ポストロックの巨亀、7年の彼方から帰還──オリジネイター、トータスの新作をハイレゾ & 全過去作配信
日本国内では『ポストロック・ディスク・ガイド』が2014年夏に刊行、またここ数年インディ・シーンにおいて、またもや“ポストロック”がひとつのタームと浮上してきている感もある。そんなタイミングでまさにポストロックのオリジネイターとして世界的に君臨してきたバンドの新作がリリースされる。トータス、実に7年ぶりの新作『ザ・カタストロフィスト』である。OTOTOYでは本作のハイレゾ版を配信。元祖“音響派”として、サウンドのテクスチャーの細部までをも表現とする、そんなトータスの作品はぜひともハイレゾで聴くべきでしょう。
また本作と同時に、1994年の1st『トータス』や、その評価を決定付けた1998年の『TNT』、さらには直近の作品となる2009年リリースの『ビコーズ・オブ・アンセスターシップ』に至る、全過去6作品もリイシュー、そしてこちらも配信開始。
前半では最新作『ザ・カタストロフィスト』について解説を、そして記事後半では過去6作品とともに彼らのヒストリーを駆け足で紹介します。
text by 河村祐介
Tortoise / The Catastrophist
【Track List】
01. The Catastrophist
02. Ox Duke
03. Rock On
04. Gopher Island
05. Shake Hands With Danger
06. The Clearing Fills
07. Gesceap
08. Hot Coffee
09. Yonder Blue
10. Tesseract
11. At Odds With Logic
12. The Mystery Won't Reveal Itself (To You)
13. Yonder Blue (Instrumental)
【配信形態】
左 : 24bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC
右 : 16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC / MP3
※ファイル形式について
※ハイレゾとは?
【価格】
24bit/44.1kHz : 単曲 300円(税込) / アルバム 2,263円(税込)
16bit/44.1kHz or MP3: 単曲 205円(税込) / アルバム 1,851円(税込)
本拠地、シカゴという地が生みだした新作
すわ、エレクトロ・ポップ……なのか……という絶妙なシンセによるイントロにどぎまぎするのもつかの間、その後は突如として『TNT』前後の作品を思わせる美麗なバンド・アンサンブルにて幕をあけるトータスの新作『ザ・カタストロフィスト』。前作『ビコーズ・オブ・アンセスターシップ』から実に7年の月日を経てのアルバムとなっている。
メンバーは2001年の『スタンダーズ』リリース以来の変わらぬ面々。ダン・ビッドニー、ジョン・ハーンドン、ダグ・マッコームズ、ジェフ・パーカー、そしてエンジニアも務めるジョン・マッケンタイアによる5人。全員がベースやドラム、キーボード、ギターなどさまざまな楽器を演奏するマルチ・プレイヤーである(ライヴでもそれぞれに配置された楽器を楽曲によって順繰りに変え演奏していく)。
さて7年ぶりの作品となったわけだが、本作は彼らの本拠地であるシカゴの地、彼らを生みだした芳醇な音楽シーンがその作品のひとつの起点になっているのだという。シカゴ市から依頼された、ジャズや即興音楽シーンのコミニティに根ざした組曲の制作というのがそれだという。本作のプレス資料に記載された彼らの言葉によれば「ただの出だしとソロだけだった」という、ここで制作された5つほどの組曲のゆるいテーマが元になっているのだという。その組曲に関しては、数度ライヴにて演奏されたようだが、ここをスタート地点とし、そのテーマをトータスの作品として機能するように再構築、取捨選択を繰り返し、複雑な編曲を経て完成したのが本作だという。
トータス、その音楽史をバランス良く内包する新作
1990年初頭、彼らのキャリアの初期の音楽性といえば、サイケデリックなスローコアのダブ・ヴァージョンとでも言えそうな代物だった。そして、さらに大胆なプロツールズの使用でポストロックの雛形を作った『TNT』を経て、ダンサブルなサウンドへと舵を切った2001年『スタンダーズ』以降の音楽性。特に前作にあたる2008年の『ビコーズ・オブ・アンセスターシップ』は、そんなビートの感覚をある意味で先鋭化させた作品だった。それに対して本作は、そんなビートの先鋭性も残しつつ、それ以前のバンド・アンサンブルやメランコリックなメロディ・センスも戻り、その全体的な印象は、初期から前作までの彼らの作品性を横断する、そんなトータルな彼らの魅力が詰まっている作品だ。
「Gopher Island」や「Shake Hands With Danger」といった近作に特徴的な(といっても7年も前の作品なのだが)、エレクトロニックなブレイクビーツじみたファンクネスもあれば、「The Clearing Fills」や「Tesseract」、「At Odds With Logic」といった初期作品のような、なだらかなアンサンブルとメロディ・センスが作り出す哀愁のムードもある。これらの音楽性の幅は、さまざまな時代を超えてきたトータス・ファンも、この作品ではじめて彼らを知る人々にとっても、その魅力を伝えるに相当しいバランスを持っている本作の特徴と言える。
プレス資料に書かれた本人たちの弁によれば、本作には彼らのライヴ・バンドとしての感覚も遺憾なく発揮されているという。それは例えば先行で発表された「Gesceap」の展開、それこそ本作のはじめのテーマとなった、前述の組曲のパーツからの変容を示すような楽曲なのだそうだ。アナログ・シンセのフレーズとベースラインから、徐々にドラム、そしてバンド・アンサンブルが加わり、そのサウンドはいつしかスティーヴ・ライヒじみたミニマル・ミュージックへとなったかと思えば、後半はロック的なヘヴィーネスを取り込みながらダイナミックに展開していく。このゾクゾクするような展開は、ライヴ・バンドとしての彼らの演奏スタイルをひとつ反映したものだという。ちなみに、本アルバム・リリース後は4月初旬の東名阪の来日ツアーも含めて、大規模なワールド・ツアーを行う模様のようだ。ぜひとも本作とともにライヴ・バンドとしての彼らも生で観ることをおすすめする。
まさかのヴォーカル楽曲!
また本作は2人のヴォーカリストの参加によって、1枚のアルバムのなかにさらなる彩りを加えている。インスト・バンドとして活躍してきた彼らの作品のなかでヴォーカルをはじめて起用し話題となった2004年『イッツ・オール・アラウンド・ユー』。それ以来のヴォーカリストの起用と言えるだろう。いや、というか、ストレートな歌モノということで言えば今回が初とも言える(前作はコーラスのみ)。歌い手は、USオルタナの牙城〈Drug City〉からリリースしていたオルタナ~ノイズ・バンド、元USメイプル / 現デッド・ライダーのヴォーカリスト、トッド・リットマン。彼はストレンジなスロー・ファンク「Rock On」を歌う。こちらはイギリス人シンガー / 俳優のデヴィッド・エセックスの1973年のヒット曲のカヴァー(わりと雰囲気は原曲に近い)。そしてもう1曲は朋友、USオルタナ・シーン筆頭、昨年もすばらしいアルバムを届けたヨ・ラ・テンゴのジョージア・ハブリーが儚げに歌う、泣きのバラード「Yonder Blue」。彼らのポップなソング・ライターとしての力がストレートに集約された名曲と言えるだろう。
最後にひとつ書いておかなければならないことがある。シカゴ音響派やポストロックのサウンド・イメージのある部分を決定付けたジョン・マッケンタイアのエンジニアリングと彼のスタジオ〈SOMA ELECTRONIC MUSIC STUDIOS〉。本作のサウンドももちろん、その手で、そのスタジオによって作られている。それこそ、彼らの周辺以外にも多くのアーティストたちがそのサウンドに感銘を受け、彼にプロデュースやミックス、マスタリングなどサウンドの要となる部分を委ねているアーティストも数多い。例えば日本国内でもグレート3やASIAN KUNG-FU GENERATIONのGotch(ソロ・アルバム『Can't Be Forever Young』のミキシングを手がけている)たちもそういったアーティストたちの一部だ。
ギター、メロディやヴォーカルといったロックの表現において中心的な存在を相対化し、まさに“音響派”と呼ばれるほど、そのサウンドのテクスチャー全体を表現としてしまったそのサウンドは、ハイレゾにて体感するべきサウンドと言えるだろう。
ポストロックの歴史はここから──トータス過去6作品配信開始
7年ぶりの新作ということで、本作ではじめて彼らの存在を知ったという人も多いのでは? ということでこちらでは新作ともに再発された過去6作品とともに彼らの軌道を駆け足(かなり)で振り返りましょう。
その出自はきっちりと1990年前後のUSオルタナ~ポスト・ハードコア・シーンにある。1990年にベーシスト、ダグ・マッコームズ(イレヴンス・ドリーム・デイ)、シカゴ・オルタナ・シーンの支柱、スティーヴ・アルビニ周辺にも出入りするドラマー、ジョン・ハーンドン、そこにジョン・マッケンタイアやバンディ・K・ブラウン(ともにデヴィッド・グラブスらとともにバストロというバンドで活動)といったアーティストたちが加わることでトータスの前身が生まれる。もともとはジョン・ハーンドンとダグによる、スライ&ロビーのような、ドラムとベーシストのユニットが基礎としてあり、さらにそこにエンジニアがメンバーとして在籍するというのがひとつのアイディアとして彼らにあったようだ(つまるところダブ・バンドだ!)。アルビニ・プロデュースのバンド、ター・ベイビーで活動していたダン・ビットニーなどが合流、その他、周辺のアーティストたちが流動的にセッションなどに加わりつつ、トータスは生まれ、1994年には1stアルバムをリリースする。
ちなみにだが、それぞれのメンバーは、さまざまなユニットやバンドに参加し、シカゴのアルビニ周辺の芳醇なオルタナ・シーンに端を発しつつも、その次なる世代として、ジャズ / インプロ・シーンなどとも混じり合い、日本では“シカゴ音響派”として知られるシーンを形創っていく。また初期のトータスにも、こうしたシーンのアーティストたちが流動的に参加していた模様だ。
シカゴ・オルタナ / ポスト・ハードコアからポストロック前夜
Tortoise / Tortoise
1994年リリース / 1stアルバム
【Track List】01. Magnet Pulls Through / 02. Night Air / 03. Ry Cooder / 04, Onions Wrapped in Rubber / 05. Tin Cans & Twine / 06. Spiderwebbed / 07. His Second Story Island / 08. On Noble / 09. Flyrod / 10. Cornpone Brunch / 11. Mosquito
1stアルバム『トータス』には、スローなポスト・ハードコア的なざらついた音像をサイケデリックなルーツ・ダブとして演奏したかのようなサウンドが全体を包む。彼らの音楽性の要となるメロディを奏でる六弦ベース、アナログ・シンセの不穏なサウンド。そしてスタジオをひとつの楽器として使うような、 そんな音作りがなされている。ジャマイカのダブ・ミックスやDJカルチャーのリミキサー文化、もしくはカンにおけるホルガー・シューカイのテープ・エデットに、それは近い思想と言えるだろう。
言ってしまえば、その後の活動の指針となるような彼らの重要なアイディアはすでにそこにあるといってもいいだろう。ギターやヴォーカルをその楽曲表現の中心とするロックのクリシェ、これを表現の中心から外した“音響”的アプローチのサウンドは、まさにポストロック前夜と言えるものだ。
さらにこの1st『トータス』の素材を中心に、自らの手でリミックスすることで、アルバム『Rhythms, Resolutions & Clusters』を1995年にリリースする。ポストパンク期のダブ・ミックス的なアプローチのアルバムはリリースされているが、こうしたバンドが素材の編集までをも含んだセルフ・リミックスをアルバム1枚まるごと行ったというのは異例と言えるだろう。しかしながら、『Rhythms, Resolutions & Clusters』は高い評価に関わらず、のちに廃盤。現在ではお蔵入りとなっている(2006年のボックス・セット『A Lazarus Taxon』で唯一聴くことができる)。しかし、ここで試されたセルフ・リミックスの手法は、2nd、さらにはDAW(注)でのレコーディングを取り入れた『TNT』においてポストロックの雛形として結実する。
DAWとは……プロツールズ(ProTools)などに代表される、PC上でデジタル・オーディオ・データを扱う音楽制作の総合的なシステム(Digital Audio Workstation)。MIDIの打ち込みから、ヴォーカル、生楽器のレコーディング、ミキシング、プラグイン・シンセや音源、サンプラーなどによる演奏、エフェクトなど、音楽制作のほぼすべてをPC上で行える。ミキシング・コンソール、テープ・レコーダー、エフェクターなどなど、スタジオに備え付けられていた、さまざまなプロ用の各スタジオ機材に分かれていた音源制作にまつわる作業が、究極的にはDAWを積んだPC1台ですべて行えるようになった。特にハードディスク・レコーディングが統合されたことによって、それまでやり直しに多大なコストがかかったレコーディングやミキシング、エデットといった作業のやり直しが、理論上は音の劣化なく、ストレージの容量が続く限り無限に行えるようになった。また、その録音された波形をみながらの細かなエデット、修正やエフェクトなどもできるようになり、演奏 / 録音時以降にも単なるミキシング以外の作業が可能に(ポスト・プロダクション)。現在、音楽制作の現場は、むしろこうしたDAWでの作業が一般化している。もはやDAWの使用 / ポストプロダクション=ポストロックではないという状態が到来して10年以上経っていると言えるだろう。
ポストロックの誕生
Tortoise / Millions Now Living Will Never Die
1996年リリース / 2ndアルバム
【Track List】01. Djed / 02. Glass Museum / 03. A Survey / 04. The Taut and Tame / 05. Dear Grandma and Grandpa / 06. Along the Banks of Rivers / 07. Gamera / 08. Goriri / 09. Restless Waters / 10. A Grape Dope
そして『Rhythms~』でそれなりの高い評価を受けたのちに、1996年の2nd『ミリオンズ・ナウ・リヴィング・ウィル・ネヴァー・ダイ』がリリースされる。ここでバンディ・K・ブラウンが脱退(一部本作には参加)し元スリントのデヴィッド・ポパが加入、さらにジョンのスタジオ〈SOMA〉が完成、本作より全編が本格的に〈SOMA〉レコーディングになった。この作品はイギリスの音楽メディアなどを中心に絶賛され、ここ日本も含めてポストロックなる言葉が流布されるきかっけとなったアルバムだ。
さらなるポスト・プロダクションやエレクトロニクスの導入、その祖先たるクラウト・ロック的なハンマービートのミニマリズム、またその後のサウンドの象徴ともいえるヴィブラフォンやマリンバなどマレット・サウンドを効果的に取り入れた。こうした要素に加えて、作曲されたさまざまなフレーズを構成する……作曲というプロセスそのものをマップに配置していくような楽曲作りが、本作中の長尺トラック「Djed」で確立され、これが次作のプロツールズ導入でさらなる進化を遂げていくことになる。
ちなみに本再発では、当時12インチ、日本盤CDにしか収録されていなかった「Djed」同様のアプローチの名曲「Gamera」を収録している。
2ndリリース前後で、いわゆるオルタナやアヴァン・ロック、ローファイもの以外のファンにも、当時ヨーロッパを中心に隆興していた、トリップ・ホップやエレクトロニカ、クラブ・ジャズなどのポスト・クラブ・ミュージック周辺の動きにも迎へ入れられることでさらなる知名度を広げいてく。またルーク・ヴィバートやU.N.K.L.E.、スプリング・ヒール・ジャック、オヴァルといったアーティスト、さらには朋友、ジム・オルークなどによるトータス楽曲のリミックス12インチのシリーズもこうした流れに一役買っていく。
いま聴くと、1stと2ndは、かなりスモーカーズ・デライトなサイケデリック感のある作品で、このあたりの感覚で、ヨーロッパのトリップホップ~ダウンテンポの波に乗ることができたのではないだろうか。その手の動きを象徴するような、フューチャー・ジャズ系のコンピ『Future Sound Of Jazz Vol. II』や〈Mo'Wax〉の『Headz 2』にトータスの楽曲が収録されていたのがなによりもその証拠だ。ま、ともかく彼らはDJカルチャーとも相性が良かったし、『TNT』の音楽性を聴けばわかるが、彼ら自身もなにかしらの影響を受けていたのではないだろうか。
ポップ・ミュージック史上に残るエポックメイキングな『TNT』の誕生
Tortoise / TNT
1998年リリース / 3rdアルバム
【Track List】01. TNT / 02. Swung From the Gutters / 03. Ten-Day Interval / 04. I Set My Face to the Hillside / 05. The Equator / 06. A Simple Way to Go Faster Than Light That Does Not Work / 07. The Suspension Bridge at Iguazu Falls / 08. Four-Day Interval / 09. In Sarah, Mencken, Christ, and Beethoven There Were Women and Men / 10. Almost Always is Nearly Enough / 11. Jetty / 12. Everglade / 13. TNT (Nobukazu Takemura Remix)
2ndの高い評価のなかでまさに駄目押し的にリリースされたのが1998年のサード『TNT』。ポパが抜けて、ジャズ畑出身のジェフ・パーカーがこの時点で加入。よく知られるようにプロツールズ=DAWによるハードディスク・レコーディング、つまるところノンリニア・レコーディング、アンドゥ可能なミックス&エデットやエフェクトを本格的に取り入れた作品だ。作曲したパーツ(即興ではなく)をつぎはぎし、さまざまなアレンジメントをテストし、ジャッジし、楽曲を形作っていく。また、これによりドラムンベースやダウンテンポ、アンビエント・テクノといったエレクトロニック・クラブ・ミュージックとのシームレスな融合も果たしている。
サウンドのテクスチャー、アレンジ、メロディ、これらが精査され結びつけられて作られたサウンドは、極めて良き塩梅の美麗なフォルムでこちらに迫ってくる。まさにポストロックの教科書。表面的には非常に聴きやすいサウンドで、その表現は極めてポップだ。音楽マニアの間だけでなく、ポストロックという言葉がある意味でひとり歩きするほどの拡散力を持つ、そこまで高い音楽性と相当しい評価を持ってシーンに受け止められた。
ちなみに本再発には、当時、日本盤に収録されていた竹村延和によるライヒとヒップホップ、そしてトータスのアンサンブルが入り混じる珠玉のリミックスも収録されている。また未収録だが「In Sarah, Mencken, Christ, and Beethoven There Were Women and Men」の、シカゴ・ハウスのDJ、デリックー・カーターにリミックスは歴史に残るポストロック〜ハウス・ミュージックの邂逅なのでぜひとも見つけたら12インチは即ゲットするべし。
名盤『TNT』から肉体的グルーヴの表現へ
Tortoise / Standards
2001年リリース / 4thアルバム
【Track List】01. Seneca / 02. Eros / 03. Benway / 04. Firefly / 05. Six Pack / 06. Eden 2 / 07. Monica / 08. Blackjack / 09. IEden 1 / 10. Speakeasy / 11. Blackbird / 12. Blue Station
『TNT』の成功を経て、2001年にリリースされた『スタンダーズ』は、荒々しくリズミカルな作品に。ある意味で、音像から展開にいたるまですべてをコントロールの下においた『TNT』の達成&反動が作らせたアルバムというか、演奏家としても一流の彼らが表現した、『TNT』と表裏一体の作品と言えるだろう。世はエレクトロニカ・ブームの真っただ中だったことも考えると、電子音とバンド・サウンドをプロツールズでお手軽に掛け合わせた雰囲気ポストロックも巷には雨後の竹の子状態……そのあたりへのアンチもあったのではないだろうか。
アナログ機材なども大幅に取り入れたというそのサウンド。特に印象的なのは、スムースなジャズ的な印象だった『TNT』のドラム・サウンドから、ここではまるでヴィンテージ・ファンクに潜むブレイクビーツのようなドラム・サウンドが展開されている。またライヴ・バンドとしての活発な活動は本作の方向性に一役かっているようにも。
さらなる多様性を求めた2000年代後半
Tortoise / It's All Around You
2004年リリース / 5thアルバム
【Track List】01. It's All Around You / 02. The Lithium Stiffs / 03. Crest / 04. Stretch (You Are All Right) / 05. Unknown / 06. Dot/Eyes / 07. On The Chin / 08. By Dawn / 09. Five Too Many / 10. Salt The Skies / 11. Elmerson, Lincoln, & Palmieri / 12. Deltitn
ある意味で表裏一体な『TNT』と『スタンダーズ』の2作をリリースしたのち、さしものトータスも若干の迷走期に入る印象も。とはいっても、バンドの成熟した手腕はしっかりとした作品を残し、さらにここに新たな可能性も示している。2004年にリリースされた5作目『イッツ・オール・アラウンド・ユー』。新機軸といえば、インスト・バンドとしてこれまで頑なに“歌”というものを排除してきたバンドだが、ここにきて歌声を明確にフィーチャーした(コーラスだが)。サウンドは『TNT』的なデジタル・トリートメントされたタッチをさらにおしすすめ、バンド・アンサンブルが後退し、全体のテクスチャーはより精密に、よりクリアでデジタルな質感になっている。初期のチルアウト&メロウな感覚、さらに『スタンダーズ』で見せた荒々しいドラムブレイクも、練り上げられたポップな意匠の精密な部品としてアルバム全体を構成するようになる。
2007年、ジョン・マッケンタイア、ジョン・ヘンダーソン、ダン・ビットニーの鉄壁のドラム隊は、US西海岸アンダーグラウンド・ヒップホップの牙城、マッドリヴやJ・ディラもリリースするピーナッツ・バター・ウルフの〈ストーンズ・スロウ〉からバンプスなるプロジェクトで作品をリリースする。本作はファンク、ラテン、またはブラジリアンやアフロ・ビートなどを縦横無尽に叩いたブレイクビーツ・ライヴラリーといった作品で、これは次なるアルバム『ビーコンズ・オブ・アンセスターシップ』への布石となる。卓越したグルーヴもさることながら、ここでもジョン・マッケンタイアが、ヴィンテージ・ファンクのレコードのクレジットからそのまま抜き出てきたようなエンジニアリングを見せている。
アグレッシヴなビートの応酬となる6th
Tortoise / Beacons of Ancestorship
2009s年リリース / 6thアルバム
【Track List】01. High Class Slim Came Floatin' In / 02. Prepare Your Coffin / 03. Northern Something / 04. Gigantes / 05. Penumbra / 06. Yinxianghechengqi / 07. The Fall of Seven Diamonds Plus One / 08. Minors / 09. Monument Six One Thousand / 10. De Chelly / 11. Charteroak Foundation / 12. High Class Slim Came Floatin' In (EYE Remix)
2009年リリースの『ビーコンズ・オブ・アンセスターシップ』は、それまでのキャリアからすれば最もエッジーな作品と言えるかもしれない(とはいえ彼らはずっとそのキャリアの最初からさまざまな意味で「エッジ」な存在ではあるのだけど)。上述のバンプスでの経験、さらにはJ・ディラ作品を聴きこみビートを作りまくっていたというメンバーの趣向を現したのか、アルバム全体でラフでアグレシッヴなファンク・グルーヴで、ときにラテンやブラジリアンといったワールド・ミュージック的な展開すら感じることができる。
また「Yinxianghechengqi」のような、先祖帰りというか、これまであまり彼らがやってこなかったストレートなパンク~オルタナ・サウンドまで展開している。サウンドの要素として、もっとも大きな特徴として、2nd以降、彼らのサウンドを大きく特徴付けていたヴィブラフォンやマリンバといったマレット・サウンドを廃したことだ。「Charteroak Foundation」のようなそれまでのトータスのサウンド・イメージに近い楽曲もあるが、本作のその中心はやはりアグレッシヴなドラム・サウンドと言えそうだ。
>>おすすめ記事 : 特集 : 『ポストロック・ディスク・ガイド』を巡って、あるいは2015年夏、インディ・ロックのある視点
Tortoise Japan tour 2016
2016年4月6日(水)大阪 UMEDA CLUB QUATTRO
2016年4月7日(木)名古屋 NAGOYA CLUB QUATTRO
2016年4月8日(金)東京 SHIBUYA TSUTAYA O-EAST
チケットの詳細などは下記スマッシュの公演情報ページまで
>>http://smash-jpn.com/live/?id=2417
PROFILE
TORTOISE
1990年にシカゴで結成されたインストゥルメンタル・バンド。現在のメンバーは、ダン・ビッドニー、ジョン・ハーンドン、ダグ・マッコームズ、ジェフ・パーカー、そしてレコーディング・エンジニアも務めるジョン・マッケンタイアによる5人。全員がベースやドラム、キーボードやギターなどさまざまな楽器を演奏するマルチ・プレイヤーである(ライヴでも順繰りに楽器を変え演奏していく)。それぞれのメンバーは、トータスのみならず、さまざまなバンドのメンバーとして活動し、いわゆるシカゴ音響派として1990年代中頃に言われたシーンを構成する。またジョン・マッケンタイアは自身のスタジオ〈SOMA ELECTRONIC MUISC STUDIO〉にて、スタジオ・エンジニア / プロデューサーとして様々なアーティストを手がける。最新作『ザ・カタストロフィスト』を入れて7枚のアルバムをリリース。1994年の2nd『ミリオンズ・ナウ・リヴィング・ウィル・ネヴァー・ダイ』、さらにはプロツールズによるポスト・プロダクションを本格的に取り入れた1998年の『TNT』にて高い評価を受け、ポストロックのオリジネイターとしてシーンに大きな影響を与える。
>>TORTOISE アーティスト・ページ
>>TORTOISE P-VINEによる日本語アーティスト・ページ