OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.86
OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)
追悼:バニー・リー
去る10月6日に、エドワード・オサリヴァン・リー、またの名をバニー・リーと呼ばれるジャマイカ人プロデューサーが死去した。享年は79歳。数年前より腎臓の疾患を患い、闘病中であったという。1960年代中頃からジャマイカにてプロデューサーとしてキャリアをスタートさせ、レゲエに大きな功績を残すプロデューサーであった。ここに哀悼の意を捧げるとともに、彼が最もプロデューサーとして活躍した1960年代末から1970年代の楽曲をここで紹介しよう。
彼がプロデューサーとして注目を集めたのは1960年代後半、ジャマイカの音楽がスカからスウィートなジャマイカのソウル・ミュージックとでもいうべき、ロックステディへと変化を遂げたあたり。当時の作品として思い浮かぶのが、早世のシンガー、スリム・スミスをメイン・ヴォーカルに迎えたコーラス・グループ、ザ・ユニークスの作品。「Let Me Girl」(1967年)は、バニーのキャリア初期のヒットとなった。同じくユニークスの「My Conversation」(1968年)も、軽やかなピアノのリフが印象的な楽曲で、現在に至るまでカヴァー&リディムとしてリメイクされるなど非常に人気の高い曲だ。スリム・スミスとは亡くなる直前となる1972年前後までソロ名義でも作品を数多く残している。
そして1970年代に入り、ジャマイカの音楽トレンドがロックステディからレゲエへと移り変わる頃には人気プロデューサーたちに名を連ねる。当時の楽曲としては毎年ジャマイカで行われていた歌謡コンテストに優勝した、いわゆる“フェスティバル・ソング”、エリック・ドナルドソンによる「Cherry Oh Baby」。この曲は後にザ・ローリング・ストーンズのカヴァーでも知られている。また1971年の、ジャマイカ総選挙で、PNP党勝利のきっかけともなったと言われているデルロイ・ウィルソンの「Better Must Come」も当時の彼の仕事だ。
さらに時は進み、1970年代も中頃にさしかけるとジャマイカにはラスタのレベル・メッセージを反映させたルーツ・レゲエ、さらには音響面で新たな発明となったサブ・ジャンルであり、レコーディング・テクニックのダブが登場する、リーはこのふたつのレゲエの動きを牽引し、名実ともにトップ・プロデューサーとなっていく。この頃の象徴的なプロデュース作としてはシンガー、ジョニー・クラークとコーネル・キャンベルあたり。この時期のリーは、自身のハウス・バンドであるアグロヴェーターズに、1960年代に人気のあった楽曲をルーツ・レゲエのサウンドでカヴァーさせ、ジョニーなどの新世代の歌手に新たな歌を歌わせることで人気を集めた。鉄板ネタ+省エネ+現代のナウな視点でヒットを飛ばしたということだ。その他ではデニス・ブラウンやマッシヴ・アタックとの共演でよく知られるホレス・アンディなど当代のスター歌手も多く楽曲を残している。
またダブというタームにおいては、その誕生・発展に寄与したプロデューサーでもる。オリジナルのリズム・トラックをミックスし直すことで新たなサウンドを生み出すダブのオリジネイターのひとりでミックス・エンジニア、キング・タビー。彼の初期のスタジオに他のスタジオの払い下げミキサーを融通したり、また多くのシングルのB面において、タビーのダブ・ヴァージョンをかなり早い時期から収録していた。こうしたダブ・ミックスによって生まれたサウンドが、大音量のサウンドステムで再生されることによって、より強度のあるリズムの探求が行われ、レゲエそれ自体の演奏や楽曲制作全体にも少なからず影響を与えてきた。その音楽的発展を助長したというのは言い過ぎではないだろう。
こうして1970年代前半においてリーは、1960年代のカヴァーをインスト・トラックを作り、一度レコーディングしたインスト楽曲に別の歌手で別のメロディを、さらにディージェイのトースティング、新たな楽器を加えたインスト、ダブ・ヴァージョンの制作と、トラックを使い回すというか使い倒すということをやっていた。彼がトップ・プロデューサーとして大量の楽曲をジャマイカのサウンドシステムに供給し、この動きを加速させたというのは間違いないだろう。それは1980年代から現在にいたるジャマイカのダンスホールにおける、「リディム」というトラック使い回し文化の概念を先取りしていたとも言える。
さてリストだが、収録はジョニーのヒット曲「None Shall Escape the Judgement」とそのキラーなダブ・ヴァージョン「A Social Version (aka This a the Best Version aka None Shall Escape Dub)」。コーネル・キャンベルの楽曲からは彼の代表作「The Gorgon」、さらには「Two Face Rasta」とそのダブ・ヴァージョン「Two Face Rasta Dub」を。ホレス・アンディの若き時代の1曲「You Are My Angel」も。そして最後に「ダブを聴くなら、この1枚」的なところに半世紀居近く座る常連、キング・タビーによるルーツ・ダブのクラシック・アルバムの1枚『Roots Of Dub』から1曲を。