ここ数年で大きな盛り上がりを見せるアンビエント、ドローン、ノイズ、フィールド・レコーディングなど、エクスペリメンタルな電子音楽の流れ。いわゆる2000年代型のエレクトロニカ、もしくはIDM、テクノとも少々違った流れを持っている。この流れの中心とも言えるアーティストが、イギリスのエレクトロニック・ミュージックの名門WARPからアルバムをリリースする。すでに、リリース前から米Pitchfolkをはじめ、海外メディアでは大きな話題となっているアルバムだ。それはNYはブルックリンのアーティスト、ワンオートリック・ポイント・ネヴァー(OPN)こと、ダニエル・ロパティンの新作『R Plus Seven』である。ソフィア・コッポラの新作の映画音楽にも抜擢されたことでも話題だ。
Oneohtrix Point Never / R Plus Seven
【配信価格】
mp3 単曲200円 / まとめ購入1,500円
WAV 単曲250円 / まとめ購入2,000円
【Track List】
01. Boring Angel / 02. Americans / 03. He She / 04. Inside World / 05. Zebra
06. Along / 07. Problem Areas / 08. Cryo / 09. Still Life / 10. Chrome Country
インディ・ミュージックにおいて、いま、最も注目すべき作品
それは2000年代後半に沸き出した各地の小さな泉から溢れ出し、2010年代を超えた頃にはインディ・ミュージック・シーンを象徴するひとつの大きな流れとなっていた潮流だ。シンセ・ウェイヴ、ニュー・エイジなどという言葉が、アンビエントやノイズ、ドローンといったフォーマットを使ったアンダーグラウンド・シーンの新たな刺激的で実験的なシンセ・ミュージックとともに流布されはじめた。どちらかと言えば、その肌触りは、チルアウトなアンビエントへと進んでいく、ダンス・カルチャーに近しいものではなく、アヴァン・ロックや現代音楽の流れに近いものとも言える。この流れのなかでエポックメイキングな動きをしたアーティストにティム・ヘッカー(彼とはコラボ・アルバムも)やエメラルズがいるが、ダニエル・ロパティンこと、OPNもまた、彼らと並び、そうした流れを牽引したアーティストだ。すでに2007年あたりから数枚のアルバム・リリースがあるアーティストだが、そのブレイクのきっかけは2010年にウィーンのレーベル、Edtitation Megoよりリリースした『Returnal』だ。さらには、まさにシンセ・ウェイヴやノイズの新たな波を牽引する自身のレ―ベル、ソフトウェアよりリリースした2011年『Replica』によってまさにダメ押しとも言える高い評価を受けた。この作品は、インディ・ロック系のメディアはもちろんのこと、わりとダンス色の強い、テクノ / ハウスの主幹メディアとして君臨しているResidential Advisorでもその年のベスト・アルバムの上位にも食い込んでいた。
こうしたなかで、しかもWAPRからリリースされたのが本作だ(WARPは、この手のサウンドの波にいままで乗り切れていたとはいえず、手をこまねいていたという印象なだけに、この契約はそれなりに衝撃があった)。 まだまだ、ノイズ / ドローン色の強かった『Returnal』から、さまざまなタイプの音楽の断片、しかもどれも通常なら独自の音楽性を獲得しえなさそうなジャンクなサウンドがカット&ペーストされたループ性を重視し、ある種の情景を作り上げた『Replica』ときて、本作『R Plus Seven』は『Replica』の作品性を引き続きながらも、ある意味でポップな色彩感を持った作品へと変化している。また、以前からもあったミニマル・ミュージック的な感触がさらに増しているのも本作の特徴と言えるだろう。どことなくカンが演奏するワールド・ミュージックの、そのスカスカのループ感(嘘っぽさ?)を踏襲したような電子音楽の佇まいはいつのまにか癖になってしまうとっかかりがある。2013年の下半期の電子音楽、いやアヴァン・ロックなども含めたカッティング・エッジなインディ・ミュージックにおいて、いま、最も注目すべき作品と言えるだろう。(text by 河村祐介)
RECOMEND
Brian Eno / Small Craft On A Milk Sea
アンビエント音楽の創始者であり、近年ではU2、COLDPLAYのプロデュースを手掛け、音楽シーンに多大なる影響を与え続けてきた世界の巨匠ブライアン・イーノ。WARPからリリースされた本作は、「このアルバムに収録された楽曲のほとんどは、クラシックな意味合いのコンポジション(作曲)ではなく、インプロヴィゼーション(即興)から生まれている。それらの即興は、曲としてではなく、むしろ風景として、ある特定の場所から抱く感覚として、あるいはある特定の出来事が示唆する提案として完成させようと試みられている。歌い手は存在せず、語り手も存在せず、聴く者が何を感じるべきかを指し示す案内人も存在しない。これらは音のみで作られた映画「sound-only movies」なのである」とイーノが語るように、時/場所/テーマを選ばず聴く者の意識に委ねられる作品になっている。
μ-ZIQ / Chewed Corners
ここ数年の大きなモードのひとつであるニューエイジにも繋がるみシンセやピアノを多用し、幻想的でメロディアスなアンビエント空間を構築している。80年代や90年代のアナログやデジタルの音色をパレットとしながら自身の初期の作風やスタイルをモダンにアップデートした2013年にふさわしいアルバムといえるだろう。US地下より始まったダンス / エレクトロニック・ミュージックの完全なリヴァイバル、UKでは90年代再評価の波が押し寄せる中、エレクトロニカ / IDMの郷愁的なサイケデリアもまた新しい局面を迎えている。
Can / Future Days
日本人ヴォーカリスト、ダモ鈴木が在籍した最後のアルバム。アルバム全体をただよう浮遊感は、先に触れたシンセ・ウェイヴ、ニュー・エイジといった現代のアンダーグラウンドの潮流の源流ともいえるだろう。
PROFILE
Oneohtrix Point Never
ニューヨーク、ブルックリンを拠点に活動するダニエル・ロパティンは、これまでに、カセットテープのフォーマットの作品も含め、様々なレーベルからワンオートリックス・ポイント・ネヴァー名義で作品を発表してきており、ピッチフォークで8.8点を獲得しBEST NEW MUSICにも選出された2011年作品『Replica』は特に評価が高く、テレビCMの音からとったローファイ・オーディオの素材を使って制作されていることでも話題となった。近年では、2010年作品『Returnal』のタイトル・トラックをピアノ曲へと作り直した際にヴォーカリストとして招いたアントニー・ヘガティ(アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ)や、現行アンビエント・シーンの最重要アーティスト、ティム・ヘッカーとのコラボレーション(2012年にアルバム『Instrumental Tourist』を発表)するなど、ドローンにも現代音楽にも接近できる希有な音楽家として、その存在感を確かなものにする。さらに2011年にNY近代美術館で、ヴィジュアル・アーティストのネイト・ボイスとコラボレートしたマルチメディア・パフォーマンスを披露し、2012年のカンヌ映画際でもインスタレーション・イベントに参加。ソフィア・コッポラの最新映画『The Bling Ring』(2013年公開予定)のオリジナル・スコアを担当したことでも話題となっている。