雨降り土曜日
- 2013/04/21 03:12
- Category: bologna生活・習慣
空がかち割れるような音がして目の前の女性が小さな悲鳴を上げた。ひゃっ。そしてそれが大きな雷音であることが分かった途端、もう一度、今度は先ほどよりももっと大きな雷の音が響き渡った。私は店の中にいて目の前にいる女性はつい先ほどあったばかりの店主だった。此処は旧市街のVia Santo Stefano。いつもならバスでさっと通り過ぎてしまう辺りにある小さな店で、何時の頃からかバスの窓の中から店の入り口を眺めては一度入ってみようと思うようになった。間口の狭い、うなぎの寝床のように奥の深い店。そんな印象だった。ワインを扱う店であること以外は何も分からなかったが、一杯飲み屋のような感じでもなければ、酒屋さんでもない。それだけは入り口の印象で理解が出来た。今日、この辺りを歩いていたのは全くの偶然で、単に歩く元気が残っていたからというしかない。そうだ、もし歩き疲れていたら、いつものようにバスで通過していたに違いないのだ。それでこの店の前に来たので中に入って軽い食事でもしようと考えたが、どうやら休憩時間に入るらしかった。時計を見たらもうじき3時だった。成程、それなら店が閉まっても仕方が無い。とまた来るからと店から出てきた店主に挨拶をして立ち去ろうとすると、まあ、そんなことは構わないの、ゆっくりしていくといいわ、と閉めかけていた扉を大きく開いて招き入れてくれた。店主が読み上げた幾つかのメニューから私は一番簡単に出来そうなものを選び出し、そして其れに合いそうな地元の赤ワインを注文した。暫くして食事が出てくると、店主は待たせてしまってごめんなさいね、何しろ注文を受けてから作るから、と詫びた。そしてゆっくりどうぞと言い残して奥に姿を消した。予想通り店はうなぎの寝床風で、しかし狭いと感じさせないモダンでシンプルな作りだった。其の空間はイタリアらしくなく、ひょっとして店主はアメリカに暮らしたことがあるのではないだろうか、と思わせるような自由で客を干渉しない雰囲気に満ちていた。私は30分ほど居座っていたようだ。勘定を済ませながら店主の休憩時間を蝕んでしまったことを詫び、そして先ほど思いついた質問をしてみた。彼女はアメリカに暮らしたことはなかったが、私がそんな質問をした理由を述べると、店がそんな雰囲気になっていることを大変喜び、嬉しいわ、有難う、と言いながら私の手を両手で包み込んで強く握った。私たちには女性であることとボローニャに暮らしていること以外、何の接点もない。しかし接点など不要なときもある。現に私たちは店に招きいれてもらってから勘定を済ませるまでの間に互いに好感を持ち合い、互いの名前を呼び合うようになったのだから。今月末には店で詩人の集まりがあるらしい。詩人の集まり? 驚く私に店主は嬉しそうに頷いた。どうやら店はこんな人達にも好まれているらしい。私たちはまた近いうちに会うことを約束して別れた。店の外に出ると雨。そういえば先ほど大きな雷が鳴り響いていたっけ。水飛沫をたてるほどの強い雨に路面が煙っていた。折角の週末に雨。しかし温かい雨。何か楽しい予感のする、今までとは違う雨。空を見上げると雲の向こう側の太陽が透けて見えた。良い季節になったものだ、雨ですらこんなに楽しいなんて。
basilea
雷が鳴ります。気温がそう上昇しないくせにと思いますがこれはきっと初夏の前触れだと思い込みたいところです。
yspringmindさんの日常の発見、特に人々との出会いはこちらまで嬉しくさせてくれる魔法があります。時間のある時は読ませていただいてコメントしないのでとても失礼ですがとても楽しみにしています。