にせんねんもんだい、UKダブの帝王、エイドリアン・シャーウッドと強烈サイケデリックな新作をハイレゾでリリース!
バトルスのツアーで前座を務め、欧米のツアーも数多くこなすなど、もはやその評価は世界レベルと言って差し支えない、にせんねんもんだい。オルタナ色の強かった初期に比べると、ここ数年はクラウトロック的なハンマービートをさらに推し進め、“人力テクノ”ともいえそうなミニマル&ソリッドな音楽性へと変化している。そんな彼女たちがここにきて、新作『# N/A』をリリースする。
今年頭に『N'』を出したばかりなのだが、本作はなんとあのUKダブの巨匠、エイドリアン・シャーウッドによるプロデュース&ミックスが施された作品だ。これまでセルフ・プロデュースにこだわってきた彼女たちとしては珍しい作品と言えるだろう。本作をOTOTOYでは24bit/48kHzでハイレゾ配信。エイドリアンによるレコーディング&ミックス、そしてベルリンにて耳の肥えたエレクトロニック・ミュージックのアーティストたちが作品を任せる名マスタリング・エンジニア、ラシャド・ベッカーがマスタリングしている。まさにハイレゾ音源で聴くべき1作であろう。ちなみにジャケットは坂本慎太郎が手がけている。
文 : 河村祐介
写真 : 菊地昇
協力 : Red Bull Studios Tokyo
にせんねんもんだい『# N/A』
【配信形態】
ALAC / FLAC / WAV(24bit/48kHz) / AAC
※ファイル形式について
※ハイレゾとは?
【価格】
単曲(M03.04のみ) 205円(税込) / アルバム2,571円(税込)
【Track list】
01. #1
02. #2
03. #3
04. #4
05. #5
そのサウンドはザ・スリッツ・ミーツ・ディープ・ミニマル・テクノ!
『# N/A』はたった5曲である。しかし、その5曲はにせんねんもんだいとエイドリアン・シャーウッドが作り出した音世界をビシっと示している。サディスティックでストイックなバンドの音と、エイドリアン・シャーウッドによるサイケデリックなサウンド・メイクは、にせんねんもんだいの新たな魅力を引き出している。背筋が凍るほどの緊張感で迫ってくる。
エフェクティヴなカッティング・ギターとノイズ、そしてハイハットが忙しくなく空間を作り出し、ベース・ラインとキックがその基礎となるミニマルな疾走感を生み出していく。その様は、まるでザ・スリッツが初期カンを演奏していたらディープ・ミニマル・テクノになってしまったというか、接続先は間違いなくモダンなテクノのグルーヴにある。そのサウンドの魅力を拡張するサイケデリックなエイドリアンによるコラージュや立体的なミックスも忘れてはならない。そのエフェクトも派手すぎず、あくまでもにせんねんもんだいのサウンド・センスの拡張といった感覚。そこにエイドリアンの百戦錬磨のプロデューサーとしての凄みを感じることができるのだ。
もはやそのサウンドはオルタナ~ポストロックはもとより、昨今のアヴァン・エレクトロニクス~インダストリアル系のサウンドへと結び付く。ちなみに、メンバーたちのマイ・ブームなアーティストとしてミカ・ヴァイニオ(Mika Vainio)——フィンランドの元祖、人力インダストリアル・テクノ・バンド、パン・ソニック(PAN SONIC)の中心人物にしてソロでも活躍する現在のアヴァン・テクノ、レフトフィールド・エレクトロニクスの騎手——が真っ先にあがることを考えれば、そうした妄想もあながち的外れではあるまい。
“人力テクノ”な最近のにせんねんもんだい
どちらかといえばノイジーなオルタナ・バンドのイメージの強い、初期のにせんねんもんだい。しかし2009年の『Destination Tokyo』あたりを境に、それまでにも要素としてあったクラウト・ロック的なミニマリズムをメインの要素として突き詰めるようになっていく。その後の、2013年の『N』や、ゆらゆら帝国やOGRE YOU ASSHOLEのプロデュースなどで知られる石原洋との『Nisennenmondai Ep』、そして『N』の続編とも言える2015年の『N'』にてある種のサウンドの“人力テクノ化”は、ひとつのスタイルとしてその活動の中心に集約されていく。『N'』ではベース・ミュージック~ポスト・ダブステップのトライバル・ミュータント、シャックルトンとのコラボを行うなど、具体的にもダンス・サウンドとの邂逅を行っている。
巨匠、エイドリアン・シャーウッドとの共演、そして音源化
さて、にせんねんもんだいの3人とUKダブの巨匠エイドリアン・シャーウッドとの共演がなぜ実現したのだろうか? それはエイドリアンの1970年代末から80年代のプロデュース作品を集めたコンピ『Sherwood At The Controls Volume 1: 1979-1984』のリリースに起因する。本作リリースを記念した来日公演として組まれた代官山UNITでのイベントにて、彼女たちのライヴとそれをエイドリアンが生ミックスするという企画が実現した。おそらく主催側の感覚を察するに、件のコンピにはポスト・パンク系の音源も多く、現代の感覚でポスト・パンク的なサウンドを生で… といった部分で白羽の矢が彼女たちに立ったのではないかと。が、どうせならレコーディングもどうかという話になり、あれよあれよという間にレコーディング場所の〈Red Bull Studios Tokyo〉も抑えられスケジュールも… というのがとんとん拍子に直前に決定し本作が生まれたというのが実際のところのようだ。
本作はライヴ前の2日間にわたって、〈Red Bull Studios Tokyo〉にてエイドリアン、そしてエンジニアの内田直之によって録音され、そのマテリアルをエイドリアンがロンドンに持ち帰り、〈On-U〉でのミックスを経て完成された作品だ。
エイドリアンのロックなダブ・ワークス
エイドリアン・シャーウッドといえばやはりUKレゲエの偉大な功労者として語られることも多いが、同時にポスト・パンク、そしてその後のニューウェイヴやインダストリアル・ミュージックの偉大なプロデューサー、革新者という顔も持っている。
よく知られるように、1980年代初頭にはザ・スリッツやザ・ポップ・グループといったポスト・パンクのアーティストたちと、ジャマイカ系のレゲエ・アーティストたちを結びつけた。その代表的なプロジェクトがニュー・エイジ・ステッパーズであり、ルーツ・レゲエのプロジェクトでそうした音楽性を実現する土台として〈ON-U〉があった。OTOTOYでも配信している上記の『Sherwood At The Controls Volume 1: 1979-1984』にもミディアム・ミディアム、ザ・フォールといったその手のポスト・パンク系のバンドのプロデュース・ワークも挿入されている。また1980年代中頃にはマーク・スチュワートのソロ、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン、ミニストリーなどのインダストリアル・バンドのプロデュースを行い、こちらも一世を風靡、そこに連なるエレクトロリック・ボディ・ミュージック、ダンス系のリミックスや1996年のプライマル・スクリーム『バニシング・ポイント』をまるまるダブ・アルバムにした『エコー・デック』などなどとにかくロック・フィールドでの活躍はかなり多い。
なお〈ON-U〉に関するヒストリーは、こちらのシャーウッド&ピンチ記事の後半にまとめてあるので参照していただきたい。
『# N/A』はどう聴くべきか
上記のように、ささくれ立ったインダストリアルなダブ・サウンド、またポスト・パンク~オルタナ系のプロデュース&ミックスをこれまで手がけてきた彼の経歴を考えると、今回のマッチングというのもかなりベストなものだったのだ。
〈Red Bull Studios Tokyo〉にて、幸運に著者はレコーディングを少しだけ観察できる機会があった。どちらかといえば、半信半疑にもくもくと演奏するメンバーたちに、すでにエイドリアンのなかには完成系があるようで“指令”という感覚ではなく、アドバイスを投げかけながらレコーディングしていく様が垣間見れた。
自分たちの突き詰めたコンセプトによって、これまでも作品をリリースしてきたにせんねんもんだいにとって、あくまでも今作『# N/A』は、企画ものといった感覚は否めないのだという。しかしながら、本作の音像は間違いなく『N』『N'』といったここ最近の彼女たちの作品の延長線上にある作品といってまず間違いないだろう。人力テクノ・グルーヴともいえる、そのスクエアなビートとミニマルな音像は継承されている。ロウな彼女たちの作品から、ある種、ダブ・ミックスでダイナミックさをさらに引き出し、サイケデリックな感覚を付与したのはエイドリアンの手腕ではないだろうか。
お手盛りの記念試合ではなく、世代を超えた緊張感あふれるワクワクするほどのコラボレーション作品となっている。
また前述のようにマスタリングは、現在のクラブ・ミュージックやアヴァン・ミュージック・シーンにおいてトップ・エンジニアとして知られるベルリンの〈ダブ・プレート&マスタリング〉のラシャド・ベッカーが務めている。にせんねんもんだいの気迫の演奏、エイドリアンのミックス、ラシャドによる極上のマスタリングによるサウンド、余すことなく楽しむにはやはりハイレゾ音源ではないだろうかと思うのだ。
LIVE INFORMATION
UNSOUND Festival
2015年10月10日(土)〜18日(日)@ポーランド・クラクフ
PROFILE
にせんねんもんだい
1999年結成、高田正子(ギター)、在川百合(ベース)、姫野さやか(ドラム)による3ピース・バンド。2004年にファースト・シングル 『それで想像するネジ』をリリース。 その後、2006年、自主レーベル〈美人レコード〉創立しファースト・アルバム『ろくおん』 をリリース。〈Smalltown Supersound〉をはじめ海外からのリリースも多数で、2011年にはバトルスの前座としてUSツアー、また11回にも及ぶ欧州ツアーを敢行するなど海外でも注目度は高い。年々そのサウンド・スタイルはミニマルに削ぎ落とされ、近作では硬質なハンマービートを響かせている。最新作『#N/A』は、エイドリアン・シャーウッドと共演したのをきっかけに、エイドリアンをプロデューサーに迎えて制作された。