D.A.N.、ツアー「BEND」スタートとともに会場限定ニュー・シングルをリリース
昨年は2nd『Sonatine』をリリース、ここ数年はヨーロッパや中国など他のアジア諸国など海外の活動も増えているD.A.N.。ワンマン・ツアーの開始とともに、ツアー会場限定の3曲入りシングルをリリースすることを発表した(OTOTOYハイレゾ配信中)。『Sonatine』以降の彼らの感覚を凝縮した、「Bend」「Elephant」+「Elephant」のインスト・ヴァージョンが収録される模様だ。ツアー直前の彼らに、新曲、そしてツアーについて話を訊いた。
D.A.N.会場限定シングル「Bend」「Elephant」がついにハイレゾ配信開始
INTERVIEW : D.A.N.
幽玄なピアノのフレーズがゆったりとループするダウンテンポではじまる「Bend」は、微細な電子音のサイケデリアをまといながら、楽曲の後半に進むほどに、激しさを増すドラムとともにエモーショナルに美しく高揚していく。5分の時間軸はその壮大な流れとヴィジョンで限りなく広がっていく。単なる勢いだけでは表現できない、現在のD.A.N.の成熟した音楽性を示すサウンドと言えるだろう。
そしてトロピカルなハウス・グルーヴを身につけた「Elephant」は、「Tempest」や「Sundance」といった楽曲で彼らが行ってきたダンス・ミュージックの援用の延長線上にある。野太くシンプルな、ドラム&ベースが刻むグルーヴ。さらに磨きをかけた音質というファクターも、そこには大きな要因としてこの楽曲をより魅力的なものとしている。さまざまな声や電子音がリズムの上で、カット&ペーストされ広がっていく、より研ぎ澄まされたプロダクションがあっての音像といえるだろう。また、この楽曲をインストでもリリースするというのは、そこに彼らの音に対するスタンスも見ることもできる。
ツアーを目前にした彼らに話を訊いた。
取材・構成 : 河村祐介
写真 : 沼田学
ツアーはサポートを入れた5人編成
──シングル・レコーディング直後という感じですけど、バンドの状態はどうですか?
櫻木 : いまツアーに向けてリハーサルをしてアレンジを詰めたりしているところですね。
──去年のツアーは、2ndアルバムというのと、ライヴとして大きな違いがあって、うてなさんのサポートを入れずに3人だけでライヴをやるというのがひとつ大きな違いというか、それがテーマとしてあったと思うんですけど。
櫻木 : 今回は逆にサポート・メンバーを増やす方向でライヴはやろうと思っていて。いままでやってやってくれていた小林うてなに加えて、篠崎奏平というおもしろいやつにキーボードで入ってもらう予定で。篠崎奏平はFLATPLAYというユニットをやっていて。だから基本は最大で5人編成、それぞれ楽曲によって3人の場面もあれば4人や5人で演奏するところもあって。それぞれの楽曲によって入ってもらうんですけど、とにかく前回のツアーまででライヴで表現できなかった部分を補ってもらうという感じで。
──全会場ともに?
櫻木 : 全会場5人体制ですね。
──シンセとか、そもそも歌とギターがあって、去年ステージで見たときに単純に大悟くんにいろいろな種類の楽器が集中していて大変そうだなと。そこにうてなさんが戻ってきて、さらに篠崎が補ってさらに足していくようなイメージですかね。
櫻木 : そうですね。機材的にも増やして。
──リズム隊は変わらず。
市川 : 基本そうですね。
──3人というところで変わらない曲もあるようだけど、そうなると1stの頃ともまた違うだろうから最近のライヴと比べると大幅にアレンジが変わりそうだよね。やっぱり物足りなかった?
櫻木 : 物足りないというよりも、再現性のところですね。新しい曲とかはサポートをしっかり入れないとできないっていう。
市川 : 去年のライヴでは、3人でやるというのはできたんだけど、やっぱり大悟の曲のなかでの忙しさとか考えるとサポートがいた方がいいかなっていう。
川上 : 歌に集中できてなさそうなところもあったからね。
櫻木 : どうしても歌がルーズになっちゃうところがあったと思う。あとはサンプルをたたくとかでミスもあったり。そこは大きいかもしれませんね。
川上 : バンドはじめた初期の頃からうてなに参加してもらって4人体制でやってたので、去年は3人でやってどこまでできるかがわかったというのはあったと思います。それを経て、こんなことが出来たらなというのを、ゲストが加わることで表現できるようになったらおもしろいなと。
──自分たちの印象的なライヴって有りますか?
櫻木 : KID FRESINOくんとD.A.N.の2マンがリキッドルームであったんですが、そのときKID FRESINOくんのバンドでうてながサポートで出演していて。そこで僕らの方にも1曲参加してもらおうと「Native Dancer」でやってもらって。それはそれで反響があって、自分たち的にもより楽しめた印象もあって。それがひとつあったんじゃないかな。
ピアノからスタートした「Bend」
──そろそろ本題の新曲の方行ってみようと思うんですが、この2曲はいつぐらいに作ってたんですか?
川上 : もともとは2月とか3月で、レッドブルのスタジオ(Red Bull Studios Tokyo)でプリプロをしながら作っていったという感じの曲で。
──すでに元ネタになるような曲があって、それを録音したという感じじゃないですね。
川上 : そうですね。今回の2曲はそこでのセッションから生まれた曲。「Bend」はレッドブルのスタジオにアップライト・ピアノが置いてあるんですけど、それを大悟が弾いてあのフレーズができあがって。
市川 : たぶん、大悟のなかで考えてたフレーズがあったみたいで、それをピアノで弾き始めたというのがきっかけだと思う。
川上 : そのフレーズに対して、ドラムを適当に叩いたら良い感じにまとまってきたので「この曲は、このままいこう」という。なんとなくの構成もコレでいいんじゃないかという感じになって。そこから詰めていったという曲ですね。
──ピアノの音色って使うのはじめてだよね?
櫻木 : いままで僕は使ってなかったと思う…… サンプルみたいなのもほとんどないと思う。
──ピアノを使ってみようと思ったきっかけがあったんですか?
櫻木 : う~ん、おそらく3人でライヴをやっていくなかでシンセとか鍵盤に触れる機会が増えて、鍵盤をプレイする楽しさみたいなのが結構出てきたんだと思う。そういう経緯もあって、アップライト・ピアノがそこにあって、スタジオにあったから触ってみて…… そのフレーズから立ち上がってきた曲という感じですかね。もともと僕はギターと歌というものが一番表現しやすい楽器なんですけど、でも鍵盤でもいろいろ表現できるようになってきたかなというのがあると思います。
──この曲も後半の盛り上がり方とかを考えると、いわゆる普通のポップスのAメロ、Bメロ、サビのセットという感じでもないじゃなくて、しかも5分間聴いて曲の全貌がわかるというか。これをシングルで切るっていうのは、勇気がいるんじゃないかなとか……と思うけど、その辺は考えなかった?
櫻木 : あんまりなかったっすね(笑)。もう僕らの場合、感覚はずれているのかもしれないですけど。
川上 : うてなにはめっちゃ暗いって言われたよね。自分たち的にはそういう風には思ってなくて…… そういう意味じゃやっぱりズレてるのか。
──「キャッチーな曲を作ってチャート・アクションに……」みたいなのはそこまで興味がない?
川上 : あ~。でもそういうものは狙ってできるもんじゃないと思うし。
──なるほどね。でも音を聴くと、とにかくいい音で届ける、その気持ちよさ、みたいな方向にさらに行っているよね。音響的なおもしろさだったり。
櫻木 : でも本当にそっちがおもしろくなってきたいうのはありますね。
D.A.N.の音、変化、その源泉
──シンセの変な音とかも良く聴くといっぱい入っていて、いまはそのあたりの表現の方が楽しいかなって。
川上 : 機材が新しくなったり、レコーディングのやり方も変わってきて、良い音で、録りたい音をよりうまく録れるようになってきたという感じですかね。
櫻木 : そういう自然な流れがきているんだと思います。
──自分たちでよりコントロールしつつ、より自分たちが思い描いた音をとれるようになったという。
櫻木 : 曲を作る段階で、スタジオに入ると、その時点ですでに良い音で演奏した音を録れるわけじゃないですか? ばっちりな音を録れれば音数も減ってくるし、「闇雲に音を重ねる」ということにもならなくて。そういう制作方法が良いというか、できるようになってきたんですよね。
──キーになった新しい機材はあった?
櫻木 : 「Bend」に関してはアップライト・ピアノ。あとは2曲とも個人的にはモジュラー・シンセですね。
──そのあたりの電子音を入れるときふたりは? わりと大悟くんに任せて出てきたやつを聴いたり、ジャッジするという感じですか?
市川 : そうですね。
川上 : 大悟がやりたいようにやったもので「嫌だな」とかはなかったですね。
──そこは大悟くんがやることが、D.A.N.の音として信頼があるというか。
川上 : そんな感じです。
──ビートの部分でいうと、わりと『Sonatine』もそうだけど、1stの「Native Dancer」みたいなわりとロックっぽいアグレッシヴなものから、全体的なリズムのデリバリーが、この曲みたいなダウンテンポだったり、あとは「Elephant」もそうだけど、ハウスっぽいグルーヴだったりになってきているよね。
川上 : 結局こういうビートが好きなんですよね。初期の頃はああいう感覚のものしかできなかったけど、いまは表現の幅が広がってきたんだ思う。
櫻木 : でも僕らも「シックなムードになりたい」みたいな感じはバンドのなかでちょっとあったと思う。落ち着きとか余裕とかそういうものを音楽でも表現したいというか。
川上 : でも、逆に言えば「Bend」の後半はこれまでで一番手数が多いですからね。
──1曲に両極端な表現も差し込めるようになったという。
川上 : そうですね。
──ベースはどうですか?
市川 : なんすか、俺だけざっくりした質問(笑)。
──いや、でも、ベースはわりと不動というかはじめからすでに完成されていて、という感じがするけど。
市川 : 変わってないと言えば変わってないところありますね。ベースっぽいところはベースとして、もうちょっとコードのところ、メロディのところといろいろ役割があって、どれも行き来して演奏するという。考え方としては、自分の弾いているところは、ギターともベースとも思ってなくて「弦楽器」として弾いているというところはあるかもしれない。
──曲作りはまた別かもだけど、サポートが入って、歌とギターというところの出番が増えた大悟くんの演奏との関係で変わってくるところもありそう?
川上 : 必要じゃないと入れないというのがあるから、ごちゃごちゃするようなことはないと思うけど。
市川 : 大悟のギターもいわゆるギターリストっぽいギターじゃないんで、そこはうまいこと合わさると思う。高音の方で一緒にライヴで弾いてても、音の混じり方とか、お互い選ぶ音階とかが違う感覚なので。
──さっきの電子音の話じゃないけど、音が出たらその瞬間に、その音がお互いちゃんといるべきいちに分かれているという。
市川 : もうそういう状態にはあるかもしれない。
トライバルでパーカッシヴでも、もうちょっとシックで堅い
──「Elephant」は、ちょっと「Tempest」のトロピカルな感じと「Sundance」っぽいハウスの感じというか。これもレッドブルのスタジオでセッションが原型になっていると。
櫻木 : そうですね。この曲の原型はもっと早いBPMのイーヴン・キックの曲で。でもなんか違うなって思うようになって。ドラムをサンプリングして、ピッチを落として、ヒプノティックな感じにしたいと思って、ゆっくりにしたらああいう感じになって。そこからちゃんとドラムを録り直して作っていったという感じですね。
川上 : もともとの原型になったトラックは、ピッチをDAWで落として作ったから、変な質感があって。その感覚がいいねっていう。その感覚を持ってきて録り直したというか。今回のこの曲はそういうノリで作った感じはあると思います。これまでの楽曲のなかでいちばんノリで作ったかもっていうぐらい。
──音の分離感とかもおもしろかった。『Sonatine』とミキシングの座組とかは一緒?
櫻木 : そこは同じなんですけど、今回、マスタリングをマット・コルトンさんに頼んだんですよ。音の分離の良さみたいな部分はマスタイリングで強調された部分があるかと思う。いまっぽい分離感のある音というか。
──彼に頼もうと思ったのは?
櫻木 : やっぱりフローティング・ポインツ、ジェイムス・ブレイク、フォー・テットとか挙げればキリがないですけど、好きな作品を総じてやっているので。いまのポップスみたいなもののサウンドをデザインした人といったも過言ではないじゃないですか。念願かなってやってもらって。
川上 : すごい立体感だよね。
──ちなみに最近なにを聴いているんですか?
櫻木 : わりと輝がヒップホップとかR&Bの良いものをよく知っているので、それを教えてもらうのが大抵間違えなくて。他はもっと個人的な趣味でテクノとかハウスが多いかな。
川上 : 最近はDJのオファーもたまにあるので、そこでプレイするために探すというような感覚も出てきていて。
市川 : 僕も3人のDJやるときのこととか考えることがあって、中南米のトラバルなダンス・ミュージックとかは聴いてて気持ちよいですね。
櫻木 : たしかにそういうトライバルっぽいやつはよく聴いてた。
──その感覚だと「Elephant」はなんとなく納得できてしまう。
市川 : トライバルでパーカッシヴでも、もうちょっとシックで堅い、スクエアなリズム感がちょうどいいというか。
櫻木 : ゆっくりお湯につかっているいい塩梅も入っていて。
市川 : 「Elephant」も感覚的に、怖いんだか、楽しいんだか、ちょっと気持ち悪い感じがあって、カラフルな地獄感(笑)。
川上 : 何度も作り続けていけばいつかものすごくちょうどいいダンス・ミュージック的なものが出来るんじゃないかなと。
市川 : 「Elephant」はもっとテンポが早くてクールな感じだったんだけど。
櫻木 : できたものはいい感じにダサいっていうのがよくて。
──1年ぶりぐらいに新曲を作って、どうですか? 変わった部分とか。
櫻木 : うーん、気分は変わっているけど、ガラッと方法を変えようとかは思うことはなく。
──でも5人編成でのライヴは、また曲作りも変わってきそうですね。
川上 : まずはその編成でのライヴのリハを詰めている段階なのでどうなるかは正直わからないですね…… でも変わっていく気はしています。
櫻木 : サポート入れてやることで、例えば「Bend」だったらピアノ弾きながら歌うとか、それだとライヴもできなかったと思うので。あとは、いきなり3rdというよりも、シングルをちょくちょく出していくようなモードになりそうですね。
D.A.N.過去作もハイレゾ配信中!
2018年リリースの2ndアルバム、ハイレゾ配信中
D.A.N.『Sonatine』のインタヴューはこちら
PROFILE
D.A.N.
2014年、櫻木大悟(Gt,Vo,Syn)、市川仁也(Ba)、川上輝(Dr)の3人で活動開始。様々なアーティストの音楽に対する姿勢や洗練されたサウンドを吸収しようと邁進し、いつの時代でも聴ける、ジャパニーズ・ミニマル・メロウをクラブサウンドで追求したニュージェネレーション。2015年7月にデビューe.p『EP』をリリース。2016年4月に待望の1sアルバム『D.A.N.』をリリースし、CDショップ大賞2017の入賞作品に選出。7月には2年連続でFUJI ROCK FESTIVAL’16に出演。また同年のFUJI ROCKオフィシャルアフタームービーのBGMで「Zidane」が起用される。2017年2月にJames Blakeの来日公演でO.Aとして出演。4月にはミニアルバム『TEMPEST』をリリース。11月に初の海外公演をLONDONで行い、滞在中にはFloating Pointsのスタジオで制作活動を行う。現地のジャイルス・ピーターソンのラジオ番組〈Worldwide FM〉に出演しスタジオライブを敢行。2018年2月、UKのThe xx来日東京公演のO.Aを務める。5月にUK TOURを敢行し”THE GREAT ESCAPE’18″に出演。7月には2ndアルバム『Sonatine』をリリースし、FUJI ROCK FES’18へ出演。9月からのリリースツアーは、中国4都市、台湾2都市、バンコク、香港のASIA TOUR、日本国内は9都市、全17箇所を巡り、ファイナルは新木場スタジオコーストで開催する。不定期で行う自主企画〈Timeless〉ではこれまで、LAからMndsgn、UKからJamie Isaacなど海外アーティストを招聘して開催している。
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