ライム、ビーツ&若大将——加山雄三リミックス集をハイレゾ配信
2015年にリリースされヒットとなったPUNPEEによる「お嫁においで2015」に続いて、加山雄三の名曲を、さまざまなアーティストたちがリミックスした作品『加山雄三の新世界』がここにリリースされた。前述のPUNPEEをはじめ、ECDやライムスター、スチャダラパー、サイプレス上野とロベルト吉野などなど、ヒップホップ系アーティストを中心に、ももいろクローバーZ、水曜日のカンパネラなども参加、まさに多彩なメンツが集合となったコンピレーションだ。OTOTOYでは本作をハイレゾ配信。レヴューとともにお届けしよう。
V.A. / 加山雄三の新世界
【Track List】
01. お嫁においで2015 feat. PUNPEE
02. 蒼い星くず feat. ももいろクローバーZ×サイプレス上野とロベルト吉野×Dorian
03. 夜空の星 feat. KAKATO×川辺ヒロシ
04. ブラック・サンド・ビーチ〜エレキだんじり〜 feat. スチャダラパー
05. 旅人よ feat. RHYMESTER
06. 夕陽は赤く(yah-man version) feat. RITTO×ALTZ
07. 海 その愛 feat. 水曜日のカンパネラ
08. 君といつまでも(together forever mix) feat. ECD×DJ Mitsu The Beats
【左 : 配信形態 / 価格】
24bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 399円(税込) / アルバムまとめ購入 2,500円(税込)
【右 : 配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 258円(税込) / アルバムまとめ購入 1,800円(税込)
REVIEW : ひとりの音楽家をあぶり出す最新のビート&ライム
テキスト : 河村祐介
加山雄三といえば、1960年代の“若大将”シリーズを中心にヒットを飛ばした国民的な映画スターであり、そしてここに収録されている楽曲を中心に、多くのヒット曲を持つシンガーでもあります。1960年代当時の他の銀幕スターの歌というのは、というか当時の他の流行歌手の歌にしても、そのほとんどが作曲家・作詞家といった専業作家の制作による歌でありました。そんな時代にあって、彼はその楽曲を自ら作曲し、自ら歌う、いわば俳優とともにシンガーソングライターの先駆けとも言えるスタンスも作り出していくわけです。映画出演以前にも歌手活動を行っていましたが、なんといっても『エレキの若大将』で自ら作曲の「君といつまでも」と「夜空の星」などをヒットさせ、その活動は本格化するわけです。ちなみに作曲の際のクレジットは、自らの作曲家としてのペンネームである弾厚作名義だったりします。また、そのヒットの曲の多くは、岩谷時子——越路吹雪のマネージャーで「愛の讃歌」の訳詞を、そしてザ・ピーナッツ「恋のバカンス」、弘田三枝子「夢見るシャンソン人形」などなどを手がける作詞家でもある——の作詞とのタッグで作られております(今回収録された楽曲もそうですね)。
そしてご存知のように加山は現在も現役の歌手であり続けていて、全国ツアーこそ2014年で終了したものの、現在でもコンスタントにコンサート自体は行っており、ギターに、歌に、現役バリバリで活躍。とにかく映画“若大将”を中心とした俳優、加山雄三の隣には、濃くて長い音楽キャリアが横たわっています。ちなみに、自宅にはスタジオがありプロツールズを作っているだとか、日本でピンポン宅録をはじめて行った男という逸話まであったりします。
そんな本作は加山雄三が作曲した国民的なヒット曲たちのリミックス企画であります。さて。その参加面子を並べたときに、コンセプトとしてはラップというのがひとつ浮かんでまいります。ヒップホップ系のアーティストが多くを占め、ヒップホップではないものの、水曜日のカンパネラもまた、ラップ(的なもの?)をひとつ表現手段にしているアーティストですからね。
その内容を急ぎ足ではあるが順番に。すでにスマッシュ・ヒットとなっている「お嫁においで 2015」は、カリビアン〜ハワイアンなムードの原曲をファンキーなヒップホップへとファニーに落とし込んだ、PUNPEEのリミックス。こちらは加山本人登場のMVも話題になりました
「夜空の星」とともに双璧をなすサーフ・ロック系の楽曲「蒼い星くず」はテクノ系のプロデューサー、Dorianによって軽快なラテン・ブレイクスへとリモデル。そこには、おそらくサ上によるリリックで、ももクロもキレッキレにラップ、掛け合いをキメていおります。サ上とロ吉、双方のラップ、スクラッチも鮮やか。もう1曲、サーフ・ロック系の代表曲「夜空の星」、こちらのトラックを手がけているのはTOKYO No.1 SOULSETの川辺ヒロシ。SOULSETの初期を彷彿させるたくみな大ネタ・サンプル使いは、どこか原曲のサイケデリックなガレージ・ロック感を抽出。環ROYと鎮座DOPENESSによるラップは、HOW TO夫婦な内容で、どこか「お嫁においで 2015」の続編のよう。
お次はスチャダラパーの「ブラック・サンド・ビーチ〜エレキだんじり〜」は、ダイナミックなサーフ・ギターとビートの掛け合い、ラップのハマり具合はさすがといったところ。こちらは2013年の〈ARABAKI ROCK FEST.〉での共演に端を発した、スチャも参加するユニット、THE King ALL STARの作品としてもリリースされた作品でもあります。ある意味で今作の発端となった曲でしょうな。さてこちらもJ-POPフィールドへもヒップホップを持ち込んだベテラン・ユニットのひとつ、ライムスターによる、ゴリゴリのビッグビート〜ファンキー・ブレイクビーツの上でラップする「旅人よ」。
沖縄のラッパー、RITTO、そして大阪のALTZによる「夕陽は赤く」は、ALTZによる極上のレイドバック感を携えたサイケデリックでダビーなバリアリック・トラックとともに、RITTOのブルージーなラップが重なっていく。水曜日のカンパネラは、「海 その愛」をトラップなトラックとともに、原曲の壮大なスケールの加山の歌唱とストリングスを携えたわりとストレートなカヴァー。水曜日のカンパネラのストレートなカヴァーは、ラップは使えど(本作では封印している)、他のユニットのヒップホップ的アプローチとはまた違った感覚で、逆にこのメンツのなかで自らの表現を胸を張って示しているようで、それはそれでなんとも清々しい。
そしてラストは、闘病発表後にリリースされたものとしては2曲目(1曲目は『T.R.E.A.M. PRESENTS 〜田中面舞踏会サウンドトラック〜 「LIFE LOVES THE DISTANCE」』収録の「2030」)となったECD参加曲。ビートはMitsu The Beats。そのリリックの、音楽への深い愛情がとにかく胸を打ちます。ヒップホップ〜クラブ・ジャズ文脈で世界的にも高い評価を受けるMitsu The Beatsによる、ストリングスを印象的に使ったトラックは感動的でもあり、そんなリリックに花道を作っていきます。
その多彩がオリジナル曲とはまた違ったアプローチでさまざまな音楽的実験を行っている部分がとにかく楽しい。例えばRITTOとALTZの、まさかの加山雄三作品から抽出した南国のサイケデリアにはただただ驚くばかり、こうした過去の楽曲を新たな見せ方で最新の音楽として蘇らす、サンプリングの妙をそれぞれの展開するサウンドの豊かさは言わずもがな。原曲の歌詞との掛け合いの遊び心(PUNPEE)や、ラップのリリックによって、原曲の歌詞に新たな解釈をほどこす(ECD)といった、こういったトリビュート的な作品で、ヒップホップが持ち出す詩的な豊かさにも触れられる作品と言えるだろう。
RECOMMEND
こちらは日本語ラップ史において重要ないとうせいこう&TINNIE PUNX『建設的』の発売30周年(2016年時)を記念したトリビュート盤。こちらはヒップホップのみならず、さまざまな方向性へと展開。
サ上と中江 / ビールとジュース
本編では、ももクロとともにラップを披露しているサ上。アイドルとラップということで、思い出すのはコチラ。5人組ダンス&ボーカルグループ「東京女子流」中江友梨に よる異色コンビ。
SCHEDULE
加山雄三
1937年4月11日神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、'60年東宝入社。「男対男」で映画デビュー。'61年、映画『大学の若大将』に主演し、大人気となった「若大将シリーズ」がスタート。黒澤明監督の『椿三十郎』『赤ひげ』にも出演。歌手としては'65年に「君といつまでも」が大ヒット。以後も『お嫁においで』など数々のヒット曲を世に送り出す。幼少より作曲を始め、弾厚作のペンネームで、ロック・ポップスからクラシックまで幅広いジャンルの楽曲を創作し続けている。芸能生活45周年においてはニューヨーク・カーネギーホールでのコンサート、50周年には東名阪アリーナコンサートツアーを実施。2014年には若大将EXPOと題して、77歳にして日本武道館単独公演 最年長記録を樹立し、47都道府県全県でのツアーを成功裡におさめた。また、同年秋の叙勲にて旭日小綬章を受賞した。2016年は芸能生活55周年を記念し、「音楽は時代や世代を超える」をコンセプトにした若大将FESを二日間に渡って開催。様々な年代のアーティストを招き、幅広い世代の観客を大いに沸かせた。THE King ALL STARSとしての活動も注目され、全国のロックフェスにも参戦するなど79歳を越えた現在も現役で活躍中である。音楽活動の他に、59歳から油絵を始め、陶芸や漆器などの作品を精力的に創作。現在、BS朝日「歌っていいだろう」(毎週木曜よる11:00~11:30)に司会として出演中。ミュージシャンのゲストを招き、音楽にまつわる楽しいトークを繰り広げている。
「加山雄三の新世界」公式ページ