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   集英社文庫  840円+税
   2020年10月30日 第1刷発行

 2022年の読了本の第1冊目。年間100冊超えに向けてまたここから新たなスタートが始まります。

 カバー背表紙には、「取材の旅から戻ったら、さあ趣味の時間だ。銀幕のスターの演技に酔い、女流浪曲師の口演にしびれ、旅先で買い求めた蒐集品の整理にいそしむ。ワタクシ、居酒屋のカウンターに座っているばかりではないのですぞ。でもそのおかげで「独自の視点から日本の食文化に貢献」と文化庁から表彰状をいただいたんですから、世の中捨てたものじゃありません。70歳を超えてなお充実の日々をつづったカラー文庫」とあり、またコシマキには「神戸でジャズ、山奥の村のクラス会、上野でとんかつ これが居酒屋探訪家の日常です オリジナルカラー文庫」と記されていました。

 すでに20冊以上読み続けている太田和彦もの。なかなか飽きないものです。
 今作は、居酒屋のことばかりではなく、池上正太郎の著作にも似る生活エッセー風になっていて、内容の幅がぐっと広がった印象があります。また、著者が撮影した写真がきれいで、本全体のいい味付けになっています。
 「中高年男のおしゃれ」では、「くたびれたお父っつぁんが派手な柄もの上着や似合わぬ帽子で悦に入っているのは悲惨でしかない」と断じ、おしゃれは「知性的な大人に見える」ことで足り、粋な着流しこそサマになり、ユニクロ製黒無地の没個性的なもので十分だと述べています。
 その意見には大いに賛同します。でも、だからと言って太田和彦の着ているものが粋かといえば、なかなかそうだなあとは思えない部分もあったりするのはご愛敬。踝の上まで出る短すぎるボトムスにつっかけのような履物、それだけ取って着けたような不格好なコートなどは、それほどクールには見えないのですけどね。(ゴメン)

 「あとがき」によれば、著者による週刊誌連載は、2008年から「サンデー毎日」で始まった「東京の居酒屋」が最初。また、同誌で2010年にスタートした「ニッポンぶらり旅」は、1993~98年まで月刊誌「小説新潮」に連載された「ニッポン居酒屋放浪記」(立志編・疾風編・望郷編の三部作)の続編にする意図で書かれた、老境を前にした一人旅紀行となっています。この連載は5年、227回続いて、「ニッポンぶらり旅 宇和島の鯛めしは生卵入りだった」など集英社文庫6冊に収録されています。
 そしてその後、編集長の交替に伴って、連載は「おいしい旅」となって、これも集英社文庫3冊に収録され、再びの編集長交替で、こんどは特定のテーマを立てない日常エッセイ「浮草双紙」となっていきます。本書はこの「浮草双紙」の文庫化2冊目(1冊目は「町を歩いて、縄のれん」)で、「浮草双紙」を最後に、2019年11月をもって11年の週刊誌連載が終了したのだそうです。
(2022.1.1 読)

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   朝日文庫  515円+税
   1993年7月1日 第1刷発行

 1987年3月31日、ロンドン、リヴァプールをへて空路ダブリンに入った司馬は、3日間ダブリン市内及び近郊を見学します。そして4月3日からは、ゴールウェイ、アラン諸島、ケリー半島などを巡りダブリンに戻る5泊6日の旅へと向かいました。
 アイルランド島西岸の町ゴールウェイを目指す道中司馬は、この街近くで生まれたアイルランド系アメリカ人の映画監督ジョン・フォードのことを思い出しています。そして、ゴールウェイ近くのコング村を舞台に同監督が撮った映画「静かなる男(The Quiet Man)」を引き合いに出し、詳しく解説しています。
 この作品中、ジョン・フォードが創り出す主人公(ジョン・ウェイン)像には、たくさんのアイルランド気質が濃厚に投影されているのだとのこと。それらは、とほうもない依怙地さであり、信じがたいほどの独り思い込みであり、底抜けの人のよさ、無意味な喧嘩好きと口論好き、自己の不敗を信じる超人的な負けず嫌い、迷信をとびきり好み、そのくせ神父には仔羊のように服従する素朴さ――といったものなのでした。
 そういうことを知れば、この映画はぜひ観たくなるもの。アマゾンプライムにて無料で観られるようなので、読後すぐに視聴しました。読書はこのように、別のメディアにも興味の矛先が拡散していくこともあり、なかなか楽しいものです。

 ゴールウェイ西方のアラン諸島では、記録映画「アラン」などを手がかりに、岩盤だけで土がない過酷な自然の中で生きるということについて考えます。
 さらに、ケリー半島、キラーニィ、ケンメアと回りながら、アイルランドの詩人・劇作家であるイェイツやアイルランド人の父をもつ小泉八雲を素材に、妖精大国としてのアイルランドに思いを馳せていました。
(2022.1.4 読)

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   平凡社ライブラリー  1,359円+税
   1995年4月15日 第1刷
   2015年10月10日 第19冊発行

 宮本常一が監修しているので、500ページ超の厚手の文庫本全5冊のうちの1冊目を買って試し読みしてみたところ。文庫本の古書なのに、送料込み901円と値の張るものでした。

 日常的な飢え、虐げられる女や老人、掠奪やもの乞いの生涯、山や海辺の窮民……ここに集められた「残酷」な物語は、かつての日本のありふれた光景の記録、ついこの間まで、長く貧しさの底を生き継いできた人々の様々な肖像である。(カバー表紙から)

 初出は1959~61年に平凡社から刊行されたもので、この文庫本は、72年刊行の第2版を底本としてつくられたもののようです。
 読んでみると、貧窮を原因とした略奪、乞食、飢饉、風土病など、過去の常民が経験してきた厳しくも辛い生活の様子が描かれていて、明るく楽しい気持ちで読み進めることは困難なものになっています。このような「負」の生活状況の説明が延々と続くのかと思うと、ついつい別の書籍に手を出したくなりますが、まだまだと我慢して読み続けました。

 嫁入りして苦労する女性の実態、圧制がはびこるヤマ(炭鉱)で働いていた女性の証言などの、辛く苦しかった日々の話が延々と続きます。それらを忘れることなくしっかり記憶することは大切なことだとは思いますが、これを全5巻続けて読めるかというと自信がありません。古書としては値も高い。したがって、2巻以降の購入は多少先延ばしにすることにしようと思ったところです。
 暗い冬の、正月早々ではない時期に読めばよかったかもしれません。
(2022.1.9 読)

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   角川文庫  438円+税
   1998年7月25日 第1刷発行

 堀田あけみ作品を読むのはこれが5冊目。
 高校3年の天馬安寿子は陸上部のスター。怖いもの知らずで美人。加えてそのさっぱりした性格で学内の人気者だ。人生が順風満帆に見える彼女にも、人知れぬ悩みがあった。幼なじみ・舞の恋人である一平に密かに惚れていたのだ。しかも泣きたいくらい熱烈に。しかし、一平のようなクールでつかみどころのない男は決して自分に振り向かぬことも安寿子は知っていた……。地方都市に暮らす高校生達の、切ない恋愛と友情の輝き。ノスタルジー豊かな傑作青春小説。(カバー背表紙から)

 大学受験を前にした進学校の生徒たちの話で、登場するのはキャラの立った美男美女や空想画のようなユニーク家族。主人公の天馬安寿子は身長172cmの学園一のアスリートで、その母は元女子プロレスラー。友人たちは地元国立のM大(三重大?)は軽く受かる成績で、隣県のN大(名古屋大?)に志望替えしたらと教師に促されるほどの頭のよさなのだ。
 こういう恵まれた星の下に生まれた人たちばかりが集うことは現実としてそうあるものではなく、まるで少女漫画のようだなと思いながら読み始めたところ、途中で目を通した柳原望(漫画家)の解説にも、「だってどう読んだってこのキャラ、このタイミング、カメラワーク、全部漫画そのものじゃないですか。まるでコマ割ってから文章にしたみたい」と記されているのでした。

 かなり早い段階で ますみというあまり仲良くなさそうな同級生の名が暗示されるのですが、いつ、どういう形で前面に出てくるのかと意識しながら読んだところ、後半になって1、2度登場したものの、さしたるキーマンとして参加してくる人物になっていなかったのは不思議。いったいどのような意図でこの人物を登場させたのでしょうか。

 名古屋弁や中京圏の風物に興味を惹かれて読んできましたが、そろそろ堀田あけみを“卒業”してもいいかなと感じてしまったところです。
(2022.1.10 読)

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   朝日文庫  940円+税
   2009年5月30日 新装版第1刷発行

 北海道は、リタイアした2019年に日数をかけた車旅で一回りしてきているので、この本にもその一部の場所がきっと出てくるだろうと思って読み始めました。400ページ超あり、文庫としては比較的分厚いものです。まずは網走から、記述が始まっています。

 1991年の秋の旅として、網走観光ホテルに宿泊し、道立北方民族博物館、能取湖、サンゴ草のひろがる卯原内、サロマ湖、モヨロ貝塚、網走市郷土博物館などを訪れています。ウイルタの資料館「ジャッカ・ドフニ」で北川アイさんに、また、登呂遺跡では東大考古学研究室の宇田川洋氏に会っています。

 92年に入った1月の旅では、札幌から特急列車で約6時間の稚内へ。サロベツ原野を目にしつつ南稚内に到着。飲み屋街を訪れて水蛸のしゃぶしゃぶを堪能し、抜海岬、野寒布岬、声問岬と岬めぐりをして、オンコロマナイ遺跡を訪れ、宗谷丘陵を通って最北端の宗谷岬へ。
 さらに、宗谷岬からオホーツク海沿岸を南東方面へと進んで、間宮林蔵の碑、海軍望楼跡を見て、北方40kmの樺太と韃靼大陸に思いを馳せています。猿払村、浜頓別、枝幸町とオホーツク海沿岸を進み、目梨泊遺跡の発掘調査作業所、雄武町の興部警察署幌内警察官駐在所を訪ね、紋別市のオムサロ遺跡公園、オホーツク流氷科学センターをめぐってから網走市へと向かっています。

 当方も初夏の季節に稚内から同じルートを走破しましたが、途中で見るものは多くなく、紋別に着くまではかなりの時間を要したように記憶しています。猿払の「インディギルカ号遭難者慰霊碑」と「松浦武四郎宿営の地」、浜頓別の「クッチャロ湖」、枝幸の「ウスタイベ千畳岩」と「オホーツクミュージアムえさし」、雄武では興浜南線の終着駅だった「旧雄武駅」と「日の出岬展望台ラ・ルーナ」、興部では「モーモー城(オホーツク農業科学研究センター)」と興部の開拓に多大な貢献をした人物の「米田御殿」などを経由したのでした。

 小清水を経て斜里町で津軽藩史の慰霊碑をまわり、旅の最終地である知床半島へ。斜里、宇登呂などを見て、オホーツクの流氷を見ながら思いついたことなどを述べていました。
(2022.1.14 読)

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   新潮文庫  400円+税
   1984年11月25日 第1刷
   2004年2月20日 第58刷発行

 自分にとっては、「青春忘れもの」「食卓の情景」「男のリズム」「散歩のとき何か食べたくなって」「よい匂いのする一夜」に続く、池波エッセイの6冊目となります。
 ある夏、編集者や友人らとともに九州・由布院への宿に籠って語り合ったときの対談原稿をベースに、その秋のフランス取材旅行で得た材料を加えて出来上がったという1冊。初出は1981年で、その3年後に文庫化されたものです。

 てんぷら屋に行くときは腹をすかして行って、親の敵にでも会ったように揚げるそばからかぶりつくようにして食べなきゃ……。
 勘定、人事、組織、ネクタイ、日記、贈り物、小遣い、家具、酒、月給袋など百般にわたって、豊富な人生経験をもつ著者が、時代を超えた“男の常識"を語り、さりげなく“男の生き方"を説く。本書を一読すれば、あなたはもう、どこに出ても恥ずかしくない!(カバー背表紙から)

 著者は「はじめに」で、「この本の中で私が語っていることは、かつては「男の常識」とされていたことばかりです。しかし、それは所詮、私の時代の常識であり、現代の男たちには恐らく実行不可能でありましょう。時代と社会がそれほど変わってしまっているということです」と述べ、「年寄りの戯言として読んでいただきたい」としています。
 鮨屋へ行ったときはシャリだなんて言わないで普通に「ゴハン」と言えばいい、そばを食べるときに、食べにくかったら真ん中から取っていけばいい――などと述べていますが、食事なんて自分の好きなように食べていいわけで、書かれていること自体もそうするのが男の作法だと言われているような気がして、やや鬱陶しい感じも。仲間との気軽な会話をまとめたもののためか、論調が横柄で高飛車な印象を受けました。多少世の中に認められるとこうなってしまう人間は多く、池波だってその例外ではないということでしょうか。

 「てんぷら屋に行くときは腹をすかして行って……」のくだりを読んで、無性に天婦羅屋のてんぷらが食べたくなりました。天ぷらなんてこのごろは胸やけがしてともすれば避けて通っているほどなのに。
 また、戦国時代や江戸時代の場合は「死」が近いところにあったため、人々は小さいうちから、人間はいつか死ぬものであることをわかっていたといいます。そして現代人も、「自分は死ぬところに向かって生きているんだ」と知り、日頃からいつまで生きられるかを意識するようにしていれば、どんなことに対してもおのずから目の色が変わってくるし、身のまわりのものすべてが自分をみがくための「みがき砂」だということがわかってくると述べています。なるほど、そうかもしれないなと思うのですが、やはりどこか年寄り臭い感じがするのでした。
(2022.1.16 読)

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   講談社文庫  724円+税
   2012年1月17日 第1刷発行

 福岡・博多を題材とした小説が読みたいと思って手にしたのが「親不孝通りディテクティブ」(初出2001年)で、その目論見が十分に満たされたので、こちらのほうも買ってみたもの。博多にある親不孝通りを舞台に「鴨ネギコンビ」こと鴨志田鉄樹(テッキ)と根岸球太(キュータ)の二人が活躍するシリーズの2作目です。

 1985年、17歳。オレ達若かった! 「親不孝通りディテクティブ」の名(迷)コンビの高校時代、キュータとテッキは恐れ知らずに博多の街を駆け回る。羽目を外したキュータは美人局に嵌められる。金に窮したキュータは信金の裏金をまんまと奪うが、結果は収束どころか闇社会が絡み、危機てんこ盛りの事態に。こんなはずじゃなかったばい!――という内容。

 ディテクティブではすでに大人になり、テッキは中洲の屋台でバーを営み、キュータは結婚相談所の調査員をしていましたが、こちらは時代をさかのぼって二人ともまだ高校2年生の悪ガキの頃という設定になっています。
 しかしそれにしても、高校生二人が立ち回るには異様に派手なストーリーでした。
(2022.1.21 読)