「片想いはPファンクのわりと見過ごされてるところを受け継いでいる」──対談 MC.sirafu x MOODMAN
結成から約10年目にリリースされた2013年の1stアルバム『片想インダハウス』。あれから3年、2ndフル・アルバム『QUIERO V.I.P.』がこのたびリリースされた。それこそceroやザ・なつやすみバンドなどなど、メンバーが参加するバンドやユニット、さらにソロも含めて、その快進撃っぷりは言わずもがな。本作もまたそうした勢いを感じるものであると同時に、片想いらしいマイペースさと、彼らの底力とも言えるパワフルなエネルギーに満ちた作品だ。キラーなディスコ・チューンにはじまり、グルーヴィーなファンク、穏やかにブルージーでフォーキーな歌もそこにはある。ゆっくりと景色を楽しむ散歩、心地よく歩くスピード、そして小走りになりたくなる躍動感、はては自転車での疾走まで、なぜか“移動”にたとえたくなる軽やかな空気がスピーカーから溢れ出す。2016年の夏をひとつ印象つける、そんな作品だ。
OTOTOYでは本作のリリースを記念して、片想いの中心人物、MC.sirafuと、DJのムードマンとの対談をお届けしよう。
片想い / QUIERO V.I.P.
【Track List】
01. 片想インダdisco
02. my fevorite things
03. Funky initiations
04. V.I.P.
05. VIVA! mila gro
06. 君の窓
07. 感じ方
08. ダメージルンバ
09. 街の景色
10. party kills me(パーティーに殺される!)
11. 棒切れなど振りまわしても仕方のないことでしょう。
12. フェノミナン
【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC
単曲 257円(税込) / アルバム 2,057円(税込)
対談 : MC.sirafu x MOODMAN
2015年の〈TAICO CLUB〉で登場したムードマンのバンド、MOODMAN & THE PLAYERS。味も素っ気のないバンド名だが、これが実は片想いやザ・なつやすみバンド周辺のアーティストたちが集まる…… つまるところMC.sirafu周辺のバンドであった。インディ・ロック・シーンにて、飛ぶ鳥を落とす勢いのミュージシャン集団と東京のアンダーグラウンド・シーンのベテランDJ。どちらもシーンを確実におもしろくしてきたアーティストであるが、そのシーンはやはり若干離れていて、その接点はちょっと不思議なものがある。と、そんな両者の対談をここにお届けしよう。彼らの浅からぬ縁、そして世界中の大量の音源を聴き漁るムードマンからみた片想いの音楽的おもしろさ、そして最新アルバム『QUIERO V.I.P.』のことまでふたりにさまざま語ってもらった(ふたりの話は終わらず、結局、居酒屋に舞台を移し…… )。
取材 : 河村祐介
写真 : 作永裕範
編集補助 : 寺島和貴
僕のなかでクラブって、予想がつかないことが起こるところだった
──片想いのニュー・アルバムに関してお話を聴きつつ、なぜムードマンとの対談なのか、ということも併せて進めていければなと思います。ディープな片想いというかMC.sirafuの活動を知る人間としては、なんとなく知っている人もいるかもしれませんが。シラフさんとムードマンは親交がありまして。で、その出会いからお話を。シラフさんは、ムードマンのパーティ〈スローモーション〉(注1)に行ってたんですっけ?
注1 : SLOW MOTION : ムードマン、ミノダ、三田格がスタートさせたディープ・ハウスがコンセプトのパーティ。〈マニアック・ラヴ〉や〈モジュール〉経て、現在は〈グラスルーツ〉などで不定期開催。
MC.sirafu : もともと大学の友人でDJのスポーツ・コイデという人がいて、彼とロスアプソン(注2)によく出入りしてたんですよ。その流れでクラブにもちょくちょく遊びに行ってて。それでスポーツ・コイデから〈スローモーション〉というヤバいパーティがあるって聞いたんですよ。でも、最初にムードマンを見たのは〈RAINBOW 2000〉っていうレイヴ・パーティの前夜祭でしたね。それから〈スローモーション〉とか行くようになったんですけど、いまではロックとか聴いてる女の子が普通に「ムーディーマンいいよね」って言ってる時代ですけど(笑)。当時はいまみたいにディープ・ハウスっていう言葉すら浸透していなくて。
注2 : LOS APSON? : 店主山辺圭司セレクトによる独自すぎるセレクトが長らく人気を誇っているレコード店。西新宿、幡ヶ谷を経て現在は高円寺にある。http://www.losapson.net
ムードマン : 1990年代のなかば過ぎの話ですね。
MC.sirafu : でも、当時はダンス・ミュージックといってもドラムンベースとか、速い音楽のほうが人気だった。その中でも〈スローモーション〉は、ディープ・ハウスとかの良さを提示してる数少ないパーティでしたね。
ムードマン : NYっぽいソウルフルなヴォーカルハウスや、めちゃくちゃ速いハードハウスは流行っていたけど、ディープ・ハウスはもちろん、おそめのテクノとか、ディスコ・ダブの前身のようなゆるくて奇妙な感じのダンス・ミュージックがかかるところがあまりなかったんですよね。〈スローモーション〉は、ミノダくんに誘われて参加したんです。その頃のこと、ボクはほとんど覚えていなくて、ちょっと前にミノダくんにあきれられましたが。月に1回、青山の〈マニアック・ラブ〉(注3)で木曜日にやらせてもらってました。お客さん少なかったけど、おもしろい人ばっかり来てくれていた気がします。
──なるほど。そのときはおふたりは面識はなかったんですか? シラフさんが単にお客さんという感じで。
MC.sirafu : そうですね、でもすごい時代ですよね。平日にオールナイトでやるっていう。
ムードマン : 当時やっていた〈マニアック・ラブ〉はテクノがメインのハコだったから、毎回「テクノかけます」って嘘ついて、遅いハウスと遅いテクノをかけてて。お客さんも少なかったので、いつもパーティの終わりに、ミノダくんがバックヤードに呼ばれてすごいお説教されてましたね(笑)。とりあえずその場では謝るんですけど、その後にだいたい近くのジョナサンに行って反省会してたんですが、最終的には「まぁ、いいんじゃね?」って(笑)。実験的なことをやらせてもらっていた〈マニアック・ラブ〉には、本当に感謝しています。
MC.sirafu : 当時、僕はボアダムスとかも好きで。ムードマンはL?K?O(注4)とバンドもやってたんですよ。
注3 : L?K?O : 1990年代中頃、ムードマンとユニットを組んでいたDJ。バトル・ターンテーブリズムとクラブDJの間を行き来しつつ、OOIOO、オリジナルラブ、灰野敬二などともセッションをこなす。
ムードマン : そうですね。L?K?Oと一緒にボアダムスの前座をやらせてもらっていた時代は、バイクにコンタクト・マイクを付けて、DJミキサーにつないだりしてましたね。排気ガスが会場を埋め尽くしたりして、凄かったですね(笑)。いろいろやってたんですけど、例えば、当時〈低音不敗〉っていうパーティを〈CLUB JAMAICA〉でやったりしてました。マイアミ・ベースを中心に、それ以外でも低音が出る音楽をかけてて、今のベース・カルチャーのルーツっぽい感じでした。でもそのパーティでも「レゲエをかけてくれ」ってよく怒られてましたね(笑)。場所を変えて恵比寿の〈MILK〉でやったときは、低音を出しすぎて上の階のバーのグラスが大量に割れて謝ったり(笑)。女の子とかは気持ち悪くなっちゃって次々に吐きはじめるし(笑)。めちゃくちゃなパワーが出てるイベントでしたね。
MC.sirafu : いま思うと、僕はすごい偏ってて。僕のなかでクラブってそういうイメージになっちゃって。
──エクストリームなものっていうイメージですか?
MC.sirafu : そうですね。予想がつかないものっていう認識でしたね。でも段々とクラブ・カルチャーが浸透しはじめて、みんなでその場を共有するっていうノリができてきて。そういうパーティノリみたいなものがイヤになった時期があって、10年ぐらいクラブ離れしてた時期がありましたね。
ムードマン : それって、2000年すぎぐらいからですかね。sirafuくんと逢ったのは、そのずーっとあとですね。スポーツ・コイデに紹介されて。
MC.sirafu : スポーツ・コイデがお客さんから昇格して〈スローモーション〉のDJになって(笑)。
ムードマン : そうそう。DJ YOGURTも実はそうなんですけど、〈スローモーション〉のDJは、お客さんから昇格してDJになっていく(笑)。ミノダくんもボクも全然動かないから、お客さんが昇格して引っ張ってくれないとイベントが続かないっていう(笑)。
MC.sirafu : 僕がクラブから離れてた10年、その後、スポーツ・コイデと再会したんですよ。そのときにコイちゃんがムードマンと一緒にやってるっていう話を聞いて、そこから繋がりましたね。
ムードマン : コイちゃんとミノダくんとは〈スローモーション〉を細々と続けてたんだけど、ふたりがクラブにあまり来なくなる感じの時期があって。それで「最近どうしてるの?」みたいな話をしたら「片想いとかceroとかのライヴに行ってます、すごくいいですよ」ということを聞いて。それで、ボクも片想いを聴くようになり、ライヴにも行くようになりましたね。
MC.sirafu : それが2012年とかですよね? ちょうど前のアルバムを出したぐらい。
ムードマン : それくらいかな。
──2000年代、ムードマンは、ハードコアとかディープなオルタナ界隈なんかは別として、日本のインディ・シーンとはちょっと距離がありましたよね。片想い周辺とかに、どこに魅力を感じたんですか?
ムードマン : もともとバンドをやっている友人が多くて、2000年前後ぐらいからですかね。バンドとDJが混ざる感じが顕著になってきて。〈HOUSE OF LIQUID〉とか、恵比寿〈MILK〉でやってた〈GODFATHER〉なんかもそうなんですが。ボクたちがそのころやっていたディープ・ハウスとか、テック・ハウスとか、ディスコ・ダブとかのシーンが、ライヴ・バンドと混ざるようになってきた時期があったんです。おもしろい文化になってきたなと思っていたんですけど、それが、2000年代の後半ですかね。その流れが〈RAW LIFE〉というイベントで大爆発して(笑)。文化って爆発するもんなんですよ。爆発しちゃったもんだから、逆にその流れが無くなちゃったんですよね。無くなったというか、散り散りに散っちゃった。ボクも数年間、わりと混じりっけの無いDJに専念してたんですよね。で、気がつくと、2010年の前後です。そんなある意味、孤独感を感じていたタイミングで片想いをおすすめされて、観てみたらめちゃくちゃおもしろかったんですよね。類型的じゃない音楽をやっているなと感じた。「どこから来て、どこに行くひとたちなんだろう」と思いました。「こんなおもしろい人たちに気づかなかった俺の目は節穴だった!」って思いましたよ(笑)。
注4 : GODFATHER : ディスコ時代から活躍し、日本のクラブにNYハウス・シーンの感覚をもたらしたベテラン、高橋徹とムードマン、そしてdommuneでおなじみの宇川直宏による“ディープ・ハウス”パーティ。
注5 : RAW LIFE : 2004年〜2006年にかけて行われた夢の島、君津市のアクアマリンスタジオ(廃墟ビルスタジオ)、新木場などで行われた音楽フェス(?)。インディ・ロック、ハードコア、ヒップホップ、レゲエ、テクノやハウスのDJカルチャーなどなどが、ひとつの会場で音を鳴らした。
片想いは、全員にマイクを立てるっていうのがコンセプトとしてあって
──ちなみに逆に片想いの側からすると、1990年代は接点がありながら、2000年代はダンス・ミュージックと接点がなかったんですか?
MC.sirafu : やりたかったけど、できなかったんですよね。1990年代の日本の音楽って、ダンス・ミュージックへの、いい意味での勘違いの繰り返しだと思うんですよ。でも、今の若い子って物心がついた頃から、ちゃんとした音楽を聴いていて、それが自然にできるというか。でも僕らの世代はバンドで黒人の音楽のマネをするとか、恥ずかしくてできなくて。真似して失敗してる日本の音楽とかも、かっこいいんですけど……。
──自分がやる音楽のスタイルではないっていう。
MC.sirafu : そうなんですよ。
ムードマン : 恥ずかしさを持っていることは重要だと思います。ボク、DJの完コピがうまいので(笑)。海外のDJみたいにやれって言われたら、そこそこできるんですけど違和感が半端ないんです。死ぬほど恥ずかしくなるんです、そういうDJをした後は「これは俺のやるべきことじゃなかった」と反省してばかりです。ドメスティックなDJのあり方って難しいんですよね。でも、2010年ぐらいから、いろんなバンドでも、DJでも、ドメスティックな面白い表現が普通に、無理の無い感じでたくさん出てきた。違和感がちゃんとおもしろいものとして成り立っていて、みんな凄いなぁと思っています。
MC.sirafu : 僕も音楽って普通にあるものの中から作った方がいいってずっと思っていたんですよ。
──ムードマンからして、片想いのフォーメイションが普通とはちょっと違うっていうのを付き進めていって、それが音楽的にどう作用しておもしろい部分なのかなって。
ムードマン : ボクは基本的に編成がおもしろいとよろこびがちなんですが、いろいろあるんですけど、ヴォーカルが何人もいるバンドは基本的に好きなんですね(笑)。知らないレコードの裏面のクレジットを見た時に「(Vo.)」ってたくさん書いてあったら、思わず買ってしまう(笑)。中でも、女性ヴォーカルのすごく高い声が絡んだり。パンクで言うと「ダート」なんだけど。フフォーメイションから生まれる細かいおもしろさが、奇をてらったものではなくて全体でちゃんと形になるって凄いことですよ。
MC.sirafu : 要素としては、Pファンク感なんですよ。Pファンクってすごいじゃないですか。メンバー何人いるんだよっていう(笑)。
注5 : Pファンク : ジョージ・クリントンを中心としたファンク・ミュージックのアーティスト集団。サイケデリック・ロックなファンカデリックと、ファンクのパーラメントとふたつのバンドを中心に構成されている(のちにあまり違いがなくなる)。ロックもファンクも飲み込んだ音楽性と、独自のコスモロジー、機知とユーモアに富んだジョージの表現が特徴的。全盛期は1970年代だが、ヒップホップやプライマル・スクリーム、レッド・ホット・チリペッパーズまで、その後のアーティストに強い影響を与える。
ムードマン : なるほど。そう言われるとわかるかも。
MC.sirafu : 片想いは、全員にマイクを立てるっていうのがコンセプトとしてあって。
ムードマン : そうだ、そういうことか。それを僕はおもしろいって感じているんだ。
MC.sirafu : Pファンクの要素のなかで、ファンクネスより前に、雑多感とかキャラクター感、黒人の低い声や女の高い声みたいな要素が入ってくるファンク感とかR&B感が好きで。逆にあのグルーヴはまねできないんで。
ムードマン : そうか、Pファンクか。Pファンクでも、わりと見過ごされてるところを受け継いでますね。片想いって、すごくバンドだなぁって思うんですよね。DJで、ああいう雑多な感じはなかなか出せないんです。ちょっと前だと、サンプリングというか、本家取りみたいな文化があったでしょ。でも、片想いはそれと違うんですよね。いろんな音楽の要素を勝手に消化しきってる感じがあって。Pファンクの話ですごいわかったんですけど。海外の音楽好きの人が聞いたら、なにものかわからないけどおもしろいなって思うはず。
MC.sirafu : ムードマンに影響受けた部分って完全にそれですね。ムードマンの昔やっていた〈ドーナッツ〉(注5)とかもそうで、ロスアプソンに何者かわからない人たちの音楽が7インチで切られて、置いてある感じとか、ものすごく影響受けてますね。今は何者かすぐわかっちゃいますけど、わからないもののおもしろさっていうのが昔はあって。
注6 : DONUT : ムードマンが1995年頃にやっていたレーベル〈M.O.O.D. 〉の7インチ専門シリーズ。
──ほぼみんな無名でしたよね。
MC Sirafu : 片想いはそういう感じでやっていて、音だけ取り出したら本当に何者かわからない。8人にしては音数もめちゃくちゃ少ないですし。
ムードマン : 音数少ないのも好きです。あと、片想いは、みなさんキャラ濃いし、よく集まったなって思う。
──年齢も結構バラバラですよね?
MC.sirafu : そうですね。さすがに20代はもういなくなりましたけど(笑)。
──そういえば、去年の〈TAICO CLUB〉でおふたりのつながりがムードマン&プレイヤーズとしてひとつの形になったわけですよね。きっかけは何だったんですか?
ムードマン : シラフくんに「バンドやりましょう」ってずっと言われてたんですけど、僕はずっと無理だよって返したんです。L?K?Oとやってたときで燃え尽きた感じがあるんで(笑)。でもずっと言われるうちになんとなく暗示にかけられてしまって(笑)。〈TAICO CLUB〉の10周年というきっかけがなかったら、やってなかったかもです。出演できておもしろかったです。でも、ライヴ・バンドというよりも、レコーディングちゃんとやるといいかもね。
MC.sirafu : 「一番最初にやろう」って言って。〈TAICO CLUB〉の人にも「最初ですか?」って驚かれたんだけど、結局フェスのアタマにステージ前に人が集まってくる感じの音楽をやったんです。結果的に目撃してる人が極端に少ないっていうオチになったんですけど(笑)。
ムードマン : しかも、収録予定だったスペースシャワーのひとも遅刻してきたらしくって、なにも撮れてないっていう(笑)。
MC.sirafu : そういう意味では、成功したなって(笑)。
ムードマン : 雲隠れ。会場でもそのあと会ったアーティストの何人かに、「今日なにやったんですか? 見れなかった!」って言われまくって、しめしめっていう。
MC.sirafu : 「そんな簡単にはみれねぞ」って(笑)。
──せっかくおふたりが揃ったということで、どういうバンドだったのかお聞きしたいんですけど。
ムードマン : 最初に思ったのは、ドラムレス。あと、女性コーラス。アニタ・オデイ(注6)が『NARUTO』の影分身のような感じで増殖している。ムード音楽。あと、音のレイヤー。それぐらいですね。これ以上説明できない(笑)。レコーディングをしたら、バンバンにダンス・ミュージックにかわっているかもしれませんが。しかもEDMとかに(笑)。
注7 : アニタ・オデイ: おもに1940年代〜1960年代活躍したアメリカの白人女性ジャズ・ヴォーカリスト。
──そろそろ新しいアルバムについてお聞きしたいんですけど、ムードマンはもう聴きました?
ムードマン : 例えば「棒きれなどふりまわしてもしかたのないことでしょう」とかって、どうやって作るんですか。こんな曲、考えつかない(笑)。
MC.sirafu : ありがとうございます。この曲、片想いの元ギターの井手リョウの曲なんですよね。だから、一応カヴァーってことになりますね。
ムードマン : そうなんだ。アレンジも含め、こんな発想なかなかできない。
MC.sirafu : でも、アルバムの中でこの曲だけは普通のことをやってるんですよね。
ムードマン : 確かに。他がおかしいから逆に新鮮に聴こえるっていう。そういうマジックなのかも。ふと、普通のディープ・ハウスがトリッキーに聴こえる、みたいな。
MC.sirafu : 普通なことをするっていう普遍性ってものすごくあると思うんですけど、普通のことをするって結構勇気がいるんですけど。そういうこともふくめて「これは大丈夫だ」っていくチョイスとかセンスは大切にしようと…… ムードマンもそうだと思うんですけど。
──ある意味ずっと普通のことをやるっていうことを避けてきた故に、磨かれた感覚っていうのは絶対にあると思うので、そこから出てくる普通のものって……。
MC.sirafu : あとはその、見落としすぎですよね。今新しく出てくるものよりも。よっぽど僕たちが見落としてきた音楽とかのほうが絶対面白い。
「そういえばみんな曲作れるんだ」って気づいて
ムードマン : あと全体的にバラエティに富んでるのに、ガチャガチャしてないんですよね。
MC.sirafu : なんか全部片想いって、12インチとかのシングルの気持ちですね。
ムードマン : ああ、なるほどね。
MC.sirafu : 12インチのシングルっていうか、洋楽のそういうシングルって、日本のシングル観とちょっと違って、これは売りたいからシングル切るぞっていう感じじゃないじゃないですか? 向こうのシングル観って、「アルバムには収まらない」けど、みたいな。(アルバムとアルバムの)間に、とか。その感覚で全曲作ってるっていうのはあって。
ムードマン : なるほど。ボクが中学生の時って、80年代の初頭なんですけど、ロックの12インチ・シングルが流行しはじめた頃で。近くの貸レコード屋に、ロックの12インチ・シングルがいっぱい置いてあるところがあったんですよ。で、アルバムを借りるよりも安かったんで、当時MTVとかで「いい曲だな」と思ってものを12インチで借りるでしょ。で、なかなかヴォーカルが出てこなくて「なんだこれー」って、毎回、度肝を抜かれたんですよね。まさか、クラブやディスコでプレイされてるとか思ってなかったから。いま聞くと、あの驚きは、今もボクがDJをやっているきっかけのひとつですね。アレンジの方法として、変でしょ、絶対的に。あの引き算の感じに慣れてしまったので、アルバムを聴いてても、あんまりガンガンガンにキー・フレーズが続くと疲れちゃうっていうか。聴きづらいっていう、そんな性格に育ってしまって(笑)。片想いは確かに、12インチ感あるかも。ちょうどいいんだよね、例えばストーンズの12インチとか。ボク、ストーンズはシングルで聴かないんですよ、12インチのアレンジが大好き。怒られそうだけど。自分のペースに合うんです。
──MC.sirafuさんのほうで他にアルバムをまとめるにあたってなにかありましたか?
MC.sirafu : 今回は古い曲とか、半々なんですよ。ちょっと長くやってると、どこか新しいことじゃないですけど、そういうことをやっていかないとバンドって終わっちゃうんですよ。目的というか。あとは、前半でずっとやりたかったダンス・ミュージックをやっとできたかなっていう。
ムードマン : その感じはなんとなくわかる。曲ってどうやって作ってるの? みんなスタジオに集まってやるの?
MC.sirafu : 1回家でみんなでデモを作って、パーティみたいな感じで(笑)。あとはYouTubeとかiTunesとかをわーっと聴いたりして。古い手法かもしれないですけど。のいままで片想いの曲は、僕と片岡(シン)さんとかで作ってたんですけど。でもメンバーもよく考えたらすごくて、伴瀬(朝彦)くんとか、あだち(麗三郎)とかっていうひとりでもやってて。15年ぐらいバンドやってるんですけど「そういえばみんな曲作れるんだ」って気づいて(笑)。
──俺だけやんなくてもいいやって(笑)。
MC.sirafu : だから今回は全部分担なんですよ。「ここまでできたから、あだちくんやって」みたいな。音楽って明文化されなくてもいいんじゃないかなってずっと思ってて。どこまでが作詞で、どこまでが作曲でっていうのは権利で部分はあるけど。でも、例えばムードマンがそこにいることによってできる雰囲気ってあるじゃないですか。そこからインスパイアされるもの。それも含めて作曲だなと。
ムードマン : ディスコ・クラシックがいまも聴き続けられているのって、優秀なエディットがつねに出ているからだと思うんですよね。つまり、誰かのアレンジにつねにさらされている。有名なエディットの名手ももちろんだけど、勝手にどっかの知らないおっさんとかがエディットしたりしたのが、ちょくちょく流行ったりしてきたわけで。無名の人が出したすごいそっけいない、マジック手書きのシングルとかの方がかっこよいっていうフェチシズムは、ある。まぁ、原曲の圧倒的な良さが、そういう乱暴なアレンジを許しているということもあるんですが。で、また原曲が流行ったり。いろいろな愛好家の手をパスされている感じ。
MC.sirafu : そういう感覚だと思います。
──アルバム作ることに関して、今回なにか際立ったコンセプトとかあったんでしょうか?
MC.sirafu : 3年ぶりなんですけど、気合を入れなかったですね。なんか、いまの日本の音楽シーンってわりと決まったサイクルがあるんですよ。CDを出してからがっちりプロモーションをして、みたいな。もちろんプロモーションもやるんですけど、でもやっぱり、いいのができたから出すっていうのがいいかなと。レコードを切るって、別にそれをいいと思う人もいれば悪い人もいるっていうぐらいの感覚だと思うんですよ。だからそういう気持ちで僕はやりました。もちろん音源はしっかり作りましたけどね。
ムードマン : そのペースでやってもらったほうがいい。いちオーディエンスとして。
MC.sirafu : 自分が好きなバンドとか、いっぱい作品をリリースしている人の好きなところって、実は、間に出ている変なEPだったりとかするじゃないですか。
ムードマン : 本当にそう。
とりあえず「ESGみたいにやりたい」って
MC.sirafu : あ、そういえばESGがすごい好きで。すごい今日はこれを言いたかったんですけど。
ムードマン : なるほど、わかるな、ESGっていうのは。
MC.sirafu : ESGの中ジャケを開くと、すごいファミリーっぽい黒人たちが集まって写ってて。でも、出てくる音楽は凶悪じゃないですか。そういえば昔、コイちゃんと話してて「本当にこの人たちがやってるのかな?」って。レジデンツじゃないですけど、ジャケットとかで嘘つく感覚ってあるじゃないですか? そういうのかなって。でも、ESGはたぶん本当なんですけど、その感覚をものすごく大切にしてて。
注8 : ESG : 1978年結成のNYアンダーグラウンドで活躍したノーウェイヴ / ニューウェイヴ・ファンクなバンド。女性3人組。ハウスに多大な影響を与えたアンダーグラウンド・ディスコでプレイされたほか、マンチェスターの伝説的なクラブ〈ハシエンダ〉のオープニングに出演しつつ〈パラダイス・ガラージ〉の閉店イヴェントにも出演した。最近ではゆるめるモ!が「Electric Sukiyaki Girls」でオマージュしてましたな。
注9 : レジデンツ : 1970年代から現在まで活躍する実験音楽&ヴィジュアル・アート集団。つねに目玉のオヤジ・ライクな被り物を被るなど、その素顔は徹底的に隠されている。
ムードマン : ESGは本当に普通なんだよね、出で立ちは。それこそ〈パラダイス・ガラージ〉含め、あのシーンで圧倒的なライヴをやってたバンドなのに。海を越えて、〈ON-U〉なんかともつながっていたのに。最近の写真とか、全員、オカンっぽさあるし。信じられる。
注10 : Paradise Garage : 1977年から1987年まで存在したNYのアンダーグラウンド・ゲイ・ディスコ。レジデントDJ、ラリー・レヴァンのプレイが伝説的な影響力を誇り、のちのNYのハウス・ミュージックを中心としてダンス・カルチャーに強い影響を与えた。
MC.sirafu : めちゃくちゃかっこいい音で。今回の片想い、マスタリング・エンジニアをイリシットツボイさんにやってもらったんですけど、とりあえず「ESGみたいにやりたい」ってツボイさんに言って(笑)。
ムードマン : それいいですね。
MC.sirafu : でもそういう感覚ってさっきも話しましたけど、いますごく現役で聴いてる世代には伝わりづらいところもあるんですけど、逆にそれはそれでいいのかなっていう。結構、ツボイさんってマジでやばくて、お願いして音が帰ってくるじゃないですか。それがほぼリミックスで帰ってくるんですよ(笑)。
ムードマン : そうなんだ。ソッチのほうがおもしろいですよね。
MC.sirafu : そうなんですよ。「それはひとによってはどうなの?」とか思うと思うんですけど(笑)。ツボイさんが「コレが最高だよ」って言って出してきて。
ムードマン : エディットとかしてるの?
MC.sirafu : エディットもそうだし、本当にリミックスしてるんですよ。ある曲は、完全にドラムが一小節抜いてあって、ブレイクが作ってあってみたいな。うちらは「これで最高っすね」って言ってノレるタイプなのでハマったというか。
LIVE INFORMATION
片想い&KAKUBARHYTHM PRESENTS
8月29日(月) @ FEVER
時間 : 開場 18:30 / 開演 19:30
料金 : 前売 3,000円 / 当日 3500円 DRINK代別
出演 : 片想い / Special Guest:TUCKER
片想い2nd album“QUIERO V.I.P.”レコ発記念ワンマンライブ
9月24日@キネマ倶楽部
時間 : 開場 17:30 / 開演 18:30
料金 : 前売 3500円(税込)
出演 : 片想い
DJ : MOODMAN
詳しいライヴ情報などは下記にて
>>片想い『QUIERO V.I.P.』特設ページ
PROFILE
片想い
片岡シン(vocal)、MC.sirafu(vocal,guitar)、issy(piano)、伴瀬朝彦(bass)、大河原明子(horn)、遠藤里美(sax)、あだち麗三郎(drums)、オラリー(vocal,tambourine)による8人組バンド。それぞれceroやザ・なつやすみバンドなど周辺のバンドにて、正式 / サポート・メンバーとして活躍するアーティストたちが集まっている。そのライヴ活動などで、着実にファンを増やし、2013年に〈カクバリズム〉より、1sフル・アルバムとして片想い『片想インダハウス』 をリリース。そして2016年8月待望の2nd『QUIERO V.I.P.』がリリースされる。