OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.243
OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)
ジャマイカのET
1970年代、ダブが生まれたジャマイカでは、ダブ・ミックスを司るレコーディング・エンジニアたちがある種のアーティストとして、その名前を関したアルバムをリリースするほどに重要な存在になってきました。有名なところでは、その発明者、キング・タビー、その弟子筋にあたるプリンス(キング)・ジャミー、サイエンティストなどがいます。ただし、全員が全員、自らの名前を冠してリリースしていたわけではなく、そのあたりは、属していたレーベルのプロデューサーの名前や、レーベルお抱えのバンドの名前であったりと、おそらくプロデューサーのさじ加減といったところも大いにあったようです。
で、今回紹介したいのはETことエロール・トンプソン。レコーディング・エンジニアでダブの発展に大きく寄与した人物で、彼が制作したダブ・アルバムはかなりの数に上ります。しかし、おもしろいことに彼はプロデューサーを立てるタイプだったのか、上記で言えばプロデューサー名やレーベルのハウス・バンドの名前を冠した作品しか残していません。
1960年代末、ジャマイカの音楽シーンのスタイルが、ロックステディからレゲエへと変化する頃に、ヴィンセント・チン(後にNYに渡り、現在のワールドワイドのジャマイカン・ミュージックの窓口となる〈VPレコーズ〉を設立)の〈ランディーズ〉に籍を置き、タビーとはまた少し違ったスタイルで彼もダブの発明に寄与したと言われています。当時の音源はレーベルのバンド名=インパクト・オール・スターズ名義で発表され、最初期のダブ・アルバムの1枚と呼ばれている『Java Java Java Java』(1973年)もこの名義で発表されています。
またETといえば1970年中頃、プロデューサー、ジョー・ギブスとのタッグを組んでエンジニアとしてそのクリエイティヴな才能をさらに開花させます。ダブ・ミキサーとしての代表作といえば、ジョー・ギブス&ザ・プロフェッショナルス名義で5作でている『African Dub』シリーズでしょう。ダブを聴くならこの1枚的な定番ですね。シリーズの中でも『Chapter 3』は、効果音やSE、シンセなどがふんだんに使われたコラージュ感が強く、彼のミックスのオリジナリティがとてもよく出ている作品と言えるでしょう。もちろんダブだけでなく、ジョーとのタッグは、ザ・カルチャーの『Two Sevens Clash』などレゲエ史に残る名作を何枚も残すなど、1970年代後半のレゲエを代表するプロダクションと言えるでしょう。またザ・プロフェッショナルズ以外では、ジョー・ギブスとのタッグはザ・マイティー・トゥー(最強の二人)とクレジットされることもあり、ジョー・ギブスが音楽的にその才能を強く認めていたことが想像できますね(でも単体の名義はなし)。