリカから輸入したプレーンなグレーン系のウイスキーで、そこに秩父モルトも一部・・・といったところか。加水調整でだいぶ慣らされている。
加水すると一瞬オークの華やかさが際立つ。ボディは緩いものの、余韻にかけてじわじわと広がるフレーバーのバランスのよさ。数年前にストレートで飲んだものに比べて、若さや全体のバランスは大きく改善している。個人的にはハイボール要員。

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昨晩のレビューからの流れで、イチローズモルトの超ド定番品。リーフシリーズのホワイト。おそらく、このジャパニーズブームのなかで最も飲まれたクラフトウイスキーであり、イチローズモルトの躍進を支えた1本。ラベル裏に書かれた数字は製造ロットで、1ロット何本かは不明ですが、現時点で500前後まで確認されているという話も聞きます。

そうした意味で超人気ボトルですが、BAR飲みスターターのハイボールで飲むことはあっても、ストレートで飲むことはほとんどありませんでした。ただ、自分も海外原酒を用いたブレンド作りに関わらせてもらっているため、ちょっと勉強も兼ねて最近のものを飲んでみたいなと、注文してみたわけです。


このワールドブレンデッドは2018年頃にイチローズモルトが使い始めた名称で、それまでは秩父ブレンデッド表記、それよりも前は普通にブレンデッド表記。背面ラベルの世界地図にあるような構成原酒も、オープンになってはいませんでした。(蒸留所見学では、海外原酒を使っていることは教えてくれていました。)
構成は輸入原酒に秩父のジャパニーズモルトを加えた、ワールドブレンデッド。たしか、カナダ、アメリカのグレーンに、スコットランドとアイルランドのモルトで、ロット毎に若干異なるようですが、熟成年数は若めで3~10年程度だったかと記憶しています。今回のボトルをテイスティングするかぎり、体感的にも違和感はありません。

偉そうな書きぶりになってしまいますが、上手に作っているなぁという感じです。
グレーンの割合は高く、プレーンな穀物感に、若干のスパイシーさはライ、カナディアン系。香味から察する比率はグレーン7:モルト3~6:4くらいかなと。秩父のモルトは使っていて1程度で、基本的には輸入原酒をベースとしている印象です。
スタンダードなブレンデッドに比べて若干とがったモルティーさ、クラフト感がありつつ、押さえるところは押さえているので加水、ハイボール、使い勝手も良いように感じます。

ただし補足すると、それは万人向けのレベルとして・・・です。
ハイエンドのブレンデッドをシビアに調整されたレーシングカーと例えるなら、このホワイトラベルはエンジン出力も足回りの限界も低いパーツを使いつつ、マフラーだけちょっとスポーツ寄りにしてある感じのプチスポーツモデル。
なので、普段スポーツカーに乗らない人が乗るとバランスがとれていて楽しく走れる。一方でそうじゃない人が乗ると、タイムが出る訳じゃないけれど、よく考えられて作られていることは伝わってくるというわけです。(人によっては普段乗りはこれでいいと、落ち着く場合もあるでしょう。)

しかしこういうウイスキーを大手ではなく、いちクラフトが大量に生産しているというのは、メーカーとしての進化を感じる点でもありました。

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