攻撃的な新作をハイレゾで聴く! スクエアプッシャーのキャリアをめぐる5つのポイントとともに
スクエアプッシャーの3年振りとなる最新作『Damogen Furies』。すでに先行シングルなどで“スクエアプッシャーらしい、スクエアプッシャーすぎる”サウンドを届けているが、アルバムもまた、そうしたファンの期待を裏切らない刺激的なサウンド! 往年のファンには言っちゃいましょうか、なにはなくともテンションがブチ上がる、あの“音”が帰ってきましたよ!
あのエイフェックス・ツインがその才能を発掘して、早くも20年。14枚目となる今回のアルバムは、前作『Ufabulum』で展開されたエレクトロニクス主体のサウンドはそのままに、ジャングルやブレイクコア、はたまたフリー・ジャズからフュージョンなどが高速にぶつかり合う44分のパンキッシュな衝撃体験! 今回はなんとライヴ録音ともいうべき、全てワンテイクの一発でレコーディングされたという。
OTOTOYでは本作をハイレゾ配信! 各音色がエネルギッシュに、まるで複雑怪奇な精密機械のように絡み合う様を、ぜひともハイレゾで。
すでに20年選手となったスクエアプッシャーことトム・ジェンキンソン。なぜこれだけ、彼が愛されているのか、彼のアーティストとしてのキャリアを振り返る5つのポイントとともに、その先にある新作『DAMOGEN FURIES』を紹介しよう。
squarepusher / Damogen Furies
【配信価格】(各税込)
(左)
ALAC / FLAC / WAV(24bit/44.1kHz) / aac : 単曲 288円 アルバム 2,571円
(右)
ALAC / FLAC / WAV / aac : 単曲 257円 アルバム 2.057円
mp3 : 単曲 205円 アルバム 1,543円
【Track List】
01. Stor Eiglass / 02. Baltang Ort / 03. Rayc Fire 2 / 04. Kontenjaz / 05. Exjag Nives / 06. Baltang Arg / 07. Kwang Bass / 08. D Frozent Aac / 09. Straks Nombir
スクエアプッシャーのキャリアをめぐる5つのポイント
その1 : エイフェックス・ツインが発掘した才能
スクエアプッシャーは、なんとあの天才エイフェックス・ツインが発掘したアーティスト。1994年頃からスクエアプッシャーやトム・ジェンキンソン名義で作品(『Burningn'n Tree』というコンピで聴けます)を出していたところ、エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェームスが彼を絶賛。そして1995年に彼の作品をリチャードのレーベル〈Rephlex〉からリリースするわけです。そのスタイルの初期の典型とも言える、複雑で高速なブレイクビーツと自身のグルーヴィーなベースを合わせた「Squarepusher Theme」をシングルで、そしてついで1996年にアルバム『Feed Me Weird Things』をリリース。一躍シーンで注目を集めます。
彼のサウンドは、ドラムンベース・ムーヴメントの、そのオルタナ・ヴァージョンとも言えるでしょう。言い得て妙なドリルンベースと呼ばれました。エイフェックス・ツイン、そしてその朋友ルーク・ヴァイバートのプラグ名義の作品とともにその流れを作り出しました。これらはのちにエレクトロニカやブレイクコアのシーンなどにも影響を与えるわけです。ちなみにドリルンベースに関しては、トムがエイフェックスに影響を与えたという説も。
さらに1996年は〈WARP〉へ移籍、こちらも初期の傑作とも言えるパンキッシュなフュージョン・ドリルンベース、シングル「Port Rhombus EP」をリリース、1997年にセカンド『Hard Normal Daddy』を発表し、エレクトロニック・ミュージックのトップ・プロデューサーとして仲間入りするわけです。
その2 : 凄腕のベーシスト
彼のキャリアを象徴することといえばやはりこれ。彼は凄腕のベーシストでもあるのです。そのフュージョン的な早弾きは、よく伝説的なジャズ / フュージョンのベーシスト、ジャコ・パストリアスが引き合いに出されました。高速ブレイクビーツとともに早弾きのグルーヴィーなベースをプレイするその様は「ジャコ・パストリアス・オン・アシッド」とも称されました。そのあたりは上記の「Squarepusher Theme」あたりで堪能されたし。
ジャズ・ミュージシャンだった父親の影響、幼少期からオルガンやクラシック・ギターの教育などを受け、そのあたりもあって12歳の頃にベースの演奏を開始。1975年生まれですので、以来現在40歳まで、30年近くベーシストとしてその技を磨いていたようです。ちなみに、はじめにベーシストとして演奏したのは、12歳の頃の学校の友人たちと組んだメタリカっぽいスラッシュ・メタル・バンドだとか。その後はさまざまな種類のバンドでベースを弾いており、それが現在の多様な音楽性にも示されているのではないでしょうか!
このベーシストとしてのトムは、2000年代のジャズ~フュージョン路線の諸作を得て、2008年の『Solo Electric Bass 1』という、まさにそのタイトルそのままのベーシストとしてのソロ・アルバム(サウンドはベース・オンリー)に結実するわけです。
その3 : 非凡なエレクトロニック・ミュージックのプロデューサー
単なるベーシストというだけでは、やはりここまでくることはできませんな。彼はやはりエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーとしての才能もまた非凡です。アシッド・ハウスやジャングル、テクノなどを複雑に結合させ、さらにはジャズやフュージョンなどをミックスし、唯一無二のスタイルをつくりあげる。なにはなくとも、その痙攣するようなビートの感覚とそれを乗りこなし、時に離反しながらも楽曲全体盛り上げるメロディのセンス、そして構成力。そこから生まれた楽曲は、聴けば大抵「スクエアプッシャーの楽曲」であることがわかります。
特に初期はチープなシーケンサーやドラムマシンなどを使っていたようで、その複雑怪奇なドラム・プログラムとともに話題になっていました。
なにせあまり人を褒めないエイフェックス・ツインがその才能を認めたアーティストですからね。アウトキャストのアンドレ3000やザ・ネプチューンズ(ファレル・ウィリアムス+チャド・ヒューゴ)、レディオヘッドのトム・ヨークらもそのサウンド・メイキングを賞賛していました。
ベーシストでもあり、同時にエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーでもある。このバランス感覚がやはり、その才能の核ではないでしょうか。
その4 : 新作ごとにスタイルを変える、止まるところを知らない変幻自在なサウンド
さきほどベーシスト、そしてエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーのバランス感ということをさきほど書きましたが、まさにそのバランスを揺れ動きながら絶えず新たな作品をこれまで作ってきました。そのあたりもまた彼が高い評価を受け続ける理由でしょう。
まずはドリルンベースの花形として花々しくデビューし、アッパーかつメランコリックなメロディに溢れた『Hard Normal Daddy』。うって変わって次作となる1998年『Music Is Rotted One Note 』では、ヒット作の続編を望まれていたであろう高速ドリンベースな感覚、それを後退させ、自ら演奏したというプログレッシヴ・ロック~フリー・ジャズ的なダークな作品を出してみたり。
2000年前後では、『Selection Sixteen』から『Do You Know Squarepusher』あたりで、また彼らしいスラップ・スティックなドラムを多様した、エレクトロニック・ミュージックへと戻ったかと思えば、そのサウンドにファンも多い2003年の『Ultravisitor』では内省的な落ち着いたフュージョン路線を示すなど、激しく変化を繰り返しています。
2010年前後の流れといえば、前述のソロ・ベースの後に架空のロック・バンドを想定して作られたという『Just A Souvenir』で、グルーヴィーな生演奏の艶を自身の作品に迎え入れたようなサウンドを展開し、さらには本物のバンドとなってしまった2010年の『Shobaleader One: D'demonstrator』をリリース。ジャズ、フュージョン、ファンク、ロック、AOR志向といいますか、はっきりと生演奏へと向かう彼の姿勢が示された時期。この頃はベーシストとして彼の姿も楽曲のなかで存在感がありますね。
と、思ったら今度は「最近あらためてピュアなエレクトロニック・ミュージックのことを考え始めたんだ。とてもメロディックで、とても攻撃的なものをね」という発言、そして大型のLEDスクリーンの明滅する映像と音を同期させたライヴ・パフォーマンスとともに『Ufabulum』をリリース。生感のあるベースラインは後退し、今度はビンビンの電子音がそのサウンドの要となるわけです。人力ならぬマシン・バンド、マシンによる楽器演奏をするZ-Machinesとのコラボを経て、そして新作『DAMOGEN FURIES』へと至るわけです。
その5 : ライヴがすごい!
さて、こちらもプレイヤーとエレクトロニック・ミュージックのプロデューサー、ふたつの顔を持つトムの凄さでしょう。わりとエレクトロニック・ミュージックにおいて問題になるのがライヴ演奏。しかし、そもそもベーシストとしての腕、さらにはその理性を振り払うような高速ブレイクビーツというふたつの武器があれば、そのライヴのテンションの高さは約束されたようなものといえるでしょう。
しかし2012年の『Ufabulum』以降、ここ数年さらにヴィジュアル・アートの効果をトムはそのライヴに導き入れます。自らもLED付きのマスクをかぶり、そしてライヴには大型のLEDスクリーンとともに、サウンドとヴィジュアルの同期をすすめます。卵が先か鶏が先か、同期との必要性か、もしくはエレクトロニックな音色だからこそなのか、ここ数年のエレクトロニック・ミュージック回帰とヴィジュアルへのコミットは密接に結びついて彼の表現を構成しているのではないかと。これは新作と5月15日に開かれる単独公演で確認をするほかないのではないかと。
新作『DAMOGEN FURIES』は?
5つのポイントを経て、新作『DAMOGEN FURIES』の解説を。本作はすべてワンテイクで録られたもので、編集も一切ないということがすでに発表されております。また、先行公開となった「Rayc Fire 2」で示されているように、やはりサウンドはかなりアップリフティングな攻撃性増し増しの内容になっている。このあたりが本作の特徴でしょう。
アルバムのスタートを飾る「Stor Eiglass」から、彼らしいドリルンベース・ドラムのリズム、さらには『Ufabulum』で磨きをかけたレイヴィーなシンセが否応なしにライヴの興奮を保証するように迫ってきます。ディープなダーク・ブレイクコア「Baltang Ort」、そして痙攣するようにバンギンな先行カット「Rayc Fire 2」まで畳み掛けるように突き進みます。このあたり、これまたライヴでは発狂間違いなしな熱量。
「Kontenjaz」から「Baltang Arg」の流れは、頭の流れに比べると、少々、落ち着いているかのように聴こえますが、これまたダブステップ以降のウォブル・ベースをスクエアプッシャーなりに解釈したような、行ってしまえばフロアへと直結する感覚に満ちた楽曲で畳み掛けます。このあたりの感覚、彼のこれまでの作品のなかでじつは新しいのではないかと。このベース・ライン、おもしろいのはいわゆる彼のベーシストとしてのサイドではなく、エレクトロニック・ミュージック・アーティストのライヴへの姿勢が見ているような気も。途中の「Exjag Nives」ではオールドスクールなドリルンベースのスタイルと現在の彼のスタイルが混じりあっております。
意外とアルバム内で異質なのが「Kwang Bass」。とはいえ、これまで彼の作品に親しんできた人間としては、アシッド+高速ブレイクビーツなこの曲こそ耳馴染みがあるのではないでしょうか。最後は、アシッド+ウォブル・ベースの混沌のなかを、本アルバムのなかで最も印象深いメランコリック・メロディが駆け巡る「D Frozent Aac」で幕を閉じます。
ウォブル・ベースがカギか?
呆気にとられているうちに1枚終わっているそんなアルバム。まさに彼のライヴのような感覚のアルバムでもあります。印象として強いのはとにかく、その重く、暴れまわるウォブル・ベース。ライヴでは相当の威力を発揮しそうなサウンド。ここ10年はわりと落ち着いた、ある種の老成すらも感じる作品の多かったスクエアプッシャーにとって、初期の暴れん坊感をさらに増幅させたやんちゃなアルバムと言えるでしょう。この迫力のシンセ・サウンドとベースの取り組みは、ハイレゾの音質でさらにクリアに、さらにドスの効いたサウンドで“キ”ます。
すでに公開されているライヴ映像では、LEDマスクを取り去り、全身をスクリーンとして、明滅するプロジェクション・マッピングとLEDでヴィジュアル・アートを展開。サウンドと同期するど迫力のライヴとその相性は抜群でしょう。いや、本作を聴く限り、そこで鳴らされるという目的を持って作られたアルバムではないでしょうか。そのあたりも一発録りの所以ではないでしょうか? ライヴで再現できないことはやらないってことでしょう。
エレクトロニクスとライヴ、そんな現在の彼のモードを初期のやんちゃなサウンドで呼び戻しながら発露させた、エネルギッシュなアルバム。まさに“攻め”の姿勢がバキバキに迫ってくるそんなアルバムと言えるでしょう。
PROFILE
スクエアプッシャー
スクエアプッシャーのアーティスト名義でもっとも知られるトーマス・ジェンキンソンは、イギリスのテクノ・ミュージシャン、ベーシストである。