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2021年09月

キルホーマン 7年 2013-2021 #623 for HARRY'S TAKAOKA 57.1%

カテゴリ:
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KILCHOMAN 
Aged 7 years 
Distilled 2013.8 
Bottled 2021.4 
Cask type 1st fill Bourbon Barrel #623 
Selected by T&T with くりりん 
Exclusively for HARRY'S TAKAOKA 
700ml 57.1% 

評価:★★★★★★★(6-7)(!)

香り:ややドライな香り立ち。フレッシュで強いピートスモークと合わせてシトラスのようなシャープな柑橘感、薬品香のアクセント。奥には煙に燻された黄色系フルーツが潜んでおり、時間経過で前に出てくる。

味:香りに反して口当たりは粘性があり、燻した麦芽やナッツの香ばしさ、ほろ苦さに加え、熟したグレープフルーツやパイナップル等の黄色系の果実感。年数以上の熟成感も感じられる。
余韻は強くスモーキーでピーティー。麦芽の甘みと柑橘感、微かに根菜っぽさ。愛好家がアイラモルトに求めるフルーティーさが湧き上がり、力強く長く続く。

若さを感じさせない仕上がりで、ストレートでも充分楽しめるが、グラスに数滴加水するとフルーティーさがさらに開く。逆にロック、ハイボールは思ったより伸びない。香味にあるシャープな柑橘香、燻した麦芽、黄色系フルーティーさの組み合わせを既存銘柄に例えるなら、序盤はアードベッグで後半はラフロイグのよう。粗削りであるが良い部分が光る、将来有望な若手スポーツ選手に見る未完成故の魅力。エース候補の現在地を確かめて欲しい。

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富山県高岡のBAR HARRY'S TAKAOKA(ハリーズ高岡)向けPB。2017年にウイスキーBARとしてリニューアルした同店の、4周年記念としてボトリングされたものです。
ボトリングは昨年12月頃から調整しており、本当は8月上旬に届くはずが、コロナの混乱で1か月スライド…。同店の周年には間に合いませんでしたが、中身はバッチリ、届いて着即飲してガッツポーズしちゃいました。今回は、そんな記念ボトルの選定に関わらせてもらっただけでなく、公式コメント掲載や、ラベルに名前まで入れて頂きました。

今回のリリースの魅力は、7年半熟成と若いモルトでありながら、若さに直結するフレーバーが目立たず年数以上の熟成感があること。そしてブラインドで出されたら「ラフロイグ10年バーボン樽熟成」と答えてしまいそうな、余韻にかけてのピーティーなフルーティーさにあります。

キルホーマンは、バーボン樽で7~8年熟成させると好ましいフルーティーさが出やすくなる、というのは過去の他のリリースでも感じられており、その認識で言えば、今回のボトルの仕上がりは不思議なものではありません。
ただ、個人的な話をすると、キルホーマンは2019年に話題になった100%アイラ9thリリースで醸成された期待値や、グレンマッスル向けキルホーマンでの経験もあって、「100%アイラこそ正義」と感じてしまっていた自分がおり。。。ノーマル仕様の酒質の成長に注目していなかったため、尚更驚かされたわけです。

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本記事では、今回のボトルの魅力を語る上で、キルホ―マン100%アイラにも少し触れることとします。
100%アイラとノーマルリリースの違いは、麦芽の製麦工程にあります。
100%アイラは蒸留所周辺の農家が生産した麦芽を、キルホーマン蒸溜所でモルティング。生産量は年間全体の25%で、設備の関係かフェノール値も20PPM程度と控え目に設定されています。一方で、今回のリリースを含むノーマルなキルホーマンは、ポートエレン精麦工場産の麦芽を使用し、50PPMというヘビーピート仕様となっています。

ローカルバーレイスペックでフロアモルティングした麦芽を前面に打ち出しているためか、あるいはピートを控えめにしているためか、100%アイラは麦芽風味を意図的に強調してボディを厚くしている印象を受けます。
そうしたフレーバーは、今後の熟成を経ていく上で将来性を感じさせる大事な要素でしたが、全体の完成度、バランスで見たときに、現時点ではそれが暑苦しく過剰に感じられることもあります。

今回のボトルは100%アイラほど麦感やボディはマッシブでなく、ピートが強めでボディが適度に引き締まったスタイリッシュタイプ。昔のCMで例えるなら、ゴリマッチョと細マッチョですね。
また、キルホーマンの製造工程の特色としては発酵時間を非常に長く取っており、かつては70~80時間程度だったところが、現在は最長110時間というデータもあります。そうした造りの変化が由来してか、これまでリリースされてきた2000年代のビンテージに比べて酒質の雑味が控えめで、フルーティーさがさらに洗練されているのです。

100islay_barley

つまり、過剰に麦感や雑味が主張しないからこそ、樽感(オークフレーバー)を上手に着こなし、今回のようなアイラフルーティータイプに仕上がったと。
この原酒が後5年、10年熟成したらさらに素晴らしい原酒になるかと言われると、樽感が強くなりすぎてややアンバランスになってしまうのではないかという懸念もありますが、1st fillバーボン樽ではなくリフィルホグス等を使えば15年、20年という熟成を経た、一層奥行きあるフルーティーな味わいも期待できると言えます。

もはや優劣つけ難い2つの酒質と、それを生み出すキルホーマン蒸留所。
近年、アイラモルトのオフィシャルリリースが増え、安定して様々な銘柄を楽しめるようになりましたが、一方でシングルカスクorカスクストレングスの尖ったジャンルは逆に入手が難しくなりました。愛好家が求める味わいを提供していくという点で、10年後にはアイラモルトのエースとなっている可能性は大いにあります。

以上のように、ウイスキー愛好家にとって魅力ある要素が詰まったキルホーマン蒸留所は、ハリーズ高岡が目指す「ウイスキーの魅力を知り、触れ、楽しむことが出来る場所」というコンセプトにマッチする蒸留所であるとも言え、同店の節目を祝うにピッタリなチョイスだったのではとも思えます。
今後、何やら新しい発表も控えているというハリーズ高岡。北陸のウイスキーシーンを今後も支え、盛り上げていってほしいですね。

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(2017年8月、リニューアルした直後のハリーズ高岡のバックバー。オフィシャルボトルが中心で、現在と比べると実にすっきりとしている。これが数年であんなことになるなんて、この時は思いもしなかった。現在はウイスキーバーとして北陸を代表すると言っても過言ではない。)

なお、なぜ富山在住でもない自分が、ハリーズ高岡の周年記念ボトルに関わっているかと言うと…本BARが4年前にリニューアルした直後、モルトヤマの下野さんの紹介で訪店。以降、富山訪問時(三郎丸訪問時)は必ず来店させてもらい、周年記念の隠し玉を贈らせてもらったり、勝手にラベル作って遊んだりと、何かと交流があったことに由来します。あれからもう4年ですか、月日が経つのは早いですね…。

そんな節目の記念ボトルにお誘い頂き、関わらせてもらったというのは、光栄であるという以上に特別な感情も沸いてきます。関係者の皆様、改めまして4周年おめでとうございます!

Harrys takaoka


※補足:本リリースへの協力に当たり、監修料や報酬、利益の一部等は一切頂いておりません。ボトルについても必要分を自分で購入しております。


963 ミズナラウッドリザーブ 21年 福島県南酒販 46%

カテゴリ:
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963
FINE BLENDED WHISKY 
MIZUNARA WOOD RESERVE 
Released in 2021 
700ml 46% 

評価:★★★★★★(6)

香り:様々な樽香、重層的なウッディネスがグラスの中から立ち上がってくる。トップノートはキャラメルのような甘みとチャーオーク、サルファリーさ。スワリングしていると、干し柿、林檎のキャラメル煮、蒸かした栗、バニラ、いくつかのスパイス。複数の樽を経たことによる樽感の重なりが、この複雑さに繋がっている。

味:味はまろやかで熟成感があり、まずはシェリー樽を思わせる色濃い甘みとドライフルーツの酸味。そこに煮だした紅茶やビターなフレーバー、微かにニッキのようなスパイス、樹液っぽさと腐葉土、奥には古酒感を伴う。余韻は焦げ感のあるビターなウッディネスが強く主張し、複数の樽香が鼻腔に抜ける。

ベースとなったブレンドの原酒構成が、シェリー樽熟成タイプとバーボン樽熟成タイプの輸入ウイスキー。それを国内でバーボン樽に入れてマリッジし、その後さらにミズナラ樽の新樽(チャー済み)でフィニッシュをかけた…といったところだろうか。長期熟成スコッチ備わるフレーバー、国内で追加熟成させたことによる強い樽感、それをさらに上塗りするミズナラエキスという、一見してカオスのように見えて、熟成感と加水が橋渡しとなり、重層的な仕上がりとして楽しめるレベルにまとまっている。
ロックにするとこれらのフレーバーが馴染み、余韻の苦みも落ち着く。バランスがとれて口の中に入ってくる。

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先日福島県南酒販さんからリリースされた、963ブレンデッドウイスキーの限定商品。同ブランドでミズナラと言えば、約3年前に17年のブレンデッドモルトがリリース。これは愛好家が求めているミズナラフレーバーを疑似的に再現していた、今後のミズナラ樽の使い方に新しい可能性を感じさせる1本であったところ。
今回はその空き樽を使って仕込んでいたものかと思いきや、通常リリースしている21年を新樽のミズナラ樽で2年間追加熟成したものだそうです。

ミズナラは他の樽材と同様、あるいはそれ以上にエキスが出やすい樽材だと言われています。なので長期熟成に用いるには、新樽ではなく何度か使い古したものが良いと、以前S社の方から伺ったことがあります。
なので今回のような新樽はフィニッシュに用いて少し落ち着かせるのが、定石と言える使い方の一つであるわけですが、それでも2年間、流石に色が濃いですね。キャラメルのような感じの色合いで、味わいもかなり濃厚に樹液を連想させるフレーバーがあります。

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(※2017~2018年にリリースされた963ブレンデッドモルト17年ミズナラウッドフィニッシュ。こちらはバーボン樽熟成の内陸モルトが主体であり、オーキーな華やかさとフルーティーさにミズナラ樽のスパイシーさが混じることで、S社からリリースされるミズナラ系の香味に似た仕上がりとなっていた。)

他方で、このウイスキーが単にエキスが濃いだけで終わらないのは、ベースのブレンドの個性にあります。
963ブレンデッドウイスキーは、スコットランドから輸入した原酒を、笹の川酒造の熟成庫で追加熟成して、それをブレンドすることで作られています。
今回は21年オーバーという長期熟成のバルクが用いられているわけですが、おそらく既に混ぜられているブレンデッドウイスキーバルクでシェリー樽タイプのものに、モルトウイスキーをブレンドしているのではないかと推察します。

香味の中に感じられるシェリー樽のフレーバーが、グレーン、モルト、どちらにも影響しているように感じられること。21年オーバーのバルクグレーン単体なら、もっとメローでバーボン系のフレーバーが強くなるのにそれが無い。一方で古酒感と表現されるような、オールドブレンデッドウイスキーのシェリー系銘柄で感じられるカラメル系のフレーバーが、全体の中で複雑さと奥行きに繋がっているのです。

日本とスコットランド、異なる環境がもたらす原酒への影響を活かして作られるブレンドは、少なくともスコットランド単独では作り得ない物だと感じています。
二つの地域が育てるウイスキー、それを活かすブレンド技術。日本側はまだ荒削りで原酒も足りませんが、時間が経って原酒が育ち、ノウハウが蓄積することで今後新しいジャンルとして確立していくことを期待したい。そんなことも感じたウイスキーでした。

ドラムラッド ラフコースト batch#1 エイジオブイノセンス 54.5%

カテゴリ:
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DRAMLAD 
The Age of Innocence 
Rouch Coast 
Islay Malt Whisky 
Cask type Red wine cask finish 
Bottled 2021 
Batch #1 
700ml 54.5% 

評価:★★★★★★(6)

香り:ピーティーでBBQのような強いスモーキーさと甘さの混じる香り立ち。やや根菜的なニュアンスと土っぽさ。甘酸っぱい果肉やソースを思わせるアロマもある。

味:口当たりはピーティーで粘性のある質感と、燻してほろ苦い麦芽風味。ピリッとした刺激もありつつ、甘酸っぱく赤みがかったニュアンスがアクセントに。余韻はスモーキーでドライ、舌の上にヨードを伴う粘性とウッディネス、ピートの土っぽさが残る。

主体は燻した麦芽とピートのリッチな味わい。赤ワイン樽後熟による甘酸っぱさ、べたつかない程度に粘度のある質感が、若さをカバーして程よいアクセントになっている。蒸留所は奥にある根菜っぽさやピートフレーバーの系統からラ〇ヴーリンと予想。
ハイボールにするとソルティーなフレーバーが引き立ち、ソーダの気泡と共にパチパチとピートスモークが燻製黒胡椒のように口の中を刺激していく。確かにこれはハイボールに合う1本。


ドラムラッドのセカンドリリース。Twitterのほうでは簡易レビューをUPしていましたが、記事にしていなかったのでこちらにも。
同社の3種のブランドラインナップの中では、エントリーグレードに位置付けられているエイジオブイノセンスの最初の1本。このグレードでは、若くても個性がわかりやすいものや、フィニッシュ等の面白さ、ウイスキーの魅力を気軽に楽しめるウイスキーをコンセプとしたシリーズです。

今回発売されたラフコーストは、今後シリーズ化していくという、アイラシングルモルトの1本。
テイスティングしてみると、仕上がりは悪くなく、そして確かに面白い。カスクフィニッシュの効き具合がちょうど良い塩梅で、全体のバランスに寄与しているだけでなく、蒸溜所のハウススタイルと思しき個性も感じられるのがポイントだと感じます。
若いモルトでもピーティーなものは、ピートにカバーされてある程度飲める仕上がりになります。しかしワインカスクはチャレンジ要素です。過去別ボトラーズから同じようなスペックのリリースは珍しくないものの、個人的にあんまりヒットしたことが無かった組み合わせだったので、今回も多少警戒していたわけです。

特にハイボールに合うというのは目から鱗でしたね。これが今回のリリースで一番面白いと感じたところと言えます。
ヤングアイラがハイボールに合うのは、別に今さら感のある話ですが、ワインカスクでハイボールというのは意外。公式コメントでは「真夏の深夜にゆっくり愉しむハイボール」とありましたが、実際に飲んでみると、ゆっくりどころかゴクゴクと秒で溶けるハイボールです(笑)。

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(シリーズタイトルとなっているRouch Coast(ラフコースト)は、”荒れる海岸”を意味する。写真は個人的にこのボトルの中身だと考えている蒸留所を、少し離れた先にある岬から撮影したもの。海は荒れてないけど…イメージして補完してください。)

ドラムラッドのリリースは、これまでのインポーターにはあまり見られなかった、選び手とリリースイメージを明確にしていることが、ブランド価値の一つとなっています。
選定者が信頼できるプロというのが、ここで生きてくるのか。あるいはこの人が大丈夫だと言って選んだんだから飲んでみようと思えるのか。確かに今回のリリースは、ドラムラッドじゃなかったら自分は飲まなかったでしょうし、公式解説あった通り面白い仕上がりでした。

そのドラムラッドさん、次のリリースは同じエイジオブイノセンスからリンクウッド2010-2021が9月15日に発売だそうです。
中身はホグスヘッド樽での熟成により、若いモルトながら甘く華やかに仕上がっていると聞いています。確かに、リンクウッドの酒質にホグスヘッドなら、少々ドライな感じでもオーキーなフレーバーに後押しされて、万人に愛されるスペイサイド地域らしさのあるリリースとなりそうですね。
コロナ禍故に中々飲みに行くことは出来ませんが、次回作も楽しみにしています。
参照:https://www.bar-times.com/contents/93040/

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ミクターズ US1 スモールバッチ バーボンウイスキー 45.7%

カテゴリ:
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MICHTER’S 
KENTUCKY STRAIGHT BOURBON WHISKEY 
SMALL BATCH 
US★1 
750ml 45.7% 

評価:★★★★★★(6)

香り:メローでスパイシーな香り立ち。ウッディで焦げ目のついたトーストを思わせる香ばしさ、キャラメル系の甘さの中に、オレンジや熟したプラムを思わせる果実香も混ざり、まさにバーボンらしいアロマ。

味:マイルドで濃厚、香り同様にメローな甘みとコク、オレンジを思わせる甘酸っぱさのアクセント。合わせて微かにイーストのような含み香が鼻腔に抜ける。余韻にかけてスパイシーでウッディ、徐々にタンニンが口内に仕込みんでじんわりとした刺激を伴い長く続く。

嫌味の少ない新樽のメローな甘さ、粘性のあるリッチなフレーバーに、適度な主張の残った口当たり。ロックにしても氷を受けてしっかり伸びてくれる。個人的に、バーボンらしいバーボンだと言える味わいの一つであり、安心感すらある。
前情報のない状態で飲んだ際、熟成は8年程度と感じたが、実際は5年程度とのこと。樽詰め度数や樽そのものの製法等、現在のミクターズブランド独自の工夫が効いているのだろう。近年のバーボンは樽感がドライ、あるいはえぐみが強く出ているものが散見される中で、この完成度の高さは得難い。ノンエイジ仕様と侮るなかれ、中身は大手上位グレード同等のクオリティを備えている。

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「ミクターズ」というブランド名に反応してしまう方は、かなりウイスキー歴の長い方か、バーボン好きである可能性が高い。理由は後述しますが、そうでない方には、このバーボンは様々ある銘柄の一つ、ひょっとすると酒屋の棚の風景の一部としか映っていないのではないでしょうか。
ですが、このミクターズはバーボンというお酒の歴史や世界観を詰め込んだような、味わいだけでなく情報としても厚みのある一本なのです。

最近、家飲み頻度が増えたことで、該当するバーボンを飲みながら銘柄の由来や歴史を紐解くことにハマっています。記事にしたところでは、フォアローゼズのブランドエピソードの矛盾、テンプルトンライの集団訴訟とバーボン業界の転換点…スコッチとは違う性質のバックストーリーがあり、また日本に伝わっている情報も少ないので、飲みながら調べて考察するのが楽しいのです。
今日はこのミクターズについて、現在と昔、2つの視点に整理して情報をまとめていきます。

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※1:ミクターズ・シャイヴリー蒸溜所。外観は蒸溜所というよりオフィスのよう。

■現在のミクターズ
現在、ミクターズはケンタッキー州ルイビルにある、Michter’s Shively (ミクターズ・シャイヴリー)蒸溜所で造られています。この蒸溜所の正式な稼働開始は2015年からで、2019年には博物館やビジターセンターを兼ねたもう一つの蒸溜所:フォートネルソンが、同じくルイビルに完成するなど、ウイスキー需要増を追い風にして順調に事業を拡大しています。

今回テイスティングしたUS1バーボンウイスキーのマッシュビルは、コーン79%、ライ11%、モルト10%。特筆するレシピではないですが、しいて言えばアーリータイムズと同じである点が、後述する噂話を裏付けているように感じます。
それよりも注目すべき点は、ミクターズは「コスト度外視」を掲げ、ウイスキーの製造に様々なアイディアを採用していることにあります。
代表的なものをざっくりまとめると

・熟成に用いる樽は、一度トーストして樽材内部を加熱した後、焦げ目をつけるチャーを行う2段階作業。
→樽由来のフレーバーが上質に、豊かになる。
・業界基準よりも低い度数(103 proof)での樽詰め。
→熟成後の加水調整を最小限にとどめるので、香味の複雑さが増す。
・熟成庫にヒートサイクルを入れ、温暖な状況を維持する。
→熟成スピードの上昇。

以上の通り。それぞれコストが上がる要因となりますが、→に記載したように、香味に直結する効果が期待できます。
これら以外にも、樽の乾燥期間について18~36カ月と、通常のバーボンに比べて長期間の乾燥が行われたものを使用する。原料に最高級の穀物を使っているなどもありますが、程度が不明瞭だったため、可能な限り上質なものを使用しているくらいの認識にとどめます。
しかし結果として、5年程度熟成のバーボンでありながらテイスティングした印象は、一般的な8年熟成品以上の濃厚さ、完成度があります。独自の工夫が香味を高めているのだと、コスト度外視の方針は納得出来るものでした。

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※2:ミシガン州にあるミクターズ蒸溜所のヒートサイクルウェアハウス。同社は複数の貯蔵庫を複数地域に持っており、原酒保有量は175000バレルにもなると言われている。


■旧ミクターズ
ミクターズのルーツは、ラベルにも書かれた1753年、アメリカではじめてウイスキーを製造した公認蒸溜所であること。独立戦争時にも飲まれていたウイスキーだと言われています。
かつてのミクターズ蒸溜所は現在のルイビルではなくペンシルベニアにあり、1990年に経営不振で閉鎖されるまで(蒸溜は1989年まで)ウイスキーを生産していました。その後、この旧ミクターズ蒸溜所(別名:ボンバーガー蒸溜所)の1970年代蒸留の原酒の一部が、長期熟成を経てA.H.ハーシュとしてリリースされることになるのですが、これをきっかけとして同銘柄、同蒸溜所は伝説的とも言える評価を受けていくことになります。

一方1997年、放棄されていたミクターズの商標権を、チャタムインポート社が取得。2000年からミクターズ名義のウイスキーのリリースが始まります。
当時の同社は蒸溜所を持っておらず、UD、ヘブンヒル、オールドフォレスター、ウィレット等、多くの蒸溜所から原酒を調達して、単一またはブレンドしたものをリリースしていました。また、中でもブラウンフォーマングループとの結びつきが強く、2015年に発売を開始したUS1は、アーリータイムズ蒸溜所の原酒に独自の工夫を施して熟成させたものだと、”うわさ”されています。

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※3:旧ミクターズ蒸溜所(ボンバーガー蒸溜所)外観

独自の蒸溜所を持たず、銘柄の商標権をもって買い付けた原酒をリリースするスタイルは、バーボンウイスキー業界では珍しいことではありません。
が、それを伝説的ブランドに成長していたミクターズでやったこと。また、旧ミクターズ蒸溜所の原酒と、復活したミクターズブランドの原酒は、例えば同じマッシュビルである等の関連性が無く、全く別物であったことから、愛好家の反発を受けたであろうことは想像に難くありません。

それでも、ブランドがこうして今日に至るまで継続し、蒸溜所も操業&拡張路線であるのは、リリースされた中身が良質であり、徐々にヘイトが落ち着いていったためであるのだとか。
バーボン版軽井沢、A.H.ハーシュが伝説的でカルト的な人気を持つこともあり、今のミクターズは本当のミクターズではないという火種もあるはありますが、やはり味というのは重要なファクターなんだなと感じさせられるエピソードです。


■再び現在のミクターズ
さて、ここで再び話を現在のミクターズに戻します。
今回テイスティングしたUS1バーボンウイスキーは、単に5年程度熟成のバーボンとしてだけ見ればやや割高であると言えますが、クオリティは上述の通りです。また、ルーツとしてのエピソードを知った上で味わうと、かつてのミクターズとの繋がりはないものの、その名前の上に胡坐をかくような造りはしていないと感じます。

ちなみにミクターズ・シャイヴリー蒸溜所の操業は2015年からであり、熟成年数を考えると、US1は新たに設立した蒸溜所の原酒への代替も可能なタイミングが来ています。
この点については、調べても原酒が置き換わったという話はなく。同社はどうやらプレミアムグレードの10年を、2026年頃を目安に置き換えることを優先し、原酒を確保しているようです。

ミクターズのブランドは、日本に輸入されてないものを含めるとかなりの数があり、一度に入れ替えとはならないでしょう。
ボトリング設備を有する蒸溜所を、ペンシルベニアではなくルイビルのブラウンフォーマン蒸溜所(アーリータイムズ蒸溜所)のすぐ近所に建設したことも、長期的に見て自社蒸留原酒と外注した原酒でのハイブリットを継続することを想定しているのかもしれません。

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※4 現在のミクターズウイスキーの10年グレード。原酒は不明だが、ヘブンヒル、オールドフォレスター、ユナイテッドディスティラリーが含まれていると噂されている。

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※5 ミクターズ・シャイヴリー蒸溜所のポットスチル。同蒸溜所は一般に公開されていないため情報が乏しいが、こちらの記事に計画と内装の情報が詳しくまとめられている。

なお、ミクターズのラベルにはポットスチルが書かれており、新しい蒸溜所においてもシンボルとなっています。
現在原酒を調達しているメーカーが噂通りだとすると、蒸留機の形状から大きく変わっていくことは明らかです。結果、現在の香味が維持されるのか、全く異なるスタイルが生まれるのか、それはまだ様子を見ていくしかありません。

しかしリリースに用いられた独自の工夫が産み出す結果を味わう限り、自分には現在のミクターズの方向性が間違っているとは思えないのです。その工夫は、今後のリリースにも使われていくわけですから。
現在のものも良いですが、未来のミクターズは、きっとさらに良いウイスキーになるのではないかと期待しつつ、今日の記事の結びとします。


画像引用:
※1、※4:Facebook ミクターズ公式アカウント
※2:https://thebourbonculture.com/whiskey-info/michters-distillery-past-present-and-future/
※3:https://en.wikipedia.org/wiki/Bomberger%27s_Distillery
※5:https://www.distillerytrail.com/blog/michters-distillery-joe-magliocco-talks-doubling-capacity-1000000-gallons/

執筆時参照情報:
・https://thebourbonculture.com/whiskey-info/michters-distillery-past-present-and-future/

・http://michters.com/
・https://www.distillerytrail.com/blog/michters-distillery-joe-magliocco-talks-doubling-capacity-1000000-gallons/
・https://www.distillerytrail.com/blog/michters-distillery-announces-opening-date-for-whiskey-row-fort-nelson-distillery/

厚岸蒸溜所 処暑

カテゴリ:
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AKKESHI 
SHOSHO 
Blended Whisky 
A Fusion of the World Whiskies 
Bottled 2021 
700ml 48% 

評価:★★★★★(5-6)

香り:フレッシュな主張のあるピーティーさ、香ばしいモルト由来のアロマの中に、シェリー樽を思わせる黒糖系の甘みとウッディネスがアクセントとなって感じられる。微かに酸や赤系の要素があり、使われた樽の個性を香りから推察できる。若さの中に複数の樽感、複雑さのあるアロマ。

味: 香りと異なり、味わいは麦芽由来の厚みのある甘みがスモーキーフレーバーを伴って広がる。合わせてオーク由来のバニラやシェリー樽のキャラメルが、塩気と若い原酒の酸味を伴う。
麦芽風味とピートフレーバーを軸に、いくつかの樽の要素を感じられる。余韻は軽くスパイシーでほろ苦く、ほのかに椎茸っぽさを伴うウッディネスが、じんわりと口内に刺激を伴って長く続く。

原酒の熟成年数は3~4年。スモーキーフレーバーはミディアムで20PPM程度。ブレンド比率はモルト6:グレーン4あたりのモルティーな構成と思われる。モルトはバーボン樽熟成のピーテッド原酒とノンピート原酒を軸に、シェリー樽、ワイン樽原酒を繋ぎとして加えたレシピと予想。前作までのブレンドに比べてバランスがとれているだけでなく、ピーティーなフレーバーの中にハウススタイルと言えるコクのある甘みや香ばしさが楽しめる。

オススメの飲み方としてはハイボール。ロックのように温度が変化していくレシピよりは、冷やすなら冷やす、炭酸も強めをきっちり加えて仕上げたほうが伸びる印象。ウイスキーとしてだけでなく、蒸留所全体の成長を感じる1本である。

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8月下旬にリリースされた、厚岸蒸留所ウイスキー・厚岸24節気シリーズの第4弾。まさに「処暑の候」と北国からの便り(ボトル)を運んできたのか、東京も急に涼しくなって、あー夏が終わるなぁとセンチな気持ちになりながらテイスティングしています。

厚岸蒸留所は、シングルモルトとブレンドを交互にリリースするスタイルで、ブレンドとしては第2弾、3月にリリースされた「雨水」の次と言うことになります。
双方に共通する厚岸蒸留所のこだわりは、可能な限り自家製の原酒を用いるということ。連続式蒸留器を持たない厚岸蒸留所はグレーン原酒を作れませんが(ポットスチルでもやれますが、現実的ではない)、スピリッツで海外からグレーンを輸入し、それを厚岸蒸留所で3年以上熟成させたグレーンを使っています。

その為、ラベルの「A Fusion of the World Whiskies」表記は厚岸熟成グレーンに由来しているもので、4月に施行されたジャパニーズウイスキーの基準を鑑み、本リリースから追記されたものと考えられます。
ちなみに一般的にクラフト蒸留所でブレンデッドウイスキーを作る場合は、熟成したグレーンをバルクとして輸入して活用しています。さながらプロ野球で言うところの「助っ人」。ですが厚岸蒸留所の通常リリースは、あえてそれをせず、自前で原酒を育てるところにこだわりがあります。

これまでの記事でも度々触れていますが、こうした取り組みの先には、同蒸留所の目指すウイスキー、厚岸オールスターがあるものと思われます。モルトウイスキーは麦芽、ピート、どちらも厚岸で調達してモルティングし、蒸留は勿論、厚岸で採れた木材を使った樽で熟成させる。
既にモルティング設備については建設中で、ピートも試験的な採掘が行われている訳ですが、
その次はグレーンも北海道産のトウモロコシや小麦を用いて自社で製造し、まさにオール北海道産、オール厚岸産のブレンドウイスキーを目指しているのではないかと。そしてそのマイルストーンとして、可能な限り厚岸産をそろえてブレンドを作っているのではないかと予想してしまうのです。

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さて、この厚岸「処暑」ですが、厚岸ウイスキーの前作・芒種ではっきりと感じられた特徴である麦芽のコクのある甘み、風味の柔らかさが、今回のブレンドでも感じられます。
このフレーバーは、元々厚岸蒸留所の個性として紹介されており、私自身もいくつかのサンプルで共通するニュアンスを感じたことはありました。ですが、過去リリースされた商品からは、まだ原酒が若すぎたことや樽感の強さで、感じにくくなっていた部分もあったと言えます。

今作では、まず上述の厚岸熟成グレーンの熟成年数が約1年程度伸びたことで、全体のバランスが向上したというのが一つ。
レシピとしては、前作「芒種」がバーボン樽熟成の原酒の個性を前面に出したものであったところ。同様にバーボン樽熟成のキャラクターを中心に、アクセントとしてシェリー樽、ワイン樽熟成原酒を用いていることから、バランスの向上と共に、酒質由来の風味が隠されることなく感じられるという点が最大の特徴だと感じられました。

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(今年リリースされた雨水と処暑を飲み比べ。右が雨水、左が処暑。)

その違いは雨水と飲み比べることで顕著に感じられます。どちらのブレンドも、バーボン樽、シェリー樽、ワイン樽で熟成された原酒を主に使っており、グレーンも同じものが使われています。ピートフレーバーもまた、やはり同じくらいの強さだと感じます。
大きな違いは、先に触れた通りグレーンの熟成と、雨水はシェリー樽やワイン樽が主な香味の一つとして前面に出ているのに対し、処暑は香味の繋ぎ、抑えめにしているという点。色合いを見ても、樽の比率の違いが一目瞭然です。

雨水の樽構成を予想すると、おそらく3種ともほぼ同じくらいの量が使われていると思われます。他方で、処暑についてはグレーン、シェリー、ワインで6:2:2、あるいは7:2:1くらいの比率ではないかと予想。樽由来のフレーバーが強い雨水はロックで、処暑はハイボールが合うという傾向もあります。
どちらも若いなりに、蒸溜所の個性、目指すところ、そしてブレンダーの工夫を感じられる仕上がりですが、あえて優劣をつけるなら、処暑のほうがレベルが上がっているようにも感じられるのです

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厚岸蒸溜所のウイスキーは日本のみならず世界的に注目されており、リリースされるたびに入手困難となる状況です。ただし中身については原酒の制限から蒸溜所同様にまだ発展途上であり、そのため24節気シリーズもリリース毎に完成度が上がり、美味しくなってきています。

禾乃登(こくものすなわちみのる)。
9月2日~9月6日ごろ、まさに今。24節気の処暑の後半に該当する季節です。
裏ラベルに書かれている通り、北海道の大麦が収穫のときを迎えており、すなわちそれは厚岸蒸留所で現在仕込みが行われている、北海道産麦芽によるウイスキーへと繋がります。
閉鎖蒸留所とは異なり、次がある。そしてそれは蒸留所の目指す未来の形から、香味は粗削りでも、ワクワクさせてくれるものです。購入できなかった方も、まずはBARや小分けで販売しているショップを活用しつつ、その次を楽しみに待っていくのが良いのではないかと思います。

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※2021年の厚岸産大麦の収穫風景(左)と、採掘中の厚岸町内のピート(右)。将来の厚岸ウイスキーがどうなるのか、様々な取り組みの結びつく先に期待したい。写真引用:県展実業株式会社 厚岸蒸溜所 Facebook https://www.facebook.com/akkeshi.distillery

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