土曜日の計画
- 2018/09/29 18:17
- Category: bologna生活・習慣
冷たい風が吹く。このところの急激な冷え込みに、油断は少しもしていなかったが体を冷やしたらしく、少々風邪を引いたようだ。それに周囲に風邪引きさんが居たから、それも原因だっただろう。空気が冷たいから昼間の空は飛び切り青く、そうでなくとも素敵な季節がますます素敵に磨きがかかる。こんな季節に風邪で寝込むなんてことがあってはならぬ。栄養と睡眠をたっぷり摂って初期のうちに治してしまおう。そうだ、梅干し。母が作ってくれた梅干しを食べてみようか。私の万能薬の梅干が何とかしてくれるに違いない。
心待ちにしていた土曜日。今日は昼前に家を出てエミリア街道を南西に向かったところにある小さな町へ行く計画があって、相棒と少し前から楽しみにしていたのだ。特に何をするでもない。単にボローニャを脱出して、いつもと違う場所をそぞろ歩く、そして昼食を楽しむという細やかな計画である。天気は上々。車の窓を閉め切れば暑いし、開ければ風が冷たすぎる。どうにも調整の難しいが、しかし何と空が晴れ渡って気持ちがよいのだろう。エミリア街道を南東に走ると海の町に突き当たるが、私達の目的地は遥かに手前、隣町のイモラよりも手前のドッツァと言う町だ。住民は7000人にも満たない、小さな丘の町。丘と言ってもせいぜい標高190メートルで、ワインの為の葡萄や果物が周囲の丘を埋め尽くす典型的なこの辺りの田舎町と言ったら分かりやすいかもしれない。ただ、単なる田舎町にしては名が知れていて訪れる人が多いのは、中世からの歴史と要塞、それから壁に描かれたアートのせいだ。町の中心部は狭くて、徒歩で1時間もかからずに歩きつくすことが出来るけれど、情緒豊かな小路を、足と止めながら歩くならば、時間はいくらあってもいいだろう。さて、家を出るのが少し遅くなったのでまずは昼食にありつくことにした。要塞の前に陣取る感じの良い店が私達の目的地だ。一等地にあるために知らない人は旅行者目当ての高い店と思う節があり、店の前に来て中をうかがいながらも中に入って来る人は少ない。大抵その近くのもう少し砕けた感じの店に吸い込まれて行く。それでその一等地の店は地元の人達や、この店に一度入ったことがあるような客で賑わうのだ。例えば相棒も、以前はこの店に偏見を持って足を踏み込むことを拒んでいたけれど、今はこの店が気に入りになった。手打ちパスタの美味しいこと。女主人の感じが良いこと。それが私達がこの店を評価するポイントで、その辺で食事をするよりもずっと良心的な料金なのだ。時間はたっぷりある。時間をかけてのんびり昼食を楽しんだ。食べすぎたかな。大丈夫、これから散歩するんだから。そんなことを話しながら店を出た。外に出ると、中を伺う人達が居た。とても美味しかったと訊かれてもいないのにコメントすると、彼らは目を丸くした顔を見合わせ、ありがとうと言いながら中に吸い込まれて行った。きっと彼らも気に入るだろう。午後の丘の風はヒンヤリ。首元を撫でていく風に私達はジャケットの襟を立てた。一体どれほど歩いたのだろう。いつも車移動ばかりで久しぶりに歩いた相棒が先に音を上げた。疲れたのでは仕方がない。そんな訳でボローニャに帰って来た。それにしても気持ちの良い土曜日。この爽やかな美しい天気は一体何時まで続くだろうか。10月もこんな空が続くならば、また近いうちに何処かの町で散歩を楽しみたいと思う。
ところで梅干しと言えば、この夏帰省した時に友人夫婦から紀州の梅干を頂いた。梅干しの贈り物だなんて!と舞い上がってしまった。日本に暮らしていた頃は若すぎたからなのか、梅干しの存在を有難いと思ったことがなかった。今は、宝石ほどの存在価値である。梅干し。今、うちの冷蔵庫には、母が作った梅干しと、友人夫婦からの上等の梅干が並んでいる。今日はどちらを頂こうかしら、なんて言える日はそう長くはない。新しい年を迎える頃まで在庫が持つとは到底思えないから。