2024/08/23 18:00

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.287 ほとんど無の覚悟

OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)


ほとんど無の覚悟

ちょっと前に思いつきでジョギングをしてから、この波を逃すまいと気が向いたときに走るように心がけている。1週間くらい前、今日も行っとくかと思った日の夜、家のトイレットペーパーが切れそうなことを思い出したので、走った帰りに買いに行こうと携帯電話を持って外へ出た。その日は調子が良かったのか、いつもよりだいぶ追い込みをかけて走ったあと、クールダウンするため歩いて薬局へ向かった。5分も歩けば汗も引くだろうと思いきや、思いのほか追い込みが効いており薬局に着いても汗はダーダーでTシャツはびたびた、心臓はチャラめのEDMのキック音のような4つ打ちを鳴らしている。それでも涼しい店内に入れば落ち着くだろうと見込んでいたが、汗は落ち着くどころか盛り上がっていくばかり。店内にいる人みんながしゃなりしゃなりと涼しげに映り、一刻も早くトイレットペーパーを手に入れて退散しようと思った。そそくさとレジに向かうと、いつも並ばずにお会計できるはずが、その日に限って列ができている。きっとポイント何倍デーとかだったのだ。一瞬うわーと食らいながらも、でもまあ並ぶしかないよなと覚悟を決めた途端、恥とか躊躇う気持ちとかがスッと引っ込んだ (汗は引かず)。わりと無に近い面持ちで順番を待ち、お会計を済ませ、無事店を出た。最悪だと思う状況でも、なかば諦めにも似た静かな覚悟が決まれば、よっぽどのことでない限り大体のことは乗り切れるように思う。そして、そのスッと気持ちが移ろう瞬間のことがわりと好きだったりもする。

似たようなこと、ほかにあったかなと思い巡らせたところ、これも最近のことになるが用事があって目的地まで歩いていた時にゲリラ豪雨にあたったことを思い出した。横殴りの雨を前に、持っていた傘もほとんど意味をなさず、あっという間にずぶ濡れになった。でもまあ用事あるし行かなきゃなと思い、この日も無心で乗り切った。あとは登山とか、学生時代のマラソン大会とか。引き返す道もなく選択肢がひとつでとにかくやるしかないとわかっているとき、静かな覚悟は決まりやすい。よっしゃ、やったるで! という意気込みもなく、あ、わかりましたくらいの受容。私自身、思いこみが強かったり瞬間的に感情を優先してしまうクセを自覚しているので、一旦無になる余白を作っておくのはわりといい気がしている。という最近の小話。プレイリストにはふわっとそういうイメージの、好きな曲を選出した。

この記事の筆者
石川 幸穂

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