路地が好きだ

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沢山歩いた足の疲れは一日遅れでやって来る。勿論昨日の晩も疲れはあったが、それは違う質の疲れ。歩き慣れぬ街を探検するように歩いた疲れ、そして列車に乗って別の街に行った疲れ。神経疲れみたいなものだったと思う。イタリアの旧市街は石畳が多いから長く歩くと足が疲れるものだけど、それにしたってこんなに疲れるなんて、初めてのことで戸惑いながら、確かにフィレンツェを歩いた徴なのだと思ったら、思わず笑みが零れた。

フィレンツェの目の覚めるような青空に気を良くしてどんどん歩いた。この街は本当に、一年中旅人で賑わっている。特に大聖堂からヴェッキオ橋はお見事と言いたくなるほどの混みようで、人混みが苦手な私は路地から路地へと渡り歩いた。華やかな場所と静かな場所。イタリアのどの街に行っても思うのだが、どちらもとても魅力的。その街の見どころと呼ばれる華やかな場所に行けば、わあっと声を上げて称賛するし、旅行者が行かないような静かな場所に辿り着くと、わあっと安らぎを得た喜びの声を上げたくなる。特にフィレンツェのような大観光地は、静かな場所を見つけた時の喜びは大きい。
その昔5年間フィレンツェに通った。列車が時刻通りに到着した朝は、駅から職場までぶらぶら歩いた。勿論途中でカフェに吸い込まれて、カップチーノを頂いたりして。昼休みは食事もそこそこに街を歩いた。そして夕方は急いでいない日は同僚とエノテカに立ち寄ったりして、それなりにフィレンツェという街を愉しんでいたと思う。だから、それなりに街を知っていると思っていたわけだけど、何しろあれから19年も経ってしまったから、記憶もさることながら街全体に変化があって、何が何だか分からなくなってしまった、というのが正直なところである。
青い空に見惚れながら歩いていたら、知らない路地に迷い込んだ。でも焦ることはない。何しろ時間がたっぷりあるのだから。面白いのは此の街には多くの装飾品店があること。金細工とでも言おうか、細く長く続く道に小さな小さな店があると思うと金細工の店だったりして、私の目を惹いた。私はアクセサリーをあまり身に付けないのだが、興味がないわけではない。特に今はブレスレットやイヤリングに関心があって、だからそんな店の前を通り過ぎようものならば、素通りなど出来る筈がないのだ。そういう店の前で足を留め乍ら、感嘆する。この街らしい繊細さ、優雅さ。オリジナルのものが多く、大変魅力的だった。
その足で私はトリュフ入りバターを買い求めに店に行った。いつも行く店。良心的な価格がついている、親切な店員のいる店。私のトリュフ入りバター好きはうちの辺りでは知られていて、以前は近所に住んでいた老人マリーノが自家製のものを分けてくれたものだった。マリーノは自分の犬と山に行くのが好きで、トリュフの季節になると朝早く出掛けたものだ。そうしてトリュフを収穫しては周囲の人に振舞うのだ。実はマリーノはトリュフをあまり好まないのである。それなのにトリュフを探しに行くのは、犬と山に行くのが好きだからで、更には収穫したトリュフを受け取る人の笑顔が見たいからだった。手間暇かけてトリュフ入りバターを作っては、此れは君の奥さんの為に、なんて言って相棒に渡してくれた。そんなことが何年も続いていたが、何しろ歳だったこと、心臓が強くなかったことから、数年前に空の住人になった。それ以来私はトリュフ入りバターを店で購入するようになったのだが、それを手にするたびにマリーノのことを思い出すのだ。相棒も同様らしく、トルテッローニをトリュフのバターで簡単にからめたものを赤ワイン片手に頂いていると、マリーノのことを話し出す。多分これからもずっとそうだ。それが私達流の彼への感謝の徴なのだ。それで今回もふた瓶購入して、ご機嫌で店を出た。これで良し。約6週間後にフィレンツェ小旅行を予定しているから、ふた瓶もあれば充分だろう。これで良し。美味しいワインと生パスタの一皿。此の喜び溢れる時期に相応しい、私なりの小さな贅沢。

私を喜ばすのは簡単だと相棒は言うけれど、あはは、本当だ。晴天と美味しいものと穏やかな時間があればいい。特に冬場の青空と赤ワインと温かい美味しいものは、幸せという以外に何と言えばいいの?




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