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KIRIN FUJI 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY 
FUJI GOTEMBA DISTILLERY
700ml 46% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:ややドライだが、エステリーで華やかなトップノート。洋梨や白葡萄を思わせる軽やかなフルーティーさ、フルーツタルト、奥には乾いたウッディネス、干し草、微かにゴムのようなアロマも感じられる。

味:口当たりは軽めだが、桃の缶詰のシロップやフルーツゼリーを思わせるしっとりとした甘さ、白や黄色のフルーティーさが広がる。
余韻にかけては華やかでオーキーな熟成香が鼻腔に抜け、ウッデイでドライ、栗の渋皮煮を思わせる甘さと微かな渋み、ほろ苦さ、スパイシーな刺激も伴う。

キリン富士シリーズの3作目、これぞ富士御殿場蒸留所のシングルモルトという1本。
クリーン&エステリーのハウススタイルを体現した、軽やかでいて豊かなフルーティーさが特徴で、原酒は主としてバーボン樽熟成だろうが、ワイン樽なども含まれている印象。また、短熟から中長熟まで広くバッティングされているようだ。欲を言えばもう少しリッチな方が良かったが、価格を考えればこれ以上求めるのは酷。終売となったシングルモルト富士山麓18年に通じるフレーバーもあって、個人的には懐かしさを感じる1本でもある。

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ご無沙汰しております。
この数年間、本当に色々ありましたが、もはやコロナ禍ではないと言う感じか、街も人も、数年前の姿を取り戻しつつあるように感じます。
私もそろそろブログ活動を再開していくかー、と思いつつもだらだら先延ばしにしていたわけですが、先日サンプルを飲んでこれは面白いと感じていたキリンの新商品(2023年5月16日発売)をフライングで買えましたので、これを皮切りに、活動を再開していこうと思います。

さて、今回のシングルモルト富士ですが、個人的にはよくぞ富士御殿場モルトの味わいを通常リリースで復活させてくれたと、評価点以上に感動した1本です。
また5000円〜6000円という価格帯で、このクオリティのジャパニーズシングルモルトモルトがリリースされるという点も、ウイスキーの高騰の中ではありがたいことであり。ブームを受けて量産した大手メーカーの原酒が着実に育っていることの証でもあって、非常に嬉しく思います。

原酒構成を予想すると、8〜9割がバーボン樽で、原酒は平均10年あたり、だいたい6〜18年くらいの短塾から中長熟原酒がバッティングされている印象。
バーボン樽由来の華やかさとフルーティーさ、そこに複雑さを加える異なる幾つかの樽感、富士御殿場蒸留所らしいクリーンでエステリーな酒質。熟成時に50%まで度数を落としているのもあってか線は細めですが、これだけオーキーで果実味や甘さのあるモルトを現行スコッチで探そうとすると、良くて同価格帯あるいはそれ以上となるため、価格面でも勝負できます。

かつて富士山麓ブランドでシングルモルト18年がリリースされていた時は、非常に美味しい(特に香りが素晴らしい)モルトだったにも関わらず、当時の市場はスコッチモルト優位でジャパニーズモルトは高いと一部の愛好家を除いて敬遠。相対的な価格差(2000年代当時で1本約2万円は高い…ボトラーズの60年代ロングモーンやベンリアックが買えた…)からも、あまり話題にならなかった訳ですが、今回のシングルモルト富士は、ついに時代と市場とキリンの出せるものが合致したと言えるリリースなのです。

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一方で、後日このシングルモルト富士がリリースされた際には、愛好家の世代によって大きく2つの感想が生じてくるのではと予想します。
1つは、私のように懐かしいという感想。もう1つは、味はさておき「キリンっぽくない」という感想です。
というのはここ数年、キリンの通年リリースは富士御殿場蒸留所で作られるグレーンウイスキーをベースとし、グレーン、あるいはアメリカンウイスキー系統の香味を持ったリリースが殆どでした。

・富士山麓シグネチャーブレンド
・キリンウイスキー陸
・シングルグレーン富士
・シングルブレンデッドウイスキー富士
飲むとわかりますが、全てのウイスキーがグレーン風味主体、あるいはグレーンそのもの。従って、富士御殿場のハウススタイルはグレーン系の香味だと、特に近年飲み始めた人にはそう認識されていてもおかしくない訳です。

ただし細々販売されていた蒸留所の限定品や、あるいは上述の18年のように、富士御殿場蒸留所は決してグレーンだけの蒸留所ではなく、フルーティーで華やかで、近年の愛好家の趣向にマッチしたモルト原酒が作られていました。
通常リリースが故に試して欲しいにも高すぎる、ものがない、というブーム時のテンプレにならないだろう本リリース。
2023年はジャパニーズウイスキー100周年にして、蒸留所創業50周年の記念の年。是非この機会に富士御殿場蒸留所、もう一つの個性を楽しんでもらえたらと思います。

追記:コメントにて、平均熟成年数7年強という情報を頂きました。飲んで感じた印象よりも数年若かったですが、それだけ若くても楽しめるクオリティの原酒が育っているのだと言えますね。