蜃気楼の先から聴こえる、シンフォニック・サウンド——フレンチ・エレクトロニカの重要人物、Saycetの新作を先行ハイレゾ配信!
クリアな電子音と女性ヴォーカルが美しき物語を描き出す、フランスのエレクトロニカ・アーティスト、ピエール・ルフェブのプロジェクト、セイセット(Saycet)。前作『Through The Window』から4年、3枚目のアルバムとしてこのたび『Mirage』(フランス語で“蜃気楼”を意味する)がリリースされた。
OTOTOYでは本作を独占ハイレゾ配信。繊細な電子音、さらには前作に引き続き参加の女性ヴォーカリスト、フォン・ソムサヴァットによる歌声の響きはやはり高音質でさらに真価を発揮するのではないだろうか?
Saycet / Mirage(24bit/44.1kHz)
【配信形態】(各税込)
ALAC / FLAC / WAV / AAC(24bit/44.1kHz) : 単曲 200円 / まとめ購入 2,000円
【Track List】
01. Ayrton Senna
02. Mirages
03. Volcano
04. Meteores
05. Half Awake
06. Northern Lights
07. Quiet Days
08. Cite Radieuse
09. Kananaskis
10. Smile From Thessaloniki
11. True Love (Part3) 日本限定ボーナス・トラック
フレンチ・エレクトロニカのストーリーテラー、セイセット、ハイレゾで描き出す美しき物語
どちらかといえば、寡作なアーティストと言えるだろう。セイセットことピエールは、これまでにセイセット名義でアルバムを2006年『One Day At Home』、2010年に『Through The Window』をリリースしているのみである。ざっと調べたところ、エレクトロニック・ミュージック特有の変名活動も彼においては皆無に等しい。そして律儀にも、これまで同様、オリンピックな年回りで4年の歳月を経て新作を作り上げた。タイトルは『Mirage』。彼の真骨頂とも言える、一大エレクトロニカ叙情詩とも言えそうな物語を電子音で描いている。
『Through The Window』以降の動きといえば、まずは女性VJ、ジタ・コシェの幻想的なヴィジュアル・イメージとコラボしたライヴ活動(来日公演も)が最も大きなものだろう。また、その才覚が認められ、さまざまな形体の現代美術をプレゼンする、“パリのMOMA”とも呼ばれる総合文化施設〈ポンピドゥー・センター〉の、オフィシャル・サウンド・ディレクターに抜擢されている。
こうした動きのなかでリリースされたアルバム『Mirage』は、これまでも好評であった女性ヴォーカリスト、フォン・ソムサヴァットのフィーチャリングはそのままに、よりスケールの大きな世界観を指し示した作品になったと言っていいだろう。
余談になるが、本作を聴きながら『Mirage』というタイトルで思い出したのは、クラウト・ロック、ドイツ電子音楽系プログレの大家、クラウス・シュルツによる、1977年のプレ・アンビエント・テクノの名盤『Mirage』だ。電子音楽+タイトルという安直な発想で、少々こじつけがましいかもしれないが、どこまでも雄々しいドラマチックな展開、ストーリー性のある作品性は、あながち音楽性と共通する部分があると言っても過言ではないだろう。例えば同じくクラウト・ロックの電子音マエストロ、クラスターのような静寂の世界観と比べれば、明らかにその電子音の表現はクラウスのスタイルに近いものがある。
話は本作に戻るが、明らかに大きくなった、作品で描かれるスケールの大きさを牽引するものは、やはり全体の構造におけるリズムのバランスの変化だ。それは2トラック目のアルバム・タイトル・トラック「Mirages」に象徴されるような、力強くしなやかなビートが良い例と言えるだろう。クリアな電子音の展開、女性ヴォーカルをリズムによってさらに明確に浮かび上がらせ、それらの効果を増していると言えるだろう。そのサウンドは壮大な映画のサントラ的な響きすらある。壮大なポスト・クラシカルの女性ヴォーカルものとタメを張る世界観の描き方だ。ハイレゾ音質で聴けば、ハイレゾ特有の微細な表現、分離の良さから、リズムを含め、それぞれのパートがどのようなミクロの動きをし、そしてダイナミックな全体像を構成しているのか、そんなところにフォーカスして楽しむことができる。
また資料によれば、本作はモダニズム建築の巨匠にして、20世紀を代表する建築家、ル・コルビュジエによる集合住宅建築群=ユニテ・ダビタシオンをひとつの着想としているという。ミニマルなモジュールを組み合わせながら、巨大でダイナミックな建築を生み出す、ユニテ・ダビタシオンの形式は、たしかに微細な電子音の組み合わせでこうしたダイナミックな景色、ストーリーを生み出す『Mirage』の世界観に共通するところがあるかもしれない。
もちろん、そうしたテクニカルな構造だけでなく、そのメロディ・センス、ヴォーカルの援用方法など、さまざまな音楽的な強度の高さが本作を魅力的に輝かせているのは言わずもがなだ。
彼の作品を貫くひとつのスタイル=エレクトロニカ+女性ヴォーカルといえば、それこそビョークの1997年のサード・アルバム『Homogenic』あたりをひとつの象徴的な起点とした、誕生から20年近く経っているスタイルだ。その間に多くの作品がこのスタイルでリリースされている。言ってしまえば、もはやポップ・ミュージックにおいては、カッティング・エッジでもない定番のスタイルと言っていい。しかしながら、数多あるそうしたスタイルの楽曲に埋もれることなく、彼の作品は多くの人々に支持されている。それこそ彼の音楽的な才能を端的に示す事例と言えるのではないだろうか。(text by 河村祐介)
RECOMMEND
今やビョークやシガー・ロスに次ぐ、アイスランドを代表するグループとして世界的に高い支持を受けるムームによる、4年ぶりのアルバム。壮大なストリングスと、電子音が織りなすチルアウト・サウンドは、Saycetと共通する心地よさを持っている。
Boards Of Canada / Tomorrow's Harvest(24bit/44.1kHz)
前作以来、実に8年振りとなるニュー・アルバム『Tomorrow's Harvest』は、作曲、レコーディング、プロデュース、そしてアートワーク・デザインまでのすべてをメンバーのマイク・サンディソンとマーカス・イオンが手がけている。ボーズ・オブ・カナダにしか出せない、このチルアウト・サウンドをぜひハイレゾで体感していただきたい。
作曲家、一ノ瀬響の原点にして唯一無二の傑作1stアルバム「よろこびの機械」(2002年)が13年の時を経て新装リリース! オリジナルリリース時の録音素材により作られた新曲"Angelic overflow"を新たに収録し、全編リマスタリング。 さらに美術家・小阪淳がアートワークを手がけ、全ての楽曲に対し描き下ろしたビジュアルブックにより、新たな息吹が吹き込まれた。 アンビエント、現代音楽、エレクトロニカ… あらゆるジャンルを無化し、時代を越え聴き継がれるべきサウンドがここに。
PROFILE
Saycet
2006年にデビュー・アルバム『One Day at Home』をリリース。ピエール・ルフェブによるソロ・プロジェクトとして始まったSaycet。TRAX、Les Inrocksなどフランス国内のメデイアで絶賛された後にフォン・ソムサヴァットをヴォーカリストとして迎え入れる。女性ヴォーカルを導入という新たな方向性を開き、2010年に『Through the Window』を完成させる。ライブには女性VJアーティストジタ・コシェが参加し、音の世界を音像化したような幻想的な空間を作り上げる。2011年には来日公演も成功し、日本のみで『One Day At Home』のDVD付き限定盤をリリースする。その後多くのイベントやツアーに出かけた後に、建築家ル・コルビュジエのユニテ・ダビタシオン(フランスではCité radieuse : 輝く都市と表記される)に訪れ影響を受けて制作したサード・ルバム『Mirage』を完成させる。
>>INPARTMAINT内 Saycet アーティスト・ページ