元気な証拠

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薔薇色に染まった夕方。ああ、明日も天気になるのだろうと思いながら久しぶりに仕事帰りに旧市街に立ち寄った。このところ体調が良くなかったので、寄り道気分ではなかったのである。つまり、寄り道が出来るのは元気な証拠。嬉しいなあ、などと言いながら旧市街へ行くと、思いのほか人が居なかった。日が少し長くなったとはいえ、それでも早くやって来る夜。旧市街に着く頃には薔薇色の空も姿を潜め、すっかり夜になっていた。しかし其れも中世めいた美しい情景を眺めることが出来るなら、良いではないかと思いながらそぞろ歩いた。
30分ほどウィンドウショッピングをしようと思ったのに、面白いことに興味がわかない。まだ冬の真っ最中だというのに、冬物を眺める気になれないのだ。もし、店先に少しでも春めいたものが置かれていたら。もし、春色のスカーフが飾られていたら。そんなことを思いながらどの店のショーウィンドウも素通りした。平日の夕方とあってどの店も暇そうだった。其れも週末にもなれば、ごったがえすのかもしれないと思いながら、大通りを抜けて路地に入った。目的はチーズ。トリュフ入りのペコリーノチーズ。店に入って直径15センチ弱のそれを指さすが、これは切り売りできないとのことだった。半分だけ欲しかったのに。しかし丸ごとでしか売れないというのならば仕方があるまい。財布の紐がするりと緩んで紙に包まれた其れを袋に入れて貰った。今日の収穫は此れ。夕食に頂こうと考えていたのに、冷蔵庫に入れたきり忘れてしまった。明日のお楽しみ、などと言えば聞こえが良いが、こんなことを忘れてしまったことに自己嫌悪だった。明日は忘れてはならぬ。肝に銘じておこう。

帰りのバスの中に大きな犬が居た。性格が穏やかそうな犬。静かに座っていたのに、私が乗車したら私をめがけて突進してきた。目的はチーズの入った袋。あまりにクンクンするので飼い主が恥じながら、もう辞めなさいと、犬に声を掛けたので周囲にいた乗客たちが笑った。美味しい匂いが分かる犬。トリュフ入りペコリーノチーズなのだと私が袋を指さして言うと、誰もが成程と頷いた。バスは時々楽しい。楽しい人達に居合わす度に、バスは楽しいと思う。触れば手が切れそうなほど細い月が暗い空にひとつ。良い一日だった。




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