Sauce81とShing02による言葉と音の壮大なるスペース・オペラーー『S8102』配信
ここ最近、リリース活動が活発になっているShigo02、そしてフローティング・ポインツ&アレックス・ナッツのレーベル〈Eglo〉などのリリースでも知られるプロデューサー、Sauce81によるコラボ・プロジェクトのアルバム『S8102』。Sauce81によるヒップホップ〜エレクトロニック・ファンク・サウンドと、Shing02による広大な宇宙空間を駆け巡るSF的なモチーフのリリックが交叉するそんなサウンドとなっている。
INTERVIEW : Sauce81 & Shing02
広大な宇宙のヴィジョンを駆け巡る、Shing02とSauce81によるアルバム『S8102』。2014年に発表された、Shing02が脚本・監督を務めた「ダンス」をひとつのテーマにしたショートムービー『Bustin'』。サウンドトラックへのSauce81の参加を起点にはじまったというこのプロジェクトは2018年末にアルバム『S8102』へと結実した。その言葉とサウンドの流れは、スペイシーなビート・ミュージックから、Pファンクを思わせるコズミック・ファンクなどなど、そのサウンドが色鮮やかに様々なシーンを描き出す。言葉とサウンドによるこのスペース・オペラを仕上げたふたりにスカイプにて話を訊いた。
取材 : 河村祐介
ふたつの名義の数字を合わせて“8102”
──まずはシンゴさんが脚本・監督を務められた短編映像『Bustin’』の音楽というのが最初の共作的なところだと思いますが、おふたりの出会いとしてはどこなんでしょうか?
Sauce81 : 2012年、仙台で行われた〈レッドブル・ミュージック・アカデミー・ベース・キャンプ〉ですね。そこで自分が過去のRBMAの参加者だったのもあってスタッフとして参加していて。そこにシンゴくんは、スタジオにいてRBMAのアーティストにアドバイスするような立場で参加していて。はじめて出会ったのはそのときですね。
Shing02 : 震災後というのがそのときのイベントのテーマでもあったので石巻市に呼んでいただいたりして、その後でクラッシュさん交えてライヴをやったりという感じでしね。
──一緒にアルバムを作るきっかけはどこにあったんでしょうか?
Sauce81 : やっぱり『Bustin’』がきっかけですね。今回と違って、一緒に音をいちから作るという感じではないですけど、きっかけとしてはありますね。
Shing02 : 『Bustin’』への参加も快く承諾してくれたというのもあるんですけど、それまでやっていることのクオリティとか、とにかく感心するぐらいリスペクトがあったので。それまでは、どちらかと言えば「こういうテーマの音が欲しい」というような、1MCとしての「依頼」が多かったんですけど。これまでも自分は、他のひとりのプロデューサーと、ひとつのバンドと、とか、他のアーティストと組んでアルバムを1枚作るというようなことはやっていたので、彼ともそういう関係性のアルバムを1枚作りたいなと思ったんですね。ファンとして、さらに海外にもそのサウンドが聴かれるようになって欲しいなと思って。
──つくりはじめ自体はいつなんでしょうか?
Shing02 : つくりはじめたのは…… 徐々にという感じですね。日本に僕がいったときに「ちょっとデモを取ろうか」みたいなことをしたり。「1曲作ってみよう」と具体的になったのは、4~5年ぐらい前かな。ビートとかループとか、そういった土台となるようなトラックは何回か送ってもらってたので。でも僕がちょっと寝かしてしまった時期もありつつ……そこからだんだんエンジンがかかってきて、2018年後半に一気に仕上げたという感じですね。やっぱりいきなり一気に仕上がるモノもあれば、寝かして、寝かしてというのも大事だなって思っていて。いまどういう音楽をここでやりたいのかというのがシンクロしないと「いまこれをやろう」という勢いが生まれないじゃないですか。そうじゃないと、やんわりデモを作って、だらだらなってしまうので。
──リリックにしてもサウンド的にもある種のスペース・オペラというかSF的なモチーフを採用したのはなぜなんでしょうか?
Sauce81 : ふたりでやろうとなったときに、ふたりとも数字の入った名義(Shing「02」とSauce「81」)で、そのふたつの数字を合わせて“8102”というのが英語的には語呂がよくて。その大きい数字から「未来」とか「宇宙」っていうテーマにしたら良いんじゃないかっていう話になって。
──リリックの面も含めてストーリーを共有して作るみたいなことはあったんでしょうか?
Shing02 : はじめはおおまかな「こういうテーマで、こんな感覚の歌詞で」というのはありました。でも、そこに対して、徐々に曲がそろってくることで、ストレートなモノもあれば、アブストラクトなものもあったりで。アルバムとして、そういう緩急をふたりで意識して作りはじめて、曲順も見えてきて……という感じですかね。そうしてできた感覚を軸にして「この前後にこういう曲を作ろうか」とか、そうやって必要な曲をさらに映画のようにひとつひとつのシーンごとに撮っていって、それをたまに入れ替えてみたりというような感覚で1枚を作り上げました。そういう作り方をしていくうちに「なぜ地球からの脱出になったのか?」とか、ある種、ヒップホップ的に語っています。そうやってヒップホップという表現で、回想シーンとか心理描写なみたいなものを折り込んでいったことで、だんだん全体のストーリーみたいなものが見えてきました。
──そういうストーリーが音にフィードバックされるみたいなことはあるんでしょうか?
Sauce81 : そういう曲ももちろんありましたし、「こういうシーンはどう?」みたいに提案したりっていうのもありますね。
Shing02 : アルバム後半の方は、変化球もありつつ、一気にふたりで同時進行で作ったという感じもあって。彼がコーラスを入れたり、僕が音ネタを送ったりとか、ヴァージョンが日々更新されていくような状況でした。
──全体的に非常に色彩が豊かで、ポップな仕上がりに感じたんですがいかがでしょうか?
Sauce81 : 宇宙のストーリーを描いていくなかで、困難もあって、うまく脱出して歓喜の瞬間もあったりとか、悪夢を見たりとかいろんなシーンがあるだろうなって思っていたので。いろいろな表現をするなかで自然にそうなっていったんじゃないかなと思いますね。
ヒップホップ的な解釈で、SFというジャンルの価値観をサンプリング
──制作自体はファイルのやりとりなんでしょうか?
Shing02 : 大まかな部分はそうなんですけど、最後の1週間に関しては僕が日本に行って録音~ミックス込みで一緒にやることができました。レッドブル・スタジオにお願いして最大限その時間を使わせてもらって最後まで仕上げるというような。その1週間はかなり濃密な仕上げ作業でしたね。濃密な時間のなかでアイディアもどんどん出てくるし、逆算して考えるととにかくすごく有意義な作業という感じで。かなり肉体的、精神的に酷使しましたけど。すり減らして作った自信は本当にありますね。
──全編英語にしたというのはなにかあるんでしょうか?
Shing02 : 出発点の時点で、やはり世界中のより多くの人に聴いて欲しいというのがあったので、そこは英語で行こうと思ってました。
──こう、はじめにネタ元的に話題に出た映画とか小説とかそういうものはあったんですか?
Sauce81 : 具体的に「コレ」というのはないですけど、例えば『スターウォーズ』の酒場のシーンではファンキーな音楽が流れていたり、そういうサウンドが鳴ってるシーンがあっても良いのかなとは思ったんですよね。
Shing02 : 僕的にはヒップホップ的な解釈で、SFというジャンルの価値観をサンプリングしたというような作品だと思うんですね。僕のDJをやってくれたり、スクラッチも入れてくれているPackoくんをナレーションに起用してみたり、その声をSauce81がすごい加工をしてたり。こりに凝っていて、最終的に仕上げるまでに磨いて磨いてやっていたという。「旅」みたいなものがヒップホップ的な比喩であったり…… SFってジャンル自体にちょっとレトロ感があるじゃないですか? 宇宙というものに対して魅力を感じて、みんな想像力を働かせて、映画を作ったりとかやっていたと思うんですけど、そのファンタジーの部分がある。そういう感覚とヒップホップが融合した、そんな作品を目指してつくりました。
──ゲストの人選は?
Shing02 : わりとハワイ側の人間は僕がオファーして確認しつつという感じで。Packoくんはもともと宇宙マニアなんですよね。本当にアメリカのド田舎に皆既日食を撮りにいったりとか。ジャケットをやってくれているハナ・ヨシハタさんも、ずっと宇宙をモチーフにしたアートを作っていたり。
──リリックに関しては、日常的な目線がひとつあっても、SFをモチーフにして、サンプリングのように解釈して表現すると。
Shing02 : そういう感覚ですね。
アルバム制作自体が旅
──シンゴさんは、リリースされたA-1さんとのアルバムなどわりとコラボレーション的な音作りをされる方じゃないですか? その面白みってどこにありますか?
Shing02 : コラボレーションの醍醐味というのは、それぞれの役割分担があるなかで、ただそれぞれの作業が並行して行われるわけではなく、プラスアルファのなにかが加わるというところだと思います。単純に効率的な役割分担ではなく、試し合う部分もあったりして。今回の作業もそうですけど、「いいね! いいね!」だけではなく、双方で出したアイディアで「ここは嫌だ」ってなることもあって。そういう部分で、「こっちじゃなくて、コッチへ進もう」みたいな、アルバム制作自体が旅という感じがして。アルバムでも言っているんですけど、すべてのクリエティヴな作業は旅であると、それを伝えたかったんですよ。アルバムの制作自体もある意味で、逃げている部分、たどり着いた部分、歓喜の部分があったり、そういうチャレンジの生まれる部分があるという、そういう部分が誰かと一緒に作業をやる良さですよね。
──今回おふたりでやってみて一番刺激的な部分というのはどこでしたか?
Shing02 : やっぱり出してくる音がかっこいいというのは前提なんですけど、こだわりの部分は「なるほど」と思わされる部分がいっぱいあって。ミキシングひとつにしても、ベースライン、メロディライン、ビートの抜き差しひとつにしても、とにかくそれぞれに「なるほど」と思う部分がありましたね。僕は僕で、自分で培ってきた感覚、アンダーグラウンド・ヒップホップ的なテイストはありつつ、彼は彼が通ってきた音楽の道があって、そのすりあわせの部分がやはり面白かったですね。譲れない部分とか、そういうところが見えてくるので。それは他のプロデューサーとは違うなという。
Sauce81 : 刺激的なのはやっぱり……締め切りにラップがあがって来ないことですね(笑)。でもやっぱりエンジンがかかるとすごいんですよ、よくもこんなに言葉が出てくるなっていうぐらい。自分は歌詞を書くのが得意ではないので、本当にすごいと思いますね。歌の部分は自分で歌詞を書いているんですけど、自分はわりとシンプルで繰り返すような感覚の歌詞が好きなんですけど。そこに対して、ものすごい語数のラップを短期間であげてくる集中力とか、物語にしていくみたいな構成力とか、やっぱりすごいなと思いましたね。もちろんラップも聴くけど、自分の場合ヒップホップでもインストに耳がいってしまいがちなんですよね。日本にもいろんなタイプのかっこいいラッパーがいますけど、こういう作品をやるにあたって、ストーリーとか物語をかける人は他にあんまりいないんじゃないかなと。そういう意味では、シンゴくんとだからできた作品かなと思いますね。
Shing02 : 自分も振り返ってみると、エキサイトしたアルバムで言うと、デラソウル、プリンス・ポール・プロデュース時代の『3 Feet High & Rising』だったりとか、クール・キースのドクター・オクタゴンの1stだったり。もしくはエイシー・アローンの『A Book Of Human Language』だったりとか。こうしたアルバムは曲自体、それぞれに密接なつながりがなくても、アルバム全体としてみたらストーリーになっている、そういう作品が好きだったので。そういう作品を作るという憧れというのも実際はあって本作にはそれが表されていると思います。さらに今回、歌詞を書くにあたって、転換点、エンジンがかかったというポイントがあったんです。ちょっとうまく歌詞を書くのにノれていない時期があって、趣向を変えてみようと思って、それまでPCでタイピングをしていた歌詞を手書きにしてみたんです。写真の撮影で余っていた大判の紙があったんですけど、それをビリビリにやぶいて画用紙ぐらいのサイズにして、それにリリックを書き始めたんですよ。タイピングして表示される文字と、手書きの文字の感覚は改めて違うなと思いましたね。それによって解放されたというか、手で書いていくということになってから早かったですね。タイプしてスクリーンとにらめっこしながら作る歌詞とは全く違った勢いのものができましたね。そしてモチーフ的にも、本当に今回は自由に想像を働かせながら、1行、1行工夫しながら作れたので、作っている最中は本当に楽しかったですね。
──作品ができたことによって気づいたことってありますか?
Shing02 : 自分が追い込んだというか、偉そうに言えないことなんですが、今回は極限までスケジュール的に追い込まれて、それで火事場の糞力的な表現ができたというか。それこそ比喩的に「宇宙空間に出た人間がどんな反応をするのか?」みたいな、そのぐらい追い込んで完全燃焼を毎日できてたんで、その楽しさは忘れちゃいけないなと思いましたね。その辺の勘を取り戻したというか、そういうときの脳味噌のハイの具合というのが、それが最も刺激的なんですよね。それが一番充実感がありますね。作ったときが一番楽しいという感じですね。本当に作り続けたいというのは改めて思いましたね。
Sauce81 : さっきの刺激の話でもあるんですけど、締め切り超えてやっていくなかで、Shing02くんからいろんなアイディアがどんどん出てくるんですよ。「こういう音を足したい」ということに対して「もうできない」っていうのは簡単なんですけど、それをどう落としこむのかっていうのをやっていって……結果、寝ずにやるっていう感じでしたけど(笑)。
Shing02 : ある意味で寝てないハイの方もあったのかもしれない(笑)。
Sauce81 : いろんなアイディアが投げつけられてくるなかで、なんとか落とし込んでいこうっていう、時間がなくてもできることを実現する、そういう力が自力として備わってきたのかなっていう気づきはありましたね。
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