郷愁

あまりホームシックになることは無い。でも時には堪らなく日本へ帰りたいと思う。ただ、その周期が普通の人よりも長くて、何年に一度やって来る訳だ。それは日本への郷愁というよりは私の家族や友人達への郷愁で、つまり人間が恋しくなるのだ。例えば私が暫くボローニャを離れていてボローニャを恋しいと思うときは町が恋しいわけで人間関係への郷愁ではない。生まれ育った日本ではあるが、国よりも私を取り囲む人々への想いのほうがずっと強いと言うのは、つまり私はそれだけ人々と強いつながりを感じていたからなのだろう。私は自慢ではないが友人と呼べる人が少ない。知人や友人に限りなく近い存在は山ほど居るけれど、これが私の友人、と心から呼べる人は割と少ない。それを昔は寂しいことだと思ったが、よく考えてみると心から友人と呼べる人がひとりだっていることは大変な幸運であることに気がついた。毎日会うでもない、毎日電話で話すでもない。でも、何か大切なことを話したい相手が居て、それを聞いてくれる相手が居る。気持ちの一方通行でないことがとても嬉しいと思う。まだメールなんて便利なものが無かった頃、私と友人達は頻繁に手紙を交わした。寂しいなあ、と思っている時にまるで見抜いたみたいに手紙が届く。文頭にボローニャの生活を満喫してますか、と書かれているのを見ては、はい、満喫するよう心掛けます、と手紙に向って誓ってみたり。数え始めたら両手の指では納まらないほど沢山ある不安や悩みよりも、今ある小さな幸運をひとつひとつ数えてみることを手紙に記して教えてくれた友人も居る。考えてみれば慣れない生活の中で私はいつも友人達に支えられていたように思う。何しろ私は頑固なくせに直ぐに弱音を吐くので、友人達も放っておけなかったのかもしれない。でも、そんなおかげで私はいつも皆に支えてもらって今日までやって来た。私の友人達は一様に地に足がついていて、立派な人たちばかり。私のように弱気を吐く人なんていやしない。私の手など必要とする人なんて居ないように見える。それでは何時か別のことで恩返しが出来たらよい。友人達がボローニャを訪れるようなことがあったら、そんなことがあった、こんなことを考えたと話しながら、暮らしていく中で見つけた私の目線から見たボローニャの道案内するのもよいだろう。ボローニャのどの道もどの広場にも様々な私の想いが詰まっている。昨日、収納家具の奥底から老朽化して今にも切れそうな輪ゴムに束ねられた手紙の束がごっそり出てきた。その幾つかを開いて読み始めたら有難くて涙が沢山零れた。久し振りにひとしきり泣いたら体が冷えたのだろう、風邪を引いた。ホームシックな上に風邪を引いて、冴えない日曜日になった。

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レオナルド

 手紙って捨てられないですよね、、、実家のマンサルダに結構な数の手紙、、、持っているのですよ自分も、、、
 友人は私も少ないです、、、友情はそれこそ恋愛よりも時には長く続くものなので、お互いに吟味していかないと、、、悲しみも郷愁も人生のスパイスですよね、、、、ただ風邪はいけませんね、、、、、早く治して一年を締めくくってください。

may-green

yspringmind さん、ご無沙汰しております。
お邪魔致します。友達は私も少ないです。だんだん一人遊びが上手になって、何でも一人で考えて、一人で答えを出す癖がついてしまったような感じです。お友達大切にしなくてはと、痛感します。

明日からお餅を持って、ボローニャに向かいます。
お恥ずかしいようです。冬のボローニャ、防寒対策をして出かけます。
雪はとけたようで、助かります。今回は私の母を連れた旅で、結構、大変です。孫の住む街にどうしても行ってみたいようです。どうぞ、お体ご自愛ください。良いお年をお迎えください。
  • URL
  • 2009/12/28 13:38
  • Edit

Via Valdossola

こんばんは。
私は来年3月末に帰国しますが、こちらで仲良くなった人たちもいて、帰国してからボローニャへの郷愁が募りそうです。
でも街ではなく、人への想いです。
  • URL
  • 2009/12/28 19:22
  • Edit

yspringmind

レオナルドさん、手紙は捨てられないですね。単なる郵便物なら兎に角、手紙は駄目です。友人は恋愛の相手よりも奥深い・・・と思うのは私だけでしょうか。郷愁は一夜明けたら上手く纏まり、風邪は有難いことに薬が効いてかなりいい感じです。

yspringmind

may-greenさん、一人遊びが上手になるのは案外良いことだと思います。ひとりじゃつまらないから・・・と思う人が世の中には沢山居ますが、そんなことはないですよね。でも、心が繋がった友人はいいですね。宝です。お餅を持ってボローニャ訪問ですか。それもお母様と一緒に? お母様を伴った旅は決して楽ではないでしょうけど孫の住む街にどうしても行ってみたい関心、興味を持っているなんで素敵です。滞在中、雨や雪が降らないように空の神様にお願いしておきます。may-greenさんも良いお年をお迎えください。

yspringmind

Via Valdossolaさん、こんばんは。暫く暮らした町を離れると郷愁は募りますね。ボローニャ暮らしも3月までですか。ボローニャでは色んなことがあったと思いますが、残りの数ヶ月はやっぱりボローニャに来てよかった、と思えるような良いことが沢山あることを祈っています。人への郷愁に加えて町への郷愁も一緒にお持ち帰りください。

まりさ

Yspringmindさん、こんにちは。
そのいたみよくわかります。。。。私は胸の痛さがいやで手紙はあるときを機にとっておくのをやめてしまいました。。。 そういう性格なのでまめには友人たちとは連絡を取っていなかったのですが、3年前に小さな町の実家を高校のときの友人ふたりが帰郷のさいたずねてくれて連絡をくれました。 去年は高校生の時ぶりにその友人たちにあってとても心がなごみました。 何があるかわかりませんね。 Yspringmindさんもその友人にまたあう日があるといいですね。
  • URL
  • 2009/12/30 01:09
  • Edit

yspringmind

まりささん、こんにちは。私はひとりで旅するのも何かするのを寂しいとは思わない性格ですが、多分それは離れていても常に一緒にいなくても気持ちが繋がっている友が居る、それが根底にあるからなのだと思います。私にとって友人とは多分私の財産の一部なのだと思います。

まりさ

Yspringmindさん、あけましておめでとうございます。
風邪はなおりましたか?
私も幸福なことに”気持ちが繋がっている友”が本当に少数ですがいます。 本当にありがたいことです。Yspringmindさんのおっしゃるとおりとても大切な財産ですね。 ありがとうございます。
では、よい2010年をおすごしください。
  • URL
  • 2010/01/04 01:04
  • Edit

yspringmind

まりささん、明けましておめでとうございます。風邪はおかげでよくなって、今は眠っている間にコンコンと小さな咳が出るだけです。
気持ちが繋がっている友がいるのは嬉しいことですね。これは自分の意思だけでは持てないもの。縁と気持ちが生み出すものですよね。少数だって良いんです。そういう人が居るのは心強いものなのです。
今年もお付き合いお願いします。

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