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 新型コロナウィルスの蔓延防止のため自宅にとどまり、2019年8月7日にNHK・BSプレミアムで放送された「甲子園とオバーと爆弾なべ」を観ました。録画して、今まで見ずにあたためていたものです。

 戦後の沖縄が一つになって夢を見た一日がありました。それは1990年夏の甲子園決勝、「沖縄水産」vs「天理」の試合です。
 当時まだ春夏を通じて優勝経験のなかった沖縄勢が、栽弘義監督のもとで初めて決勝戦に進出したとあって、沖縄じゅうが一つになってテレビの中継にかじりついたのでした。道路からは車が消え、店は開店休業。試合は1対0で惜しくも沖縄水産は涙を飲みましたが、この時のテレビのアナウンサーの「沖縄は今日1日だけ、夢を見ました!」という実況は今も語り草になっているといいます。

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 このドラマでは、沖縄出身のアーティストBEGINが作詞作曲した「オジー自慢のオリオンビール」と「オバー自慢の爆弾鍋」に着想を得て、県勢初の優勝に向けて勝ち上がっていく沖縄水産高校の活躍を、戦中・戦後を必死に生き抜いてきた自らの人生と重ね合わせて応援するオジーとオバーを中心に描いています。
 那覇の平和通り、第一牧志公設市場界隈を舞台に、人情味あふれる人々の物語が展開されます。
 ドラマの脚本と演出を担当するのは、映画「ナビィの恋」や「さんかく山のマジルー」で知られる、沖縄在住の中江裕司です。

 あらすじは次のとおり。
 1990年夏。末吉(平良進)とウサ(吉田妙子)の夫婦は那覇の市場で食堂を営んでいる。とはいっても、末吉は酒を飲んでばかりで昼間から働かず、毎日海へ行って変わった漂着物を拾ってくる。ウサは不発弾の破片を再利用した鍋で食堂の料理をつくる。この爆弾鍋で生計を立て、子どもを大学まで行かせたのが自慢だ。
 夏の甲子園が開幕してほどなく、孫娘のゆかり(蔵下穂波)が本土から帰ってくる。理由は語らないが東京で何かあったようだ。
 沖縄水産が勝ち進むにつれて、盛り上がっていく市場。食堂には沖縄の戦後を支えた愛すべき人たちが通ってくる。しかしオジーは高校野球が終わると、食堂の手伝いもせず、海へ行ってしまう。そして、拾ってきた漂着物を食堂に飾る。オバーはそんなオジーを黙って見守っている。
 そんな中、ゆかりはオジーの秘密を知る。海に行っていたのは子どものとき、家族を疎開船・対馬丸の沈没で失ったからだと。
 甲子園はついに決勝へ。みなが食い入るようにテレビにかじりつく中、ウサオバーがいない。オバーは沖縄戦で亡くなった妹の遺骨を今も探している。ゆかりはオバーが爆弾鍋で料理を作るのは、死んだ妹への供養と生きていることへの感謝だと知る。
 オジーがオバーを連れて市場に戻ると決勝戦は大詰めを迎えていた。沖水が負けてしまうが、市場中から拍手が起きる。みなが「オジー自慢のオリオンビール」を歌い出す。

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 沖縄好きにとっては最高のエンターテインメントに仕上がっています。そして、画面づくりは事前に監督の名を聞かなくとも中江裕司作品とわかるもので、ワクワク感を覚えます。

 何と言っても配役がオキナワンで固めているのがよく、これは中江裕司でなければ集められなかったでしょう。
 末吉とウサ夫婦に沖縄俳優界の大重鎮の平良進と吉田妙子を配し、「さんかく山のマジルー」で主役を張った蔵下穂波がいい娘になって登場。息子を放課後食堂に預けて昼夜働くシングルマザー役は沖縄アクターズスクールでマキノ正幸が見出した逸材の満島ひかり、また、ゆかりの幼馴染みには現代版組踊「肝高の阿麻和利」で7代目阿麻和利役を演じた佐久本宝も出演します。
 島唄界からは大城美佐子、徳原清文が出演していて、三線を弾きながらうたう場面もあります。
 平和通りで路上パフォーマンスをしている唄者は奄美竪琴の名手・盛島貴男。60年前の里国隆そのままという感じです。
 沖縄芝居からは瀬名波孝子、仲嶺眞永、沖縄のお笑い・演劇界からは城間やよい、新垣正弘、津波信一、島袋寛之、現役時代は那覇市の総務部長だったエッセイストの“アコークロー”宮里千里なども登場していました。

 いい作品だったので、DVDにコンバートして保存版にすることにしましょう。

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   文春文庫  650円+税
   2017年1月10日 新装版第1刷
   2018年7月15日 第3刷発行

 不遇感を抱えながら、一心に剣の稽古にはげむ文四郎。18歳の秋、神社の奉納試合でついに興津新之丞を破り、思いがけない人物より秘剣を伝授されます。前途に光が射しはじめるなか、妻をめとり城勤めに精をだす日々でしたが、そこへ江戸にいるお福さまの消息が届きます。

 「蝉しぐれ」は2005年に映画化され、藤沢周平の出身地山形でもロケが行われたことから先行上映が行われたと記憶しており、その時に観ています。
 監督の黒土三男は原作に惚れ込み、15年もの間映画化を熱望し、2003年にNHKで放送されたTV版の脚本を経て、ついに監督として映画化を実現したそうです。
 牧文四郎に市川染五郎、ふく役に木村佳乃、牧助左衛門に緒形拳、登世に原田美枝子、島崎与之助に今田耕司、小和田逸平にふかわりょうを配した作品。
 とりわけ印象的だったのは、子ども時代の文四郎が市井の人々の冷たい視線を浴び、蝉しぐれの中父の亡骸を荷車に載せて戻る途中に、少女だったふくが駆け寄ってきて荷車を押すのを手伝うシーン。あれは感動的でした。
 子ども時代のふく役は調べてみると佐津川愛美(さつかわあいみ)という人で、今も女優として活躍しているようです。

 2か月間の沖縄ステイから戻る機内にて、これで楽しかった沖縄滞在が終わってしまうという感慨とともに読了。小説の世界に最後までどっぷりと浸って、時間を忘れて読み進めてしまいました。
(2020.3.4 読)

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   琉球新報社  2,250円+税
   2017年11月15日 第1刷発行

 母親が話す追想をもとにして、かつてあったという辻遊郭の状況を知ろうとして、この本を入手したのは、2018年9月でした。
 そして、著者の真喜志きさ子さんと初めて会ったのは2020年2月。沖縄滞在中の24日、沖縄県立図書館で行われるはこびとなっていた「講演記録DVD「真喜志康忠のうちなーぐちで語やびら 沖縄芝居よもやま話」上映&トーク」に赴いたところ、新型コロナウィルスの蔓延防止のため急遽延期されることになったとのこと。コロナには勝てずと戻ろうとしたところ、後ろから呼び止めて丁重に延期のお詫びを言われた方が、真喜志康忠の娘でもあったきさ子さんだったのでした。
 さらにそのわずか3日後、、今度は「てんぶす那覇」に「スクリーンで甦る乙姫劇団 木曜芸能公演 百花繚乱」を観に行ったところ(これは幸いにも延期・中止にはならなかった)、この日の上映フィルムの提供者としてまたもやきさ子さんがステージに登場し、挨拶をしているのでした。この映画の主人公で乙姫劇団の看板女優だった上間初枝こそ、「母の問わず語り 辻遊廓追想」に登場するきさ子さんの「母」だったのです。
 この本を読む前にはそんなエピソードがありました。

 さて、この本。
 1936年、たった6歳で沖縄の辻遊廓に身売りされたという母を持つ著者が、母が亡くなる数年前から語り出した数奇な身の上と、これまでの歴史書には浮かび上がらなかった、従軍した誇り高いジュリたちの真実を綴った一冊となっています。
 辻遊廓に身売りされた著者の母とは、戦後の沖縄で結成された「乙姫劇団」で男役として人気を博した上間初枝氏(2015年没、享年85歳)です。
 1944年10月10日の「十十空襲」で焦土と化した那覇市街と辻遊廓。上間初枝氏はこの空襲によって水揚げを免れて終戦を迎えます。その後、解放されたジュリたちによって結成されたのが「乙姫劇団」でした。劇団は沖縄各地を巡業し、今でも伝説となって沖縄内外に多くのファンがいるほどです。
 「ジュリ」と呼ばれた最後の世代の証言が読め、加えて劇団で活躍したその女性が沖縄芝居界で一世を風靡していた真喜志康忠との間に設けた娘が今になって書いているということで、極めて価値のある一作です。

 読む直前に著者と会い、映画の中で活躍していた母の上間初枝も見たので、ものすごく印象深く読むことができました。
(2020.3.9 読)

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   集英社文庫  580円+税
   2019年9月25日 第1刷発行

 初出は、季刊雑誌「kotoba」に2013年から3年間連載した「東京エレジー」。それを単行化して2016年12月に集英社から刊行された「東京エレジー 居酒屋十二景」を、「東京居酒屋十二景」と改題して文庫化したものです。
 コシマキには「東京酒場の郷愁と、青春のエレジー 酒を知った新宿…… 遊んだ浅草…… 仕事をした銀座…… 住んでいた麻布……」とあり、カバー背表紙の紹介文には次のように書かれていました。
 「大学入学と同時に東京へ。気づけば半世紀の時が流れた。自分を育ててくれた思い出の町を訪れ、お気に入りの居酒屋をめぐり歩こう。芸術と文化を学び刺激的な日々を送った新宿。資生堂デザイナーとして20年通っていた銀座。独立して事務所を構えさらなる飛躍を誓った麻布──。時代が移り変容しながらも、変わらぬ風景が残る12の町を描き、郷愁をつづる太田流「東京案内」」

 12の町とは、登場順に田端、浅草、阿佐谷、新宿、湯島、銀座、日暮里、麻布、下北沢、佃、神保町、千駄ヶ谷。ただ飲み歩くのではなく、18歳で上京して以降50年の歳月を思い返し、自分の歩んできた道を重ね合わせて過去への追憶を抱きながら記していて、太田流の表現や文体が愛おしく感じられました。
 いわば、「居酒屋」を書くのではなく「町」を書いているところがよく、文学的には彼の著作の中でも一級品のように思われました。
 また、東京以前も書いてみませんかと提案されて、長野県松本についても記しています。

 解説は、あやしい探検隊などで行動を共にしていた、シーナの親友でもある沢野ひとし。このヒトは独特で、著書を解説せよと言われているのに、「太田和彦の書く字が好きである」といとうころから解説を始めているのが笑えます。
(2020.3.11 読)



   学文社   1,200円+税
   2018年1月30日 第1刷発行

 海外に多く出ているウチナーンチュ移民をラテンアメリカに訪ねた、沖縄大学名誉教授の旅行記です。
 2008年の沖縄移民100周年記念行事に合わせて、ブラジル、アルゼンチン、チリ、ボリビアとロサンジェルスを、2009年と10年にブラジルのサンパウロと主にクリチバへの旅、12年にはメキシコと中米のニカラグア、グアテマラを、そして13年にはサンパウロとクリチバ、ボリビアのサンタクルス、サンフアン移住地、サントスなどを訪れています。

 各地で様々な生き方をしている多くのウチナーチュとの交流を綴った紀行の記録なのですが、読んでみると、本人の備忘録としての日記のような文章が延々と続いていました。脈絡のない固有名詞が唐突に現れるなどして、読んでいて理解するのが難しく、また、何に乗った、誰と会った、何を食べた、どこを見たなどについては山ほど記しているものの、それらをどう洞察し、どのような感想を持ったかについてはほとんど記されていません。そのため、あまり楽しくない読書になってしまいました。最後まで読み通した自分の忍耐強さを褒めてあげたいくらいです。
 不特定多数の人が金銭を支払って読む一般書籍として出版したいのであれば、それら読者のことは十分に念頭に置いて文章を再構成すべきであり、それが著者や発行者としての大切な責任でもあると思いますが、そのような配慮がほとんど感じられませんでした。研究書や自費出版であれば納得もできますが、一般書としてはこれではいかがなものかと思います。

 ここまでこの本に対して厳しい理由は、実は同著者の「旅の表層:ユーラシア大陸横断、ラテンアメリカ縦断、そして沖縄 港にたどり着くまで」(学文社、2018)をもすでに購入してしまっているからなのです。
 こちらはまだ読んでいませんが、似たような文体で読者目線の感じられない唯我独尊的な内容だったらもう書籍であっても窓の外へとアバンダン、金返せ、打ち投げてしまうぞっ! と、猛り狂ってしまうことも考えられます。(笑)

 以下に、我部政男(山梨学院大学名誉教授)が記し、沖縄タイムスに掲載された書評を引用しておきます。ちなみに我部政男は、2020年に琉球大学法文学部教授を定年(65歳)退職した政治学者・我部政明の実兄だそうです。

・「出琉球沖縄」人々の物語  2018年3月18日
 世界地図を広げて、紀行文や旅行記に目を通すことは、単に未知の地域と世界の情報、知識を得るだけでなく、その土地で生活する人々の心に触れる喜びがあるからだろうか。
 世界のウチナーンチュ大会には、各地に散在する移民の子孫が集まる。その壮大な光景を那覇の国際通りの祭りの道ずねー(パレード)、球場での熱気あふれる集会に見ることができる。そこに集結する人々の思いとはいったい何なのか、予想はつくものの簡単に解き明かすことは不可能であろう。この琉球沖縄の歴史の織り成す重層的な実態の意識、思想こそ多くの人の知りたい関心事であることには変わりはない。当分の間は、時代思潮を担いつつそのネットワークの解明こそ、語り伝えられていくことであろう。もちろんその文化システムを維持しながら補給し、発展のための方策も講じられるであろう。
 これまでもその問いに答えようと試みられた企画は少なくない。今、現在、試みられているのが、本書ではなかろうか。本書の特色は、署名に表示されているように、旅の反復を繰り返し、世界のウチナーンチュを訪ね、その日常生活の表象に漂う心象を記録に遺したことであろう。訪ねた国は、ブラジル、アルゼンチン、チリ、ボリビア、メキシコ、ニカラグワ、グアテマラ等、ほぼラテンアメリカ全地域に及ぶ。まさに「出琉球沖縄」の文化と歴史を担う人々の物語である。将来、そのネットワークの変容が、どうなるか、国際政治の影響もあり、今後の課題として残るであろう。
 世界のウチナーンチュの航跡を現地調査の構想のもとで可能にしたのは、著者のフィルドワークがラテンアメリカであったことにもよるが、娘・慎子氏の論文の対象が、「沖縄移民のアイデンティティ」に関するものであったことも幸いしたであろう。これらは強い絆のネットワークで結ばれて結実している。何年越しにか開催される大会に参加した人たちは、本書を手にして、その出自を確認するであろう。

(2020.3.11 読)

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   フーガブックス  1,200円+税
   2017年3月8日 第1刷発行

 1月3日から3月4日まで、沖縄本島でのロングステイを体験し、その間20冊ほどの本を読みましたが、その直前に山形で1冊読み上げてから出発した本があったのを忘れていました。
 忘れてしまったのは、その内容があまりにもつまらなかったから。というか、くだらなかったというほうが正しい。格別難しい内容でもなく、読みにくい装丁でもないのですが、途中から読み続けるのが苦痛に感じるようになりました。薄い本だったので、早く読み終えて次に進もうというモチベーションだけでなんとか読み切りました。

 著者の言いたいことは、武器や軍隊を持たない空想的な平和主義は真の平和をもたらすものではなく、武器を持たなかった琉球王国や湾岸戦争時のクウェートをみればそのような平和主義の末路は見えている、もっと現実に目を向けよう――ということのようです。しかしなのだなぁ……。

 小見出しを拾っていくと、「日本と沖縄は、根は同じなんです」「うちなーんちゅは誇りある日本人なんです」――まあこのあたりは本土側からの視点というか一方的な思い込みがあるものの、わからないでもありません。しかし、「沖縄のマスコミにあなたもきっと騙されていますよ」「沖縄って中国に狙われているんですよ」「沖縄を中国に売ろうとしている人たちがいるんですよ」「沖縄県民よ、被害者意識を捨てようではないか」「反日年寄りの青春に付き合っている場合じゃないんですけどね」「オール沖縄よ、悪はあなたたちです」とくると、このヒトはまったくもって何を言いたいのだろうという思いに、徐々にかられていくことになります。

 大きく譲ってみても、世の中右か左かしかないわけではなく、時勢や情勢としてそういう一面があることは否定できないと思いますが、それが沖縄やウチナーンチュの全体像としてそうなっているのだと言われても、まったくピンときません。ああ、ここにもまた独りよがりの大言壮語を吐く世間知らずがいるなぁと思う程度のこと。ミクロはマクロで語るものではないのですよ、わかりますか。

 ふざけるなよと思わせる気持ちを増幅させるのは、そんなただの一人合点の思い込みを、厚顔無恥にも赤の他人に本を売って金を払わせるということまでして押し付けること。つまり言いたいのは、好きなことを言うのは勝手だけれども、あまりに一方的で賛同できるようなシロモノではないので、本代を返せ!ということなのですな。まあ、古書を送料込み408円で買ったものだから損害は少ないけれども。

 著者は、1951年沖縄県本部町生まれの沖縄大学法学部卒業。警察官として18年間勤務した後、各種コンサルタント業をなさっているのだそうです。
 著者の、周囲の人々に対する構えなり考え方がわかるところがありました。
 たとえば「辺野古に基地反対運動をしに行くと1日6千円もらえて弁当もあるそうだよ」(つまりは伝聞)と言うと、「翁長知事及び共犯者を擁護する人たち」は、「証拠があるか」「あなたは実際にそれを経験しているのか」(事実の確認)と反論してくるが、こういうときの対処は、「相手の質問には直接答えず、その反対の質問を相手にして答える」「相手が質問ではない何かを言ってきても答えない」――のだそうです。
 もう鼻で嗤えてしまいますが、つまりは、自分の言いたいことは伝聞であっても一方的に言うけれども、人の意見にはつゆほども耳を貸さないということを、あたかも宣言しているようではありませぬか。こういう人に対する処方箋はないと言っていいでしょう。

 人間たるもの、もっと真摯でなければいけません。どこで誰が撮ったものか、巻頭、巻末の写真は今の沖縄をよく表している美しいもので、ここにばかりはホッとするものがありました。
(2020.1.3 読)

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   ステレオサウンド  2,778円+税
   2014年8月5日 第1刷発行

 沖縄を代表するバンド「りんけんバンド」のリーダー照屋林賢の沖縄写真集です。
 2010年台、60代になった林賢は、自宅のある北谷美浜のサンセットビーチの近くで「ビーチで夕陽撮って、海見ながら音楽作ってるさ」(本人談)という生活を送っていたようです。彼は、この本ができる前からカメラを首にかけて歩ききれいな写真を撮っていて、それらが彼のブログなどに載っていたのを見て、ずっと注目していました。

 それはまさに、沖縄で生まれ育った著者ならではの感性と視点で撮影されていて、この本では4つテーマに分けて写真が収録されています。
 それらは、海や空のまばゆいばかりの「青 BLUE」、自宅のスタジオやビーチなどで見かけたいい表情などを集めた「人 PEOPLE」、各地で見かけた沖縄らしい風景を切り取った「眼 EYE」、そして、これがもっとも林賢らしくて本作中の白眉と言っていい、サンセットビーチでの夕刻の雲や人々のシルエットを写した「夕 SUNSET」。
 沖縄固有の時間の流れ、人と人とのふれあい、観光地だけではない沖縄の風景がここにあります。

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 そして、自分のレーベルを持っている林賢ならではと言えるのが、巻末に「りんけんバンド」の名曲10曲を収録したCDが付いていること。それらはおそらく林賢自身がベストだと思っているものがセレクトされているようで、「ありがとう」「肝美らさ雨上がいぬ花ぬ如」「涙」「渡海」「七月エイサー待ちかんてぃ」「若太陽」「まーかいが」「肝にかかてぃ」「織りなす日々」「黄金三星」。うん、割合として初期の作品が多いな。
 沖縄滞在中の2020年1~3月、日曜夜はFM沖縄の林賢の番組「タンメーカラハーイ」を聴いていましたが、その番組でもこれらの曲はよく取り上げられていましたから、きっと彼の音楽活動のベースになっている曲たちなのでしょう。
(2020.3.12 読)