OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.42
OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)
ベリアル──亡霊のごとき響くベース
サウス・ロンドンのDJカルチャーがダブステップを生んで約20年、そしてある意味でポスト・ダブステップの先陣を切ったレーベル〈ハイパーダブ〉がこのたび15周年を迎えた。現在はエレクトロニック・ミュージックにおいて、ある種の未来を占うような重要な動きをするレーベルとも言えるだろう。まさに音楽の未来に対して、示唆に満ちた、という言葉がぴったりなリリースを行っている。主宰のコード9はまた彼はその背景でもある加速主義と呼ばれる思想動向が日本でも紹介され、それによって一部で再度注目を集めているとも言える(詳しくは木澤佐登志著『ニック・ランドと新反動主義』で)。さて、このコード9が見つけた最高の才能といえば間違いなくベリアルだろう。ライヴやDJ、インタヴューなど滅多に外側に顔を出さないこの異才は2006年のアルバム『Burial』、2007年の『Untrue』でダブステップという名前を世に広め、むしろサウンド的にはその次にくる“ポスト・ダブステップ”と呼ばれるスタイルを示唆した。例えばメタルギア・ソリッドのSEからのサンプルという種明かしで話題となった「Archangel」は、ダブステップの先祖とも言えるUKガラージ / 2ステップ的なリズムを復権したひとつの要素とも言えるだろう(もちろんシーンにはシングル・レベルで先駆けとなった楽曲はあるだろうが)。2ndアルバム以降、2010年代の動きに関しては、基本的にシングルでのリリースに限られている(日本ではCDにまとめられたことはあったが)。そんな2010年代のシングルをまとめた、ベスト盤とも言える『TUNES 2011-2019』がリリースされた。彼方で繰り広げられるジャングルのレイヴからくる低音を聴きながら、その喧噪のノイズをノスタルジックに思い浮かべる、そんな最近のアンビエント作品もすばらしいのでぜひ。ということで、ここでベリアルの15年に渡るキャリアを垣間見れる10曲を。デビュー・シングル「South London Boroughs」、件の「Archangel」、そして最近のコラボ作(ザ・バグとのフレイム1)などをお楽しみください。