これ1枚でベース・ミュージック・ナウが丸わかりな〈Hyperdub〉10周年コンピ――連載 : More Beats + Pieces Vol.1
ということで突如としてはじまりました、このコーナー。不肖、私、河村祐介が毎月、OTOTOYにて配信されるクラブ/ダンス~レフトフィールド系の音源から、注目作を選び出し紹介しようというコーナーです。今月の注目作品として2作を大フィーチャーしつつ、ここ1ヶ月の間でリリースされた注目の作品もどどっと10枚、OTOTOYののびたくんライクなナイスな若手、浜公氣と挑みます! アチョー!
ともかく、ここさえ見えればこの1ヶ月でOTOTOYで配信されたオススメのクラブ系をずばりと知ることができるわけです。
今月はまずポスト・ダブステップ/ベース・ミュージック・シーンの代表的レーベル〈Hyperdub〉の10周年コンピ、そしてシカゴ・ジュークの重鎮、トラックスマンの新作を紹介しましょう。
V.A / HYPERDUB 10.1 【配信価格】
まとめ購入 alac / flac / wav : 2,469円 mp3 : 1,851円
単曲 alac / flac / wav : 257円 mp3 : 205円
【Track List】
01. Mad Hatter (DVA) / 02. Girl U So Strong (KYLE HALL) / 03. Expected (MALA) / 04. Mtzpn (Kuedo) / 05. Xingfu Lu (Helix Remix) (KODE9) / 06. Kaytsu (MORGAN ZARATE) / 07. Ambush (Produced By Footsie) (FLOWDAN) / 08. Only The Strong Will Survive (TASO & DJUNYA) / 09. All My Teklife (DJ SPINN) / 10. Get Em Up (DJ TAYE) / 11. I'm Gonna Get You (DJ EARL) / 12. Icemaster (HEAVEE) / 13. Acid Life (DJ RASHAD & GANT-MAN) / 14. Bombaklot ft. Rashad & Taye (DJ EARL) / 15. Chasing A Beast (KODE9 & THE SPACEAPE) / 16. Hanabi (QUARTA 330) / 17. Spaceape ft. Spaceape (Burial) / 18. It's Serious ft. Karizma (Cooly G) / 19. Bowsers Castle (CHAMPION) / 20. Natty (DVA) / 21. Hurricane Riddim (FUNKYSTEPZ) / 22. Clapper (ILL BLU) / 23. Aggy (WALTON) / 24. Idiot (Ikonika) / 25. Am I (KODE9 & THE SPACEAPE) / 26. Hookid (MORGAN ZARATE) / 27. Wind It Up ft. Om'mas Keith (Mark Pritchard) / 28. Dark Crawler ft. Riko (TERROR DANJAH) / 29. East Coast (DOK) / 30. Bruzin VIP (TERROR DANJAH) / 31. Sebenza ft. Okmalumkoolkat (LV) / 32. Xingfu Lu (KODE9) / 33. Let It Go (DJ RASHAD) / 34. Technical Difficulties (DVA) / 35. Tug Zone (Ikonika) / 36. Power Cut (CHAMPION)
別名 : ポスト・ダブステップ10周年とも
ジュークにグライム、ベース・ハウス、ダブステップなどなど、まさにいまの“ベース・ミュージック”が集められたコンピ。ある意味ではそれ以上でもそれ以下でもないと言わんばかりのラインナップ。〈Hyperdub〉の10周年に際してリリースされたコンピ『Hyperdub 10.1』である。これが〈Hyperdub〉の芯の部分なのだ。
ブリアルを送り出し、ある意味でその昔〈WARP〉がテクノにおいてそうであったように、ダブステップをアルバムという価値観においても評価できる音楽へと押し上げたレーベル=〈Hyperdub〉。ある意味でそれは、ポスト・ダブステップというものが生まれた瞬間かもしれないわけだ。ロンドンの南の片隅、クロイドンの真っ暗闇のフロアで生まれたサウンドが、さらに外側へと広がるにはやはりこのレーベルのあり方は重要だった。
ここには冒頭のように新旧の楽曲を含めて〈Hyperdub〉が10周年を経て見ているベース・ミュージックの過去から現在がある。Rashad周辺のシカゴ・ジュークのアーティストたち、DVAやCooly GなどUKファンキー・ハウスの進化系もあるし、Terror Danjahのグライムもある。ダブステップのオリジネイター、Malaのダブステップ以外なにものでもないトラックもある。Burialや主宰、KODE9も過去の楽曲から作品を提供している。またこれからレーベルのアーティストとなるであろう無名の若手も含まれている(タイトルの10.1の「.1」の部分ではないだろうか)が、総じてダンサブルで12インチ向けの曲だ。
この10年、ベース・ミュージックを立脚点にしたレーベルの姿勢がそこにはしっかりと浮き出ている。また、そこにはダンスフロアから生み出されるサウンド、そこに立脚点があるというレーベルの強いアティチュードを感じてしまうのだ。
まさに横綱相撲、トラックスマンの新作
Traxman / Da Mind Of Traxman Vol.2 【配信価格】
まとめ購入 alac / flac / wav : 1,944円 mp3 : 1,620円
単曲 alac / flac / wav : 216円 mp3 : 162円
【Track List】
01. Time Slip / 02. Blow Your Whistle (Tha Out Of Here Remixx) / 03. Nothing Stays Tha Same / 04. Mic / 05. Computer Getto / 06. Make Love To Me / 07. Bubbles / 08. Let It Roll Geto / 09. Ever And Always / 10. Under Cover Jack / 11. Can Nutin Hold Me Back / 12. 15416 / 13. Gone And Hit That Shit / 14. I Need Too Do It (ft. DJ Fred) / 15. Your Just Movin / 16. Tha Edge Of Panic / 17. I Wanna Be High / 18. U Got Me Running (2012 Remixx) / 19. Dat Bitchhhhh / 20. Let Me Go
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コンピ『Bangs & Works』(2010)に続いて、世界中にシカゴ・ジュークの存在感を知らしめた『Da Mind Of Traxman』(2012)から2年降りにトラックスマンの待望のアルバムが〈Planet μ〉から『Da Mind Of Traxman Vol.2』としてリリースされた。
シーンの象徴とも言える彼の本作もまさに横綱相撲。ヨーロッパなどでそれなりの評価を受けても、妙な色気を出すことなく、野太く楽しい高速ファンク=ジュークを響かせている。もちろん、そのサウンドの真価はフロアのシステムで聴くことかもしれないが、それだけではない。それなりのイヤフォンで聴けば、耳のなかを埋め尽くすフカフカのベースの上を、細かく切り刻まれたサンプルはまるでパルス信号のように脳を刺激する、これが不思議とミニマル・ミュージック的な覚醒感も呼ぶのだ。この快感は味わってみないとわからない。もちろん、ダンスフロアでその凶暴性を最大限に発してくる。それこそ体験してみないとわからない。
まるで物理的な「風」のような存在感を持った野太いベース、跳ね回るスネア。もはやジュークのサウンドはダンスフロアを構成する楽曲のなかで、突飛な飛び道具ではなく、しっかりとフロアになじんだダンスビートとなった(それでいてまだまだ刺激的だ)。ここ、日本のシーンにおいても、これぞDJカルチャーの醍醐味ともいえる、勝手な解釈でズルズルとそのサウンドは広がり、他のベース・ミュージック・カルチャーなどとも結びついている。ある種の潜在的なシーンは広がり続けている。そうしたさまざまなフェイズで浸透したジュークのサウンドは、フットワークのシーンにも呼び水を作っている。それほどまでに「おもしろい」サウンドなのだ、ジュークは。ある種、それを使うものはDJカルチャーのたくましさを体現している。
今月の配信中クラブ〜レフトフィールドもの10選
河村 : ということではじまったこのコーナー。毎回OTOTOYでその月に出たクラブ~レフトフィールド系の音源を紹介していくという、インディ・ロック・ファンの多いOTOTOYのユーザーからは必要とされな……。
浜 : まあまあ、とりあえず紹介に移りましょう! まずはN.O.R.K『ADSR』です。最近のスローなエレクトロっぽいビートのR&Bって感じですね、彼らはなんと日本人の大学生ふたり組なんですよ!
河村 : おお、最近のInc.とかRhye、WeekndとかのインディR&Bの時流だな。ってか、言われるまで日本人だって気づかなかったよ、どうせなら日本語でやればもっとおもしろかったのに。でも、コレが日本で出てきたのは面白いね。もっとインディー・ロック系もこういう人がリミックスやったり、そういう繋がりがでてきたらおもしろいのにね。
浜 : 曽我部恵一さんとか相性良さそうですよね。でも、こんなに完成度高いサウンドを自分と同じ世代がやってるなんて正直嫉妬しちゃいます。エレクトロニカな要素がちょい強めな部分からもフレッシュさが出てていいですよね。
河村 : ほう。R&Bといえばアプローチは違うけど、UKのベース・ミュージック・レーベル〈Night Slugs〉のヘッドのBOK BOKのミニ・アルバム『Your Charizmatic Self』。ポスト・ダブステップ以降のR&B。〈Night Slugs〉はそういう動きの中心的なレーベルだからね。今回のリード曲は〈Fade To Mind〉の歌姫、Kelelaが参加してるよね。ブリストルのJoker以降の音って感じがする。
浜 : 日本だと、わりとSeihoさんやAvec Avecさんとかがやってるところとかに近いような。
河村 : そうだね。そのあたりは日本でもエレクトロ的な感じで、テクノとかハウス、あとはいままでのダブステップと違った流れで盛り上がってきてるよね。正直、個人的にはまだピンときてないけど。
浜 : それはいわゆる“時の流れ”ですかねぁ(笑)。
河村 : (無視して)あとR&Bと言えば、Kelisの『Rumble』のActressによるリミックスが最高だったな。
浜 : もうイントロの“柔らか甘い”音色から最高だったんですけど、リズムのざらつきと空間の空け方が面白いと思いました。
河村 : なんかちょっとエイフェックス・ツインみたいな感覚あるんだよな。彼はデトロイト・テクノの影響がすごく濃いアーティスとなんだけど、出てくる音はわりとうまいことその時流の音を掴んでで。基本はダークなんだけど。とにかくこれはリミックスとしてもおもしろいんだけど、インストでも表情が変わって別な感じでいけるのがまたすごい。最近のインダストリアル・リヴァイヴァル的な音もあって。このあたりのシングル、結構OTOTOYにあるから探すと面白いよね。
浜 : そうっすね。そういえばリミックスと言えば、〈All Saints〉のリミックス・シングル・シリーズおもしろかったすね。自分はドローンが好きというのもあって、ハロルド・バッドが好みでした。
河村 : 最近、本当にアンビエントっつうかノイズっつうか、インダストリアルっつうか、ダークな電子音ものとかじわりじわりときてるよな。
浜 : 電子音楽のみならず、色んなジャンルでインダストリアルはきてますよね。
河村 : で、そのあたりアングラ~アヴァンギャルド系のオルタナ・ロックの魑魅魍魎たちも接続してたりでおもしろいよね。スワンズ再評価につながってるんだろうけど。
浜 : そうっすね。スワンズもベテランと思えないぐらいのギンギンさが凄まじかったです!
河村 : そのあたり、この〈All Saints〉のリミックス・シングル・シリーズ、ザ・最高。インダストリアル~ダーク・アンビエント系のアーティストがリミックスで参加しててつまみ食い的でもかなり刺激的だよね。〈All Saints〉はブライアン・イーノ周辺をリリースしている、老舗のアンビエント~実験音楽系のレーベルだね。ここで上げたララージの他にジョン・ハッセル、ハロルド・バッド、あとはクラスターの片割れのローディウスも。で、コレがコンピとしてもまとまったのが『Great Length』。
浜 : (唐突に)そういえば、河村さんにオススメしていただいて聴いたミスター・スクラフの『Friendly Bacteria』、これ最高じゃないっすか。エレクトロあり、R&Bやネオ・ソウルっぽい曲もあり、ブレイクビーツありと、ある意味での“ミクスチャー感”がドキドキしますね。しかも色んなジャンルの要素を抽出するのが上手いからすごく聴きやすい。
河村 : だよねぇ。これこそ、イギリスのクラブ・ミュージックって感じ。ユルメのブレイクビーツにジャズとかファンク、レゲエ、ソウルとかをごった煮。この人はDJとしてもすばらしいんだけど、その味がしっかり出てるよね。とにかく彼はすばらしいよ。ずっと聴いていられる。わりとベース・ミュージック的な感覚とか、自分のサウンドを崩さずに今の感覚を取り入れている。
浜 : あと、ジャズとかダウンテンポ系と言えばやっぱりテイラー・マクファーリンの『Early Riser』が本当に最&高。フライング・ロータスのレーベルからピュアにジャズ寄りの作品。ロバート・グラスパー以降のサウンドって感じで。そのロバート・グラスパーやマーカス・ギルモアも参加しているし。
河村 : これはさすがだよね。このあたりは聴き易さもあるから、いわゆる現代ジャズの入門編としてもいちばん良いと思う。ある意味でポップな部分もあるしさ。
浜 : やっぱりこういうの聴くとJ・ディラ偉大だなと。レイド・バックしたビートって無条件で体が動きますよね。
河村 : そうだね。とはいえ結構ないがしろにされることあるけど、このあたりのサウンド、ムーディーマンも結構影響与えていると思うんだけどなぁ。そういえば、ハーキュリーズ・アンド・ラヴ・アフェアの新作『The Feat of the Broken Heart』も出てるね。これぞNYのゲイ・ディスコ / ハウスって感じの内股グルーヴでウネウネしている。ファーストは〈DFA〉からリリースされてて、アントニー&ザ・ジョンソンのアントニーが圧巻のヴォーカルで参加しているんだけど、セカンドはちょっとパワーダウンしてて、からのサード。
浜 : わりと最近っぽいアシッド・ハウスの感覚もありますよね。ディスコと言えば、再発もので、ORLANDO JULIUSのレアな76年のアフロ・ディスコ・アルバム『Disco Hi-Life』がリイシューされてますね。
河村 : アフロビート・ミーツ・ディスコって感じ。ちょうどディスコが世界中に広がる前後のサウンドで。このあたりの盤もガンガン、配信で出てくれればなぁと。アフリカと言えば、南アフリカのシャガーン・エレクトロ・アーティスト、Nojinzaの『Tsekeleke』でしょう。巨漢の男が高速アフロ・エレクトロで踊りまくるPVが最高な。これがまた〈Warp〉が契約したことがニュースになる、大型新人だからね。
浜 : これヴィジュアルも込みで強烈でした(笑)。南アフリカの伝統音楽+ゲットー・ベースって感じで。ファンコットとかジュークとかそういうノリに近いものがあるよね。
河村 : それにしてもコレはPVも強烈だなぁ。2年くらい前に〈Honest Jon's〉がコンピを作って、わりと世界に広がったジャンルなんだけど、さてこれからどうなるのか。で、そうだよ、忘れてたっていうか、忘れてちゃまずいよ。〈WARP〉といえばプラッドの新作『Reachy Prints』だよ。
浜 : う~ん、申し訳ないんですけど俺は正直ピンとこなかったっすね。「地味!」っていう印象で終わっちゃいました!
河村 : えええええ、それ大問題だよ!彼らはある意味で〈WARP〉の〈WARP〉らしさの源泉みたいなグループだと思うんだけど。元々はBlack Dogとして活動してた2人が分派してできたグループなんだけど。まぁ、とにかくそのピュアな電子音は職人技って感じで良いんだけどなぁ。たしかにすごく新しい要素とかはないかもしれないけど、この感じがね、最高なんですよ。わりといまの宅録系のエレクトロ~チルウェイヴみたいな部分にも共通する部分はあると思うよ。エイフェックスばかりがその手の始祖じゃないんだっつうの!
浜 : 自分にはまだ分からなかったですけど、河村さんの熱量こもったレコメンドで徐々に興味が涌いてきました。もう一回聴いてみます!
河村 : ということで駆け足だけど、今月はこんなところで。また来月もお会いできたら会いましょう。