嘉之助シングルモルト 4年 2018-2022 TWC向け 58% ジャパニーズトレイル
KANOSUKE DISTILLERY
SINGLE MALT WHISKY
JAPANESE TRAIL for THE WHISKY CREW
Aged 4 years
Distilled 2018
Bottled 2022
Cask type Re-Charred American Oak Cask(MELLOWED KOZURU)
700ml 58%
評価:★★★★★★(6−7)(!)
香り:杏や干し柿、あるいはアップルタルトのような甘酸っぱさとほのかな香ばしさを伴う濃縮したオーク香。微かなハーブ、ビタミン剤。充実した香り立ち。
味:リッチでメロー、粘性を伴う口当たり。香り同様の甘酸っぱさに、キャラメリゼや甘栗の甘みとほろ苦さ、じわじわと華やかなオークフレーバーが合わさって広がる。余韻はスパイシーでドライ気味、やや荒削りではあるが、香り同様に濃厚で充実した余韻。
リチャー樽だが、メローコヅルの熟成に使われたことで樽材がこなれており、新樽等にみられるえぐみや渋味といった要素が抜け、オークフレーバーの良いところが濃縮されている。フレーバーはバーボン樽と新樽のいいとこ取りという印象で、少量加水するとオーキーな華やかさが前に出てくる。
嘉之助蒸溜所のハウスタイルを体現しており、最初のピークを迎えた原酒。2021年発売のシングルモルト1st リリースからみれば、原酒の成長も感じることができる。
Whisk-eが運営する、会員制(紹介制)のウイスキー販売サイト「THE WHISKY CREW」がリリースを始めた、JAPANESE TRAILシリーズの第一弾。
同シリーズは、現在日本各地で造られているクラフトウイスキーに焦点を当て、各蒸留所に足を運び、その蒸留所の個性や特色を体現するリリースを行うことで、日本のクラフトウイスキーの現在地を発信していくという意欲的な企画になります。
私自身、最近クラフト蒸溜所に注目して、類似の取り組みをプライベートで行っていたり、THE LAST PIECEをはじめ関連するリリースに関わったりもしていましたので、Whisk-eさんの企画が今後どんな広がりを見せるのか、注目していきたいと思っています。
その記念すべき第一弾の嘉之助蒸溜所は、同社のルーツともいえる熟成焼酎メローコヅルの空き樽で、蒸溜所創業初期の原酒を熟成した、シングルカスクウイスキー4年熟成品です。
メローコヅル樽熟成の原酒は、同社における最重要原酒と言って差し支えありません。これまでリリースしてきたシングルモルトシリーズでのキーモルトであり、特に1stリリースの主たる構成原酒でもあります。
「リッチでメローなウイスキーを作る」というのが同蒸留所 小正社長の目指すウイスキー像であったところ、それを見事に体現した仕上がりに唸らされました。
いやいや言うて4年熟成でしょと、大袈裟だなと思う方も居ると思いますが、熟成年数からイメージする時間経過での変化はスコッチの4年ではなく、バーボンやテキーラのそれに近い印象を受けます。
元々嘉之助蒸溜所の原酒は酒質や熟成環境から長期熟成向きではなく、5年程度でピークを迎えるだろうと予想されてはいましたが、いい意味で予想通り。樽感は過度な渋みや枯れ感なくメローで豊かな甘みと華やかさがあり、クリアで柔らかい酒質は短熟ながら樽感に馴染んで、ウイスキーとしてほぼ完成しつつあるのです。
勿論、5年以上熟成させることも出来ますが、この樽であれば後2−3年熟成させると甘みが減って渋み、苦味が強くなっていくような変化が予想され、逆にこれ以上若いとまだカドが尖っていていて、完熟というにはもう少し時間がかかる。
その点で、このTWC向けリリースは、蒸留所が目指すハウススタイルの一つにして、最初のピークを迎えていると言える原酒。「ジャパニーズトレイル」のコンセプトにも合致して、これはリリース第一弾にふさわしい樽を選ばれたなと、飲んで本当に驚かされました。
(嘉之助蒸溜所、メローコヅル樽の一部。樽のサイズは所謂パンチョンサイズで約450リットル程度。バーボン樽とは異なる熟成感が面白い。)
(同じメローコヅル樽熟成原酒としてリリースされている、アーティストエディション、3年熟成。今回のTWC向けと同じ傾向だが、こちらの方が約1年若い分、はつらつとして酒質のカドが取れきれていない印象を受ける。)
なお、このTWC向けの嘉之助シングルカスクは、約550本のボトリングでありながら発売後10分足らずで完売するという嘉之助蒸溜所への期待値の高さが窺える、驚愕の結果となりました。
自分が知ってる限り、事前に飲めたとかサンプル配布があったとかそういうことはなかったにも関わらず、初動でこれだけ在庫が動く・・・いやほんと、凄いですね(語彙力)。
一方で、今回のリリースが嘉之助蒸溜所の突然変異やスペシャルな原酒だったかといえばそうではなく、あくまでスタンダードなものだと言えます。
それに今回の原酒は蒸留開始初期のものであり、まだ熟成した原酒からのフィードバックを仕込みや蒸留工程に加えていない時代のものです。つまり、今後も嘉之助蒸溜所からは今回のものと同等のクオリティ、あるいはそれ以上のものがリリースされてくると言えるわけです。
先日、小正社長とスペース放送をした際も「今後はさらに良い原酒が仕上がってくるので、期待してほしい」と、熱く語られていました。
実際、それはそうだと思います。
今回はあくまで最初のピーク、蒸溜所として発展途上中の現在地。そのハウススタイルを認識し、今後が益々楽しみになる、なんだか前向きな企画に思わずニンマリ、口角が上がってしまいました。
嘉之助蒸溜所の今後のリリース及び、ジャパニーズトレイルの次回作も楽しみにしております。