Chim↑Pomとともに、3.11を描く11年ぶりのWhy Sheep?――EYヨ、UAらが参加した新作、独占ハイレゾ配信&フリー・ダウンロードも!
1996年、ムードマンのレーベル〈M.O.O.D.〉からのデビュー以降、あまりにも寡作な勢いで作品を発表してきたエレクトロニック・ミュージック・アーティスト、Why Sheep? こと、内田学。そんな彼が3.11の後に、アーティスト集団、Chim↑Pomとの出会いをひとつの着想に、このたび11年ぶりの新作『Real Times』を発表した。OTOTOYでは、本作を独占ハイレゾ(24bit/96kHz)でリリース。UAやEYヨといったゲスト陣が参加し、複雑に絡み合う電子音、ワールド・ミュージックの要素、さまざまな具体音などで構成された作品をお楽しみください!
また新作のリリースに合わせて、日本のテクノ史上において最もカルトなチルアウトの名盤として語り継がれてきたファースト・アルバム『Sampling Concerto No.1』(1996年)と、さらには国内外でリリースされて世界的に高い評価を受けた『The Myth And I』(2003年)を同時に配信開始。さらには、彼がWhy Sheep? 以前に活動していたトライバルなレイヴ・ジャム・バンドの先駆けとも言えるCiCi Towによる、1996年発売の伝説的7インチ「Information Manipulation」(こちらもムードマンのレーベル〈M.O.O.D.〉からリリース)を、7インチ・アナログからのハイレゾ・アーカイヴィング(24bit/88.2kHz)にて、なんとフリーでダウンロード開始(アナログ・レコード特有のノイズはアーティストの意向によるものです、ご了承ください)!
>>CiCi Tow「Information Manipulation」フリー・ダウンロードはこちらから<<
Why Sheep?による11年ぶりの新作をハイレゾで!!
Why Sheep? / Real Times(24bit/96kHz)
【配信フォーマット / 価格】
ALAC / FLAC / WAV(24bit/96kHz) : 単曲 500円(税込) / まとめ購入 1,500円(税込)
【Track List】
01. Rue Pierre Leroux / 02. Radiation #1 / 03. 11th (Away From The Borders, Close To The Borderless) feat.EyE / 04. Radiation #2 / 05. Somewhere At Christmas / 06. Grum Sai Grum feat. ITTA / 07. On My Answering Machine / 08. relativisme extr_me / 09. Mandarake feat. Cuisinier / 10. Empathy feat. UA / 11. Senga (Empathy Reprise)
INTERVIEW : 内田学(Why Sheep?)
3.11、震災、そして原発事故へのレスポンスとして、約2ヶ月後となる2011年5月11日に行われたアート集団Chim↑Pomの個展『Real Times』。あまりにも寡作なこのアーティストは、彼らChim↑Pomのこれらの展示、作品に寄り添うことで作品を生み出した。EYヨ参加曲など不穏な空気に包まれた前半から、やがてUAの参加楽曲をクライマックスとして展開するライトフルな後半まで、そのサウンドスケープで、壮大な"あの日"からのストーリーを描いていく。傍らで2007年にはサウンド・アート・プロジェクト“枯山水サラウンディング”を立ち上げ、勢力的に活動を続けているとはいえ、その制作スピードは寡作極まりない。デビューから18年、3作目となるアルバムも11年ぶりのリリースとなる本作は、果たしてどのようにしてできあがったのだろうか、内田学本人に話を訊いた。
インタヴュー&文 : 河村祐介
ライター、三田格によるプロデュース作『Real Times』
——Why Sheep? としては周期通りなのかなと言うタイミングですが(笑)。10年ぐらい周期の。
内田 : 自然法則に従ったみたいに周期通りですね。音楽の彗星と呼ばれてますからね。コメットさんですよ。
——だはは。11年、その前のファーストとセカンドの間が7年。
内田 : 軌道が伸びてるんですね。そういう彗星もあるんですよ。
——記憶が定かであれば2009年の『remix』の、「いま作っている」と言っていたので、その頃の音も入っているんですか?
内田 : 僕の場合、1曲というよりも、たくさんスケッチを作るんですよね。デッサン画みたいな音はつねに作り貯めていて、それをブラッシュアップして楽曲にしていくんですね。そういう意味では、ものすごく昔に作った部分も使っていますね。それでどういうストーリーを紡いでいくかということを、アルバムを想定した上で考えていくんですよ。
——最終的にアルバムを作るということで言えば、「できた音を単純にまとめる」ではなくて「コンセプトなりストーリーに向かって作っていく」ってことですね。
内田 : そうそう。言ってみれば長編小説を書くような感覚なんですよね。1曲1曲は独立性をもっているんだけど、長編小説のチャプターという考え方もできるわけで、長編のストーリーのなかで、どう1曲を当てはめるか、どう仕上げたら最終的に良いのか。そういう発想をしています。もちろん、震災前に作っていたデッサンというのもあったんですが、最終的にアルバム1枚としてどうするのかは、最後の工程になります。今回に関して言えば三田格さんに、プロデュースしてもらって、まとめてもらったという感じですね。
——三田さんのプロデュースってどこまで踏み込んだ内容のものなんですか?
内田 : 彼は職業としてはライターなので、テクニカルなところから入ってくるのではないんですけど、ただ観念的な部分だったりとか、文化全体を見ている人だから、楽曲がこの時代のこのタイミング、この世相においてどうあるべきかみたいなところを考えつつ、僕にいろいろとサジェスチョンをしてくれたんだと思います。1枚のアルバムを作るときって、その何倍かの曲がデッサンとしてあるわけなんですが、それを聴いてもらうんです。そこから「これいいんじゃない?」というものをひっぱりあげてもらって、ブラッシュアップしていく。そのなかで「こういう方向性に持って行け」とか、あるいは「こういう音はいらない」、こっちとしても「ここだけは譲れない」とかをやりとりしながら作っていったわけです。
——本当にプロデュースですね。
内田 : そういう意味でちゃんとやってくれました。
——そもそも三田さんと作りはじめたきっかけってなんなんですか?
内田 : そもそもは前作のライナーノートを書いてもらってるんです。それ以前に、三田さんをライターとしてリスペクトしているというのはまずあって。1990年代のはじめにKLFのアンソロジーを三田さんと野田(努)さんがやられていたんですが、そのブックレットを読んで、ものすごい感銘を受けたわけです。いわばファンだったわけです。その後、お会いして、「Why Sheep? のファースト・アルバムが出来上がったから聴いてください!」って渡したんですよ。三田さん、ちゃんと聴いてくれる人なんで。そうしたら次会ったときに「僕はあなたの音楽は一生好きにならないと思う」と言われて(笑)。
——だはは。
内田 : 逆に「あなたの音楽は一生好きにならないと思う」なんて言われたんで、その正直さに感動して(笑)。だったらセカンドのときにライナーも書いてもらおうと。そういう人にこそライナーを書いてほしいし、そういう人にこそ「だったらあなたが好きって言えるような作品にしてみてください」っていうことで今回プロデュースをお願いしたわけなんですよ。
——強烈な拒絶っていうのは、まぁ、興味があるわけで、無関心とは違いますからね。
内田 : そうそう。表裏一体ですからね。
アート集団、Chim↑Pomに感銘を受けて
——では本作をまとめようと思った契機みたいなものはあるんですか?
内田 : 自分は、短距離選手よりも長距離選手だと思ってて、小説になぞらえれば短編よりも長編小説作家だと思ってますね。最終的にはひとつのパッケージの、ロング・ストーリーを作るという感覚でやっていて。だからスケッチを作る瞬間、瞬間はそうでないにしても、最初のイメージからどういうストーリーに組み込まれていくものかをなんとなくは考えていて。曲をブラッシュアップするにも「CDで言えば何曲目」「レコードで言えばB面の何曲目」っていうのをデッサンする段階から微妙に考えています。
——今回のアルバムですが、全体のコンセプトということで言えばChim↑Pomの「Real Times」展がひとつ作品のスタートになっているわけですよね?
内田 : そうですね。うーん、まずはアーティストがどうであるかというよりも、ああいう現象――9.11にNYにいたり、3.11に日本にいた僕たちもそうですけど、フリーズしちゃうわけですよね。思考停止、機能停止になってしまうわけですよね。アクションを起こすとか起こさないっていうことよりも、まずは身の回りのことを考えるし、とても制作のことまで考えが及ばないと思うんですよ。それは時間がある程度経ったらできると思うんですけど。ところが彼らは、3.11が起った瞬間に動いてたわけですよ。
——「Real Times」展自体、わずか震災の2ヶ月後、2011年の5月20日にははじまってますもんね。
内田 : その部分に感動したということがまずひとつあって、それが自分の制作態度に変化を与えた部分もあると思いますね。そして「Real Times」展の前に、渋谷駅の『明日の神話』のジャック(岡本太郎による巨大な絵の端に原発事故をモチーフにした絵画を人知れず設置)があって…… あのスマートさにも感動したし、あのニュースをみたときに直感的にChim↑Pomだろうなと思ってたら、やっぱりそうで。とにかく、ウルトラ短距離選手的な動きが、自分の制作ペースとのコントラストという意味で衝撃を受けたし。そのスピードでやった上での「Real Times展」のまとまり方というのにも感銘を受けたし。よくぞやってくれたという。実は、3.11の前にも三田さんがChim↑Pomと近いこともあり、また自分の思想的なところも三田さんは知っていたので、引き合わせようという話があったんですよ。広島の「ピカ」の話を初めて聞いたときにも本当に感動したわけですね。「アーティストの仕事はコレだよな」と思って。「そういう人とはぜひなにかやってみたいな」と思ってて、その時は思うだけで終わってたんだけど、でも「やっぱり3.11の後にコラボレートとしてやるべきだ」と思ったこともあって。本格的に一緒にやりましょうって言う前に彼らが作っている「気合い100連発」という展覧会で配っていた音源を、勝手に音楽にしてしまったんですよ(「Ki-Ai 100(rebuild dance mix)」)。僕からのアンサーというか、それを彼らも気にいってくれて。それで、三田さんとも話して、ひとつ2001年の9.11から作りはじめた僕の動きと、2011年の3.11まで作りためた10年間、その世界観をひとつの作品に落とし込むっていうところで最終的に『Real Times』っていうアウトプットにしようじゃないかという話になったんです。
確固とした思想を打ち立てられない世界になってきている
——3.11を超えて、音楽への向き合い方って変わりました?
内田 : 「音楽に対する姿勢が変わったかどうか」という質問に直結した答えになっているかどうかはわからないんですけど、Why Sheep? という名義で行ってきた自分の音楽活動とかコンセプトがひとつ、このアルバムで成就したなっていう考えがあります。今回の作品は、Why Sheep? としての完結編としての要素もあって。3.11を経て、音楽に対する向き合い方と、世界の見方っていう部分での順応の仕方は変わってきたかなとも思います。これからはもっと逆説的な意味で、極私的になっていくと思う。今までのWhy Sheep? は大きくひとつの思想の下にまとめあげていくというものだったと思うんだけど、それに対して、特に今世紀が始まってぐらいからは確固とした思想を打ち立てられない世界になってきていると思うんです。前作は『Myth and I』っていう“神話と私”という、ひとつの物語、プライヴェートな自分のためだけの神話を作るというようなコンセプトだった。今度の作品でそれを自己否定したわけですよね。セカンドを作っているときの思想は、断片化した神話がいろんなところにあるのが健全な状態で、それが相対的な関係を持っているというのがひとつの価値観だったのが、それをやっている限り、9.11のようなことや3.11以降の原発関連のゴタゴタのようなことが起こり続けるんだろうなっていう風にいまは考え方が変わっていってます。以前の考えを真っ向から否定というわけじゃないんだけど、そういう感覚をひとつ表しているのが、今回のアルバムのキーになっている「Empathy」という曲なんです。
——具体的に言うと?
内田 : 日本語だと“Symapathy”という言葉も“共感”とか“同情”とも訳されるわけなんですけど、どちらかと言えば”かわいそう“という同情に近い言葉だと思うんですよね。一方、“Empathy”は”共感”で……「自分の身に置いて考えてみる」とか、「自分だったらどうなるんだろう」という意味で、今回のアルバムのキーとなる言葉になっています。同じ極私的な状況にあってでも、もっとすり寄っていく感覚です。理解しようという姿勢というか、それが、このアルバムのコンセプトになっているところなんですよね。3.11の前から、“Empathy”というのは自分のなかで芽生えてた信念みたいなものだったんです。
——その楽曲はUAさんが歌われていて。
内田 : 一つの明確な信念をもっているし、アルバムのなかでキーになっている曲だったので、「Empathy」は歌が乗っているべきだと、ヴォーカル・トラックであるべきだと思っていたんです。そして、その歌声は、UAの声を頭に浮かべながら作っていたのでUAの声でなければいけないと。こちらからしつこくラヴ・コールをして、面識もなかったんですけど「こういう事情で、こういうテーマで音楽を作りましたのでどうしても歌ってください」と、ストーカーのように頼み込んで、ご快諾いただきまして。
——そこまでのUAさんの魅力というのは学さんからみてどこなんですか?
内田 : ひとことで言うのは難しいんですけどね。簡単に言っちゃえば声の存在感なんだけど。僕のなかで尊敬している日本語の歌える女性のヴォーカリストは、UAさんとサンディさんなんですよ。いつかサンディさんとも仕事してみたいなと思ってるんですけど、この曲に関していえば、この歌詞の歌い手はUAさんしかいないと思ってて。なぜ、UAさんかというと、曲ができあがった瞬間に脳内にUAさんの声が聴こえてきたから。
——前半がダークだったり暴力的だったりで、後半は「Empathy」もそうですけど、光にむかっていく感覚があって、そういった意味でもストーリーがかなり練り込んでありますよね。
内田 : アルバムって、どういう曲順にもできるんだけど、それによって印象がかなり変わると思うんですよ。もともと、このアルバムの曲順っていうのは1度、シャッフルしてかなり変えたんですよ。だんだん、三田さんと曲を作りためていって「こんな感じになっていくんだろうね」っていうことは言ってたんだけど、3.11が起こり、Chim↑Pomとも『Real Times』展があって一緒にやるということを念頭に入れてからは、3.11になぞらえてストーリー・テリングをしていくべきだってことになって。それでこういう順番になっていったと。震災とかディザスターは望もうが、望むまいが起こるわけです。人はそこに直面して、フリーズしてしまう。でも、人間は生きている限り、そこから再生をしていくわけで、その流れに作り変えていったということなんです。最初は全然違う曲順で、入ってる曲も違って。テーマなんかを決めてからは落とした曲もあるし、アレンジも変えたし。
——そうなるとさっきの話でアルバム全体、流れで言えば後半のキー曲が「Empathy」だと思うんですけど、前半は3曲目「11th (Away from The Borders, Close To The Borderless)」だと思うんですが。この曲自体は、何を示しているんでしょうか?
内田 : この曲はそもそもビートルズの「Strawberry Fields Forever」のように2つの曲をひとつにした曲で。後半から作ってる曲なんです。後半の部分っていうのが、9.11に衝撃を受けて作った曲なんです。想像を超えた物事が起こってしまうということを楽曲にしたかった。そして副題に「Away from The Borders, Close To The Borderless」というのがあるんですが、これは自分にとってすごく象徴的な言葉で。複数の宗教とかイデオロギーがあったときに、その間に“ボーダー”が生まれてしまうわけです。でもそれを“エンファサイズ(Empathize)”していくと、“ボーダレス”になっていくはずだというところで、そういった意味も込められていて。これも実はアルバムのなかのもうひとつのキー・トラックで。そこにはわかりやすく、前半の部分にはアラビックな音の要素も入ってたりするわけです。
——聴いていてハっとするのは、やはり後半、ノイジーな展開からいきなり静寂が現れるところですよね。ある種、それまで続いていたものが断絶した、あの3.11の状況をひとつ表現しているのかなと。
内田 : あそこでモノローグが入ってきて、あれは僕がしゃべっているんですが「これはただの夢なんだから、ただの悪夢だから」というような意味の独り言を言う、ちょっとした寸劇になっているんですけど。とても信じられないことが起ったということを、ひとつの内省的なカットとして入れたんですね。
「そのとき、そのときの正直な切実な音を作ろうと思っている」
——あと、この曲にはEYヨさんが参加されていますよね。
内田 : あの曲は、ある種のマッドネスが欲しかったんですよね。9.11、そして3.11を経て作ったあの曲に。それは、自分が制作する音だけではなくて、なにか他の、マッドネスが欲しいなと思って。それを表現できるのはEYEさんだなと。EYEさんに曲を渡して、なにか好きなことをやってくれって言ったら、ああいう風になったと。
——アルバム全体的にワールド・ミュージック的な要素が多いですよね。それこそ、さっき出たアラビアもそうですが、ラテンの楽曲もあるし。
内田 : それはさっきの話にも戻るところなんだけど、Why Sheep? のひとつのスタイルで。僕がファーストを出した頃っていうのはセカンド・サマー・オブ・ラヴが日本に輸入された時期で、その影響でニュー・エイジ・トラヴェラーズとかネオ・ヒッピーであるとか、国境を越えてボーダレスに渡り歩いていくっていうのがこのWhy Sheep? をはじめたときはコンセプトとしてあったわけですよ。いわゆるポストモダンにおけるノマドです。聴ける限りの民俗音楽を聴いて、模倣であっても、そういったものから抽出して、ミクスチャーして、そうして音楽を作っていくというのがWhy Sheep? のひとつのスタイルだったんですよ。実際、海外のアーティストにも何人か参加してもらってますし。だから、今回でひとつやるだけやりきったなと思えるような作品ができたとは思っています。
——さっき言った、思想というかそういうところを離れたWhy Sheep? としての音楽的なスタイルの部分でも、今回はひとつ区切りってことですね。
内田 : 強引に結びつければ、アラビックな音楽にしてもそうだし、スパニッシュなものにしても、文化の背景には思想も宗教もあるじゃないですか? その結果としてアウトプットされたもののひとつが音楽だと思うので、そういったものをできるだけ、並べて、俯瞰して融合させていくようなものをやろうというのは最初のWhy Sheep? を始めたときから思っていたことで。その方法論がある程度成就したという気持ちはあります。結果的には思想に結びつくのかもしれないけど、自己諧謔的なポストモダンへのお返しってところですかね(笑)。
——3.11以降、政治との向き合い方が変わったという人はたくさんいると思うんですが。学さんはどうでしょうか?
内田 : 9.11にサウンド・デモに参加したり、ソーシャルな活動もしていたので、より意識的になった部分はあったと思います。実生活の部分でも。実際、そういうことを気にしているタイプの人間ではあると思いますが。政治と経済は、文化と絶対に切り離せないものだから、その反応としての世相が最終的に文化としてアウトプットされるわけなんで。
——フランスのTTCのラッパー、Cuizinierが参加していますけど、これはなにを歌っているんですか?
内田 : これはね…… フランス語がわかる女の人に聴かせたら、血相変えて怒るんですよ。特にフェミニストは(笑)。三田さんの紹介で、Cuizinierと友だちになって渋谷の街を一緒に歩いたんですが、彼は日本のマンガとかアニメ・オタクで「まんだらけ」に連れていけって。それでまんだらけにいるコスプレした店員たちがショッキングだったらしくて、彼女たちをベースにしたセクシャルなハプニングというか、そういったことを彼の頭のなかで妄想したものをラップにしたみたいです。パリでこの前Cuizinierに会ったときに「女の人に聴かせたら怒る」って言ったら「なんでだ! 僕は女性をリスペクトしているよ」って逆に怒ってましたけど(笑)。
——やはり、アルバムの流れを考えると、ある種の、光というか希望は見えているのかなと思うんですが。絶望ではなく。
内田 : そうですね。基本的に僕はオプティミスティックな人間なんですよ。なんで、絶望はしてないですね。絶望のギリギリまではいってますよ、でも、いろんな局面において、最終的にはオプティミスティックなところがあって、再生は絶対にするものだと思ってるから。だから、そこは一貫しているんじゃないかな。ファースト、セカンド、今作で三部作なんでけど、絶望に一番近かったという意味ではセカンドかな。それを自己否定して、今作があって、「Real Times」。どうやって現実に直面して折り合いをつけていくかっていうところになる。そのひとつのキーが「Empathy」だっていうまとめ方になっている。
——ちなみに、今回は過去作の配信もやるんですが……。
内田 : 1度作ってしまうと、自分で聴かないんだよね(笑)。そういうものなんですよ。趣味で自分の音楽を聴くなんて絶対にない(笑)。でも何かの折に必要があって聴いてみると、そのときの、その年代でしか作れないものっていうのがあるんですよね。技術力の問題だけじゃなくて、経験を積めばある意味で引き出しも増えてくるし、テクノロジーも進化しているから、音楽を作るのは楽になったんだけど、例えばファーストとか、Ci Ci Towとか、いまやれって言われてもできないですよね(笑)。それは技術の問題じゃなくて、人間のそのときの精神的なステイトもあると思うし。そのとき、そのときの正直な切実な音を作ろうと思っている。でも、それは一方通行で元には戻れないですよ。過去作の話がでたから、最後に一言言いたいんだけど、いままでWhy Sheep? と名乗ってきて、それこそ何度も、「で、なんで羊なんだい?」って尋ねられることがしばしばあったんだけど、その度にデタラメな返答をしてたんです。だって、自分にもその答えに確信が無かったから。でも、『Real Times』を聴いてもらえば「なぜ羊か?」の1つの回答になるんじゃないかなと思ってます。特にこのインタヴューを読んでくれた人達にはね。
Why Sheep? の作品を一挙再発!
まずはムードマンのレーベル〈M.O.O.D.〉より1995年にリリースした『sampling concerto no.1 “the vanishing sun” op.138』は、フェイク・ファーな羊毛に包まれた、ザ・KLF『Chill Out』へのアンサー的な作品。『Chill Out』同様、アンビエント・コラージュとも言える作品でサンプリングを主体に構成され、セカンド・サマー・オブ・ラヴの残り香を感じる、暖かでキュートな、この国のチルアウトの、カルトなクラシック。続く2003年リリースのセカンド『The Myth And I』は、アジア、ヨーロッパを中心に世界各国の放浪をへて、エレクトロニカ~ワールド的な色を強め、本作は海外でもリリースされ、海外でも高い評価を得た。そして、新作と同発の『Real Times Rares&Remixes』は『Real Times』のレア・トラック&豪華リミックス盤。 UKのベテラン、Plaid、ベルリンのテクノ・アーティスト、Yapaccのリミックスに加え、新作へのひとつの継起となった、Chim↑Pomとの最初のコラボレーション作品Ki-Ai100(rebuild dance mix)、さらには、Why Sheep? と並走するもうひとつの内田のプロジェクト、枯山水サラウンドのリミックスも収録している。また、今回フリーで配信されているバンド、Ci Ci Towは内田学がWhy Sheep? よりも前に活動していたバンドで、いわゆる、ROVOをはじめとする、この国のレイヴ系のジャム・バンドの先駆け的なバンドだ。こちらもムードマンの〈M.O.O.D.〉傘下の7インチ専科〈DONUTS〉よりリリースされていた7インチ。今回はアーティスト本人による、その7インチからのハイレゾ・アーカイヴィングで、A面~B面として収録されていたものを1曲として収録している(アナログ特有のノイズはアーティストの意図によるものです、ご了承下さい!)。
Why Sheep?のファースト・アルバムにしてカルト・チルアウトの名盤
Why Sheep? / sampling concerto no.1 “the vanishing sun” op.138
【配信フォーマット / 価格】
ALAC / FLAC / WAV : 単曲 249円(税込) / まとめ購入 1,500円(税込)
【Track List】
01. why sheep? Mix / 02. why sex? Mix / 03. why sky? mix / 04. why drugs? #1 / 05. why drugs? #2 mix / 06. why green? mix / 07. why peace? Mix / 08. why island? Mix / 09. why fight? mix / 10. why nostalgia? Mix / 11. why chaos? Mix
Why Sheep? によるセカンド・アルバム
Why Sheep? / The Myth And i
【配信フォーマット / 価格】
ALAC / FLAC / WAV : 単曲 249円(税込) / まとめ購入 1,500円(税込)
【Track List】
01. UNDER THE MIDDAY MOON / 02. Clouds #757(Ver. Ei-1) / 03. GARBLED PROTECTION / 04. H.E.R.B. / 05. T.A.P. (THE UNDER CURRENT MIX) / 06. WINGS OF THE NIGHT(Album Version) / 07. UP WITH A LIFT / 08. THE MYTH AND PEOPLE(Album Version) / 09. THE MYTH AND NATURE / 10. EARTHBORN / 11. MEETING AT THE ZONE / 12. AUTHOR UNKNOWN ~ PRELUDE / 13. EARTHBORN Recloose Remix
『Real Times』のレア・トラック&豪華リミックス集
Why Sheep? / Real Times Rares&Remixes
【配信フォーマット / 価格】
ALAC / FLAC / WAV : 単曲 249円(税込) / まとめ購入 1,500円(税込)
【Track List】
01. Radiation #1 (枯山水サラウンディング remix) -- Why Sheep? / 02. Radiation #1(Yapacc remix) -- Why Sheep? / 03. Radiation #1(Plaid remix) -- Why Sheep? / 04. Unaguinne -- Why Sheep? / 05. On My Answering Machine (Full Length Version) -- Why Sheep? / 06. Sketch In Paris -- Why Sheep? / 07. Autumn Chances -- Why Sheep? / 08. Mandarake (early version) -- Why Sheep? / 09. Empathy (Taijun remix) -- Why Sheep? / 10. Empathy (early version) -- Why Sheep? / 11. Black Of Death -- Why Sheep? / 12. Ki-Ai 100 (rebuild dance mix) -- Chim↑Pom feat. Why Sheep?
Ci Ci Towに7インチ・オンリーの楽曲を無料配信!
Ci Ci Tow / Information Manipulation(24bit/88.2kHz)
【配信フォーマット / 価格】
ALAC / FLAC / WAV(24bit/88.2kHz) : 単曲 0円
【Track List】
01. Information Manipulation
PROFILE
Why Sheep?
1996年にWhy Sheep? 名義でファースト・アルバムをリリースし、国内外のメディアで大きな反響を呼ぶ。その後、世界各国を放浪後2003年にセカンド・アルバム『The Myth And i』が日、欧、米と世界発売される。サマーソニック等、国内外での公演を精力的にこなす一方、数々のリミックスや映画のサントラ、プロデュース等を手がける。2007年には、音を禅の作庭術になぞらえたサウンド・アート・プロジェクト〈枯山水サラウンディング〉を立ち上げ、クリエイティヴ・ディレクターを務める。野生の鈴虫の鳴き声をリアルタイムで音響プロセッシングし、生の音楽家たちと即興ジャムをする「蟲聴きの会」の開催や、フランス大使館で開催されたNo Man’s Land展等、様々なパブリック・アート・プロジェクトでサウンド・インスタレーションを発表する。2011年3月11日以降、トーク・イベント〈Rm3.11〉を開始するなど、アーティストとして音楽活動の領域を超えた復興へのアプローチも行っている。2013年、集大成ともいえるサード・アルバム『Real Times』をリリース予定。